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Takumitsutsui (トーク | 投稿記録) 細編集の要約なし |
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診断基準はDSM‐Ⅳ‐TRとICD‐10共に収載されているが、前者の診断基準が用いられることが多い。 | 診断基準はDSM‐Ⅳ‐TRとICD‐10共に収載されているが、前者の診断基準が用いられることが多い。 | ||
尚、PTSDは他の精神障害とは異なり、診断基準にトラウマ体験への暴露が含まれている。症状、持続期間、機能障害が診断基準を満たしても、トラウマ体験がA基準を満たさなければ、適応障害と診断するべきである。その一方で、トラウマ体験がA基準を満たしていても、トラウマ体験後に出現した症状が他の精神障害の診断基準を満たしたときはその診断を下す、もしくはPTSDと併記しなければならない。 | 尚、PTSDは他の精神障害とは異なり、診断基準にトラウマ体験への暴露が含まれている。症状、持続期間、機能障害が診断基準を満たしても、トラウマ体験がA基準を満たさなければ、適応障害と診断するべきである。その一方で、トラウマ体験がA基準を満たしていても、トラウマ体験後に出現した症状が他の精神障害の診断基準を満たしたときはその診断を下す、もしくはPTSDと併記しなければならない。 | ||
<pre>[[Image:Tsutsui file 1.jpg|center|DSM‐Ⅳ‐TRの診断基準]] </pre> | |||
| [[Image:Tsutsui file 1.jpg|center|DSM‐Ⅳ‐TRの診断基準]] | ||
A.その人は、以下の2つがともに認められる心的外傷的な出来事に暴露されたことがある。 | A.その人は、以下の2つがともに認められる心的外傷的な出来事に暴露されたことがある。 | ||
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Weisaethにより開発された尺度<ref><pubmed>2624136</ref>で、10項目の症状の有無を評価する。 | Weisaethにより開発された尺度<ref><pubmed>2624136</ref>で、10項目の症状の有無を評価する。 | ||
4.posttraumatic Diagnostic Scale(PDS): 外傷後ストレス診断面接尺度 | 4.posttraumatic Diagnostic Scale(PDS): 外傷後ストレス診断面接尺度 | ||
DSM-Ⅳの診断基準に準拠してFoaらによって作られた成人用の自記式質問紙である。長江らによって日本語版が作成され、信頼性と妥当性が検証されている<ref>'''長江信和、廣幡小百合、志村ゆずほか'''<br>日本語版外傷後ストレス診断尺度作成の試み-一般の大学生を対象とした場合の信頼性と妥当性の検討<br>''トラウマティック・ストレス 5'':51-56,2007</ref>。 | DSM-Ⅳの診断基準に準拠してFoaらによって作られた成人用の自記式質問紙である。長江らによって日本語版が作成され、信頼性と妥当性が検証されている<ref>'''長江信和、廣幡小百合、志村ゆずほか'''<br>日本語版外傷後ストレス診断尺度作成の試み-一般の大学生を対象とした場合の信頼性と妥当性の検討<br>''トラウマティック・ストレス 5'':51-56,2007</ref>。 | ||
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PTSDに対して、これまでさまざまな治療法が試みられてきた。ランダム化比較試験で有効性を証明された治療法に認知行動療法、眼球運動による脱感作と再処理法(Eye Movement Desensitization and Reprocessing: EMDR)、薬物療法がある。2005年の英国国立医療技術評価機構(National Institute for Health and Clinical Excellence: NICE)のガイドラインでは、トラウマ焦点化心理療法を基本的な第一選択とし、薬物療法はトラウマ焦点化心理療法を拒否する時かトラウマ体験の影響で試行できない時、トラウマ焦点化心理療法で十分な効果が得られない時、うつ病などの合併症の強化療法時などに限定して推奨している。 | PTSDに対して、これまでさまざまな治療法が試みられてきた。ランダム化比較試験で有効性を証明された治療法に認知行動療法、眼球運動による脱感作と再処理法(Eye Movement Desensitization and Reprocessing: EMDR)、薬物療法がある。2005年の英国国立医療技術評価機構(National Institute for Health and Clinical Excellence: NICE)のガイドラインでは、トラウマ焦点化心理療法を基本的な第一選択とし、薬物療法はトラウマ焦点化心理療法を拒否する時かトラウマ体験の影響で試行できない時、トラウマ焦点化心理療法で十分な効果が得られない時、うつ病などの合併症の強化療法時などに限定して推奨している。 | ||
=== トラウマ焦点化心理療法 === | === トラウマ焦点化心理療法 === | ||
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<pre>=====CPT===== | <pre>=====CPT===== | ||
</pre> | </pre> | ||
ResikとSchnickeによって考案されたPTSDに特化した治療で、筆記と朗読による暴露が特徴とされる。強姦被害者のPTSDを中心にエビデンスが蓄積され、現在はアメリカの退役軍人局でPE療法と共に推奨される治療法となっている。ランダム化比較試験でPE療法と比較して同等の治療効果が確認されている<ref><pubmed>12182270</ref>。 | ResikとSchnickeによって考案されたPTSDに特化した治療で、筆記と朗読による暴露が特徴とされる。強姦被害者のPTSDを中心にエビデンスが蓄積され、現在はアメリカの退役軍人局でPE療法と共に推奨される治療法となっている。ランダム化比較試験でPE療法と比較して同等の治療効果が確認されている<ref><pubmed>12182270</ref>。 | ||
===== CT ===== | ===== CT ===== | ||
169行目: | 169行目: | ||
==== 抗うつ薬 ==== | ==== 抗うつ薬 ==== | ||
<pre>====抗うつ薬====</pre> | <pre>====抗うつ薬====</pre> | ||
PTSDに対する薬物療法として、sertraline、paroxetine、fluoxetineといった[[選択的セロトニン再取り込阻害薬]](selective serotonine reuptake inhibitor:SSRI)が複数のランダム化比較試験でPTSDの3つの中核症状(DSM-Ⅳ-TRの基準B,C,D)全てと抑うつなどの合併する精神症状に有効性が証明され、第一選択として推奨されている。また、[[選択的セロトニン・ノルアドレナリン再取り込阻害薬]](selective serotonine norepinephrine reuptake inhibitor:SNRI)であるvenlafaxineもSSRIと共に第一選択として推奨されている。三環系抗うつ薬であるimpramine、amitriptylineも効果が認められているが、SSRI、SNRIと比較して一般的に副作用の出現や忍容性が懸念される薬剤である。その他、mirtazapine、bupropion、nefadozodone、torazodoneに関しての研究報告がある。 | PTSDに対する薬物療法として、sertraline、paroxetine、fluoxetineといった[[選択的セロトニン再取り込阻害薬]](selective serotonine reuptake inhibitor:SSRI)が複数のランダム化比較試験でPTSDの3つの中核症状(DSM-Ⅳ-TRの基準B,C,D)全てと抑うつなどの合併する精神症状に有効性が証明され、第一選択として推奨されている。また、[[選択的セロトニン・ノルアドレナリン再取り込阻害薬]](selective serotonine norepinephrine reuptake inhibitor:SNRI)であるvenlafaxineもSSRIと共に第一選択として推奨されている。三環系抗うつ薬であるimpramine、amitriptylineも効果が認められているが、SSRI、SNRIと比較して一般的に副作用の出現や忍容性が懸念される薬剤である。その他、mirtazapine、bupropion、nefadozodone、torazodoneに関しての研究報告がある。 | ||
==== 抗アドレナリン作動薬 ==== | ==== 抗アドレナリン作動薬 ==== | ||
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=== 併存障害 === | === 併存障害 === | ||
<pre>===併存障害===</pre> | <pre>===併存障害===</pre> | ||
PTSDには[[抑うつ]]、[[不安障害]]、[[物質関連障害]]など精神疾患の合併が多いことが知られている。kesslerの調査<ref><pubmed>7492257</ref>では男性の88%、女性の79%に精神障害が合併していた。男性ではアルコール関連疾患52%、[[うつ病]]48%、[[行為障害]]43%、[[薬物依存]]35%、[[恐怖症]]31%であり、女性では[[うつ病]]49%、アルコール関連疾患30%、[[薬物依存]]27%、[[恐怖症]]29%、[[行為障害]]15%だったとしている。 近年、Prigersonらが診断基準を提唱した[[複雑性悲嘆]]との合併についての報告が散見される。 | PTSDには[[抑うつ]]、[[不安障害]]、[[物質関連障害]]など精神疾患の合併が多いことが知られている。kesslerの調査<ref><pubmed>7492257</ref>では男性の88%、女性の79%に精神障害が合併していた。男性ではアルコール関連疾患52%、[[うつ病]]48%、[[行為障害]]43%、[[薬物依存]]35%、[[恐怖症]]31%であり、女性では[[うつ病]]49%、アルコール関連疾患30%、[[薬物依存]]27%、[[恐怖症]]29%、[[行為障害]]15%だったとしている。 近年、Prigersonらが診断基準を提唱した[[複雑性悲嘆]]との合併についての報告が散見される。 | ||
== 病態メカニズム == | == 病態メカニズム == | ||
203行目: | 203行目: | ||
PTSDの再体験、過覚醒症状は トラウマ体験に対する[[恐怖条件づけ]]とみなすと理解しやすく、暴露療法が有効であることも恐怖条件づけの消去現象と考えると理解しやすい。[[恐怖条件づけ]]を司る[[扁桃体]]と内側前頭前野との連絡についての解剖学的知見や内側前頭前野の破壊が恐怖の消去を阻害することを示した動物実験からの知見などが集積され、現在は[[扁桃体]]、内側前頭前野、[[海馬]]などを含んだ神経回路モデルが想定されている<u>。(図挿入:「PTSDとは何か」</u>から 許可申請必要?) 。神経回路モデルに関して形態学的な研究も行われている。扁桃体と[[海馬]]の体積が減少を認めたという報告がある一方で、認めなかったとする報告もある。内側前頭前野の一部である前帯状皮質の体積減少が複数報告されている。<br> | PTSDの再体験、過覚醒症状は トラウマ体験に対する[[恐怖条件づけ]]とみなすと理解しやすく、暴露療法が有効であることも恐怖条件づけの消去現象と考えると理解しやすい。[[恐怖条件づけ]]を司る[[扁桃体]]と内側前頭前野との連絡についての解剖学的知見や内側前頭前野の破壊が恐怖の消去を阻害することを示した動物実験からの知見などが集積され、現在は[[扁桃体]]、内側前頭前野、[[海馬]]などを含んだ神経回路モデルが想定されている<u>。(図挿入:「PTSDとは何か」</u>から 許可申請必要?) 。神経回路モデルに関して形態学的な研究も行われている。扁桃体と[[海馬]]の体積が減少を認めたという報告がある一方で、認めなかったとする報告もある。内側前頭前野の一部である前帯状皮質の体積減少が複数報告されている。<br> | ||
その他、PTSDがストレス反応であるとの視点からストレス系ホルモンについての研究がなされている。24時間血漿コルチゾール値で夜間と早朝のベースラインレベルがうつ病患者や健常対照群と比較して有意に低く、視床下部-下垂体-副腎皮質系機能(hypothalamic-pituitary-adrenal:HPA系)の調節異常が示唆されている。また、デキサメタゾン試験によるコルチゾール分泌の過剰抑制、リンパ球グルココルチコイド受容体の数の増加と感受性亢進と視床下部におけるコルチコトロピン放出因子の分泌亢進が示唆されている。 | その他、PTSDがストレス反応であるとの視点からストレス系ホルモンについての研究がなされている。24時間血漿コルチゾール値で夜間と早朝のベースラインレベルがうつ病患者や健常対照群と比較して有意に低く、視床下部-下垂体-副腎皮質系機能(hypothalamic-pituitary-adrenal:HPA系)の調節異常が示唆されている。また、デキサメタゾン試験によるコルチゾール分泌の過剰抑制、リンパ球グルココルチコイド受容体の数の増加と感受性亢進と視床下部におけるコルチコトロピン放出因子の分泌亢進が示唆されている。 | ||
=== 遺伝子研究 === | === 遺伝子研究 === | ||
<pre>===遺伝子研究===</pre> | <pre>===遺伝子研究===</pre> | ||
恐怖条件づけの消去現象とNMDA受容体、GABA受容体、BDNFなど分子レベルの因子と関連があることが知られており、さらにそれらの因子と関連する遺伝子レベルの研究も行われている。しかし、現時点でPTSDに決定的な影響を与える遺伝子は同定されていない。遺伝子研究については[[wikipedia:gene by environment interaction|gene-by-environment interaction]] の観点からも研究がおこなわれており、糖質コルチコイド受容体の関連遺伝子であるFKBP5の4つの多形のうち1つが幼少期の被虐待歴のある者でPTSDのリスクを上昇させるという報告がある<ref><pubmed>18349090</ref>。 | 恐怖条件づけの消去現象とNMDA受容体、GABA受容体、BDNFなど分子レベルの因子と関連があることが知られており、さらにそれらの因子と関連する遺伝子レベルの研究も行われている。しかし、現時点でPTSDに決定的な影響を与える遺伝子は同定されていない。遺伝子研究については[[wikipedia:gene by environment interaction|gene-by-environment interaction]] の観点からも研究がおこなわれており、糖質コルチコイド受容体の関連遺伝子であるFKBP5の4つの多形のうち1つが幼少期の被虐待歴のある者でPTSDのリスクを上昇させるという報告がある<ref><pubmed>18349090</ref>。 | ||
<pre>==関連項目==</pre> | <pre>==関連項目==</pre> | ||
ここは飛鳥井先生と相談して。 | ここは飛鳥井先生と相談して。 |
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