「電位依存性カルシウムチャネル」の版間の差分

ナビゲーションに移動 検索に移動
編集の要約なし
編集の要約なし
編集の要約なし
35行目: 35行目:
=== Ca<sub>v</sub>1 (L型)<br>  ===
=== Ca<sub>v</sub>1 (L型)<br>  ===


 L型は、骨格筋や心筋、平滑筋の収縮に始まり、ホルモンや神経伝達物質の放出、遺伝子発現まで様々な細胞応答に関わる。骨格筋の横行小管 (T管) に発現するCa<sub>v</sub>1.1は、脱分極による構造変化を介してリアノジン受容体を直接活性化し、Ca<sup>2+</sup>放出を誘導することで筋収縮を引き起こす<sup>[18]</sup>。一方、心筋ではCa<sub>v</sub>1.2からのCa<sup>2+</sup>流入がCa<sup>2+</sup>依存的にリアノジン受容体を活性化し、筋収縮を引き起こす<sup>[19]</sup>。Ca<sub>v</sub>1.2およびCa<sub>v</sub>1.3は、膵臓のβ細胞におけるインスリン分泌も制御している<sup>[20]</sup>。また、Ca<sub>v</sub>1.3およびCa<sub>v</sub>1.4は感覚受容細胞のリボンシナプスにおける神経伝達物質放出に関与している<sup>[4]</sup>。聴覚有毛細胞ではCa<sub>v</sub>1.3が<sup>[21]</sup>、網膜の光受容細胞ではCa<sub>v</sub>1.4が神経伝達物質の放出を制御している<sup>[22]</sup>。神経細胞においては、L型は細胞体や細胞体近傍の樹状突起に局在しており、近い位置での細胞内Ca<sup>2+</sup>濃度 ([Ca<sup>2+</sup>]<sub>i</sub>) 上昇の引き金となり、下流で核内のシグナル伝達、およびCa<sup>2+</sup>濃度上昇を引き起こす<sup>[4]</sup>。L型は、遺伝子発現に重要なシグナル分子であるCaM (calmodulin) 、AKAP (A kinase anchor protein) ファミリー、チロシンリン酸化酵素であるSrc、脱リン酸化酵素であるCaN (calcineurin) などと共役して働き (図2)、CREB (cAMP response element binding protein) [23] やNFAT (Nuclear factor of activated T-cells) といった転写因子の活性を調節することが知られる[4] 。<br>  
 L型は、骨格筋や心筋、平滑筋の収縮に始まり、ホルモンや神経伝達物質の放出、遺伝子発現まで様々な細胞応答に関わる。骨格筋の横行小管 (T管) に発現するCa<sub>v</sub>1.1は、脱分極による構造変化を介してリアノジン受容体を直接活性化し、Ca<sup>2+</sup>放出を誘導することで筋収縮を引き起こす<sup>[18]</sup>。一方、心筋ではCa<sub>v</sub>1.2からのCa<sup>2+</sup>流入がCa<sup>2+</sup>依存的にリアノジン受容体を活性化し、筋収縮を引き起こす<sup>[19]</sup>。Ca<sub>v</sub>1.2およびCa<sub>v</sub>1.3は、膵臓のβ細胞におけるインスリン分泌も制御している<sup>[20]</sup>。また、Ca<sub>v</sub>1.3およびCa<sub>v</sub>1.4は感覚受容細胞のリボンシナプスにおける神経伝達物質放出に関与している<sup>[4]</sup>。聴覚有毛細胞ではCa<sub>v</sub>1.3が<sup>[21]</sup>、網膜の光受容細胞ではCa<sub>v</sub>1.4が神経伝達物質の放出を制御している<sup>[22]</sup>。神経細胞においては、L型は細胞体や細胞体近傍の樹状突起に局在しており、近い位置での細胞内Ca<sup>2+</sup>濃度 ([Ca<sup>2+</sup>]<sub>i</sub>) 上昇の引き金となり、下流で核内のシグナル伝達、およびCa<sup>2+</sup>濃度上昇を引き起こす<sup>[4]</sup>。L型は、遺伝子発現に重要なシグナル分子であるCaM (calmodulin) 、AKAP (A kinase anchor protein) ファミリー、チロシンリン酸化酵素であるSrc、脱リン酸化酵素であるCaN (calcineurin) などと共役して働き (図2)、CREB (cAMP response element binding protein) <sup>[23] </sup>やNFAT (Nuclear factor of activated T-cells) といった転写因子の活性を調節することが知られる<sup>[4]</sup> 。<br>  


=== Cav2 (N, P/Q, R型)<br>  ===
=== Ca<sub>v</sub>2 (N, P/Q, R型)<br>  ===


 N、P/Q、R型は主に神経系に発現し、神経伝達物質放出を始めとする神経機能を制御する[24][25]。活動電位がシナプス前終末に達すると、N、P/Q、R型などのVDCCを介したCa2+流入が引き起こされ、神経伝達物質が放出される。シナプス前終末において神経伝達物質放出を効率的に制御するため、シナプス小胞の膜融合を制御するSNARE (soluble N-ethylmaleimide-sensitive factor attachment protein receptor ) タンパク質 (syntaxin、SNAP-25、VAMP/synaptobrevin)やCa2+センサーと考えられているsynaptotagmin、足場タンパク質として働くRIM (Rab-3 interacting molecule) ファミリー、CAST、Munc13、Bassoon、Piccoloといったタンパク質群とVDCCは巨大タンパク質複合体である、アクティブゾーンを形成している。N、P/Q型のα1サブユニットのII-IIIリンカーにはアクティブゾーンに存在するタンパク質との相互作用部位 (Synprint&nbsp;; synaptic protein interaction) が保存されており、syntaxinやSNAP-25、CSP (cysteine string protein)、RIM、synaptotagminと相互作用する (図2) [4][26]。syntaxinやSNAP-25はsynprint領域を介してVDCCと相互作用し、チャネルの不活性化状態を安定化させることでチャネル活性を抑制することが報告されている[26]。また、βサブユニットもCASTやRIM、synaptotagminといったアクティブゾーンに存在するタンパク質と相互作用する (図2) [27][28][29]。これらのタンパク質との相互作用は、神経伝達物質放出複合体を形成し、VDCCの機能修飾も担う。RIM1のα型バリアント (RIM1α) はシナプス小胞のRab3と相互作用する足場タンパク質であることから、VDCCとシナプス小胞の距離を規定する分子である可能性が高い[30]。4種類のRIM (RIM1~4) はどれもVDCCの不活性化を著しく遅らせることでCa2+流入量を増加させる[28]。このように、VDCCはアクティブゾーンのタンパク質と共役して働くことで、高効率的に神経伝達物質放出やシナプス可塑性を制御すると考えられる。<br>  
 N、P/Q、R型は主に神経系に発現し、神経伝達物質放出を始めとする神経機能を制御する<sup>[24][25]</sup>。活動電位がシナプス前終末に達すると、N、P/Q、R型などのVDCCを介したCa<sup>2+</sup>流入が引き起こされ、神経伝達物質が放出される。シナプス前終末において神経伝達物質放出を効率的に制御するため、シナプス小胞の膜融合を制御するSNARE (soluble N-ethylmaleimide-sensitive factor attachment protein receptor ) タンパク質 (syntaxin、SNAP-25、VAMP/synaptobrevin)やCa<sup>2+</sup>センサーと考えられているsynaptotagmin、足場タンパク質として働くRIM (Rab-3 interacting molecule) ファミリー、CAST、Munc13、Bassoon、Piccoloといったタンパク質群とVDCCは巨大タンパク質複合体である、アクティブゾーンを形成している。N、P/Q型のα<sub>1</sub>サブユニットのII-IIIリンカーにはアクティブゾーンに存在するタンパク質との相互作用部位 (Synprint&nbsp;; synaptic protein interaction) が保存されており、syntaxinやSNAP-25、CSP (cysteine string protein)、RIM、synaptotagminと相互作用する (図2) <sup>[4][26]</sup>。syntaxinやSNAP-25はsynprint領域を介してVDCCと相互作用し、チャネルの不活性化状態を安定化させることでチャネル活性を抑制することが報告されている<sup>[26]</sup>。また、βサブユニットもCASTやRIM、synaptotagminといったアクティブゾーンに存在するタンパク質と相互作用する (図2) <sup>[27][28][29]</sup>。これらのタンパク質との相互作用は、神経伝達物質放出複合体を形成し、VDCCの機能修飾も担う。RIM1のα型バリアント (RIM1α) はシナプス小胞のRab3と相互作用する足場タンパク質であることから、VDCCとシナプス小胞の距離を規定する分子である可能性が高い<sup>[30]</sup>。4種類のRIM (RIM1~4) はどれもVDCCの不活性化を著しく遅らせることでCa<sup>2+</sup>流入量を増加させる<sup>[28]</sup>。このように、VDCCはアクティブゾーンのタンパク質と共役して働くことで、高効率的に神経伝達物質放出やシナプス可塑性を制御すると考えられる。<br>  


=== Cav3 (T型)<br>  ===
=== Ca<sub>v</sub>3 (T型)<br>  ===


 T型は、一過的にCa2+を流入させることで、活動電位の発生パターンを調節する。心臓の洞房結節に存在するペースメーカー細胞における拍動の形成や[31]、睡眠時の特徴的な脳波を形成する視床のリレー細胞における周期的な発火に関わっている[32]。<br>  
 T型は、一過的にCa<sup>2+</sup>を流入させることで、活動電位の発生パターンを調節する。心臓の洞房結節に存在するペースメーカー細胞における拍動の形成や<sup>[31]</sup>、睡眠時の特徴的な脳波を形成する視床のリレー細胞における周期的な発火に関わっている<sup>[32]</sup>。<br>  


== 疾患との関係<br>  ==
== 疾患との関係<br>  ==


 Cav1.1遺伝子 (CACNA1S) は、骨格筋の機能不全から発作的な筋力低下症状を示す低カリウム性周期性四肢麻痺、Cav1.2遺伝子 (CACNA1C) は、心臓のQT延長や、合指、自閉症といった症状を示すTimothy症候群の原因遺伝子である[4][33]。Cav2.1遺伝子 (CACNA1A) は、様々な遺伝子疾患、運動失調を呈する脊髄小脳失調症6型、家族性偏頭痛1型、発作性小脳失調を呈する反復発作性失調症2型などの原因遺伝子である。また、運動失調やてんかん症状を呈する変異マウスtottering、leaner、rolling Nagoyaの原因遺伝子でもある[31]。Cav3.1遺伝子 (CACNA1G) は、若年ミオクロニーてんかん、Cav3.2遺伝子 (CACNA1H) は、小児欠神てんかんや突発性全般てんかん、また自閉症スペクトラム障害との関連が示唆されている[34]。<br>  
 Ca<sub>v</sub>1.1遺伝子 (''CACNA1S'') は、骨格筋の機能不全から発作的な筋力低下症状を示す低カリウム性周期性四肢麻痺、Ca<sub>v</sub>1.2遺伝子 (''CACNA1C'') は、心臓のQT延長や、合指、自閉症といった症状を示すTimothy症候群の原因遺伝子である<sup>[4][33]</sup>。Ca<sub>v</sub>2.1遺伝子 (''CACNA1A'') は、様々な遺伝子疾患、運動失調を呈する脊髄小脳失調症6型、家族性偏頭痛1型、発作性小脳失調を呈する反復発作性失調症2型などの原因遺伝子である。また、運動失調やてんかん症状を呈する変異マウスtottering、leaner、rolling Nagoyaの原因遺伝子でもある<sup>[31]</sup>。Ca<sub>v</sub>3.1遺伝子 (''CACNA1G'') は、若年ミオクロニーてんかん、Ca<sub>v</sub>3.2遺伝子 (''CACNA1H'') は、小児欠神てんかんや突発性全般てんかん、また自閉症スペクトラム障害との関連が示唆されている<sup>[34]</sup>。<br>  


== その他のCa2+チャネル<br>  ==
== その他のCa<sup>2+</sup>チャネル<br>  ==


=== TRP (transient receptor potential) チャネル<br>  ===
=== TRP (transient receptor potential) チャネル<br>  ===
39

回編集

案内メニュー