9,444
回編集
細編集の要約なし |
細編集の要約なし |
||
31行目: | 31行目: | ||
三環系抗うつ薬は、様々な神経伝達物質の受容体やトランスポーターへの作用を有している。ノルアドレナリンおよびセロトニントランスポーターを阻害することが中心的な薬理作用であるが、[[アセチルコリン]]受容体、[[アドレナリン]][[α1受容体]]、[[ヒスタミン]][[H1受容体]]などへの作用も強く、抗うつ効果は強いものの、副作用の出現しやすさや過量服薬時の致死性の高さから、現在は使用される症例は限定的になってきている。 | 三環系抗うつ薬は、様々な神経伝達物質の受容体やトランスポーターへの作用を有している。ノルアドレナリンおよびセロトニントランスポーターを阻害することが中心的な薬理作用であるが、[[アセチルコリン]]受容体、[[アドレナリン]][[α1受容体]]、[[ヒスタミン]][[H1受容体]]などへの作用も強く、抗うつ効果は強いものの、副作用の出現しやすさや過量服薬時の致死性の高さから、現在は使用される症例は限定的になってきている。 | ||
[[wikipedia:ja:第3級アミン|第3級アミン]]の三環系抗うつ薬は、セロトニンおよびノルアドレナリントランスポーターの阻害作用を有するが、その活性代謝物の[[wikipedia:ja:第2級アミン|第2級アミン]] | [[wikipedia:ja:第3級アミン|第3級アミン]]の三環系抗うつ薬は、セロトニンおよびノルアドレナリントランスポーターの阻害作用を有するが、その活性代謝物の[[wikipedia:ja:第2級アミン|第2級アミン]]が、ノルアドレナリントランスポーターの阻害作用を有している。イミプラミンの代謝産物であるデシプラミン (desipramine)、クロミプラミンの代謝産物であるデスメチルクロミプラミン (desmethylclomipramine)、アミトリプチリンの代謝産物であるノルトリプチリン (nortriptyline)は、強力なノルアドレナリントランスポーター阻害作用を有している。三環系抗うつ薬は、セロトニン、ノルアドレナリン両者のトランスポーターを阻害するが、ノルアドレナリンに対する阻害効果が優位である薬剤が多い。 | ||
===SSRIおよびSNRI=== | ===SSRIおよびSNRI=== | ||
日本で使用可能なSSRIとしては、[[フルボキサミン]] (fluvoxamine)、[[パロキセチン]] (paroxetine)、[[セルトラリン]] (sertraline)、[[エスシタロプラム]] (escitalopram)、SNRIとしては、[[ミルナシプラン]] (milnacipran)、[[デュロキセチン]] (duloxetine)がある。 | |||
SSRIおよびSNRIは、モノアミン仮説の中で、TCAの改良版として登場した。SSRIは、セロトニントランスポーター、SNRIは、セロトニントランスポーターおよびノルアドレナリントランスポーターへの選択性を高めた抗うつ薬である。セロトニンもしくはノルアドレナリントランスポーターへの選択性は高いものの、微弱ではあるがドーパミン、ノルアドレナリン、セロトニンのいずれの受容体やトランスポーターへの作用を有している。 | SSRIおよびSNRIは、モノアミン仮説の中で、TCAの改良版として登場した。SSRIは、セロトニントランスポーター、SNRIは、セロトニントランスポーターおよびノルアドレナリントランスポーターへの選択性を高めた抗うつ薬である。セロトニンもしくはノルアドレナリントランスポーターへの選択性は高いものの、微弱ではあるがドーパミン、ノルアドレナリン、セロトニンのいずれの受容体やトランスポーターへの作用を有している。 | ||
TCAと同様に、SSRIおよびSNRIと神経伝達物質のトランスポーターや受容体との作用は、薬剤中のアミノ基と、トランスポーターや受容体の[[カルボキシル基]] | TCAと同様に、SSRIおよびSNRIと神経伝達物質のトランスポーターや受容体との作用は、薬剤中のアミノ基と、トランスポーターや受容体の[[カルボキシル基]]との酸塩基相互作用が関与していると考えられている。SSRIおよびSNRIは、[[シタロプラム]] (citalopram)等の一部を除き、[[第1級アミン]]ないし第2級アミンであり、第3級アミンである三環形抗うつ薬と比較して各種神経伝達物質の受容体、トランスポーターへの作用は弱く、副作用が比較的少ないとされている。また、過量服用した際の致死性も低いことから、現在ではSSRIおよびSNRIが、うつ病治療の第一選択薬となっている。 | ||
===NaSSA=== | ===NaSSA=== | ||
[[ミルタザピン]] (mirtazapine)は、セロトニンおよびノルアドレナリントランスポーターの阻害作用は弱いが、[[α2受容体]]、[[5HT2A受容体]]、[[5HT2C受容体]]、[[5HT3受容体]]、ヒスタミンH1受容体の阻害作用をもち、NaSSAとして分類されている。 | |||
セロトニン、ノルアドレナリンの神経細胞では、シナプス前α2自己受容体が、セロトニン、ノルアドレナリンの遊離に抑制をかける作用をしているが、ミルタザピンは、α2受容体を阻害することにより、セロトニンとノルアドレナリンの遊離を増強し、抗うつ効果を発揮する。また、ミルタザピンの5HT2C受容体の阻害作用は、ドーパミンの遊離も促進させると考えられている。 | |||
ミルタザピンは、三環系抗うつ薬、SSRI,SNRIなどの抗うつ薬と併用可能で、これらの抗うつ薬と併用することにより、トランスポーターの阻害作用とミルタザピンの遊離促進作用によって得られる薬理学的な相乗効果による治療効果の増強が期待されている。 | |||
==その他の抗うつ薬== | ==その他の抗うつ薬== | ||
55行目: | 55行目: | ||
===ドーパミン関連 === | ===ドーパミン関連 === | ||
うつ病患者では、脳脊髄液中のドーパミン代謝差物である[[ホモバニリン酸]] (homovanillic acid,HVA)の濃度が低く、中枢ドーパミン機能の低下が示唆されており、[[パーキンソン病]]の治療に使用される、[[ブロモクリプチン]] (bromocriptine)、[[プラミペキソール]] (pramipexole)などのドーパミン[[作動薬]]の難治性うつ病に対する有効性が報告されている<ref name=ref2><pubmed>10812530</pubmed></ref> <ref name=ref3><pubmed>2404964</pubmed></ref>。[[ブプロピオン]] (bupropion)は、ノルアドレナリンおよびドーパミントランスポーター阻害作用をもち、ドーパミン系の増強効果を有している抗うつ薬であり、海外ではうつ病治療に導入されている。 | |||
===メラトニン関連 === | ===メラトニン関連 === | ||
モノアミントランスポーターの阻害とは関連しない新規抗うつ薬として、[[アゴメラチン]] (agomelatine)がヨーロッパでは臨床導入されている。アゴメラチンは、[[メラトニン1]]およびメラトニン2受容体への作用と5HT2C受容体の阻害作用をもち,抗うつ効果の作用機序としては、メラトニン受容体への作用による睡眠リズムの改善、5-HT2C受容体阻害作用によるノルアドレナリンおよびドーパミンの増加が想定されている<ref name=ref4><pubmed>18827285</pubmed></ref>。 | |||
===グルタミン酸神経作用薬関連=== | ===グルタミン酸神経作用薬関連=== | ||
うつ病患者では[[グルタミン酸]]神経系の異常が示唆されており、非競合的[[NMDA受容体]] | うつ病患者では[[グルタミン酸]]神経系の異常が示唆されており、非競合的[[NMDA受容体]]阻害作用を有する[[ケタミン]] (ketamine)や<ref name=ref5><pubmed>10686270</pubmed></ref>、競合的NMDA受容体阻害作用を有する[[アマンタジン]] (amantadine)のうつ病に対する有効性が報告されていることもあり<ref name=ref6><pubmed>12858143</pubmed></ref>、NMDA受容体に作用する抗うつ薬の開発が期待されている。 | ||
===視床下部 - 下垂体 - 副腎皮質系関連 === | ===視床下部 - 下垂体 - 副腎皮質系関連 === | ||
[[ストレス]]の生体反応と[[視床下部―下垂体―副腎皮質系]](hypothalamo- pituitary-adrenal axis: HPA 系)の関係は、従来より研究されており、うつ病患者では、[[コルチゾール]][[概日リズム]]の異常、コルチゾール過剰分泌、[[ACTH]]投与によるコルチゾール過分泌、[[コルチコトロピン放出ホルモン]]の過分泌、[[デキサメサゾン]] | [[ストレス]]の生体反応と[[視床下部―下垂体―副腎皮質系]](hypothalamo- pituitary-adrenal axis: HPA 系)の関係は、従来より研究されており、うつ病患者では、[[コルチゾール]][[概日リズム]]の異常、コルチゾール過剰分泌、[[ACTH]]投与によるコルチゾール過分泌、[[コルチコトロピン放出ホルモン]]の過分泌、[[デキサメサゾン]]抑制試験のコルチゾール反応性低下などが指摘されている。デキサメタゾン (dexamethasone)の短期間投与による抗うつ効果や、[[メチラポン]] (metyrapone)、[[ケトコナゾール]] (ketoconazole)などのグルココルチコイド受容体阻害薬の抗うつ効果が報告<ref name=ref7><pubmed>10511017</pubmed></ref>されており、グルココルチコイドに関連した抗うつ薬の開発が期待されている。 | ||
== 参考文献 == | == 参考文献 == |