「おばあさん細胞仮説」の版間の差分
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英語名:grandmother cell hypothesis 独:Hypothese vom Großmutterneuron 仏:théorie du neurone grand-mère | 英語名:grandmother cell hypothesis 独:Hypothese vom Großmutterneuron 仏:théorie du neurone grand-mère | ||
同義語:gnostic cell hypothesis | 同義語:gnostic cell hypothesis | ||
脳の中には自分のおばあさんを見たときだけに特異的に活動する単一または少数の細胞が存在し、この細胞の活動が自分のおばあさんの対象認識に対応するという仮説。神経細胞活動による情報の[[符号化]]の議論において引用される概念である。視覚対象認識において用いられることが多いがが、他の感覚種(モダリティ)に拡張し、複数の特徴(異なるモダリティ間も含めて)の特定の組み合わせの対象または記憶の情報に対して一対一の関係で活動する単一の細胞の存在を仮定する脳の符号化モデルとして一般化される。 | |||
脳の中には自分のおばあさんを見たときだけに特異的に活動する単一または少数の細胞が存在し、この細胞の活動が自分のおばあさんの対象認識に対応するという仮説。神経細胞活動による情報の[[符号化]] | |||
== 歴史的経緯およびその概念 == | == 歴史的経緯およびその概念 == | ||
おばあさん細胞という概念の歴史的経緯は、Grossの概説に丁寧にまとめられている<ref name="ref1"><pubmed>12374433</pubmed></ref>。神経科学研究での古典的論文である"What the frog's eye tells the frog's brain"の著者であるJerry Lettvinが60年代後半にMITの講義においてMother cell(grandmother | おばあさん細胞という概念の歴史的経緯は、Grossの概説に丁寧にまとめられている<ref name="ref1"><pubmed>12374433</pubmed></ref>。神経科学研究での古典的論文である"What the frog's eye tells the frog's brain"の著者であるJerry Lettvinが60年代後半にMITの講義においてMother cell(grandmother cellではなく)という用語を初めて用いたと言うことである。また、Lettvinに数年先立って、ポーランドの神経生理学者のJerzy Konorskiがその著書において、古代ギリシャ語で霊的認識を意味する言葉であるgnosisを用いて、gnostic cell(認識細胞)という用語で同様の概念を提案している。 | ||
おばあさん細胞仮説は、あくまでも外界の対象の脳内表現レベルの議論であることに留意すべきである。つまり、[[網膜]]から入力した[[視覚]]画像の部分特徴が[[並列分散処理]]により抽出されたとして、これらの特徴の特定の組み合わせのみに反応する単一の細胞がおばあさん細胞である。Barlowはこのような細胞の存在を議論し、対象物が何であるのかの情報(objective certainty)はどの細胞が反応しているのかで表現され、その対象が外界にどの程度の確度で存在するかの情報(subjective certainty)をその細胞の反応の強さ([[発火]]率)で表現するモデルを提案した<ref name="ref2"><pubmed>19806956</pubmed></ref>。しかし、個々の細胞の発火活動で表現された対象物の情報を脳内のいかなる機構が受け取って最終的な対象認識が発現するのかに関しては、何の提言も与えていない。Grossの概説<ref name="ref1"><pubmed>12374433</pubmed></ref>に紹介されているように、William Jamesは最終的な認識を行うための究極的な情報の統合が行われる細胞として、pontifical cell(教皇細胞)という概念を提案している。一方、Sherringtonはpontifical cellの存在に懐疑的であり、細胞集団の活動と認識とを関連付けることを提案している。また、Barlowは視覚認識における複数要素の特徴が単一のpontifical cellに統合されることの困難さから、少数の細胞(cardinal cell、枢機卿細胞)が視覚認識には必要であると議論している。注:教皇は一人であるが、教皇の顧問・補佐にあたる枢機卿は複数人存在する。 | おばあさん細胞仮説は、あくまでも外界の対象の脳内表現レベルの議論であることに留意すべきである。つまり、[[網膜]]から入力した[[視覚]]画像の部分特徴が[[並列分散処理]]により抽出されたとして、これらの特徴の特定の組み合わせのみに反応する単一の細胞がおばあさん細胞である。Barlowはこのような細胞の存在を議論し、対象物が何であるのかの情報(objective certainty)はどの細胞が反応しているのかで表現され、その対象が外界にどの程度の確度で存在するかの情報(subjective certainty)をその細胞の反応の強さ([[発火]]率)で表現するモデルを提案した<ref name="ref2"><pubmed>19806956</pubmed></ref>。しかし、個々の細胞の発火活動で表現された対象物の情報を脳内のいかなる機構が受け取って最終的な対象認識が発現するのかに関しては、何の提言も与えていない。Grossの概説<ref name="ref1"><pubmed>12374433</pubmed></ref>に紹介されているように、William Jamesは最終的な認識を行うための究極的な情報の統合が行われる細胞として、pontifical cell(教皇細胞)という概念を提案している。一方、Sherringtonはpontifical cellの存在に懐疑的であり、細胞集団の活動と認識とを関連付けることを提案している。また、Barlowは視覚認識における複数要素の特徴が単一のpontifical cellに統合されることの困難さから、少数の細胞(cardinal cell、枢機卿細胞)が視覚認識には必要であると議論している。注:教皇は一人であるが、教皇の顧問・補佐にあたる枢機卿は複数人存在する。 | ||
== 支持する実験報告 == | == 支持する実験報告 == | ||
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== 参考文献 == | == 参考文献 == | ||
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(執筆者:伊藤浩之 担当編集委員:藤田一郎) | |||