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球形嚢と卵形嚢では平衡斑に有毛細胞が分布する。有毛細胞の表面はゼラチン様物質からなる耳石膜におおわれており、さらにその上に[[wikipedia:ja:炭酸カルシウム|炭酸カルシウム]]からなる耳石が分布する。この有毛細胞が刺激されるのは平衡斑にせん断力が作用する時、即ち有毛細胞と耳石膜との間にずれが生じるときであり、具体的には水平もしくは垂直方向に[[wikipedia:ja:線形|線形]]的な[[wikipedia:ja:加速度|加速度]]が加わったときである。仰臥位で身体を床に平行に振り直線的加速度を加えてやると、右方向の加速に対して眼は左側に偏位する。また頭をゆっくりと左右に傾けると、両眼球が眼軸を中心として反対側に回旋する。これらの眼球運動は球形嚢由来のVORによると考えられている。卵形嚢が関与するVORについてはよくわかっていない<ref name="ref2" />。 | 球形嚢と卵形嚢では平衡斑に有毛細胞が分布する。有毛細胞の表面はゼラチン様物質からなる耳石膜におおわれており、さらにその上に[[wikipedia:ja:炭酸カルシウム|炭酸カルシウム]]からなる耳石が分布する。この有毛細胞が刺激されるのは平衡斑にせん断力が作用する時、即ち有毛細胞と耳石膜との間にずれが生じるときであり、具体的には水平もしくは垂直方向に[[wikipedia:ja:線形|線形]]的な[[wikipedia:ja:加速度|加速度]]が加わったときである。仰臥位で身体を床に平行に振り直線的加速度を加えてやると、右方向の加速に対して眼は左側に偏位する。また頭をゆっくりと左右に傾けると、両眼球が眼軸を中心として反対側に回旋する。これらの眼球運動は球形嚢由来のVORによると考えられている。卵形嚢が関与するVORについてはよくわかっていない<ref name="ref2" />。 | ||
[[Image:図2VOR.jpg|thumb|300px|<b>図2.VORの測定法</b><br />(A)回転台の正弦波状回転により生じたアカゲザルの眼球運動。黒線は眼球位置データ。青線は眼球位置データから急速相とドリフトを除去したもの。 | |||
<ref><pubmed>20674618</pubmed></ref>より改変。(B)VORのゲインと位相差。青線は平均眼球位置とレース。赤線は頭(台)の位置とレース。(C)オランダウサギ(□)と黒眼ウサギ(●)のVORの利得と位相。<ref name="ref3" />より改変。]] | |||
== 動特性 == | == 動特性 == | ||
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VORはslowの眼球運動である。通常0.1-1Hzの周波数で、刺激をする半規管の面に平行になるように頭を固定し、暗闇の中で回転台(ターンテーブル)を[[wikipedia:ja:正弦波|正弦波]]状に振動させてVORを誘発する。赤外線テレビカメラもしくは[[wikipedia:Search_coil|サーチコイル]]により、誘発された眼球運動を記録する。[[サッケード]]状の[[急速眼球運動]]、瞬きや遅いドリフトを除去し、VORに由来する眼球運動を抽出する。それをもとに、VORの利得(ゲイン)と位相差を算出する。図2にVORの計測の例を示す。前述のごとくVORは頭(台)とは逆方向に動きであるので、回転台と眼球運動のズレを、伝統的に位相の進み(phase advance)と呼ぶ(図2B)。 | VORはslowの眼球運動である。通常0.1-1Hzの周波数で、刺激をする半規管の面に平行になるように頭を固定し、暗闇の中で回転台(ターンテーブル)を[[wikipedia:ja:正弦波|正弦波]]状に振動させてVORを誘発する。赤外線テレビカメラもしくは[[wikipedia:Search_coil|サーチコイル]]により、誘発された眼球運動を記録する。[[サッケード]]状の[[急速眼球運動]]、瞬きや遅いドリフトを除去し、VORに由来する眼球運動を抽出する。それをもとに、VORの利得(ゲイン)と位相差を算出する。図2にVORの計測の例を示す。前述のごとくVORは頭(台)とは逆方向に動きであるので、回転台と眼球運動のズレを、伝統的に位相の進み(phase advance)と呼ぶ(図2B)。 | ||
水平性のVORの動特性は魚([[wikipedia:ja:コイ|コイ]]、[[wikipedia:ja:キンギョ|キンギョ]])、[[wikipedia:ja:ニワトリ|ニワトリ]]、[[wikipedia:ja:マウス|マウス]]、[[wikipedia:ja:ラット|ラット]]、[[wikipedia:ja:ウサギ|ウサギ]]、ネコ、サルやヒトで測定されている。ゲインは動物種によってほぼ一定で周波数依存性はあまりない。サルでは1前後、ヒトでは0.8~0.9、ネコは0.6~0.8程度で。他の動物種では0.3~0.6程度である。図2Bにウサギの水平性VORの動特性を示す。垂直性のVORは、測定が水平性のVORに比べて大がかりになるので、あまり調べられていないが、ゲインは一般的に水平性VORのゲインより低い。位相差はゲインが高いところでは0度付近であり、ゲインが下がるにつれて進みが大きくなる<ref name="ref2" /><ref name="ref3"><pubmed>6609085</pubmed></ref>。 | 水平性のVORの動特性は魚([[wikipedia:ja:コイ|コイ]]、[[wikipedia:ja:キンギョ|キンギョ]])、[[wikipedia:ja:ニワトリ|ニワトリ]]、[[wikipedia:ja:マウス|マウス]]、[[wikipedia:ja:ラット|ラット]]、[[wikipedia:ja:ウサギ|ウサギ]]、ネコ、サルやヒトで測定されている。ゲインは動物種によってほぼ一定で周波数依存性はあまりない。サルでは1前後、ヒトでは0.8~0.9、ネコは0.6~0.8程度で。他の動物種では0.3~0.6程度である。図2Bにウサギの水平性VORの動特性を示す。垂直性のVORは、測定が水平性のVORに比べて大がかりになるので、あまり調べられていないが、ゲインは一般的に水平性VORのゲインより低い。位相差はゲインが高いところでは0度付近であり、ゲインが下がるにつれて進みが大きくなる<ref name="ref2" /><ref name="ref3"><pubmed>6609085</pubmed></ref>。 | ||
== 小脳片葉によるゲインの適応制御 == | == 小脳片葉によるゲインの適応制御 == |