「覚醒剤」の版間の差分

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 マウスやラットなどにメタンフェタミンを急性投与すると低用量(0.25~1.0mg/kg)では移所運動量(例:ケージの中を走り回る)が増加する。さらに高用量(&gt;2.5mg/kg)では移所運動量の増加に引き続き、常同行動(例:一か所で舐める・嗅ぐなどの行動を強迫的に繰り返す)が出現する。このようなメタンフェタミンの行動効果のうち、移所運動量は[[中脳辺縁系]]ドーパミンニューロン(A10、腹側被蓋野から側坐核や[[扁桃体]]に投射)、常同行動は[[黒質]][[線条体]]ドーパミンニューロン(A9、[[黒質緻密層]]から線条体に投射)が関与している<ref>'''秋山一文'''<br>「VI章 薬物依存の基礎と臨床 覚せい剤依存の基礎」脳とこころのプライマリケア(8)依存<br>''株式会社シナジー(東京)'':2011</ref>。  
 マウスやラットなどにメタンフェタミンを急性投与すると低用量(0.25~1.0mg/kg)では移所運動量(例:ケージの中を走り回る)が増加する。さらに高用量(&gt;2.5mg/kg)では移所運動量の増加に引き続き、常同行動(例:一か所で舐める・嗅ぐなどの行動を強迫的に繰り返す)が出現する。このようなメタンフェタミンの行動効果のうち、移所運動量は[[中脳辺縁系]]ドーパミンニューロン(A10、腹側被蓋野から側坐核や[[扁桃体]]に投射)、常同行動は[[黒質]][[線条体]]ドーパミンニューロン(A9、[[黒質緻密層]]から線条体に投射)が関与している<ref>'''秋山一文'''<br>「VI章 薬物依存の基礎と臨床 覚せい剤依存の基礎」脳とこころのプライマリケア(8)依存<br>''株式会社シナジー(東京)'':2011</ref>。  


 DATヘテロ欠損マウスおよびVMAT2ヘテロ欠損マウスでは、メタンフェタミン急性投与後の運動増加が野生型マウスより少ないが、DATおよびVMAT2両方の発現が低下したマウスではメタンフェタミン急性投与による運動量増加はDATヘテロ欠損マウスとほぼ等しかったことから、メタンフェタミン投与による急性運動量増加効果にはVMAT2よりもDATの発現変化が大きな影響力を持っている可能性が報告されている<ref name="ref2"><pubmed>17377774</pubmed></ref>。 ラットにメタンフェタミンを反復投与すると常同行動の発現潜時が短縮し、急性単回投与で起こる量よりも少ない量で常同行動が起こるようになることが知られており、この過敏反応性は行動感作(逆耐性現象)と呼ばれている。DATヘテロ欠損マウスでは、逆耐性現象の発展が抑制され形成も遅延した。VMAT2ヘテロ欠損マウスにおいても逆耐性現象の形成が遅延したが、発展は野生型と同様であった。DATおよびVMAT2両方の発現が低下したマウスでは、メタンフェタミン反復投与に対して運動量、逆耐性現象の発展・形成はDATヘテロ欠損マウスと差がなく、メタンフェタミン逆耐性現象の形成にはVMAT2の発現低下よりもDATの発現低下がより大きな影響を与えることが示唆されている<ref name="ref2" />。  
 DATヘテロ欠損マウスおよびVMAT2ヘテロ欠損マウスでは、メタンフェタミン急性投与後の運動増加が野生型マウスより少ないが、DATおよびVMAT2両方をヘテロ欠損したマウスでは、メタンフェタミン急性投与による運動量増加はDATヘテロ欠損マウスとほぼ等しかったことから、メタンフェタミン投与による急性運動量増加効果にはVMAT2よりもDATのヘテロ欠損が大きな影響力を持っている可能性が報告されている<ref name="ref2"><pubmed>17377774</pubmed></ref>。 ラットにメタンフェタミンを反復投与すると常同行動の発現潜時が短縮し、急性単回投与で起こる量よりも少ない量で常同行動が起こるようになることが知られており、この過敏反応性は行動感作(逆耐性現象)と呼ばれている。DATヘテロ欠損マウスでは、逆耐性現象の発展が抑制され形成も遅延した。VMAT2ヘテロ欠損マウスにおいても逆耐性現象の形成が遅延したが、発展は野生型と同様であった。DATおよびVMAT2両方のヘテロ欠損を持つマウスでは、メタンフェタミン反復投与に対して運動量、逆耐性現象の発展・形成はDATヘテロ欠損マウスと差がなく、メタンフェタミン逆耐性現象の形成にはVMAT2のヘテロ欠損よりもDATのヘテロ欠損がより大きな影響を与えることが示唆されている<ref name="ref2" />。  


[[Image:Fig2meth.png|thumb|300px|<b>図2.覚せい剤がDATに与える影響</b>]]  
[[Image:Fig2meth.png|thumb|300px|<b>図2.覚せい剤がDATに与える影響</b>]]  
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== 認知機能への影響  ==
== 認知機能への影響  ==


 [[wikipedia:ja:ラット|ラット]]におけるメタンフェタミンの自己投与実験により、メタンフェタミンを自己投与できる時間が長いほど、メタンフェタミンの摂取中止後の新奇物体認識試験の成績が低下していることが示されている<ref><pubmed>18493748</pubmed></ref>。また、[[海馬]][[歯状回]]では[[下顆粒層細胞]]で[[神経細胞の新生]]が起こることが知られているが、メタンフェタミンを自己投与したラットの海馬歯状回では神経細胞の新生が損なわれており<ref><pubmed>18490002</pubmed></ref>、このような認知機能への影響の背景となっている可能性がある。 ヒトを対象とした研究においてもメタンフェタミン依存者における認知機能の障害が認められている。たとえば、メタンフェタミン依存群と統制群に対してメタンフェタミン関連刺激とニュートラル刺激を用いた[[GO/NOGO課題]]を実施した実験<ref><pubmed>22257306</pubmed></ref>では、メタンフェタミン関連刺激が提示されていない時にもメタンフェタミン依存群は統制群よりも[[反応時間]]が遅延し、反応抑制エラー率および反応エラー率が高かった。メタンフェタミン関連刺激の提示中、メタンフェタミン依存群のみにおいて反応エラー率と反応抑制エラー率の両方が顕著に上昇しており、その時の彼らの反応エラー率は渇望感スコアと相関が見られた。  
 [[wikipedia:ja:ラット|ラット]]におけるメタンフェタミンの自己投与実験により、メタンフェタミンを自己投与できる時間が長いと、その後メタンフェタミンの摂取を中止しても新しい物体の[[認知]]が低下していることが示されている<ref><pubmed>18493748</pubmed></ref>。また、[[海馬]][[歯状回]]では[[下顆粒層細胞]]で[[神経細胞の新生]]が起こることが知られているが、メタンフェタミンを自己投与したラットの海馬歯状回では神経細胞の新生が損なわれており<ref><pubmed>18490002</pubmed></ref>、このような認知機能への影響の背景となっている可能性がある。 ヒトを対象とした研究においてもメタンフェタミン依存者における認知機能の障害が認められている。たとえば、メタンフェタミン依存群と統制群に対してメタンフェタミン関連刺激とニュートラル刺激を用いた[[GO/NOGO課題]]を実施した実験<ref><pubmed>22257306</pubmed></ref>では、メタンフェタミン関連刺激が提示されていない時にもメタンフェタミン依存群は統制群よりも[[反応時間]]が遅延し、反応抑制エラー率および反応エラー率が高かった。メタンフェタミン関連刺激の提示中、メタンフェタミン依存群のみにおいて反応エラー率と反応抑制エラー率の両方が顕著に上昇しており、その時の彼らの反応エラー率は渇望感スコアと相関が見られた。  


== 法律  ==
== 法律  ==

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