「カリウムチャネル」の版間の差分

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英:potassium channel、英略語:K<sup>+</sup> channel
英:potassium channel、英略語:K<sup>+</sup> channel


 カリウムチャネルは[[wikipedia:ja:|カリウムイオン]]を選択的に透過させる[[イオンチャネル]]である。[[静止膜電位]]の形成や電気的な細胞応答、[[シナプス伝達]]やカリウム濃度の[[wikipedia:ja:|恒常性]]維持に関わっている。ほとんどのカリウムチャネルはαサブユニットが四量体を形成し、中央部分にカリウムを通す小孔(ポア)が開くようになっている。[[電気生理学]]的特性やαサブユニットの[[wikipedia:ja:|膜貫通領域]]の構造の違いにより、六回膜貫通型の「[[電位依存性カリウムチャネル]]」と「[[カルシウム活性化カリウムチャネル]]」、二回膜貫通型の「[[内向き整流性カリウムチャネル]]」、四回膜貫通型の「[[Two-pore domainカリウムチャネル]]」に大別される。イオン透過経路を構成するαサブユニットと電流特性や膜発現量を制御するβサブユニットあわせると100種類以上の遺伝子群から構成されており、これら豊富なサブユニット分子種、αサブユニットのヘテロ四量体形成、さらにβサブユニットとの複合体形成がカリウムチャネルの多様性の実体的理由である。イオンチャネルの中で、電気生理学的な解析、生化学・構造生物学的な解析が最も行われているのがカリウムチャネルであり、イオンチャネルの分子機構に関する極めて重要な研究成果がカリウムチャネルを用いた研究から得られている。  
 カリウムチャネルは[[wikipedia:ja:カリウムイオン|カリウムイオン]]を選択的に透過させる[[イオンチャネル]]である。[[静止膜電位]]の形成や電気的な細胞応答、[[シナプス伝達]]やカリウム濃度の[[wikipedia:ja:恒常性|恒常性]]維持に関わっている。ほとんどのカリウムチャネルはαサブユニットが四量体を形成し、中央部分にカリウムを通す小孔(ポア)が開くようになっている。[[電気生理学]]的特性やαサブユニットの[[wikipedia:ja:膜貫通領域|膜貫通領域]]の構造の違いにより、六回膜貫通型の「[[電位依存性カリウムチャネル]]」と「[[カルシウム活性化カリウムチャネル]]」、二回膜貫通型の「[[内向き整流性カリウムチャネル]]」、四回膜貫通型の「[[Two-pore domainカリウムチャネル]]」に大別される。イオン透過経路を構成するαサブユニットと電流特性や膜発現量を制御するβサブユニットあわせると100種類以上の遺伝子群から構成されており、これら豊富なサブユニット分子種、αサブユニットのヘテロ四量体形成、さらにβサブユニットとの複合体形成がカリウムチャネルの多様性の実体的理由である。イオンチャネルの中で、電気生理学的な解析、生化学・構造生物学的な解析が最も行われているのがカリウムチャネルであり、イオンチャネルの分子機構に関する極めて重要な研究成果がカリウムチャネルを用いた研究から得られている。  


== カリウムチャネルの基本的分子機能と構造 ==
== カリウムチャネルの基本的分子機能と構造 ==
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 イオンチャネルの電気生理学的な解析によって、[[単一チャネル電流]]を定量的に記録することが可能である。この方法によって単一のイオンチャネルを透過するイオンの速度を見積もることが出来る。この実験から、カリウムチャネルではK<sup>+</sup>イオンがNa<sup>+</sup>イオンよりも1000倍ほど透過性が高いことが知られている(一価陽イオンの選択性序列は K<sup>+</sup>&gt;Rb<sup>+</sup>&gt;Cs<sup>+</sup>&gt;Na<sup>+</sup>&gt;Li<sup>+</sup>。これはEisenman IV型であり、イオン選択フィルターがやや弱い静電場をもつことを示唆する)。しかも、開いた小孔を電気化学的な差に従って、イオンの水溶液中の拡散速度に匹敵する程の、1秒間に数百万個ものイオンが通過することが分かっている(単一イオンチャネルコンダクタンスが数百pSに達すものもある)。つまりカリウムチャネルは極めて高いイオン選択性と非常に早いイオン透過速度という一見相容れない特性を両立する。
 イオンチャネルの電気生理学的な解析によって、[[単一チャネル電流]]を定量的に記録することが可能である。この方法によって単一のイオンチャネルを透過するイオンの速度を見積もることが出来る。この実験から、カリウムチャネルではK<sup>+</sup>イオンがNa<sup>+</sup>イオンよりも1000倍ほど透過性が高いことが知られている(一価陽イオンの選択性序列は K<sup>+</sup>&gt;Rb<sup>+</sup>&gt;Cs<sup>+</sup>&gt;Na<sup>+</sup>&gt;Li<sup>+</sup>。これはEisenman IV型であり、イオン選択フィルターがやや弱い静電場をもつことを示唆する)。しかも、開いた小孔を電気化学的な差に従って、イオンの水溶液中の拡散速度に匹敵する程の、1秒間に数百万個ものイオンが通過することが分かっている(単一イオンチャネルコンダクタンスが数百pSに達すものもある)。つまりカリウムチャネルは極めて高いイオン選択性と非常に早いイオン透過速度という一見相容れない特性を両立する。


 特定のイオンを透過させる機構としては大きさによる分子フィルター機構がまず考えられる。しかしながら、イオン半径では、Na<sup>+</sup>(イオン半径r=0.95 Å)はK<sup>+</sup>(r=1.33 Å)はよりも小さく、なぜK<sup>+</sup>を透過してNa<sup>+</sup>を透過させないのか説明がつかない。カリウムチャネルのこのカリウム選択的透過機構はこのチャネルがもつ小孔の最も狭い領域、[[イオン選択フィルター]]の構造に関係がある<ref name="ref3" /><ref name="ref4" />。イオンは水分子と相互作用(水和)した状態で水に溶けている(図3a)。イオンチャネルの細いフィルター内に入る際に、イオンは水分子との相互作用をフィルターを形成するアミノ酸の酸素原子を含む[[wikipedia:ja:|カルボニル基]]との相互作用に置き換える(図3a, b)。小孔の大きさがK<sup>+</sup>イオンに適切であり、K<sup>+</sup>イオンは4つサブユニットのカルボニル基から均等に作用を受け、安定な8[[wikipedia:ja:|水和]]様構造をとり安定する(図3a, c)<ref name="ref5" /><ref name="ref6" />。一方、Na<sup>+</sup>イオンはイオン半径が小さくK<sup>+</sup>イオンのようには相互作用が出来ず(図3a)、K<sup>+</sup>イオンに比べ不安定に存在する。このような違いがK<sup>+</sup>イオンの選択的な透過に寄与していると考えられている。この機構は[[最適合close-fit説]]とよばれる。
 特定のイオンを透過させる機構としては大きさによる分子フィルター機構がまず考えられる。しかしながら、イオン半径では、Na<sup>+</sup>(イオン半径r=0.95 Å)はK<sup>+</sup>(r=1.33 Å)はよりも小さく、なぜK<sup>+</sup>を透過してNa<sup>+</sup>を透過させないのか説明がつかない。カリウムチャネルのこのカリウム選択的透過機構はこのチャネルがもつ小孔の最も狭い領域、[[イオン選択フィルター]]の構造に関係がある<ref name="ref3" /><ref name="ref4" />。イオンは水分子と相互作用(水和)した状態で水に溶けている(図3a)。イオンチャネルの細いフィルター内に入る際に、イオンは水分子との相互作用をフィルターを形成するアミノ酸の酸素原子を含む[[wikipedia:ja:カルボニル基|カルボニル基]]との相互作用に置き換える(図3a, b)。小孔の大きさがK<sup>+</sup>イオンに適切であり、K<sup>+</sup>イオンは4つサブユニットのカルボニル基から均等に作用を受け、安定な8[[wikipedia:ja:水和|水和]]様構造をとり安定する(図3a, c)<ref name="ref5" /><ref name="ref6" />。一方、Na<sup>+</sup>イオンはイオン半径が小さくK<sup>+</sup>イオンのようには相互作用が出来ず(図3a)、K<sup>+</sup>イオンに比べ不安定に存在する。このような違いがK<sup>+</sup>イオンの選択的な透過に寄与していると考えられている。この機構は[[最適合close-fit説]]とよばれる。


 カリウムチャネルの選択フィルターは12 Åほどの長さがあり結晶構造では4つのK<sup>+</sup>イオン結合部位が認められる(図3b)。しかし近接した結合部位にK<sup>+</sup>イオンが同時に結合するとイオン間で電気的な反発がおこり不安定であると考えられる。そのため4つの部位を細胞外側から1-4サイトとすると、K<sup>+</sup>イオンとチャネルの結合には[1,3]サイトに結合した状態と[2,4]サイトに結合した状態があると考えられる(図3c)。また、フィルター内に複数のイオンが同時に入ることによってイオン間に静電気的反発力が発生し、玉突き状態になることが早いイオン透過に寄与していると考えられている<ref><pubmed>11689935</pubmed></ref>。
 カリウムチャネルの選択フィルターは12 Åほどの長さがあり結晶構造では4つのK<sup>+</sup>イオン結合部位が認められる(図3b)。しかし近接した結合部位にK<sup>+</sup>イオンが同時に結合するとイオン間で電気的な反発がおこり不安定であると考えられる。そのため4つの部位を細胞外側から1-4サイトとすると、K<sup>+</sup>イオンとチャネルの結合には[1,3]サイトに結合した状態と[2,4]サイトに結合した状態があると考えられる(図3c)。また、フィルター内に複数のイオンが同時に入ることによってイオン間に静電気的反発力が発生し、玉突き状態になることが早いイオン透過に寄与していると考えられている<ref><pubmed>11689935</pubmed></ref>。


 イオンは膜を透過しようとすると[[wikipedia:ja:|ボルンエネルギー]]というエネルギー障壁を超える必要がある。小孔はそのボルンエネルギーを低くする役目がある。もし小孔が均一な内径の形状であるとすると、ボルンエネルギーは均一に低下し、ボルンエネルギーの極大値は膜の中央部分にくる。結晶構造で存在が知られたイオンチャネルの内腔は大量の水分子で満たされている(図2)。またポアヘリックスがそのC末端側を中心腔の内部に向けていることで、[[wikipedia:ja:|αヘリックス]]の[[wikipedia:ja:|双極子モーメント]]が空洞内に[[wikipedia:ja:|陽イオン]]が留まりやすい環境を作り出す。こういった中心腔の存在により、本来ボルンエネルギーの高いはずの膜中央部でイオンは水和して安定に存在できる。一方で、イオン透過経路を形成するチャネル壁は[[wikipedia:ja:|疎水性]]の残基で裏打ちされている。これにより水和したイオンはイオン壁と強い相互作用をすることなく、言い換えればポテンシャルの谷間に落ち込んで出られなくなることなく、細胞質からイオン選択フィルターまでの早いイオン流を確保している。生理的な実験とこれまでに述べたようなイオン透過経路の構造から、膜にかけられた外部電位によるポア内電場のおよそ80%は選択フィルターで生じていると推測される(図2)。
 イオンは膜を透過しようとすると[[wikipedia:ja:ボルンエネルギー|ボルンエネルギー]]というエネルギー障壁を超える必要がある。小孔はそのボルンエネルギーを低くする役目がある。もし小孔が均一な内径の形状であるとすると、ボルンエネルギーは均一に低下し、ボルンエネルギーの極大値は膜の中央部分にくる。結晶構造で存在が知られたイオンチャネルの内腔は大量の水分子で満たされている(図2)。またポアヘリックスがそのC末端側を中心腔の内部に向けていることで、[[wikipedia:ja:αヘリックス|αヘリックス]]の[[wikipedia:ja:双極子モーメント|双極子モーメント]]が空洞内に[[wikipedia:ja:陽イオン|陽イオン]]が留まりやすい環境を作り出す。こういった中心腔の存在により、本来ボルンエネルギーの高いはずの膜中央部でイオンは水和して安定に存在できる。一方で、イオン透過経路を形成するチャネル壁は[[wikipedia:ja:疎水性|疎水性]]の残基で裏打ちされている。これにより水和したイオンはイオン壁と強い相互作用をすることなく、言い換えればポテンシャルの谷間に落ち込んで出られなくなることなく、細胞質からイオン選択フィルターまでの早いイオン流を確保している。生理的な実験とこれまでに述べたようなイオン透過経路の構造から、膜にかけられた外部電位によるポア内電場のおよそ80%は選択フィルターで生じていると推測される(図2)。


 カリウムチャネルの結晶構造解析に成功し、イオンチャネルの本質的特徴の一つである選択的イオン透過機構の謎を解明した[[wikipedia:ja:ロデリック・マキノン|ロデリック・マッキノン]]は2003年[[wikipedia:ja:|ノーベル化学賞]]を受賞している。  
 カリウムチャネルの結晶構造解析に成功し、イオンチャネルの本質的特徴の一つである選択的イオン透過機構の謎を解明した[[wikipedia:ja:ロデリック・マキノン|ロデリック・マッキノン]]は2003年[[wikipedia:ja:ノーベル化学賞|ノーベル化学賞]]を受賞している。  


== 分子機構と構造による分類 ==
== 分子機構と構造による分類 ==
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=== Ca活性化カリウムチャネル  ===
=== Ca活性化カリウムチャネル  ===


 [[Ca活性化カリウム(KCa)チャネル]]は[[wikipedia:ja:|細胞質]]のCa<sup>2+</sup>濃度上昇によって活性が増加するカリウムチャネルである<ref><pubmed>12678784</pubmed></ref><ref><pubmed>15378036</pubmed></ref><ref name="ref13"><pubmed>21942705</pubmed></ref>。シングルチャネルコンダクタンスの違いから[[大(Big)コンダクタンスカルシウム活性化カリウム(BK)チャネル]]と[[小(Small)コンダクタンスカルシウム活性化カリウム(SK)チャネル]]、そしてBKチャネルとIKチャネルの中間のコンダクタンスを持つ[[中間(Intermediate)コンダクタンスカルシウム活性化カリウム(IK)チャネル]]に分類されている。BKチャネルは電位依存的な活性化がおこり、アミノ酸の相同性の面からも電位依存性カリウムチャネルに分類されることも多いが、本項ではKCaチャネルの項目で扱う。BKチャネルにCa<sup>2+</sup>が結合することで電位依存的な活性化の特性が影響をうける。一方、IK、SKチャネルは電位非依存的であるが、細胞内Ca<sup>2+</sup>濃度上昇(100-600 nM)によって開口する。この機構には細胞内[[カルモデュリン]](CaM)が必要である。
 [[Ca活性化カリウム(KCa)チャネル]]は[[wikipedia:ja:細胞質|細胞質]]のCa<sup>2+</sup>濃度上昇によって活性が増加するカリウムチャネルである<ref><pubmed>12678784</pubmed></ref><ref><pubmed>15378036</pubmed></ref><ref name="ref13"><pubmed>21942705</pubmed></ref>。シングルチャネルコンダクタンスの違いから[[大(Big)コンダクタンスカルシウム活性化カリウム(BK)チャネル]]と[[小(Small)コンダクタンスカルシウム活性化カリウム(SK)チャネル]]、そしてBKチャネルとIKチャネルの中間のコンダクタンスを持つ[[中間(Intermediate)コンダクタンスカルシウム活性化カリウム(IK)チャネル]]に分類されている。BKチャネルは電位依存的な活性化がおこり、アミノ酸の相同性の面からも電位依存性カリウムチャネルに分類されることも多いが、本項ではKCaチャネルの項目で扱う。BKチャネルにCa<sup>2+</sup>が結合することで電位依存的な活性化の特性が影響をうける。一方、IK、SKチャネルは電位非依存的であるが、細胞内Ca<sup>2+</sup>濃度上昇(100-600 nM)によって開口する。この機構には細胞内[[カルモデュリン]](CaM)が必要である。


 サブユニットの構造としてはKvチャネルと同様に六回膜貫通領域と一つのP領域を持つ6TM型である。SK、IKチャネルサブユニット(KCNN1-3, or SK1-4)はS4に正電荷を帯びたアミノ酸が揃っておらず、機能的に電位非依存的であることに関連する。またS6のC末端側にCaMに結合する領域をもつ。一方、[[wikipedia:ja:|哺乳類]]のBKチャネル[KCNMA1, MaxiK or Slo1([[ショウジョウバエ]]のslowpoke mutantから見つかったことに由来)]はS1-S6に加えN末端側にさらにS0膜貫通領域をもつ。S4が電位センサーの中心として機能し、C末端の二つのRCK(Regulators of the K conductance)領域はCa<sup>2+</sup>依存的な活性化機構に重要な役割を果す。これらはすべて四量体を形成しチャネルを構成する。BKチャネルのβサブユニットSlob(slowpoke channel binding protein)も同定されている。
 サブユニットの構造としてはKvチャネルと同様に六回膜貫通領域と一つのP領域を持つ6TM型である。SK、IKチャネルサブユニット(KCNN1-3, or SK1-4)はS4に正電荷を帯びたアミノ酸が揃っておらず、機能的に電位非依存的であることに関連する。またS6のC末端側にCaMに結合する領域をもつ。一方、[[wikipedia:ja:哺乳類|哺乳類]]のBKチャネル[KCNMA1, MaxiK or Slo1([[ショウジョウバエ]]のslowpoke mutantから見つかったことに由来)]はS1-S6に加えN末端側にさらにS0膜貫通領域をもつ。S4が電位センサーの中心として機能し、C末端の二つのRCK(Regulators of the K conductance)領域はCa<sup>2+</sup>依存的な活性化機構に重要な役割を果す。これらはすべて四量体を形成しチャネルを構成する。BKチャネルのβサブユニットSlob(slowpoke channel binding protein)も同定されている。


 BKチャネルと同じsloサブファミリーに属するSlo2(Slo2.1, 2.2)チャネルはCa<sup>2+</sup>によってではなく、Na<sup>+</sup>によって活性化される。このチャネルは神経細胞などで観察されるNa活性化カリウムチャネルの分子実体であると考えられている。  
 BKチャネルと同じsloサブファミリーに属するSlo2(Slo2.1, 2.2)チャネルはCa<sup>2+</sup>によってではなく、Na<sup>+</sup>によって活性化される。このチャネルは神経細胞などで観察されるNa活性化カリウムチャネルの分子実体であると考えられている。  
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=== 内向き整流性カリウムチャネル  ===
=== 内向き整流性カリウムチャネル  ===


 [[内向き整流性カリウム(Kir)チャネル]]は、遅延整流性カリウムチャネルの外向き[[wikipedia:ja:|整流]]性と明らかに異なる電位依存性を示し、カリウムの平衡電位E<sub>K</sub>よりも過分極した膜電位でコンダクタンスが増加し内向きカリウム電流を流すカリウムチャネルである(図4)<ref><pubmed>20086079</pubmed></ref>。遅延整流性カリウムチャネルの外向き整流特性はチャネルの電位依存的な活性化によるものだが、Kirチャネルの外向き整流特性は細胞内の[[wikipedia:ja:|ポリアミン]]や[[wikipedia:ja:|マグネシウム]]イオンによる外向き電流のブロックによっておこる。Kirチャネルファミリーのサブユニットの遺伝子がKir1-7サブファミリー、15種類ほど単離されている。Kirチャネルサブユニットによって内向き整流特性の強さは大きく異なる。整流性が強く古典的な内向き整流性カリウム電流を担う[[Kir2]]サブファミリーの他に、整流性が中程度、もしくは殆どなくカリウム輸送などに関わる[[Kir1]]、[[Kir4]]、[[Kir5]]、[[Kir7]]サブファミリー、細胞の[[wikipedia:ja:|心臓]]の[[脳神経#迷走神経]]依存的な[[wikipedia:ja:|徐脈]]や抑制性の[[シナプス伝達]]などに関わる[[Gタンパク質制御K]](K<sub>G</sub>)チャネルの分子実体である[[Kir3]]サブファミリーや、[[wikipedia:ja:|グルコース]]依存的な[[wikipedia:ja:|膵臓β細胞]]からの[[wikipedia:ja:|インスリン]]分泌に関わる[[ATP感受性カリウム]]([[K<sub>ATP</sub>]])チャネルのポア領域も[[Kir6]]サブファミリーのKirチャネルに属する。
 [[内向き整流性カリウム(Kir)チャネル]]は、遅延整流性カリウムチャネルの外向き[[wikipedia:ja:整流|整流]]性と明らかに異なる電位依存性を示し、カリウムの平衡電位E<sub>K</sub>よりも過分極した膜電位でコンダクタンスが増加し内向きカリウム電流を流すカリウムチャネルである(図4)<ref><pubmed>20086079</pubmed></ref>。遅延整流性カリウムチャネルの外向き整流特性はチャネルの電位依存的な活性化によるものだが、Kirチャネルの外向き整流特性は細胞内の[[wikipedia:ja:ポリアミン|ポリアミン]]や[[wikipedia:ja:マグネシウム|マグネシウム]]イオンによる外向き電流のブロックによっておこる。Kirチャネルファミリーのサブユニットの遺伝子がKir1-7サブファミリー、15種類ほど単離されている。Kirチャネルサブユニットによって内向き整流特性の強さは大きく異なる。整流性が強く古典的な内向き整流性カリウム電流を担う[[Kir2]]サブファミリーの他に、整流性が中程度、もしくは殆どなくカリウム輸送などに関わる[[Kir1]]、[[Kir4]]、[[Kir5]]、[[Kir7]]サブファミリー、細胞の[[wikipedia:ja:心臓|心臓]]の[[脳神経#迷走神経]]依存的な[[wikipedia:ja:徐脈|徐脈]]や抑制性の[[シナプス伝達]]などに関わる[[Gタンパク質制御K]](K<sub>G</sub>)チャネルの分子実体である[[Kir3]]サブファミリーや、[[wikipedia:ja:グルコース|グルコース]]依存的な[[wikipedia:ja:膵臓β細胞|膵臓β細胞]]からの[[wikipedia:ja:インスリン|インスリン]]分泌に関わる[[ATP感受性カリウム]]([[K<sub>ATP</sub>]])チャネルのポア領域も[[Kir6]]サブファミリーのKirチャネルに属する。


 Kirチャネルのサブユニットは二回膜貫通領域と一つのP領域を有し、Kvカリウムチャネルの電位センサードメイン(S1-S4)に相当する部位はもっていない。代わりにN末端、C末端で形成される大きな細胞内領域が特徴である。Kirチャネルサブユニットはホモあるいはヘテロテトラマーを形成し機能する。  
 Kirチャネルのサブユニットは二回膜貫通領域と一つのP領域を有し、Kvカリウムチャネルの電位センサードメイン(S1-S4)に相当する部位はもっていない。代わりにN末端、C末端で形成される大きな細胞内領域が特徴である。Kirチャネルサブユニットはホモあるいはヘテロテトラマーを形成し機能する。  
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[[Image:KCh fig5.png|thumb|right|300px|<b>図5.電位依存性カリウムチャネルの神経細胞における分布と機能</b><br />Johnstonら J Physiol 2010<ref name="ref18"><pubmed>20519310</pubmed></ref>の図をもとに執筆者が本項に合わせ改変]]
[[Image:KCh fig5.png|thumb|right|300px|<b>図5.電位依存性カリウムチャネルの神経細胞における分布と機能</b><br />Johnstonら J Physiol 2010<ref name="ref18"><pubmed>20519310</pubmed></ref>の図をもとに執筆者が本項に合わせ改変]]


 [[神経細胞]]や[[wikipedia:ja:|心筋]]細胞の静止膜電位や興奮性の多様性は、多くの場合、それぞれの細胞に発現するカリウムチャネルの種類と量によって説明することが出来る。また細胞内においても均一に発現しているわけではなく、[[樹状突起]]や[[軸索]]に局在して発現していることも多い(図5)。  
 [[神経細胞]]や[[wikipedia:ja:心筋|心筋]]細胞の静止膜電位や興奮性の多様性は、多くの場合、それぞれの細胞に発現するカリウムチャネルの種類と量によって説明することが出来る。また細胞内においても均一に発現しているわけではなく、[[樹状突起]]や[[軸索]]に局在して発現していることも多い(図5)。  


=== 電位依存性カリウムチャネル  ===
=== 電位依存性カリウムチャネル  ===
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====古典的内向き整流カリウム(IRK)電流====
====古典的内向き整流カリウム(IRK)電流====


 Kir2が形成するKirチャネルは内向き整流性がとても強く[[wikipedia:ja:|古典的内向き整流カリウム(IRK)電流]]を担う。細胞の静止膜電位、興奮性の制御に関わる。[[ROMK]](Kir1)、[[Kir4.1]]、[[Kir5.1]]チャネルは整流性が弱くもしくは殆ど無く、常時活性化型であり、イオンの輸送に関わっている。Kir4.1は[[アストログリア]]細胞に発現が多く、なかでも[[wikipedia:ja:|血管]]周囲やシナプス周囲に局在している<ref><pubmed>11502569</pubmed></ref>。
 Kir2が形成するKirチャネルは内向き整流性がとても強く[[wikipedia:ja:古典的内向き整流カリウム(IRK)電流|古典的内向き整流カリウム(IRK)電流]]を担う。細胞の静止膜電位、興奮性の制御に関わる。[[ROMK]](Kir1)、[[Kir4.1]]、[[Kir5.1]]チャネルは整流性が弱くもしくは殆ど無く、常時活性化型であり、イオンの輸送に関わっている。Kir4.1は[[アストログリア]]細胞に発現が多く、なかでも[[wikipedia:ja:血管|血管]]周囲やシナプス周囲に局在している<ref><pubmed>11502569</pubmed></ref>。


====Gタンパク質活性化カリウム(GIRK)チャネル====
====Gタンパク質活性化カリウム(GIRK)チャネル====


 [[wikipedia:ja:|Gタンパク質活性化カリウム(GIRK)チャネル]]は三量体Gタンパク質のGβγサブユニットとの結合によって活性化されるカリウムチャネルである。このチャネルは心臓の徐脈に関与するイオンチャネルとしてよく知られている。中枢神経系においては[[GABA<sub>B</sub>受容体]]などと機能的に共役し、抑制性シナプスにおいて観察される遅延性の抑制性シナプス後電流(slow inhibitory postsynaptic current, sIPSC)を担う。GIRKチャネルはKir3サブファミリーで構成されるKirチャネルであり、神経細胞においてはKir3.1とKir3.2とで構成されるGIRKチャネルが主要な構成要素であると考えられている。しかし生化学的にはKir3.3や心臓型のKir3.4サブユニットの発現も認められる。
 [[wikipedia:ja:Gタンパク質活性化カリウム(GIRK)チャネル|Gタンパク質活性化カリウム(GIRK)チャネル]]は三量体Gタンパク質のGβγサブユニットとの結合によって活性化されるカリウムチャネルである。このチャネルは心臓の徐脈に関与するイオンチャネルとしてよく知られている。中枢神経系においては[[GABA<sub>B</sub>受容体]]などと機能的に共役し、抑制性シナプスにおいて観察される遅延性の抑制性シナプス後電流(slow inhibitory postsynaptic current, sIPSC)を担う。GIRKチャネルはKir3サブファミリーで構成されるKirチャネルであり、神経細胞においてはKir3.1とKir3.2とで構成されるGIRKチャネルが主要な構成要素であると考えられている。しかし生化学的にはKir3.3や心臓型のKir3.4サブユニットの発現も認められる。


====ATP感受性K====
====ATP感受性K====


 [[wikipedia:ja:|ATP感受性K]](K<sub>ATP</sub>)はチャネルのポアを形成するイオンチャネルもKirチャネルファミリーに属する(Kir6サブファミリー)。Kir6.2にATPが結合することでチャネルが閉口する。ABCタンパク質ファミリーに属し、[[wikipedia:ja:|スルホニルウレア]]剤の標的として知られる[[wikipedia:ja:|スルホニルウレア受容体]](sulfonylurea receptor, SUR)はK<sub>ATP</sub>チャネルに必須のβサブユニットであり、Kir6とSURは4:4のヘテロオクタマーを形成し機能する。
 [[wikipedia:ja:ATP感受性K|ATP感受性K]](K<sub>ATP</sub>)はチャネルのポアを形成するイオンチャネルもKirチャネルファミリーに属する(Kir6サブファミリー)。Kir6.2にATPが結合することでチャネルが閉口する。ABCタンパク質ファミリーに属し、[[wikipedia:ja:スルホニルウレア|スルホニルウレア]]剤の標的として知られる[[wikipedia:ja:スルホニルウレア受容体|スルホニルウレア受容体]](sulfonylurea receptor, SUR)はK<sub>ATP</sub>チャネルに必須のβサブユニットであり、Kir6とSURは4:4のヘテロオクタマーを形成し機能する。


 K<sub>ATP</sub>チャネルの細胞内ATPによる閉口は、[[wikipedia:ja:|グルコース]]依存的な[[wikipedia:ja:|膵臓β細胞]]からの[[wikipedia:ja:|インスリン]]分泌の分子機構として役割が最もよく知られている。加えて、[[視床下部]]などで認められるいくつかの神経細胞で観察される、膜の電気的な興奮性のグルコース感受性の機構の一つとして知られている。グルコース濃度上昇によって、細胞へのグルコース取り込み増し、細胞内ATP産生増によるK<sub>ATP</sub>チャネル阻害がおこり、結果として膜の脱分極、細胞興奮性の亢進がおこる。他にも心筋細胞、[[wikipedia:ja:|平滑筋]]細胞などにも発現しており、やはり細胞の代謝レベルと膜の興奮性の共役を担っている。  
 K<sub>ATP</sub>チャネルの細胞内ATPによる閉口は、[[wikipedia:ja:グルコース|グルコース]]依存的な[[wikipedia:ja:膵臓β細胞|膵臓β細胞]]からの[[wikipedia:ja:インスリン|インスリン]]分泌の分子機構として役割が最もよく知られている。加えて、[[視床下部]]などで認められるいくつかの神経細胞で観察される、膜の電気的な興奮性のグルコース感受性の機構の一つとして知られている。グルコース濃度上昇によって、細胞へのグルコース取り込み増し、細胞内ATP産生増によるK<sub>ATP</sub>チャネル阻害がおこり、結果として膜の脱分極、細胞興奮性の亢進がおこる。他にも心筋細胞、[[wikipedia:ja:平滑筋|平滑筋]]細胞などにも発現しており、やはり細胞の代謝レベルと膜の興奮性の共役を担っている。  


=== Two-pore domainカリウムチャネル  ===
=== Two-pore domainカリウムチャネル  ===
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== 病気との関連 -カリウムチャネルのチャネル病 ==
== 病気との関連 -カリウムチャネルのチャネル病 ==


 心臓病、筋肉病、脳疾患、腎疾患、代謝性疾患など様々な疾患で、イオンチャネルをコードする遺伝子の異常を原因とするものが知られるようになってきた。いわゆる、[[チャネル病]](Channelopathy)という概念が定着してきている<ref><pubmed>16554803</pubmed></ref><ref><pubmed>22290238</pubmed></ref>。代表的なものとして、先天性[[wikipedia:ja:|QT延長症候群]](Long QT syndrome, LQTs)を引き起こす電位依存的カリウムチャネルのαサブユニットKv7.1(KCNQ1)の遺伝子異常が多数見つかっている(タイプ1, LQT1)。また、このチャネルのβサブユニットであるminK(KCNE1)の異常がLQT5の患者から見つかっている。LQT2の場合は、Kv11.1(HERG)遺伝子に異常が見つかっている。これらの遺伝子異常により、心筋の遅延整流性カリウム電流の遅い成分(''I''<sub>Ks</sub>)や早い成分(''I''<sub>Kr</sub>)を担うカリウムチャネルは機能欠損(loss-of-function)になり、それによって心筋細胞を再分極させる外向き電流が減少することが、活動電位の延長やQT時間の延長の原因である。また、[[wikipedia:ja:|不整脈]](QT 延長)に両側性感音性難聴を伴うJervell &amp; Lange-Nielson症候群 (JLN) の機能欠損変異もKv7.1(KCNQ1) 、minK(KCNE1)で見つかっている。不整脈、突発性の筋脱力、形態異常など全身性の症状を呈するAndersen-Tawil症候群(LQT7)の患者からはKir2.1の機能欠損変異が見つかっている。逆に、KCNQ1、hERG、Kir2.1の遺伝子の機能獲得(gain-of-function)変異がQT短縮症候群(Short QT syndrome, SQTs) 患者から見つかっている。
 心臓病、筋肉病、脳疾患、腎疾患、代謝性疾患など様々な疾患で、イオンチャネルをコードする遺伝子の異常を原因とするものが知られるようになってきた。いわゆる、[[チャネル病]](Channelopathy)という概念が定着してきている<ref><pubmed>16554803</pubmed></ref><ref><pubmed>22290238</pubmed></ref>。代表的なものとして、先天性[[wikipedia:ja:QT延長症候群|QT延長症候群]](Long QT syndrome, LQTs)を引き起こす電位依存的カリウムチャネルのαサブユニットKv7.1(KCNQ1)の遺伝子異常が多数見つかっている(タイプ1, LQT1)。また、このチャネルのβサブユニットであるminK(KCNE1)の異常がLQT5の患者から見つかっている。LQT2の場合は、Kv11.1(HERG)遺伝子に異常が見つかっている。これらの遺伝子異常により、心筋の遅延整流性カリウム電流の遅い成分(''I''<sub>Ks</sub>)や早い成分(''I''<sub>Kr</sub>)を担うカリウムチャネルは機能欠損(loss-of-function)になり、それによって心筋細胞を再分極させる外向き電流が減少することが、活動電位の延長やQT時間の延長の原因である。また、[[wikipedia:ja:不整脈|不整脈]](QT 延長)に両側性[[wikipedia:ja:感音性難聴|感音性難聴]]を伴う[[wikipedia:ja:Jervell & Lange-Nielson症候群|Jervell & Lange-Nielson症候群]] (JLN) の機能欠損変異もKv7.1(KCNQ1) 、minK(KCNE1)で見つかっている。不整脈、突発性の筋脱力、形態異常など全身性の症状を呈する[[wikipedia:ja:Andersen-Tawil症候群|Andersen-Tawil症候群]](LQT7)の患者からはKir2.1の機能欠損変異が見つかっている。逆に、KCNQ1、hERG、Kir2.1の遺伝子の機能獲得(gain-of-function)変異が[[wikipedia:ja:QT短縮症候群|QT短縮症候群]](Short QT syndrome, SQTs) 患者から見つかっている。


 脳疾患では、神経性のM電流を欠損するKv7.2(KCNQ2)やKv7.3(KCNQ3)の機能欠損変異が家族性良性新生児痙攣(Benign familial neonatal epilepsy, BFNE)の原因として報告されている <ref><pubmed>9430594</pubmed></ref><ref><pubmed>9872318</pubmed></ref><ref><pubmed>9425900</pubmed></ref><ref><pubmed>9425895</pubmed></ref>。また、Kv1.1の機能欠損変異が発作性運動失調症(episodic ataxia, EA)を引き起こすこと知られている<ref><pubmed>7842011</pubmed></ref>。さらに、Kv7.4(KCNQ4)やKir4.1の変異が難聴に繋がることも分かっている。(KCNQ4遺伝子は常染色体優性遺伝形式を取るDFNA2の原因遺伝子として報告された)
 脳疾患では、神経性のM電流を欠損するKv7.2(KCNQ2)やKv7.3(KCNQ3)の機能欠損変異が[[家族性良性新生児痙攣]](Benign familial neonatal epilepsy, BFNE)の原因として報告されている <ref><pubmed>9430594</pubmed></ref><ref><pubmed>9872318</pubmed></ref><ref><pubmed>9425900</pubmed></ref><ref><pubmed>9425895</pubmed></ref>。また、Kv1.1の機能欠損変異が[[発作性運動失調症]](episodic ataxia, EA)を引き起こすこと知られている<ref><pubmed>7842011</pubmed></ref>。さらに、Kv7.4(KCNQ4)やKir4.1の変異が難聴に繋がることも分かっている。(KCNQ4遺伝子は[[wikipedia:ja:常染色体優性遺伝|常染色体優性遺伝]]形式を取るDFNA2の原因遺伝子として報告された)


 腎疾患、代謝性疾患で代表的なものは、腎尿細管上皮細胞頂上膜に局在するKir1.1(ROMK1)の異常が代謝性アルカローシスや低K<sup>+</sup>血症を伴うBartter症候群(II型)を引き起こすことが分かっている。さらにKir6.2、SUR1の変異による膵臓β細胞K<sub>ATP</sub>チャネルの機能獲得変異によって新生児糖尿病(permenent neonatal diabetes)で、逆に機能欠損変異で新生児持続性高インスリン性低血糖症(Persistent hyperinsulinemic hypoglycemia of infancy, PHHI)などで見つかっている。
 [[wikipedia:ja:腎|腎]]疾患、代謝性疾患で代表的なものは、[[wikipedia:ja:腎尿細管|腎尿細管]]上皮細胞頂上膜に局在するKir1.1(ROMK1)の異常が[[wikipedia:ja:代謝性アルカローシス|代謝性アルカローシス]]や[[wikipedia:ja:低K<sup>+</sup>血症|低K<sup>+</sup>血症]]を伴う[[wikipedia:ja:Bartter症候群|Bartter症候群]](II型)を引き起こすことが分かっている。さらにKir6.2、SUR1の変異による膵臓β細胞K<sub>ATP</sub>チャネルの機能獲得変異によって[[wikipedia:ja:新生児糖尿病|新生児糖尿病]](permenent neonatal diabetes)で、逆に機能欠損変異で[[wikipedia:ja:新生児持続性高インスリン性低血糖症|新生児持続性高インスリン性低血糖症]](Persistent hyperinsulinemic hypoglycemia of infancy, PHHI)などで見つかっている。


 チャネル病の遺伝性を解析してみると、表現型が常染色体優性遺伝で遺伝されることが多い。カリウムチャネルはα、βサブユニットの複合体であるため、異常なサブユニットが一つでも入ることで複合体の機能が欠失するドミナントネガティブ効果でイオンチャネル機能が阻害されることがある。一方、ハプロ不全(haplo-insufficiency)で発病する場合も多く報告されている。しかもその場合、機能欠損変異のみならず機能獲得変異によるチャネル病も報告されている。このことはイオンチャネルの機能が欠損していても過剰になっていても生体にとっては不適で、言い換えると適切な発現レベルや活性の範囲が存在することを示している。
 チャネル病の遺伝性を解析してみると、表現型が常染色体優性遺伝で遺伝されることが多い。カリウムチャネルはα、βサブユニットの複合体であるため、異常なサブユニットが一つでも入ることで複合体の機能が欠失するドミナントネガティブ効果でイオンチャネル機能が阻害されることがある。一方、[[wikipedia:ja:ハプロ不全|ハプロ不全]](haplo-insufficiency)で発病する場合も多く報告されている。しかもその場合、機能欠損変異のみならず機能獲得変異によるチャネル病も報告されている。このことはイオンチャネルの機能が欠損していても過剰になっていても生体にとっては不適で、言い換えると適切な発現レベルや活性の範囲が存在することを示している。


 遺伝子異常を原因としないものとしては、様々なストレス下でおこるイオンチャネルのリモデリングが心臓不整脈などの疾患の原因となることが知られている。  
 遺伝子異常を原因としないものとしては、様々なストレス下でおこるイオンチャネルのリモデリングが心臓不整脈などの疾患の原因となることが知られている。  
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 カリウムチャネルは様々な生理的役割を果たしており、カリウムチャネルに作用する毒物や薬物は生体にとって深刻な作用を与えうる。これら毒素や薬物はチャネル研究を行なう上で重要なツールとなっている。また、カリウムチャネルは薬物治療の標的となり、いくつかの阻害薬および活性化薬が臨床の現場で使用されている。
 カリウムチャネルは様々な生理的役割を果たしており、カリウムチャネルに作用する毒物や薬物は生体にとって深刻な作用を与えうる。これら毒素や薬物はチャネル研究を行なう上で重要なツールとなっている。また、カリウムチャネルは薬物治療の標的となり、いくつかの阻害薬および活性化薬が臨床の現場で使用されている。


 実験室レベルで用いられるKvチャネルの阻害薬としてtetraethylammonium(TEA)、4-aminopyridine(4-AP)ヘビ毒のdendrotoxin、サソリ毒のagitoxin、蜘蛛毒のhanatoxinなどがある。イオンチャネルごとに異なる薬物選択性が知られており、イオン電流成分の分離や分子種の推定に薬理学的解析が行われている。阻害の機序としては、TEA、4-AP、dendrotoxin、agitoxinなどは小孔、もしくは小孔の近傍に結合し、イオン透過機能を阻害する。一方、hanatoxinなどは電位センサー部位に結合し、電位依存性を変える。
 実験室レベルで用いられるKvチャネルの阻害薬としてtetraethylammonium(TEA)、4-aminopyridine(4-AP)[[wikipedia:ja:ヘビ|ヘビ]]毒のdendrotoxin、[[wikipedia:ja:サソリ|サソリ]]毒の[[agitoxin]]、[[wikipedia:ja:蜘蛛|蜘蛛]]毒の[[hanatoxin]]などがある。イオンチャネルごとに異なる薬物選択性が知られており、イオン電流成分の分離や分子種の推定に薬理学的解析が行われている。阻害の機序としては、TEA、4-AP、dendrotoxin、agitoxinなどは小孔、もしくは小孔の近傍に結合し、イオン透過機能を阻害する。一方、hanatoxinなどは電位センサー部位に結合し、電位依存性を変える。


 amiodaroneやnifekalantは心筋細胞の''I''<sub>Kr</sub>電流を阻害し活動電位持続時間を延長し、相対的不応期を延長することから抗不整脈薬(第三群)として臨床使用されている。
 [[wikipedia:ja:amiodarone|amiodarone]]や[[wikipedia:ja:nifekalant|nifekalant]]は心筋細胞の''I''<sub>Kr</sub>電流を阻害し活動電位持続時間を延長し、相対的不応期を延長することから[[wikipedia:ja:抗不整脈薬|抗不整脈薬]](第三群)として臨床使用されている。


 近年、Kvチャネル電流を増加させる薬物も報告されており、それらは不活性化機構や脱感作機構に影響を及ぼしていると報告されている。
 近年、Kvチャネル電流を増加させる薬物も報告されており、それらは不活性化機構や脱感作機構に影響を及ぼしていると報告されている。


 KCaチャネルのBKチャネルはサソリ毒のcharybdotoxin、iberiotoxin、そして比較的低濃度のTEA(&lt;1 mM)によって阻害される。またSKチャネルはハチ毒apaminによって強力に阻害される。この薬物感受性の違いはCa活性化Kチャネルの分子種の特定に利用される。また、1-EBIOなどKCaチャネル(IK, SKチャネル)の開口薬が存在し、これらはCa<sup>2+</sup>感受性を高めることが報告されているが詳細なメカニズムは不明である。
 KCaチャネルのBKチャネルはサソリ毒の[[charybdotoxin]]、[[iberiotoxin]]、そして比較的低濃度のTEA(&lt;1 mM)によって阻害される。またSKチャネルはハチ毒[[apamin]]によって強力に阻害される。この薬物感受性の違いはCa活性化Kチャネルの分子種の特定に利用される。また、1-EBIOなどKCaチャネル(IK, SKチャネル)の開口薬が存在し、これらはCa<sup>2+</sup>感受性を高めることが報告されているが詳細なメカニズムは不明である。


 K<sub>ATP</sub>チャネルの阻害薬と活性化薬が薬物治療に用いられている。スルホニルウレア剤(tolbutamide、glibenclamideなど)は膵臓β細胞のK<sub>ATP</sub>チャネルを阻害し細胞を脱分極させ、インスリン分泌を促す作用があり糖尿病の治療に用いられる。スルホニルウレア(sulfonylurea, SU)剤の受容サイトがあることから、K<sub>ATP </sub>チャネルのβサブユニットはスルホニルウレア受容体(sulfonylurea receptor, SUR)と呼ばれる。また、diazoxideやpinacidilなどカリウムチャネル開口薬(K channel opener, KCO)とはK<sub>ATP</sub>チャネルの開口薬である。これらは血管の緊張を緩和し、血管拡張剤として用いられている。KCOもK<sub>ATP</sub>チャネルのβサブユニットSURに作用する。
 K<sub>ATP</sub>チャネルの[[阻害薬]]と[[活性化薬]]が薬物治療に用いられている。スルホニルウレア剤(tolbutamide、glibenclamideなど)は膵臓β細胞のK<sub>ATP</sub>チャネルを阻害し細胞を脱分極させ、インスリン分泌を促す作用があり糖尿病の治療に用いられる。スルホニルウレア(sulfonylurea, SU)剤の受容サイトがあることから、K<sub>ATP </sub>チャネルのβサブユニットはスルホニルウレア受容体(sulfonylurea receptor, SUR)と呼ばれる。また、[[wikipedia:ja:diazoxide|diazoxide]]や[[wikipedia:ja:pinacidil|pinacidil]]などカリウムチャネル開口薬(K channel opener, KCO)とはK<sub>ATP</sub>チャネルの開口薬である。これらは血管の緊張を緩和し、血管拡張剤として用いられている。KCOもK<sub>ATP</sub>チャネルのβサブユニットSURに作用する。


 吸引性麻酔薬であるhalothaneがK2Pチャネルを活性化することが知られており、この作用は局所麻酔薬の分子作用機序として考えられている<ref><pubmed>10321245</pubmed></ref>。
 [[wikipedia:ja:吸引性麻酔薬|吸引性麻酔薬]]である[[wikipedia:ja:halothane|halothane]]がK2Pチャネルを活性化することが知られており、この作用は局所麻酔薬の分子作用機序として考えられている<ref><pubmed>10321245</pubmed></ref>。


 臨床で用いられているものを含む多くの化合物の作用を詳細に調べると、主作用とは別にカリウムチャネルに対する作用を併せ持つ薬物が非常に多くあることが分かってきた。例えば抗ヒスタミン薬のterfenadineはカリウムチャネルを阻害する副作用を持ち、その為に致死的な不整脈を誘発する危険性が有り、臨床で使われなくなった。他には中枢神経系作動薬(haloperidolなどの抗精神病薬やfluoxetineなどの抗うつ薬など)にも副作用としてカリウムチャネルに対する作用が認められる。例えば''I''<sub>K</sub>電流の阻害が知られており、hERGチャネルの阻害が報告されている。またKirチャネルに対する作用なども報告されているが、治療効果への関与は未解明である。  
 臨床で用いられているものを含む多くの化合物の作用を詳細に調べると、主作用とは別にカリウムチャネルに対する作用を併せ持つ薬物が非常に多くあることが分かってきた。例えば[[wikipedia:ja:抗ヒスタミン薬|抗ヒスタミン薬]]の[[wikipedia:ja:terfenadine|terfenadine]]はカリウムチャネルを阻害する副作用を持ち、その為に致死的な不整脈を誘発する危険性が有り、臨床で使われなくなった。他には中枢神経系作動薬([[haloperidol]]などの[[抗精神病薬]]や[[fluoxetine]]などの[[抗うつ薬]]など)にも副作用としてカリウムチャネルに対する作用が認められる。例えば''I''<sub>K</sub>電流の阻害が知られており、hERGチャネルの阻害が報告されている。またKirチャネルに対する作用なども報告されているが、治療効果への関与は未解明である。  


== 参考文献 ==
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