「ミュラーグリア」の版間の差分

ナビゲーションに移動 検索に移動
編集の要約なし
編集の要約なし
編集の要約なし
5行目: 5行目:


==ミュラーグリアの発生==
==ミュラーグリアの発生==
網膜にはミュラーグリアのほかに[[wikipedia:jp:%E3%82%A2%E3%82%B9%E3%83%88%E3%83%AD%E3%82%B5%E3%82%A4%E3%83%88|アストロサイト]]、[[wikipedia:jp:%E3%83%9F%E3%82%AF%E3%83%AD%E3%82%B0%E3%83%AA%E3%82%A2|ミクログリア]]の3種類のグリア細胞が存在する。ミクログリアが[[wikipedia:jp:%E8%A1%80%E7%90%83血球]]成分である[[wikipedia:jp:%E3%83%9E%E3%82%AF%E3%83%AD%E3%83%95%E3%82%A1%E3%83%BC%E3%82%B8|マクロファージ]]由来と考えられており<ref><pubmed> 7047372 </ref></pubmed> 、アストロサイトは[[wikipedia:jp:%E8%A6%96%E7%A5%9E%E7%B5%8C|視神経]]を介して網膜内へ移動してくるのに対し<ref><pubmed> 3282180 </ref></pubmed>、ミュラーグリアは網膜神経細胞と共通の前駆細胞から作られる<ref><pubmed> 3600789 </pubmed></ref>。網膜内の各神経細胞とミュラーグリアが生み出される順番は、生物種にかかわらず網膜神経節細胞、水平細胞、錐体視細胞、アマクリン細胞、桿体視細胞、双極細胞、ミュラーグリアの順で大まかに共通している<ref><pubmed> 15036211 </pubmed></ref>(図)。
網膜にはミュラーグリアのほかに[[wikipedia:jp:%E3%82%A2%E3%82%B9%E3%83%88%E3%83%AD%E3%82%B5%E3%82%A4%E3%83%88|アストロサイト]]、[[wikipedia:jp:%E3%83%9F%E3%82%AF%E3%83%AD%E3%82%B0%E3%83%AA%E3%82%A2|ミクログリア]]の3種類のグリア細胞が存在する。ミクログリアが[[wikipedia:jp:%E8%A1%80%E7%90%83|血球]]成分である[[wikipedia:jp:%E3%83%9E%E3%82%AF%E3%83%AD%E3%83%95%E3%82%A1%E3%83%BC%E3%82%B8|マクロファージ]]由来と考えられており<ref><pubmed> 7047372 </pubmed></ref> 、アストロサイトは[[wikipedia:jp:%E8%A6%96%E7%A5%9E%E7%B5%8C|視神経]]を介して網膜内へ移動してくるのに対し<ref><pubmed> 3282180 </pubmed></ref>、ミュラーグリアは網膜神経細胞と共通の前駆細胞から作られる<ref><pubmed> 3600789 </pubmed></ref>。網膜内の各神経細胞とミュラーグリアが生み出される順番は、生物種にかかわらず網膜神経節細胞、水平細胞、錐体視細胞、アマクリン細胞、桿体視細胞、双極細胞、ミュラーグリアの順で大まかに共通している<ref><pubmed> 15036211 </pubmed></ref>(図)。
ミュラーグリアと網膜の前駆細胞はともに放射状に伸びた形をしているが、前駆細胞の核が網膜層内を往復運動しているのに対し<ref><pubmed> 17560964 </ref></pubmed>、ミュラーグリアの核は内顆粒層に位置する。ミュラーグリアの突起は強膜側では視細胞と密着結合して外境界膜を形成し、硝子体側ではアストロサイトとともに内境界膜を形成する。
ミュラーグリアと網膜の前駆細胞はともに放射状に伸びた形をしているが、前駆細胞の核が網膜層内を往復運動しているのに対し<ref><pubmed> 17560964 </pubmed></ref>、ミュラーグリアの核は内顆粒層に位置する。ミュラーグリアの突起は強膜側では視細胞と密着結合して外境界膜を形成し、硝子体側ではアストロサイトとともに内境界膜を形成する。
 
 
==ミュラーグリアの機能==
==ミュラーグリアの機能==
ミュラーグリアは網膜内の全細胞の2%から5%を占める<ref><pubmed> 9786999</pubmed></ref>。他の[[wikipedia:jp: %E4%B8%AD%E6%9E%A2%E7%A5%9E%E7%B5%8C|中枢神経系]]におけるグリア細胞と同様に、成熟したミュラーグリアは網膜組織の[[wikipedia:jp:%E6%81%92%E5%B8%B8%E6%80%A7|恒常性]] 維持に働いており、特徴的な分子を発現していることが知られている<ref name=RER2006><pubmed> 16839797 </pubmed></ref>。
ミュラーグリアは網膜内の全細胞の2%から5%を占める<ref><pubmed> 9786999</pubmed></ref>。他の[[wikipedia:jp: %E4%B8%AD%E6%9E%A2%E7%A5%9E%E7%B5%8C|中枢神経系]]におけるグリア細胞と同様に、成熟したミュラーグリアは網膜組織の[[wikipedia:jp:%E6%81%92%E5%B8%B8%E6%80%A7|恒常性]] 維持に働いており、特徴的な分子を発現していることが知られている<ref name=RER2006><pubmed> 16839797 </pubmed></ref>。
===神経伝達物質のリサイクル===
===神経伝達物質のリサイクル===
 網膜内の神経細胞から放出される[[wikipedia:jp: %E3%82%B0%E3%83%AB%E3%82%BF%E3%83%9F%E3%83%B3%E9%85%B8|グルタミン酸]]、[[wikipedia:jp: %CE%93-%E3%82%A2%E3%83%9F%E3%83%8E%E9%85%AA%E9%85%B8|γ-アミノ酪酸]](GABA)はミュラーグリア内でグルタミンへと変換される<ref><pubmed> 19114072 </pubmed></ref>。グルタミン酸はグルタミン酸・アスパラギン酸輸送体(GLAST)を介して細胞内に取り込まれ、グルタミン合成酵素(Glutamine synthetase)によってグルタミンに変換された後にグルタミン輸送体を介して細胞外へ放出される<ref><pubmed> 8531222 </ref></pubmed>。一方GABAはGABA輸送体(GAT-3)を介して細胞内に取り込まれた後に<ref><pubmed> 8915826 </pubmed></ref>GABAアミノ基転移酵素(GABA-T)によってグルタミン酸へと変換され、細胞内に取り込まれたグルタミン酸と同じ経路をたどる。
 網膜内の神経細胞から放出される[[wikipedia:jp: %E3%82%B0%E3%83%AB%E3%82%BF%E3%83%9F%E3%83%B3%E9%85%B8|グルタミン酸]]、[[wikipedia:jp: %CE%93-%E3%82%A2%E3%83%9F%E3%83%8E%E9%85%AA%E9%85%B8|γ-アミノ酪酸]](GABA)はミュラーグリア内でグルタミンへと変換される<ref><pubmed> 19114072 </pubmed></ref>。グルタミン酸はグルタミン酸・アスパラギン酸輸送体(GLAST)を介して細胞内に取り込まれ、グルタミン合成酵素(Glutamine synthetase)によってグルタミンに変換された後にグルタミン輸送体を介して細胞外へ放出される<ref><pubmed> 8531222 </pubmed></ref>。一方GABAはGABA輸送体(GAT-3)を介して細胞内に取り込まれた後に<ref><pubmed> 8915826 </pubmed></ref>GABAアミノ基転移酵素(GABA-T)によってグルタミン酸へと変換され、細胞内に取り込まれたグルタミン酸と同じ経路をたどる。


===網膜組織内のカリウムイオン濃度の調節===
===網膜組織内のカリウムイオン濃度の調節===
20行目: 20行目:


==グリオーシス==
==グリオーシス==
[[Wikipedia:jp:%E7%B6%B2%E8%86%9C%E5%89%A5%E9%9B%A2|網膜剥離]]などの機械的な損傷や[[Wikipedia:jp:%E7%B3%96%E5%B0%BF%E7%97%85%E7%B6%B2%E8%86%9C%E7%97%87|糖尿病網膜症]]、[[Wikipedia:jp: %E8%99%9A%E8%A1%80|虚血]]などの傷害を受けた場合には、他の中枢神経で反応性グリアがみられるのと同様の変化がミュラーグリアでも見られる<ref name=RER2006/>。顕著な変化は[[Wikipedia:jp:%E4%B8%AD%E9%96%93%E5%BE%84%E3%83%95%E3%82%A3%E3%83%A9%E3%83%A1%E3%83%B3%E3%83%88|中間径フィラメント]]であるGFAPの発現が上昇すること<ref><pubmed> 14692684 </pubmed></ref>、カリウムイオンチャネルなどの特徴的な遺伝子の発現が低下することである<ref name= Glia2000/>。一方でこのような障害条件下で活性化したミクログリアがミュラーグリアからの神経栄養因子分泌を促進するという報告もある<ref><pubmed> 12417648 </pubmed></ref>。 ミュラーグリアの[[Wikipedia:jp:%E3%82%B0%E3%83%AA%E3%82%AA%E3%83%BC%E3%82%B7%E3%82%B9|グリオーシス]]が網膜組織にさらに障害を与えるのか、逆に神経細胞の保護効果をもつのかははっきりしていないが、長期的には網膜組織の恒常性維持に必要な機能が低下することで神経細胞死につながると考えられている。
[[Wikipedia:jp:%E7%B6%B2%E8%86%9C%E5%89%A5%E9%9B%A2|網膜剥離]]などの機械的な損傷や[[Wikipedia:jp:%E7%B3%96%E5%B0%BF%E7%97%85%E7%B6%B2%E8%86%9C%E7%97%87|糖尿病網膜症]]、[[Wikipedia:jp: %E8%99%9A%E8%A1%80|虚血]]などの傷害を受けた場合には、他の中枢神経でみられる反応性グリアと同様の変化がミュラーグリアでも見られる<ref name=RER2006/>。顕著な変化は[[Wikipedia:jp:%E4%B8%AD%E9%96%93%E5%BE%84%E3%83%95%E3%82%A3%E3%83%A9%E3%83%A1%E3%83%B3%E3%83%88|中間径フィラメント]]であるGFAPの発現が上昇すること<ref><pubmed> 14692684 </pubmed></ref>、カリウムイオンチャネルなどの特徴的な遺伝子の発現が低下することである<ref name= Glia2000/>。一方で、このような傷害条件下では活性化したミクログリアがミュラーグリアからの神経栄養因子分泌を促進するという報告もある<ref><pubmed> 12417648 </pubmed></ref>。 ミュラーグリアの[[Wikipedia:jp:%E3%82%B0%E3%83%AA%E3%82%AA%E3%83%BC%E3%82%B7%E3%82%B9|グリオーシス]]が網膜組織にさらに障害を与えるのか、逆に神経細胞の保護効果をもつのかははっきりしていないが、長期的には網膜組織の恒常性維持に必要な機能が低下することで神経細胞死につながると考えられている。


==ミュラーグリアからの網膜再生==
==ミュラーグリアからの網膜再生==
 網膜傷害時に見られるミュラーグリアの増殖と恒常性維持に重要な遺伝子発現の低下はグリオーシスの特徴の一つと考えられていたが、近年になってこれらの未分化化したミュラーグリアから網膜の神経細胞が[[Wikipedia:jp:%E5%86%8D%E7%94%9F_(%E7%94%9F%E7%89%A9%E5%AD%A6)|再生]]されることが[[Wikipedia:jp:%E3%82%BC%E3%83%96%E3%83%A9%E3%83%95%E3%82%A3%E3%83%83%E3%82%B7%E3%83%A5|ゼブラフィッシュ]]<ref><pubmed> 17596452 </pubmed></ref>、[[Wikipedia:jp:%E3%83%8B%E3%83%AF%E3%83%88%E3%83%AA|ニワトリ]]<ref><pubmed> 11224540 </pubmed></ref>、[[Wikipedia:jp:%E3%83%A9%E3%83%83%E3%83%88|ラット]]・[[Wikipedia:jp:%E3%83%8F%E3%83%84%E3%82%AB%E3%83%8D%E3%82%BA%E3%83%9F#.E5.AE.9F.E9.A8.93.E7.94.A8.E3.83.9E.E3.82.A6.E3.82.B9|マウス]]<ref><pubmed> 15353594 </pubmed></ref><ref><pubmed> 19033471 </pubmed></ref>で報告されている。この再生能力は動物種によって異なっており[[Wikipedia:jp:%E5%93%BA%E4%B9%B3%E9%A1%9E|哺乳類]]では増殖するミュラーグリアが非常に少ないか、傷害条件によっては全く増殖しない<ref><pubmed> 20303826 </pubmed></ref><ref><pubmed> 21500284 </pubmed></ref>。しかしマウスやヒトのミュラーグリアも[[Wikipedia:jp: %E7%B4%B0%E8%83%9E%E5%9F%B9%E9%A4%8A|培養]]環境下では網膜の神経細胞に分化させられることから<ref><pubmed> 21500284 </pubmed></ref>、網膜の幹細胞・前駆細胞様になる可能性を持つと考えられている。
 網膜傷害時に見られるミュラーグリアの増殖と恒常性維持に重要な遺伝子発現の低下はグリオーシスの特徴の一つと考えられていたが、近年になってこれらの未分化化したミュラーグリアから網膜の神経細胞が[[Wikipedia:jp:%E5%86%8D%E7%94%9F_(%E7%94%9F%E7%89%A9%E5%AD%A6)|再生]]されることが[[Wikipedia:jp:%E3%82%BC%E3%83%96%E3%83%A9%E3%83%95%E3%82%A3%E3%83%83%E3%82%B7%E3%83%A5|ゼブラフィッシュ]]<ref><pubmed> 17596452 </pubmed></ref>、[[Wikipedia:jp:%E3%83%8B%E3%83%AF%E3%83%88%E3%83%AA|ニワトリ]]<ref><pubmed> 11224540 </pubmed></ref>、[[Wikipedia:jp:%E3%83%A9%E3%83%83%E3%83%88|ラット]]・[[Wikipedia:jp:%E3%83%8F%E3%83%84%E3%82%AB%E3%83%8D%E3%82%BA%E3%83%9F#.E5.AE.9F.E9.A8.93.E7.94.A8.E3.83.9E.E3.82.A6.E3.82.B9|マウス]]<ref><pubmed> 15353594 </pubmed></ref><ref><pubmed> 19033471 </pubmed></ref>で報告されている。この再生能力は動物種によって異なっており、[[Wikipedia:jp:%E5%93%BA%E4%B9%B3%E9%A1%9E|哺乳類]]では増殖するミュラーグリアが非常に少ないか、傷害条件によっては全く増殖しない<ref><pubmed> 20303826 </pubmed></ref><ref><pubmed> 21500284 </pubmed></ref>。しかしマウスやヒトのミュラーグリアも[[Wikipedia:jp: %E7%B4%B0%E8%83%9E%E5%9F%B9%E9%A4%8A|培養]]環境下では網膜の神経細胞に分化させられることから<ref><pubmed> 21732491 </pubmed></ref>、網膜の[[wikipedia:jp:幹細胞|幹細胞]]・前駆細胞様になる可能性を持つと考えられている。


==関連項目==
==関連項目==
9

回編集

案内メニュー