「空間的注意」の版間の差分

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 では、トップダウン注意とボトムアップ注意は、脳のどこで処理されているのであろうか。Millerらは、訓練したサルの前頭葉(前頭眼野)と[[頭頂葉]]([[LIP野]])からニューロン活動を同時記録し、図3Bのようにトップダウン注意を要する場合では前頭葉が、図3Aのようにボトムアップ注意が働く場合では頭頂葉が、ターゲットの位置情報をより早く表現することを明らかにした<ref><pubmed>17395832</pubmed></ref>。また、[[fMRI]]を用いた研究によって、二つの注意に関わるネットワークが詳しく調べられている(図4)。トップダウン的にある位置に注意を向けるとき、前頭眼野を含む[[上前頭連合野]]と[[頭頂間溝]]周囲の上頭頂連合野の活動の上昇がほぼ両側性に認められる(図4、青色の部分)。空間以外の視覚属性に注意を向けている場合も同様に、背側前頭-[[頭頂連合野]]のネットワークが関与する<ref><pubmed>11994752</pubmed></ref>。予期しない、顕著な刺激によってボトムアップ的に注意が惹きつけられる際には、上述の背側ネットワークに加え、主として[[右半球]]の[[下前頭前皮質]]、[[下頭頂側頭境界部]]、左の[[帯状回前部]]と[[補足運動野]]の活動の上昇が認められる(図4、オレンジ色の部分)。このように、背側のネットワークはトップダウン的、ボトムアップ的な注意のいずれにも関与し、これらを統合することで行動に必要となる感覚情報の選択を行うのに対し、腹側のネットワークは背側のネットワークに干渉し、その情報処理にバイアスを加えていると考えられる。
 では、トップダウン注意とボトムアップ注意は、脳のどこで処理されているのであろうか。Millerらは、訓練したサルの前頭葉(前頭眼野)と[[頭頂葉]]([[LIP野]])からニューロン活動を同時記録し、図3Bのようにトップダウン注意を要する場合では前頭葉が、図3Aのようにボトムアップ注意が働く場合では頭頂葉が、ターゲットの位置情報をより早く表現することを明らかにした<ref><pubmed>17395832</pubmed></ref>。また、[[fMRI]]を用いた研究によって、二つの注意に関わるネットワークが詳しく調べられている(図4)。トップダウン的にある位置に注意を向けるとき、前頭眼野を含む[[上前頭連合野]]と[[頭頂間溝]]周囲の上頭頂連合野の活動の上昇がほぼ両側性に認められる(図4、青色の部分)。空間以外の視覚属性に注意を向けている場合も同様に、背側前頭-[[頭頂連合野]]のネットワークが関与する<ref><pubmed>11994752</pubmed></ref>。予期しない、顕著な刺激によってボトムアップ的に注意が惹きつけられる際には、上述の背側ネットワークに加え、主として[[右半球]]の[[下前頭前皮質]]、[[下頭頂側頭境界部]]、左の[[帯状回前部]]と[[補足運動野]]の活動の上昇が認められる(図4、オレンジ色の部分)。このように、背側のネットワークはトップダウン的、ボトムアップ的な注意のいずれにも関与し、これらを統合することで行動に必要となる感覚情報の選択を行うのに対し、腹側のネットワークは背側のネットワークに干渉し、その情報処理にバイアスを加えていると考えられる。
== 空間的注意と眼球運動 ==


[[Image:Sheliga.jpg|thumb|right|300px|'''図5. 注意と眼球運動の神経機構が密接に関係することを示した実験'''<br />SheligaとRizzolattiら(1994)が用いた課題では、被験者はあらかじめ、上の4つのボックスのいずれかに現れた手がかり刺激に従って、注意を向けている。そこに赤丸が出ると、真ん中の固視点から下のボックスに向かってできるだけ早く眼を動かすように指示されている。注意の向きによって眼球運動の軌跡が偏位する。]]
[[Image:Sheliga.jpg|thumb|right|300px|'''図5. 注意と眼球運動の神経機構が密接に関係することを示した実験'''<br />SheligaとRizzolattiら(1994)が用いた課題では、被験者はあらかじめ、上の4つのボックスのいずれかに現れた手がかり刺激に従って、注意を向けている。そこに赤丸が出ると、真ん中の固視点から下のボックスに向かってできるだけ早く眼を動かすように指示されている。注意の向きによって眼球運動の軌跡が偏位する。]]


[[Image:Moore.jpg|thumb|right|300px|'''図6. 前頭眼野の神経活動と空間的注意の因果性を示した実験'''<br />サルの前頭眼野を電気刺激すると一定の方向と振幅のサッカードが誘発される(上図)。課題では、サッカードの行き先("movement field")に視標を提示し、サルにその輝度変化を検出させる。この時、眼球運動が誘発されないような微弱な電気刺激を与えると、視標の検出閾値が低下した。視標を別の場所に出した場合には閾値の変化は生じなかった。]]
[[Image:Moore.jpg|thumb|right|300px|'''図6. 前頭眼野の神経活動と空間的注意の因果性を示した実験'''<br />サルの前頭眼野を電気刺激すると一定の方向と振幅のサッカードが誘発される(上図)。課題では、サッカードの行き先("movement field")に視標を提示し、サルにその輝度変化を検出させる。この時、眼球運動が誘発されないような微弱な電気刺激を与えると、視標の検出閾値が低下した。視標を別の場所に出した場合には閾値の変化は生じなかった。]]
== 空間的注意と眼球運動 ==


 注意の移動に[[眼球運動]]は必須ではないが、多くの場合、私たちは注意の向いた場所に視線を移動させる。眼球運動の直前に提示した視覚刺激の弁別をさせると、刺激が視線の行き先に現れた場合にはその成績が良くなることが知られているし、逆に、眼を動かすのと同時に注意を別の場所に向けることは不可能である<ref><pubmed>7660596</pubmed></ref>。こうしたことから、眼球運動と注意の移動は、神経機構の少なくとも一部を共有していると考えられている。注意の移動は興味ある対象物への眼球や頭部の運動(overt response)が潜在化したものであると考えられ、しばしば"covert shift of attention"といった表現が使われる。  
 注意の移動に[[眼球運動]]は必須ではないが、多くの場合、私たちは注意の向いた場所に視線を移動させる。眼球運動の直前に提示した視覚刺激の弁別をさせると、刺激が視線の行き先に現れた場合にはその成績が良くなることが知られているし、逆に、眼を動かすのと同時に注意を別の場所に向けることは不可能である<ref><pubmed>7660596</pubmed></ref>。こうしたことから、眼球運動と注意の移動は、神経機構の少なくとも一部を共有していると考えられている。注意の移動は興味ある対象物への眼球や頭部の運動(overt response)が潜在化したものであると考えられ、しばしば"covert shift of attention"といった表現が使われる。  

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