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==イオンチャネル研究の歴史== | ==イオンチャネル研究の歴史== | ||
1950年代に発表されたHodgkinとHuxley(1963年ノーベル医学生理学賞)による一連のイカの巨大軸索を使った実験により、[[活動電位]]が起こる際に細胞膜のナトリウムイオン透過性が高まり、[[活動電位]]が静まる際にはカリウムイオン透過性が高まることが明らかにされた。これにより[[ゲート]]、イオン選択性を有するイオンチャネルの存在が示唆された。1970年代になり、NeherとSakmann(1991年ノーベル医学生理学賞)によって開発された[[パッチクランプ]]法により、単一イオンチャネルの電流が初めて計測され、ガラス電極内に単離できる実体としてのイオンチャネルの存在が証明された。1980年代に入り遺伝子クローニングの時代に入ると、沼、野田らによるニコチン性アセチルコリン受容体や電位依存性[[ナトリウムチャネル]]のcDNAクローニング、Janらによる電位依存性[[カリウムチャネル]]のcDNAクローニングを皮切りにつぎつぎとイオンチャネルのcDNAがクローニングされていった。1988年、豊島とUnwinが電子線結晶構造解析でシビレエイのニコチン性アセチルコリン受容体の構造を明らかにしたのが、イオンチャネルの立体構造研究のはしりである<ref><pubmed>2461515</pubmed></ref>。1998年にはMacKinnon(2003年ノーベル化学賞)らにより、はじめてのイオンチャネルのX線結晶構造解析として、原核生物由来の[[カリウムチャネル]]であるKcsAチャネルの構造が明らかにされた<ref><pubmed>9525859</pubmed></ref>。現在までに明らかにされたイオンチャネルの結晶構造の多くは比較的分子量の小さい[[カリウムチャネル]]が中心であるが、ゲーティングやイオン透過機構など各種イオンチャネルに普遍的な機構が次々に明らかになりつつある。 | |||
==イオンチャネルの構造とファミリー== | ==イオンチャネルの構造とファミリー== | ||
イオンチャネルは、通すイオンの種類やリガンドの種類などによって命名・分類されている。また分子構造(トポロジー)などからも分類される。 | イオンチャネルは、通すイオンの種類やリガンドの種類などによって命名・分類されている。また分子構造(トポロジー)などからも分類される。 | ||
=== | ===[[電位依存性チャネル]]ファミリー=== | ||
==== | ====電位依存性[[カリウムチャネル]]==== | ||
[[Image:Kchannel.jpg|300px|thumb|right|図2 | [[Image:Kchannel.jpg|300px|thumb|right|図2 電位依存性[[カリウムチャネル]]αサブユニットの構造。これが4つ集まって図1のような立体構造をとる。]] 電位依存性[[カリウムチャネル]]は6回膜貫通型の膜タンパク質である(図2)。四つのαサブユニットが集まって一つのイオンチャネルが構成される。六つの膜貫通セグメント(S1~S6)のうち最初の四つ(S1~S4)は[[膜電位センサー]]ドメインと呼ばれ、細胞膜内外の電位差を感じるセンサーとして機能する。特にS4セグメントには正電荷を持つアミノ酸(主にアルギニン)が3アミノ酸おきに配置されており、この正電荷のクラスターが[[膜電位センサー]]としての中心的な役割を果たしている。残りの二つのセグメント(S5~S6)はポアドメインと呼ばれ、四つのサブユニットが集まってイオン透過路を構成する。S5-S6の間のループは特にPループと呼ばれ、[[イオン選択性フィルター]]としてカリウムイオンを選択的に透過させる機能を持っている。またS6セグメントは開閉の[[ゲート]]として働いていると考えられている。膜電位が脱分極すると、それを感知したS4セグメントが細胞外側に向かってスライドするような構造変化を起こす。その変化がS4-S5リンカーを通じてポアドメインに伝わり、S6セグメントの[[ゲート]]が開くと考えられている。 | ||
分子としては40種類程度の遺伝子が存在し、イオンチャネルの中でも最も大きなファミリーの一つである。Hodgkin-Huxleyの時代からもっともよく研究されているイオンチャネルファミリーの一つであり、結晶構造もすでに明らかにされている。機能を調節するための修飾サブユニット(βサブユニット)がいくつか知られている。 | |||
====電位依存性ナトリウムチャネル==== | ====電位依存性ナトリウムチャネル==== | ||
[[Image:Topology.jpg|400px|thumb|right|図3 さまざまなトポロジーのイオンチャネル]] | [[Image:Topology.jpg|400px|thumb|right|図3 さまざまなトポロジーのイオンチャネル]] 電位依存性[[ナトリウムチャネル]]は上述の電依存性[[カリウムチャネル]]と似た構造を持っているが、[[カリウムチャネル]]の4つのサブユニットが直列につながったような、24回膜貫通型のタンパク質である(図3)。それぞれドメインI~IVと呼ばれ、それぞれに[[膜電位センサー]]ドメインとポアドメインが含まれる。ヒトにはαサブユニットとしてNaV1.1~1.9まで9種類の遺伝子が存在し、さらに修飾サブユニットとしてβサブユニットが存在する。[[活動電位]]を起こす機能が有名で、Hodgkin-Huxleyの時代からよく研究されているチャネルファミリーの一つである。膜電位が脱分極すると、電位依存性[[カリウムチャネル]]と同様にS4セグメントが細胞外側に動くと考えられる。続いて[[ゲート]]が開いてナトリウムイオンを流入させ、細胞を脱分極させる。特徴的なのは、その後すぐに不活性化という状態に入ってしまい、その後一定時間活性化しなくなることである。この不活性化は[[活動電位]]を[[軸索]]に沿って一方向に進めるために重要な性質である。[[フグ毒]]として有名なテトロドトキシン(TTX)は電位依存性[[ナトリウムチャネル]]の阻害剤である。 | ||
==== | ====電位依存性[[カルシウムチャネル]]==== | ||
電依依存性[[ナトリウムチャネル]]と同様、24回膜貫通型のタンパク質であり、さらにCaV1~3まで3種類のサブファミリーに分類される(ヒトの遺伝子としては10種類)。βサブユニット、α2δサブユニット、γサブユニットなど、複数種類の修飾サブユニットが存在する。脱分極により開き、[[カルシウム]]イオンを選択的に透過する。[[カルシウム]]イオンの生理的重要性ゆえに、[[神経伝達物質]]の放出、心筋や骨格筋の収縮、ホルモン分泌などさまざまな生理現象にとって非常に重要なイオンチャネルである。 | |||
====カルシウム活性化型カリウムチャネル==== | ====カルシウム活性化型カリウムチャネル==== | ||
細胞内の[[カルシウム]]イオン濃度に依存して活性化する[[カリウムチャネル]]である。カルシウム活性化型カリウムチャネルはシングルチャネルコンダクタンスの大きさに従ってBK, IK, SKと分類される。基本的には電位依存性[[カリウムチャネル]]と同様の構造であるが、BKチャネルにはS1の前にS0と呼ばれる膜貫通セグメントが存在し、タンパク質のN末端が細胞外に出ている。BKチャネルのみ膜電位によっても活性化される。したがってBKチャネルは膜電位と細胞内カルシウムイオン濃度の二つのパラメータに依存して活性化するイオンチャネルということになる。BKチャネルはさらにβサブユニットによって機能の調節を受ける。 | |||
====HCN & CNGチャネル==== | ====HCN & CNGチャネル==== | ||
HCN(Hyperpolarization-activated cyclic nucleotide-gated) | HCN(Hyperpolarization-activated cyclic nucleotide-gated)チャネルは、細胞膜が過分極することで開く非選択的陽イオンチャネルである。電位依存性[[カリウムチャネル]]と同様に6回膜貫通型のαサブユニットが4つ集まって一つのイオンチャネルを構成する。他の[[電位依存性チャネル]]と同様脱分極によってS4セグメントが細胞外に向けて動くが、[[ゲート]]とのカップリングが他の[[電位依存性チャネル]]とは逆になっており、過分極で電位センサーが下がった位置に来ると[[ゲート]]が開く仕組みになっている<ref><pubmed>12397358</pubmed></ref>。同じファミリーに属するCNG(cyclic nucleotide-gated)チャネルは、S4セグメントを持つにも関わらず電位依存性をほとんど失っているが、細胞内の環状ヌクレオチド(cAMP、cGMP)で活性化される。同様にHCNチャネルも環状ヌクレオチドで活性化される。 | ||
====TRPチャネル==== | ====TRPチャネル==== | ||
TRP(transient receptor potential) | TRP(transient receptor potential)チャネルは6回膜貫通型の四量体チャネルである。ナトリウム、カリウム、[[カルシウム]]を透過する非選択的陽イオンチャネルである。[[膜電位センサー]]様の構造を持つが、膜電位感受性は弱いか、または失われている。28種類ものTRP遺伝子が存在し、それぞれ細胞内外の様々なシグナル、リガンドで活性化される。いくつかは強い温度感受性を有し、トウガラシの成分カプサイシンでも活性化される高温感受性のTRPV1や、メントールや低温で活性化されるTRPM8が有名である。 | ||
====電位依存性プロトンチャネル==== | ====電位依存性プロトンチャネル==== | ||
2006年に発見された電位依存性プロトンチャネルは、電位依存性[[カリウムチャネル]]の[[膜電位センサー]]ドメイン(S1~S4)のみでポアドメイン(S5~S6)を欠いたような構造の4回膜貫通型タンパク質である(図3)<ref><pubmed>16556803</pubmed></ref><ref><pubmed>16554753</pubmed></ref>。単体でプロトンを透過することができるが、二量体で機能していると考えられている。 | |||
=== | ===内向き整流性[[カリウムチャネル]] (2回膜貫通型)=== | ||
内向き整流性[[カリウムチャネル]]は2回膜貫通型のポアドメインのみからなるイオンチャネルで、4つのαサブユニットで構成される四量体イオンチャネルである(図3)。イオンチャネルとして初めて構造が明らかになったKcsAチャネルも2回膜貫通型のカリウムチャネルである。ファミリーには古典的な内向き整流性チャネルであるKir1, 2, 4, 5, 7と、[[GTP結合蛋白]]で活性化されるGIRK (Kir3)、ATP感受性カリウムチャネルを構成するKir6に大別される。[[静止膜電位]]の維持など、[[神経細胞]]や心筋などで重要な役割を果たしている。Kir6は膵臓β細胞でSURと複合体を構成し、細胞内ATPセンサーとしてインシュリンの放出に重要である。Kir2をはじめとする内向き整流性カリウムチャネルは、[[膜電位センサー]]に相当するドメインを有していないが、細胞内のMg<sup>2+</sup>やスペルミンなどのポリアミンによって、細胞の内側から膜電位依存的にブロックされる。この機構により過分極時にはカリウムイオンを細胞外から細胞内に向けて流すが、脱分極時にはこれらのブロックにより細胞外へのカリウムイオンの流出を抑える。結果的に細胞の内側にカリウムイオンが流れやすい“内向き整流性”の性質を持つことになる。GIRK1(Kir3.1)とKir2.2の結晶構造がこれまでに明らかになっている<ref><pubmed>12507423</pubmed></ref><ref><pubmed>20019282</pubmed></ref><ref><pubmed>21874019</pubmed></ref>。 | |||
===Two poreチャネル(4回膜貫通型)=== | ===Two poreチャネル(4回膜貫通型)=== | ||
Two-poreチャネルは2回膜貫通型のイオンチャネルが2つ直列につながったような、4回膜貫通型のイオンチャネルである(図3)。2つのPループを持つことからTwo- | Two-poreチャネルは2回膜貫通型のイオンチャネルが2つ直列につながったような、4回膜貫通型のイオンチャネルである(図3)。2つのPループを持つことからTwo-poreチャネルと呼ばれるが、二量体で構成されるこのイオンチャネルは一つのイオン透過路を持つ。リークチャネルとも呼ばれ、[[静止膜電位]]の形成などに寄与していると考えられる。最近結晶構造も明らかになった<ref><pubmed>22282804</pubmed></ref><ref><pubmed>22282805</pubmed></ref>。 | ||
===酸感受性イオンチャネルと上皮型ナトリウムチャネル=== | ===酸感受性イオンチャネルと上皮型ナトリウムチャネル=== | ||
酸感受性イオンチャネル(Acid-sensing ion channel; ASIC)は細胞外のpHが小さくなると開く非選択性の陽イオンチャネルである。上皮型ナトリウムチャネル(epithelial Na<sup>+</sup>channel; ENaC)は上皮細胞でのナトリウムイオン輸送を制御している。同じファミリーに属し、どちらも2回膜貫通型のイオンチャネルである。 | 酸感受性イオンチャネル(Acid-sensing ion channel; ASIC)は細胞外のpHが小さくなると開く非選択性の陽イオンチャネルである。上皮型ナトリウムチャネル(epithelial Na<sup>+</sup>channel; ENaC)は上皮細胞でのナトリウムイオン輸送を制御している。同じファミリーに属し、どちらも2回膜貫通型のイオンチャネルである。 | ||
=== | ===[[塩素チャネル]]=== | ||
ClCチャネルはクロライドイオンを通すイオンチャネルで、二量体のイオンチャネルだが、それぞれのサブユニットにイオン透過路があるので、1つのイオンチャネルに2つのポアが存在することになる。CFTRチャネルはcAMPを加水分解することで作動する[[塩素チャネル]]で、嚢胞性線維症の原因遺伝子として有名である。構造上はABC[[トランスポーター]]に属する。 | |||
=== | ===[[リガンド依存性チャネル]]=== | ||
====Cys-loop受容体==== | ====Cys-loop受容体==== | ||
5量体の[[リガンド依存性チャネル]]ファミリーの一種である。非選択的に陽イオンを透過するニコチン型アセチルコリン受容体や5-HT<sub>3</sub>受容体、陰イオンを透過する[[グリシン]]受容体、[[GABA受容体]](GABA<sub>A</sub>, GABA<sub>C</sub>)などが含まれる。 | |||
====グルタミン酸受容体==== | ====[[グルタミン酸受容体]]==== | ||
中枢神経系の興奮性シナプスで極めて重要な働きを持つ[[AMPA型グルタミン酸受容体]]、[[NMDA型グルタミン酸受容体]]、[[カイニン酸型グルタミン酸受容体]]はイオンチャネル型の[[グルタミン酸受容体]]である。4量体で構成される。 | |||
====P2X受容体==== | ====P2X受容体==== | ||
P2X受容体は細胞外のATPをリガンドとして活性化される[[リガンド依存性チャネル]]である。2回膜貫通型で、3量体で構成される。ナトリウムイオン等を透過させる非選択性陽イオンチャネルであるが、ATPで長時間活性化させるとNMDGなどの大きな陽イオンも透過させることができるようにポアサイズが大きくなるという、特異なポアの性質を持つ。 | |||
===細胞内膜系イオンチャネル=== | ===細胞内膜系イオンチャネル=== | ||
====リアノジン受容体==== | ====[[リアノジン受容体]]==== | ||
[[リアノジン受容体]]はカルシウムストアとして機能する小胞体上の[[カルシウムチャネル]]である。細胞質中のカルシウムイオン濃度が上がると開き、小胞体中のカルシウムイオンを放出し、細胞内カルシウムシグナルを増幅する。筋細胞の収縮において重要な役割を果たしている。 | |||
====IP3受容体==== | ====IP3受容体==== | ||
[[リアノジン受容体]]と同様小胞体上に発現するカルシウムイオン放出チャネルである。細胞内のシグナル伝達物質の一種であるIP3によって活性化される。受精時の[[カルシウム]]動態をはじめ、生理・発生現象の様々な場面において重要な働きを担う。 | |||
====TRICチャネル==== | ====TRICチャネル==== |
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