反応時間
新美 亮輔、横澤 一彦
東京大学 大学院人文社会系研究科
DOI:10.14931/bsd.806 原稿受付日:2012年5月9日 原稿完成日:2013年2月4日
担当編集委員:定藤 規弘(自然科学研究機構 生理学研究所 大脳皮質機能研究系)
英:reaction time/response time 英略語:RT
同義語:反応潜時
反応時間とは、生体に刺激が与えられてからその刺激に対する外的に観察可能な反応が生じるまでの時間である。特に、ヒトが何らかの知覚・認知課題を遂行する際の、随意的行動による反応について言う(例えば、ランプが点灯したらすぐボタンを押す)。類義語に潜時(latency)があるが、これは反応時間より広い概念で、ヒト以外の動物の反応や、行動ではなく生理指標として観察される反応についても言う(例えば、視覚刺激提示から視覚誘発電位が生じるまでの時間)。 ここでは、ヒトの行動実験における反応時間について説明する。
反応時間は課題遂行成績(performance)の重要な指標である。反応時間が長いほど、複雑で多くの心的処理を要したと考えられる。ただし、反応時間は刺激の入力から反応の出力までに起こる種々の処理過程を総体として反映する指標である。それら処理過程は少なくとも刺激の知覚、判断や反応選択、反応の運動実行の3段階に分けられるが、いずれもが反応時間に影響を生じうる。なお、反応時間の平均的な長さだけでなく、ばらつき(標準偏差など)が分析されることもある。
いろいろな反応時間
反応時間測定では、手指ボタン押し反応のほか、足のペダル押し、発声、眼球運動なども用いられる[1]。リーチング[2]のような動作に比較的時間のかかる反応では、刺激提示から運動開始までを反応時間、運動開始から終了までを運動時間(movement time, MT)と呼んで区別することもある(図1)。
短距離走のスタートのような全身運動による反応については、全身反応時間(whole body reaction time)と呼ぶ。例えば、刺激が提示されたらできるだけ速く跳び上がらせ(垂直跳び課題)、両足が地を離れるまでの時間として測定する。
ただし、単純な反応動作でも多数の筋肉が関与するものである。筋電図(EMG)で筋肉の運動潜時を調べると、反応時間と一致するとは限らないし、筋によっても差がある[3]。
課題による分類
一般に反応時間測定では、できるだけ速く反応する課題(speeded task)を用いる。これに対し、好きな時に反応してよい課題の反応時間は自由反応時間(free reaction time)と呼んで区別することがある。また、課題の内容に応じて、次の3種類が区別される。
単純反応時間
Simple reaction time, SRT
古い文献では簡単反応時間と訳されることがある。
既知の1種の刺激が提示され、それに対して決められた1種の反応をする(単純検出課題)ときの反応時間。例えば、音が聞こえたらできるだけ速くボタンを押す。 下の2種よりも平均的には短く、視覚ないし聴覚刺激に対するボタン押しでは150~300ms程度である。
選択反応時間
Choice reaction time, CRT
既知の複数の刺激のいずれかが提示され、刺激に応じて決められた複数の反応のいずれかを行う(n肢強制選択課題; n-alternative forced choice task, nAFC task)ときの反応時間。例えば、緑光か赤光が提示され、緑なら右、赤なら左のボタンをできるだけ速く押す(2肢強制選択課題; 2AFC task)。
ゴー・ノーゴー反応時間
Go/No-Go reaction time
弁別反応時間(discriminative reaction time)とも。既知の複数の刺激のいずれかが提示され、そのうち特定の刺激の場合のみ、決められた1種の反応をするときの反応時間。例えば、緑光か赤光が提示され、緑ならボタンを押し、赤なら何もしない。つまり、反応するかしないか(ゴー・ノーゴー)を判断する。
初期の研究
神経伝達速度の測定
反応時間測定は19世紀末の実験心理学成立当初から行われている。現在では反応時間は研究の手段として用いられることが多いが、当時は反応時間自体が研究対象だった。生理学者や心理学者が、心的処理の速さはどれくらいかを測ろうとしたのである。19世紀末は心的時間測定(mental chronometry)の時代であった[4]。
直接の契機は、1849~1850年にヘルムホルツがカエル運動神経伝達速度を毎秒24.6~35.4mと測定したことだった [5][6][7]。私たちは日常的には、自分が意図した瞬間に体が動き、心的処理は「瞬時に」完了すると思っている。これに反して神経の働きは意外に遅く、十分測定可能な程度の速さでしかなかったのである。
ドンデルスの減算法
では、知覚や判断はどれくらいの速さなのだろうか。ヒトでの反応時間研究の嚆矢はオランダのドンデルスらによる1860年代の実験[8][9]とされる。彼らは、反応時間のうち本当に心的処理(mental process)に要した時間を測ろうとした。例えば、緑光に対して右、赤光に対して左のボタンを押す課題で、反応時間が仮に300msだとしても、色弁別の心的処理に300msかかるとは言えない。そのうち相応の部分は、網膜から脳への伝達時間や脳から手の筋肉への伝達時間のはずだからである。
ドンデルスらは、減算法(subtraction method)と呼ばれる方法でこの問題に取り組んだ。音声を聞いたらできるだけ速く発声して反応するという課題を使い、以下の反応時間を測定した。
- 単純反応時間。kiに対して、できるだけ速くkiと発声して反応する。
- 選択反応時間。ka, ke, ki, ko, kuのいずれかが提示され、できるだけ速く刺激と同じ音声を発して反応する。
- 弁別反応時間。ka, ke, ki, ko, kuのいずれかが提示され、kiの場合のみkiと発声して反応する。
結果は、順に平均201ms、284ms、237msとなった[9]。選択反応時間から単純反応時間を引いた差83msは、刺激の弁別と反応の選択の心的処理に要した時間と考えられる。選択反応時間から弁別反応時間を引いた差47msは、反応の選択の心的処理に要した時間と考えられる(弁別課題では反応の選択は必要ないが、刺激の弁別は必要である)。このように条件間の減算で心的処理に要する時間を推定するのが減算法である。
しかし、この試みはうまくいかなかった。反応時間に影響を与える要因が多すぎるのである。個人差も大きい。何より、知覚や認知といった心的処理を構成要素の単純な加算で考えることに限界があった。今日よく知られているように神経系の情報処理は高度に並列的である。また、用いた課題がどんな心的処理を含むのかについては解釈に幅がある。例えば弁別反応時間には、刺激の弁別だけでなく、反応するかしないか(Go/No-Go)という反応選択処理が含まれているとも考えられる。このため、反応時間の差の絶対的な値に意味を見出すのは難しい。
とは言え、心的処理の速さへの関心は今なお続いている(近年では、特に物理的時間と心的時間のずれの問題として多くの研究者の興味を引いている [10][11])。減算法のアイデアの拡張・修正も提案されてきた[12][13]。現在では、反応時間のモデルは多くの変数を考慮に入れた複雑なものとなっている [14][15]。
反応時間の性質
分布の非対称性
反応時間の分布は正の歪度を示す非対称形になる(図2)。反応の速さには限界がある一方、非常に遅い反応も一定数生じるためである。歪度の大きさは実験内容に大きく依存し、指数分布様の極めて非対称な場合から正規分布様のほぼ対称な場合まで様々である。分析に際しては、この非対称性に留意する必要がある。
反応時間分布にあてはめるモデルとしては、ワイブル分布や対数正規分布も用いるが、 ex-Gaussian分布 を用いることが多い[16][17] [18] [19]。
速さと正確さのトレードオフ
反応は速くしようとするほど不正確になり、正確にしようとするほど遅くなる。この交換関係を速さと正確さのトレードオフ(speed-accuracy tradeoff, SAT)という。平均選択反応時間 と正答率 ・誤答率 の関係は次式で記述できる(, はパラメータ)[20]。
従って、反応時間を分析する際は、正答率・誤答率など正確さの指標もあわせて考慮する必要がある。また、速さと正確さのトレードオフが適切に制御された実験を計画することが重要である。例えば、反応時間は条件1の方が短いが、誤答率は条件2の方が低かったとすると、解釈が難しい。この問題を避けるため、反応時間と正答率・誤答率のどちらかに目標を絞り込むことが多い。
トレードオフを制御する方法はいくつかある[21]。典型的には、教示と、課題難易度の調整を用いる。正答率・誤答率を指標にしたい場合は、課題難易度をある程度難しくした上で、速さより正確さを優先するよう教示する。逆に反応時間を指標にしたい場合は、時間をかければ誤答がほぼなくなるような難易度にし、できるだけ速くかつ正確に反応するよう教示する。難易度は予備実験の結果を見て決定するが、全被験者一律にすることもあれば、被験者毎に決定することもある。反応に時間制限を設けたり、決められた時(例えば音で知らされる)に必ず反応させることで反応時間を一定に制御する方法もある[22]。
Hick-Hymanの法則
平均選択反応時間 は、選択肢数 が多いほど長い。Hick [23] はこの関係が
という式で近似できることを発見した。これをHickの法則という。底に2をとれば [24] 、 は単純反応時間に相当する。なお、
という式も同様によく用いられる [20] 。 この場合、 が単純反応時間に相当し、 はパラメータである。
さて、選択肢数が同じでも、出現確率の低い刺激に対する反応は遅い [25] [26] 。 この現象は、反応時間が刺激の情報量に比例すると解釈されている。 Hyman [25] は、出現確率 の刺激に対する選択反応時間 は次式でよく記述できる ことを示した。
これをHick-Hymanの法則と言う。処理すべき情報量が多いほど反応に時間がかかるのである。 Hickの法則は、全選択肢が等確率( )のケースに相当する。
先行期間
典型的な実験では、まず予告刺激(warning signal) [27] を提示し、数秒程度の先行期間(foreperiod, FP)の後に反応すべき刺激(反応刺激、response stimulus)を提示する(図1) [28] 。被験者は予告刺激によって試行の開始を知り、反応に備える。 300msを下回るような極端に短いFPを用いると、反応が遅くなる。 これは心理的不応期(psychological refractory period, PRP)と関連する現象と考えられている [29] [30] (ただし、[31])。
FPの長さが常に一定だと、被験者は反応刺激の出現を予期できる。 これは特に単純反応時間の測定では問題になるので、FPを試行毎にランダムに変動させることがある。 この場合、反応時間はFPが一定の場合より長くなる [32] [33] 。 FPが一定の場合には、FPが長いほど反応時間は長くなる [34] [33] [35] 。 これは長い時間を正確に予測するのが難しいためだと考えられる。 FPが変動する場合には、用いられるFPのうち短いFPで反応時間が長くなることがある [33] [36] 。 いずれにせよ、FPの操作は予期や構えに関係するため、その影響は複雑である。
反応時間と神経活動
反応が速い時には、中枢神経系でも情報処理が速く進行した可能性がある。 そこで、反応時間と神経活動の生理指標との関連性が、主に脳波(EEG)のような時間解像度の高い方法で検討されてきた。 例えば視覚刺激の単純検出課題では、反応時間が長かった試行の視覚誘発電位は、反応時間が短かった試行に比べて、潜時が長く、また振幅も小さい [37] 。 近年ではfMRIでも類似の検討が試みられている [38] 。
反応時間に影響する要因
刺激強度
一般に、刺激強度(輝度や音圧)が強いほど単純反応時間は短い(光 [39] [40] 、音 [41] )。これは単に感覚器の応答が速くなるためだけでなく、いくつかの原因による [42] 。刺激強度と反応時間の関係は、指数が負のべき関数で表せる(Piéronの法則 [43] )。
刺激モダリティ
視覚刺激に対する単純反応時間は、聴覚刺激や触覚刺激に対するものより長い。味覚刺激や嗅覚刺激ではさらに長いと言われている [44] [45] 。 ただし、異なるモダリティの刺激の強度を何らかの意味で一致させた上での実験が必要なため (例えば光と音について [46] )、厳密な比較は難しい。
複数モダリティで同時に刺激が与えられる場合、つまり多感覚(multimodal)刺激の場合には、 単一モダリティ(unimodal)刺激の場合に比べて反応時間が短縮する [47] 。例えば、光刺激に対する単純反応時間は、音刺激が同時に提示されると短縮する。 このとき音刺激は課題に無関係でよく、これを付属刺激(accesory stimulus)と呼ぶ。
反応方法
反応の動作を行う器官を効果器(effector)と呼ぶ。効果器によって反応時間は異なる。手指ボタン押しでは、ボタン上にあらかじめ指を乗せておき、指を動かすだけで反応できるようにする。押していたボタンを離すことで反応させる方法もある。手指ボタン押しに比べ、足でのペダル踏みや発声による口頭反応は数10ms遅い [45] [48] 。垂直跳びによる全身反応時間はさらに長く、視覚または聴覚刺激に対する単純反応時間で300~400ms程度である [49] 。
多数のボタンの一つを選んで押す課題では、腕を動かす必要がある。このように大きな動作を伴う場合には、相応の運動時間(MT)が加わるので、 ボタン押し反応時間は手指ボタン押しの場合より長くなる(図1)。
左右差
単純反応時間では、右手・足による反応と左手・足による反応で差はない [48] [45] [50]。 選択反応時間では、利き手の反応の方が速いことがある [51] [52]。 一般に利き手は非利き手より運動に関わる成績がよく、運動時間(MT)や運動の正確さで利き手の優位性が見られる [53]。 ところが、視覚標的への指差し反応ではむしろ非利き手の方がMTを除いた反応時間(刺激提示から運動開始までの時間)が短い [54]。 これは空間情報処理の大脳右半球優位性のためと考えられている。反応時間の左右差は知覚から運動まで様々な段階の左右差を反映するため、課題内容によっても結果が変化する[51][53]。 また、個人差も大きい[55]。
感覚器官の左右差が見られることもある。聴覚単純反応時間は、刺激が右耳に提示された時の方がわずかに短い[50]。 視覚単純反応時間も、刺激を利き目に提示した方が短くなる[56]。 なお、単眼提示より両眼提示[56]、また片耳提示より両耳提示[50]の方が反応時間は短い。
刺激-反応適合性
刺激の特性と反応の特性が適合的なときは、非適合的なときより反応が速く正確になる。例えば高い音に対して「高い」、低い音に対して「低い」と答えるのは、高い音に対して「低い」、低い音に対して「高い」と答えるより容易である。このような違いを、刺激-反応適合性(stimulus-response compatibility)の効果と呼ぶ[57] [58]。
よく研究されているのは空間的適合性である(図3)。例えば右側の刺激に対しては右のボタンで、左の刺激に対しては左のボタンで反応する方が、その逆の組合せよりも速い。これは視覚[57][59] 、聴覚[60] 、触覚[61] のいずれでも起こる。両手を交差させ右(左)手で左(右)のボタンを押す場合や[59] 、両手(交差させない)でそれぞれ棒を持ち棒を交差させ右(左)手の棒で左(右)のボタンを押す場合でも [62]、刺激位置とボタン位置との間の空間適合性に従った効果が見られる。
疲労と学習
実験では、被験者は同じ課題を長時間にわたり繰り返す。 このとき、単純反応時間はビジランス(vigilance, 持続的注意)の低下や疲労により次第に長くなる [63] [64] 。 このため、単純検出課題はビジランスの測定に用いられる。 選択反応時間も疲労により長くなる [65] 。
一方、選択反応時間は学習効果により短くなることも報告されている。 特に選択肢数が多いと効果が大きいようだが、2肢でも効果は見られる [20] [66] 。
十分な練習や休憩により、実験中の反応時間を安定させることができる。
年齢
多くの課題で、反応時間は20代に最も短くなる [65] [67] 。 児童では年齢とともに選択反応時間が短くなり、また個人内でのばらつきも減少するという [67] 。
成人では加齢に従って反応時間が伸びる。 種々の課題で高齢者の反応時間は若齢者より長い [68] 。 60代被験者の選択反応時間やGo/No-Go反応時間は、20代被験者に比べ10~30%程度長くなるようである [69] [70] [71] 。 単純反応時間も加齢に伴い長くなるが、その程度は緩やかで、しばしば高齢者と若齢者で差が見られない [69] [70] [71] 。 なお、高齢者では反応時間の個人内でのばらつきも増加する [67] [70] [72] 。
性別
男性より女性の方が平均して反応時間は長く、単純反応時間で数10msの差が見られる [48] [65] 。 同様の性差は高齢者でも [69] [72] 、 児童でも [73] 見られる。
薬物
カフェインやニコチンはしばしば選択反応時間を短縮する[74][75][76] 。アルコール[75][77][78] やベンゾジアゼピンは[79] 単純反応時間や選択反応時間を長くする。
その他
刺激の特性では、強度以外にも提示時間 [80] [81] 、視覚刺激の網膜位置 [82] 、空間周波数 [83] 、コントラスト [26] [83] などが反応時間に影響する。 ストレス [65] や断眠 [84] 、一時的な運動 [85] 、スポーツの習熟 [86] などの効果も研究されている。
解釈の難しさ
反応時間は有用な指標だが、しばしばそのデータの解釈をめぐって論争がある[87]。 反応方法や計測方法の違いで変化してしまうことからもわかるように、心的処理について考える上で反応時間の絶対的な値には意味がないことが多い。 今日ほとんどの研究では、条件間で反応時間に相対的な差があるかどうかを検討している。
また、反応時間に影響した要因は刺激の知覚から運動まであらゆる段階に求められるので、正確な特定は難しいことが多い。 例えば単純反応時間は平均的には男性の方が女性より短い [48] [65] が、これはただちに「男性は女性より速く刺激を知覚する」ということを意味しない。 男性は平均的に筋肉量が多く運動が速いのかも知れない(生理的要因)し、 男性は女性よりもスポーツをする機会が多いために感覚・運動協応機能が訓練されている者が多いのかも知れない [88] (社会的要因)。 こういった様々な要因を統制して実験を行うことが重要となる。 また、反応時間以外の測定値をあわせて用いることも有用である。
測定と分析の実際
器具
かつて反応時間測定には電鍵やクロノスコープ [89] が用いられた。 今日では、コンピュータのキーボードのキー押しを反応とし、コンピュータ内蔵のタイマーでその時間を測定することが多い。 簡単なプログラムや既成の実験用ソフトウェアによって測定できる。 高い精度が求められる実験では、専用の反応装置(図4)と刺激提示装置が用いられる。
口頭反応では、音圧が最初のピークか一定の閾値(例えば、ピーク音圧の10%や50%)に達した時を反応とする。 垂直跳びによる全身反応時間の測定では、スイッチを踏ませておき、両足がスイッチを離れたことで反応とする。 モーションキャプチャや高速度ビデオ撮影も有効である。
いずれの方法でも、刺激提示装置と反応記録装置の時間的な同期を正確にとることが肝要である [90]。
誤答の除外
研究目的にもよるが、誤答の反応時間は分析から除外するのが一般的である。課題がきちんと遂行されなかったと考えられるからである。 ただし、誤答が少なくない時には誤答反応時間の分析が役立つこともある(例えば[91])。
分布の非対称性と外れ値への対処
反応時間は分布が非対称になりやすく、また外れ値(outlier)を含む。従って、そのまま算術平均を代表値としたり、分散分析のような正規性を仮定する分析を適用することには問題が多い。まずデータの分布を見て、強い非対称性や明らかな外れ値がないか確認すべきである。
算術平均のかわりに、よく中央値が用いられる。外れ値の除外(cutoff)および変数変換も有効である[16]。変数変換には、対数変換や逆数変換が用いられる(図2)。反応時間の逆数は反応速度の指標とみなすことができる。
外れ値は一定の基準に基づいて除外する。算術平均からの一定距離を基準とする(例えば、平均±3標準偏差を超えたら除外)のは、分布の非対称性を考えれば妥当ではない。適切な変数変換の後に行うべきである。上限と下限を一律に定めて除外する方法もある。単純反応時間は平均150~300ms程度なので、これを極端に下回る反応時間は尚早反応、つまりフライングの結果である可能性が高い。そこで、100ないし150ms程度を下限とし、それ以下は外れ値と見なす。 上限の基準はしばしば恣意的だが、概して除外されるデータが全体の数%以下になる程度に決められるようである。
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苧阪直行
実験心理学の誕生と展開 実験機器と史料からたどる日本心理学史
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