「視床下部」の版間の差分

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=== 睡眠・覚醒の調節 ===
=== 睡眠・覚醒の調節 ===
視床下部が睡眠・覚醒を司っていることは古くから知られており、嗜眠性脳炎の研究などから視床下部の前方部には睡眠中枢が、後方部には覚醒中枢が存在することが提起された。視床下部前方部に存在する腹外側視索前野(Ventrolateral preoptic nucleus: VLPO)におけるGABA作動性ニューロンが睡眠中枢として中心的な役割を果たしており、VLPOの神経細胞は睡眠時に活動を増加させることで睡眠の開始と維持を行っている<ref><pubmed> 12401341 </pubmed></ref>。一方、視床下部後方部に存在する結節乳頭体核(Tuberomammillary nucleus: TMN)はヒスタミン神経の起始核であり、覚醒中枢の一つと考えられている。ヒスタミン神経細胞はここから脳内のほとんどの領域に軸索を投射しており、ヒスタミン神経細胞の活動が高まると覚醒レベルが上昇する。VLPOとTMNは互いに軸索を投射してその活動を抑制し合っており、TMNからVLPOへの抑制が優位になると覚醒が、VLPOからTMNへの抑制が優位になると睡眠が開始されることで迅速な睡眠・覚醒の相転移が行われている(フリップ・フロップ説)<ref><pubmed> 16251950 </pubmed>。
視床下部が睡眠・覚醒を司っていることは古くから知られており、嗜眠性脳炎の研究などから視床下部の前方部には睡眠中枢が、後方部には覚醒中枢が存在することが提起された。視床下部前方部に存在する腹外側視索前野(Ventrolateral preoptic nucleus: VLPO)におけるGABA作動性ニューロンが睡眠中枢として中心的な役割を果たしており、VLPOの神経細胞は睡眠時に活動を増加させることで睡眠の開始と維持を行っている<ref><pubmed> 12401341 </pubmed></ref>。一方、視床下部後方部に存在する結節乳頭体核(Tuberomammillary nucleus: TMN)はヒスタミン神経の起始核であり、覚醒中枢の一つと考えられている。ヒスタミン神経細胞はここから脳内のほとんどの領域に軸索を投射しており、ヒスタミン神経細胞の活動が高まると覚醒レベルが上昇する。VLPOとTMNは互いに軸索を投射してその活動を抑制し合っており、TMNからVLPOへの抑制が優位になると覚醒が、VLPOからTMNへの抑制が優位になると睡眠が開始されることで迅速な睡眠・覚醒の相転移が行われている(フリップ・フロップ説)<ref><pubmed> 16251950 </pubmed></ref>。


== 最近の知見について ==
== 最近の知見について ==
このように視床下部は多くの生理的に重要な役割を複合的に果たしているが、その神経回路の機能に関してはいまだに不明な点が多い。形態学的に分類、記載されてきた神経核であるが、細胞に発現しているペプチドの染色結果などにより、同じ種類の神経細胞が複数の領域にまたがって存在していたり、一つの神経核の中でも多数の異なる種類の神経細胞が共存していたりすることが分かってきている。そのため、行動を制御する機能単位としての神経回路を解析するためには古典的な電気刺激等の手法では限界があった。
このように視床下部は多くの生理的に重要な役割を複合的に果たしているが、その神経回路の機能に関してはいまだに不明な点が多い。形態学的に分類、記載されてきた神経核であるが、細胞に発現しているペプチドの染色結果などにより、同じ種類の神経細胞が複数の領域にまたがって存在していたり、一つの神経核の中でも多数の異なる種類の神経細胞が共存していたりすることが分かってきている。そのため、行動を制御する機能単位としての神経回路を解析するためには古典的な電気刺激等の手法では限界があった。
 近年、遺伝学的手法により特定の神経にだけ光活性化分子を発現させ、光を照射することによってその神経回路特異的にミリ秒単位のオーダーで活性を制御する、光遺伝学とよばれる新たな手法がこの問題を解決しようとしている。例えば、神経ペプチドであるオレキシンを産生するオレキシン神経は睡眠に関与することが知られていたが、少数の細胞が散在しているため古典的手法だけでは特異的にその機能を調べることは困難であった。しかし、オレキシンのプロモーター下流でチャネルロドプシン<ref><pubmed> 17943086 </pubmed>やハロロドプシン</ref><ref><pubmed> 21775598 </pubmed></ref>といった光活性化タンパク質を発現させて光刺激することによって、自由行動しているマウスにおけるオレキシン神経の活性化状態が睡眠・覚醒に及ぼす影響を観察することが可能となっている。他にも、弓状核に存在するAgRP神経の活性化が数分内に摂食行動を亢進させること(26)、腹内側核に攻撃行動の中枢が存在すること<ref><pubmed> 21307935 </pubmed></ref>、など多くの新たな知見が得られてきており、今後一層の展開が期待される。
 近年、遺伝学的手法により特定の神経にだけ光活性化分子を発現させ、光を照射することによってその神経回路特異的にミリ秒単位のオーダーで活性を制御する、光遺伝学とよばれる新たな手法がこの問題を解決しようとしている。例えば、神経ペプチドであるオレキシンを産生するオレキシン神経は睡眠に関与することが知られていたが、少数の細胞が散在しているため古典的手法だけでは特異的にその機能を調べることは困難であった。しかし、オレキシンのプロモーター下流でチャネルロドプシン<ref><pubmed> 17943086 </pubmed>やハロロドプシン</ref><ref><pubmed> 21775598 </pubmed></ref>といった光活性化タンパク質を発現させて光刺激することによって、自由行動しているマウスにおけるオレキシン神経の活性化状態が睡眠・覚醒に及ぼす影響を観察することが可能となっている。他にも、弓状核に存在するAgRP神経の活性化が数分内に摂食行動を亢進させること</ref><ref><pubmed> 21209617 </pubmed></ref>、腹内側核に攻撃行動の中枢が存在すること<ref><pubmed> 21307935 </pubmed></ref>、など多くの新たな知見が得られてきており、今後一層の展開が期待される。


== 関連項目 ==
== 関連項目 ==
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