「追従眼球運動」の版間の差分

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 これらの運動錯視刺激に対する追従眼球運動反応は一次運動の検出機構が運動発現の基盤となっていることを示している。
 これらの運動錯視刺激に対する追従眼球運動反応は一次運動の検出機構が運動発現の基盤となっていることを示している。


==神経機構==
== 神経機構 ==
 サルの大脳皮質MST (Medial Superior Temporal)野、脳幹の背外側橋核、脳幹の視索核、小脳の腹側傍片葉のニューロン活動が調べられている。これらの脳部位を含み、最終的に脳幹の外眼筋運動神経核に到る経路が追従眼球運動の発現に関わると考えられている。この神経経路に沿って行われる視覚情報から運動指令信号への変換について、共通の視覚刺激(ランダムドットパターン)、共通の解析法(網膜誤差からの神経活動の再構成および眼球運動からの再構成)を用いた研究が系統的に行われてきた<ref name="refkawano1999" />。


 大脳皮質MST野には、広い視野の視覚刺激の動きに反応し、追従眼球運動反応に先行して[[発火]]頻度を上昇させる[[ニューロン]]がある。その多くは動きの方向に選択性を持って反応し、それらの最適方向の分布は全方向にほぼ一様である。追従眼球運動時のMST野の発火頻度の時間経過は、眼球運動よりも、網膜像の位置、速度、加速度の時間経過から良く再構成できる<ref name="reftakemura2001"><pubmed> 11600636 </pubmed></ref>。しかし、単一のモデルを用いて再構成できる視覚刺激のスピードの範囲は限られる。大脳皮質MST野を含む[[上側頭溝]]の領域を薬物で破壊すると、その破壊の程度に応じて追従眼球運動反応が影響を受けることが知られている<ref><pubmed> 17234585 </pubmed></ref>。
 サルの[[大脳皮質]][[MST野|MST (Medial Superior Temporal)野]]、[[脳幹]]の[[背外側橋核]]、脳幹の[[視索核]]、[[小脳]]の[[腹側傍片葉]]のニューロン活動が調べられている。これらの脳部位を含み、最終的に脳幹の[[wikipedia:ja:外眼筋|外眼筋]][[運動神経核]]に到る経路が追従眼球運動の発現に関わると考えられている。この神経経路に沿って行われる視覚情報から運動指令信号への変換について、共通の視覚刺激(ランダムドットパターン)、共通の解析法(網膜誤差からの神経活動の再構成および眼球運動からの再構成)を用いた研究が系統的に行われてきた<ref name="refkawano1999" />。  


 脳幹の背外側橋核はMST野から投射を受ける。その神経核には、広い視野の視覚刺激の動きの方向に選択性を持って反応するニューロンがあり、それらの最適方向の分布は、大脳皮質MST野と同様、全方向にほぼ一様である。追従眼球運動時の背外側橋核ニューロンの発火頻度についても、眼球運動よりも網膜像の位置、速度、加速度から良く再構成できる<ref name="reftakemura2001" />。しかし、MST野と同様、単一のモデルを用いて反応が再構成できる視覚刺激のスピードの範囲は限られる。脳幹の背外側橋核からは小脳の腹側傍片葉に投射があることが知られている。
=== 大脳皮質MST野   ===


 脳幹の視索核にも追従眼球運動に先行して活動するニューロンがある<ref><pubmed> 10789943 </pubmed></ref>。それらのニューロンの最適方向は同側であり、遅い刺激(≤ 20 度/秒)を好むものが多い。片側の視索核を薬物で不活性化すると、対側方向と上下方向への追従眼球運動への影響は小さいが、同側への追従眼球運動の速度が約50%減弱する。追従眼球運動時の視索核ニューロンの発火頻度は、眼球運動よりも、網膜誤差から良く再構成できる。しかし、単一のモデルを用いて反応が再構成できる視覚刺激のスピードの範囲は限られている。視索核からは背外側橋核や同側の下オリーブ核に投射があることが知られている。
広い視野の視覚刺激の動きに反応し、追従眼球運動反応に先行して[[発火]]頻度を上昇させる[[ニューロン]]がある。その多くは動きの[[方位選択性|方向に選択性]]を持って反応し、それらの最適方向の分布は全方向にほぼ一様である。追従眼球運動時のMST野の発火頻度の時間経過は、眼球運動よりも、網膜像の位置、速度、加速度の時間経過から良く再構成できる<ref name="reftakemura2001"><pubmed> 11600636 </pubmed></ref>。しかし、単一のモデルを用いて再構成できる視覚刺激のスピードの範囲は限られる。大脳皮質MST野を含む[[上側頭溝]]の領域を薬物で破壊すると、その破壊の程度に応じて追従眼球運動反応が影響を受けることが知られている<ref><pubmed> 17234585 </pubmed></ref>。


 小脳の腹側傍片葉では[[プルキンエ細胞]]の活動が調べられている。プルキンエ細胞の単純[[スパイク]]の最適方向は同側か下方向である。単純スパイクの発火頻度は追従眼球運動の速度、加速度と良く相関する。単純スパイクの時間経過は眼球運動の位置、速度、加速度を用いた逆ダイナミクス表現によって再構成できる<ref><pubmed> 8361536 </pubmed></ref> <ref><pubmed> 9705471 </pubmed></ref>。このことから小脳は追従眼球運動の運動指令の構成に重要な役割を果たすと考えられている。複雑スパイクの最適方向は対側か上方向である。複雑スパイクの時間経過についても、網膜誤差よりも、眼球運動の位置、速度、加速度から良く再構成できる<ref><pubmed> 9705472 </pubmed></ref> 。しかし、単純スパイクに比べて網膜誤差との相関が高いことが指摘されている。複雑スパイクは視索核から[[下オリーブ核]]を介する小脳への入力によるものと考えられ、それによって運ばれる網膜誤差の信号と単純スパイクに表現される信号との間の長期的相互作用が追従眼球運動の適応に貢献する可能性が指摘されている<ref><pubmed> 11877526 </pubmed></ref>。
=== 背外側橋核 ===


 近年では、追従眼球運動の基盤となる視覚運動検出の神経機構に関する研究が進んでいる。様々な正弦波運動縞や、行動実験で用いられた運動錯視刺激に対するMST野のニューロン活動が調べられており、視覚運動の検出過程の詳細に迫りつつある。追従眼球運動のための感覚-運動変換のうち、感覚に比較的近い領野(MST野、視索核、背外側橋核)のニューロン活動は総じて、視覚像の位置、速度、加速度の時間経過の線系モデルで良く再構成できるが、単一のモデルを用いて反応を再構成できるスピードの範囲は非常に限られている。システム全体としての非線形性は、神経経路上で行われる動く視覚像の解析の性質を反映するものと考えられる。この点が今後明らかにされることが期待される。  
 脳幹の背外側橋核はMST野から投射を受ける。その神経核には、広い視野の視覚刺激の動きの方向に選択性を持って反応するニューロンがあり、それらの最適方向の分布は、大脳皮質MST野と同様、全方向にほぼ一様である。追従眼球運動時の背外側橋核ニューロンの発火頻度についても、眼球運動よりも網膜像の位置、速度、加速度から良く再構成できる<ref name="reftakemura2001" />。しかし、MST野と同様、単一のモデルを用いて反応が再構成できる視覚刺激のスピードの範囲は限られる。脳幹の背外側橋核からは小脳の腹側傍片葉に投射があることが知られている。
 
=== 視索核 ===
 
 脳幹の視索核にも追従眼球運動に先行して活動するニューロンがある<ref><pubmed> 10789943 </pubmed></ref>。それらのニューロンの最適方向は同側であり、遅い刺激(≤ 20 度/秒)を好むものが多い。片側の視索核を薬物で不活性化すると、対側方向と上下方向への追従眼球運動への影響は小さいが、同側への追従眼球運動の速度が約50%減弱する。追従眼球運動時の視索核ニューロンの発火頻度は、眼球運動よりも、網膜誤差から良く再構成できる。しかし、単一のモデルを用いて反応が再構成できる視覚刺激のスピードの範囲は限られている。視索核からは背外側橋核や同側の下オリーブ核に投射があることが知られている。
 
=== 小脳腹側傍片葉 ===
 
 小脳の腹側傍片葉では[[プルキンエ細胞]]の活動が調べられている。プルキンエ細胞の単純[[スパイク]]の最適方向は同側か下方向である。単純スパイクの発火頻度は追従眼球運動の速度、加速度と良く相関する。単純スパイクの時間経過は眼球運動の位置、速度、加速度を用いた逆ダイナミクス表現によって再構成できる<ref><pubmed> 8361536 </pubmed></ref> <ref><pubmed> 9705471 </pubmed></ref>。このことから小脳は追従眼球運動の運動指令の構成に重要な役割を果たすと考えられている。複雑スパイクの最適方向は対側か上方向である。複雑スパイクの時間経過についても、網膜誤差よりも、眼球運動の位置、速度、加速度から良く再構成できる<ref><pubmed> 9705472 </pubmed></ref> 。しかし、単純スパイクに比べて網膜誤差との相関が高いことが指摘されている。複雑スパイクは視索核から[[下オリーブ核]]を介する小脳への入力によるものと考えられ、それによって運ばれる網膜誤差の信号と単純スパイクに表現される信号との間の長期的相互作用が追従眼球運動の適応に貢献する可能性が指摘されている<ref><pubmed> 11877526 </pubmed></ref>。
 
 
 
 近年では、追従眼球運動の基盤となる視覚運動検出の神経機構に関する研究が進んでいる。様々な[[wikipedia:ja:正弦波運動縞|正弦波運動縞]]や、行動実験で用いられた運動錯視刺激に対するMST野のニューロン活動が調べられており、視覚運動の検出過程の詳細に迫りつつある。追従眼球運動のための感覚-運動変換のうち、感覚に比較的近い領野(MST野、視索核、背外側橋核)のニューロン活動は総じて、視覚像の位置、速度、加速度の時間経過の線系モデルで良く再構成できるが、単一のモデルを用いて反応を再構成できるスピードの範囲は非常に限られている。システム全体としての非線形性は、神経経路上で行われる動く視覚像の解析の性質を反映するものと考えられる。この点が今後明らかにされることが期待される。


==関連項目==
==関連項目==

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