「質量分析計」の版間の差分

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 質量分析計は気相イオンの[[wikipedia:ja:質量電荷比|質量電荷比]](''m/z'')と存在量を測定する装置である<ref>'''J H Gross (日本質量分析学会出版委員会訳)'''<br>マススペクトロメトリー<br>シュプリンガー:2007</ref>。質量分析計はイオン源、質量分析部、検出部から構成される。イオン源で化合物はイオン化され、質量分析部方向に加速される。イオンは質量分析部で''m/z''に従い分離され、検出部で検出される。質量分析計の装置構成を表記する際に特に重要となるのは、イオン源と質量分析部の種類である。ここではそれぞれの代表的な動作原理について説明する。
 質量分析計は気相イオンの[[wikipedia:ja:質量電荷比|質量電荷比]](''m/z'')と存在量を測定する装置である<ref>'''J H Gross (日本質量分析学会出版委員会訳)'''<br>マススペクトロメトリー<br>シュプリンガー:2007</ref>。質量分析計はイオン源、質量分析部、検出部から構成される。イオン源で化合物はイオン化され、質量分析部方向に加速される。イオンは質量分析部で''m/z''に従い分離され、検出部で検出される。質量分析計の装置構成を表記する際に特に重要となるのは、イオン源と質量分析部の種類である。ここではそれぞれの代表的な動作原理について説明する。
==イオン源の種類と動作原理==
==イオン源の種類と動作原理==
 質量分析の分析対象となるのはイオンである。試料化合物をイオン化する装置がイオン源であり、以下に示すような複数のイオン化原理に基づいている。とりわけMALDI法とESI法は、それまでのイオン化法では断片化しやすかった高分子化合物のイオン化を可能にした<ref><pubmed>15458815</pubmed></ref><ref><pubmed>15362902</pubmed></ref>。このことにより医学生物学分野におけるタンパク質、ペプチド、多糖等の[[wikipedia:ja:生体高分子|生体高分子]]の解析が大きく発展した。
 質量分析の分析対象となるのはイオンである。試料化合物をイオン化する装置がイオン源であり、以下に示すような複数のイオン化原理に基づいている。とりわけMALDI法とESI法は、それまでのイオン化法では断片化しやすかった高分子化合物のイオン化を可能にした<ref><pubmed>15458815</pubmed></ref><ref><pubmed>15362902</pubmed></ref>。このことにより医学生物学分野における[[wikipedia:ja:タンパク質|タンパク質]]、[[wikipedia:ja:ペプチド|ペプチド]]、[[wikipedia:ja:多糖|多糖]]等の[[wikipedia:ja:生体高分子|生体高分子]]の解析が大きく発展した。
===マトリックス支援レーザー脱離イオン化(matrix-assisted laser desorption/ionization, MALDI)===
===マトリックス支援レーザー脱離イオン化(matrix-assisted laser desorption/ionization, MALDI)===
 MALDI法は、試料化合物とイオン化促進剤([[wikipedia:ja:マトリックス|マトリックス]])の混合物にパルス[[wikipedia:ja:レーザー|レーザー]]を照射することにより試料化合物をイオン化し、気体中に放出する技術である<ref><pubmed>10633229</pubmed></ref><ref name=ref1><pubmed>18166020</pubmed></ref>。レーザーエネルギーの殆どはこれらの[[wikipedia:ja:マトリックス|マトリックス]]化合物に吸収されるため、試料は分解されず、[[wikipedia:ja:水素|水素]]イオンの付加により生じる[M + H]<sup>+</sup>、[[wikipedia:ja:ナトリウム|ナトリウム]]イオンの付加による [M + Na]<sup>+</sup>、[[wikipedia:ja:水素|水素]]イオンの除去による [M − H]<sup>-</sup>等の化合物由来イオンが主に検出される。
 MALDI法は、試料化合物とイオン化促進剤([[wikipedia:ja:マトリックス|マトリックス]])の混合物にパルス[[wikipedia:ja:レーザー|レーザー]]を照射することにより試料化合物をイオン化し、気体中に放出する技術である<ref><pubmed>10633229</pubmed></ref><ref name=ref1><pubmed>18166020</pubmed></ref>。レーザーエネルギーの殆どはこれらの[[wikipedia:ja:マトリックス|マトリックス]]化合物に吸収されるため、試料は分解されず、[[wikipedia:ja:水素|水素]]イオンの付加により生じる[M + H]<sup>+</sup>、[[wikipedia:ja:ナトリウム|ナトリウム]]イオンの付加による [M + Na]<sup>+</sup>、[[wikipedia:ja:水素|水素]]イオンの除去による [M − H]<sup>-</sup>等の化合物由来イオンが主に検出される。
===エレクトロスプレーイオン化(electrospray ionization, ESI)===
===エレクトロスプレーイオン化(electrospray ionization, ESI)===
 ESI法では、液体試料が細管先端から窒素ガスと共に噴霧される<ref><pubmed>2675315</pubmed></ref>。溶媒の蒸発に伴いイオンが形成される。ESI法では多価イオン[M + nH]<sup>n+</sup>がしばしば形成されるので、高分子量化合物が小さな''m/z''範囲で検出されるのが特徴である。大気圧イオン化法の一種であり、液体クロマトグラフィー質量分析(LC/MS)に最もよく用いられる。
 ESI法では、液体試料が細管先端から[[wikipedia:ja:窒素|窒素]]ガスと共に噴霧される<ref><pubmed>2675315</pubmed></ref>。溶媒の蒸発に伴いイオンが形成される。ESI法では多価イオン[M + nH]<sup>n+</sup>がしばしば形成されるので、高分子量化合物が小さな''m/z''範囲で検出されるのが特徴である。大気圧イオン化法の一種であり、液体[[wikipedia:ja:クロマトグラフィー|クロマトグラフィー]]質量分析(LC/MS)に最もよく用いられる。
===化学イオン化(chemical ionization, CI)===
===化学イオン化(chemical ionization, CI)===
 CI法では[[wikipedia:ja:メタン|メタン]]、[[wikipedia:ja:アンモニア|アンモニア]]等の反応ガスに[[wikipedia:ja:熱電子|熱電子]]を衝突させることで、あらかじめ反応ガスをイオン化する。このようにして生じた1次イオンがイオン分子反応で2次イオンを生じた後に、導入された気相の試料分子と反応し試料分子のイオン化をもたらす。
 CI法では[[wikipedia:ja:メタン|メタン]]、[[wikipedia:ja:アンモニア|アンモニア]]等の反応ガスに[[wikipedia:ja:熱電子|熱電子]]を衝突させることで、あらかじめ反応ガスをイオン化する。このようにして生じた1次イオンがイオン分子反応で2次イオンを生じた後に、導入された気相の試料分子と反応し試料分子のイオン化をもたらす。
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