「前庭動眼反射」の版間の差分

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 水平性のVORの動特性は魚([[wikipedia:ja:コイ|コイ]]、[[wikipedia:ja:キンギョ|キンギョ]])、[[wikipedia:ja:ニワトリ|ニワトリ]]、[[wikipedia:ja:マウス|マウス]]、[[wikipedia:ja:ラット|ラット]]、[[wikipedia:ja:ウサギ|ウサギ]]、ネコ、サルやヒトで測定されている。ゲインは動物種によってほぼ一定で周波数依存性はあまりない。サルでは1前後、ヒトでは0.8~0.9、ネコは0.6~0.8程度で。他の動物種では0.3~0.6程度である。図2Bにウサギの水平性VORの動特性を示す。垂直性のVORは、測定が水平性のVORに比べて大がかりになるので、あまり調べられていないが、ゲインは一般的に水平性VORのゲインより低い。位相差はゲインが高いところでは0度付近であり、ゲインが下がるにつれて進みが大きくなる<ref name="ref2" /><ref name="ref3"><pubmed>6609085</pubmed></ref>。
 水平性のVORの動特性は魚([[wikipedia:ja:コイ|コイ]]、[[wikipedia:ja:キンギョ|キンギョ]])、[[wikipedia:ja:ニワトリ|ニワトリ]]、[[wikipedia:ja:マウス|マウス]]、[[wikipedia:ja:ラット|ラット]]、[[wikipedia:ja:ウサギ|ウサギ]]、ネコ、サルやヒトで測定されている。ゲインは動物種によってほぼ一定で周波数依存性はあまりない。サルでは1前後、ヒトでは0.8~0.9、ネコは0.6~0.8程度で。他の動物種では0.3~0.6程度である。図2Bにウサギの水平性VORの動特性を示す。垂直性のVORは、測定が水平性のVORに比べて大がかりになるので、あまり調べられていないが、ゲインは一般的に水平性VORのゲインより低い。位相差はゲインが高いところでは0度付近であり、ゲインが下がるにつれて進みが大きくなる<ref name="ref2" /><ref name="ref3"><pubmed>6609085</pubmed></ref>。
[[Image:図3VOR.jpg|thumb|300px|<b>図3.VORの適応と片葉仮説</b><br />(A)黒眼ウサギのVORゲイン適応。●は縞模様のスクリーンと台を0.1Hz-10度で逆の方向に正弦波状に回転させトレーニングした時、▲は0.1Hz-10度で逆の方向に正弦波状に回転させトレーニングした時のゲインの変化。□は対照として4時間暗闇の中で台の回転によるVORのトレーニングした時のゲインの変化を示す。(B)両側の小脳片葉をカイニン酸で破壊後、Aと同様のトレーニングをしたもの。AとBは(3)を改変。(C)VORのゲイン適応における片葉の役割と適応の記憶の場。1~数時間のトレーニングによる適応の記憶は片葉に保持されているが、数日のトレーニングの記憶は前庭核に保持される。]]


== 小脳片葉によるゲインの適応制御  ==
== 小脳片葉によるゲインの適応制御  ==
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 VORのゲインの適応に前庭小脳の片葉が不可欠であることが、1970年代から様々な実験結果により示されている(図3B)。片葉のH-ゾーンと呼ばれる領域の[[プルキンエ細胞]]には、[[前庭神経節]]もしくは前庭神経核由来の信号が[[平行線維]]を介して伝えられる。また適応が起きるのに必要なretinal slipの情報は、[[下オリーブ内側副核]]から[[登上線維]]によってH-ゾーンのプルキンエ細胞に伝えられる。一方、H-ゾーンのプルキンエ細胞は、水平性のVORを中継する内側前庭核の神経細胞を直接抑制する。実際に適応が生じたときにH-ゾーンのプルキンエ細胞を観察すると、適応と同方向の神経活動が見られる。さらに、平行線維―プルキンエ細胞のシナプスの伝達は、同じプルキンエ細胞に入力する登上線維の信号によって長期間にわたり減弱される(長期抑圧)ことが証明されている。この長期抑圧がVORのゲインの適応の原因であるという考え方(片葉仮説)が、[[wikipedia:ja:伊藤正男 (生理学者)|伊藤正男]](東京大学名誉教授、理化学研究所特別顧問)により提案されている(図3C)。この仮説は薬理学や遺伝子ノックアウトマウスなど様々な実験を用いて検証されている<ref name="ref1" /> <ref name="ref7">'''永雄総一'''<br>神経研究の進歩 44:748-758,2000</ref> <ref name="ref8">'''Ito M'''<br>The cerebellum: Brain for an implicit self. <br>FT Press, New York, 2011.</ref> <ref name="ref9" />。  
 VORのゲインの適応に前庭小脳の片葉が不可欠であることが、1970年代から様々な実験結果により示されている(図3B)。片葉のH-ゾーンと呼ばれる領域の[[プルキンエ細胞]]には、[[前庭神経節]]もしくは前庭神経核由来の信号が[[平行線維]]を介して伝えられる。また適応が起きるのに必要なretinal slipの情報は、[[下オリーブ内側副核]]から[[登上線維]]によってH-ゾーンのプルキンエ細胞に伝えられる。一方、H-ゾーンのプルキンエ細胞は、水平性のVORを中継する内側前庭核の神経細胞を直接抑制する。実際に適応が生じたときにH-ゾーンのプルキンエ細胞を観察すると、適応と同方向の神経活動が見られる。さらに、平行線維―プルキンエ細胞のシナプスの伝達は、同じプルキンエ細胞に入力する登上線維の信号によって長期間にわたり減弱される(長期抑圧)ことが証明されている。この長期抑圧がVORのゲインの適応の原因であるという考え方(片葉仮説)が、[[wikipedia:ja:伊藤正男 (生理学者)|伊藤正男]](東京大学名誉教授、理化学研究所特別顧問)により提案されている(図3C)。この仮説は薬理学や遺伝子ノックアウトマウスなど様々な実験を用いて検証されている<ref name="ref1" /> <ref name="ref7">'''永雄総一'''<br>神経研究の進歩 44:748-758,2000</ref> <ref name="ref8">'''Ito M'''<br>The cerebellum: Brain for an implicit self. <br>FT Press, New York, 2011.</ref> <ref name="ref9" />。  


 さらに、適応に関する記憶が脳のどの部位に保持されていることが、神経組織の活動を薬物([[局所麻酔剤]])により遮断する方法で調べられている<ref name="ref5" /> <ref name="ref6" />。もし神経活動が遮断された脳部位に[[記憶の痕跡]]が存在するならば、遮断により記憶が消され、適応によって生じたゲインの変化は直ちに消去されるはずである。VORの適応の記憶の部位については、ネコとアカゲザルで調べられており、1~2時間のトレーニングにより生じた適応の記憶は片葉に保持されているが、それ以前のトレーニングによって生じた長期の適応の記憶は前庭核に保持されていることが示唆されている(図3C)。この現象は適応の記憶痕跡の[[シナプス]]間移動と呼ばれているが、前庭神経核に適応の長期の記憶が保持されるメカニズムは現在のところよく知られていない。  
 さらに、適応に関する記憶が脳のどの部位に保持されていることが、神経組織の活動を薬物([[局所麻酔剤]])により遮断する方法で調べられている<ref name="ref5" /> <ref name="ref6" />。もし神経活動が遮断された脳部位に[[記憶の痕跡]]が存在するならば、遮断により記憶が消され、適応によって生じたゲインの変化は直ちに消去されるはずである。VORの適応の記憶の部位については、ネコとアカゲザルで調べられており、1~2時間のトレーニングにより生じた適応の記憶は片葉に保持されているが、それ以前のトレーニングによって生じた長期の適応の記憶は前庭核に保持されていることが示唆されている(図3C)。この現象は適応の記憶痕跡の[[シナプス]]間移動と呼ばれているが、前庭神経核に適応の長期の記憶が保持されるメカニズムは現在のところよく知られていない。
 
[[Image:図3VOR.jpg|thumb|250px|<b>図3.VORの適応と片葉仮説</b><br />(A)黒眼ウサギのVORゲイン適応。●は縞模様のスクリーンと台を0.1Hz-10度で逆の方向に正弦波状に回転させトレーニングした時、▲は0.1Hz-10度で逆の方向に正弦波状に回転させトレーニングした時のゲインの変化。□は対照として4時間暗闇の中で台の回転によるVORのトレーニングした時のゲインの変化を示す。(B)両側の小脳片葉をカイニン酸で破壊後、Aと同様のトレーニングをしたもの。AとBは(3)を改変。(C)VORのゲイン適応における片葉の役割と適応の記憶の場。1~数時間のトレーニングによる適応の記憶は片葉に保持されているが、数日のトレーニングの記憶は前庭核に保持される。]]<br>


== VORとカロリックテスト  ==
== VORとカロリックテスト  ==

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