145
回編集
Takumitsutsui (トーク | 投稿記録) 細編集の要約なし |
Takumitsutsui (トーク | 投稿記録) 細編集の要約なし |
||
65行目: | 65行目: | ||
== 治療 == | == 治療 == | ||
<pre>==治療==</pre> | <pre>==治療==</pre> | ||
PTSDに対して、これまでさまざまな治療法が試みられてきた。ランダム化比較試験(RCT:Randomized Contorolled Trial)で有効性を証明された治療法に認知行動療法(CBT:Cognitive Behavior Therapy)、EMDR(眼球運動による脱感作と再処理法:Eye Movement Desensitization and Reprocessing)、薬物療法がある。2005年のNICE(英国国立医療技術評価機構:National Institute for Health and Clinical Excellence)のガイドラインでは、心理療法(CBTないしはEMDRを基本的な第一選択としている。薬物療法が推奨されるのは、心理療法を患者が望まない時や実施が困難は場合としている。また、2007年に示された全米アカデミーズ医学院PTSD治療評価委員のレポートでは、PTSDへの治療的有効性が確立されているのは曝露療法のみで、その他の心理療法、薬物療法の有効性に関するエビデンスは不十分と結論づけられている。<br> | PTSDに対して、これまでさまざまな治療法が試みられてきた。ランダム化比較試験(RCT:Randomized Contorolled Trial)で有効性を証明された治療法に認知行動療法(CBT:Cognitive Behavior Therapy)、EMDR(眼球運動による脱感作と再処理法:Eye Movement Desensitization and Reprocessing)、薬物療法がある。2005年のNICE(英国国立医療技術評価機構:National Institute for Health and Clinical Excellence)のガイドラインでは、心理療法(CBTないしはEMDRを基本的な第一選択としている。薬物療法が推奨されるのは、心理療法を患者が望まない時や実施が困難は場合としている。また、2007年に示された全米アカデミーズ医学院PTSD治療評価委員のレポートでは、PTSDへの治療的有効性が確立されているのは曝露療法のみで、その他の心理療法、薬物療法の有効性に関するエビデンスは不十分と結論づけられている。<br> | ||
=== 心理療法<br> === | === 心理療法<br> === | ||
<pre>===心理療法=== | <pre>===心理療法=== | ||
</pre> | </pre> | ||
102行目: | 102行目: | ||
==== 抗うつ薬 ==== | ==== 抗うつ薬 ==== | ||
<pre>====抗うつ薬====</pre> | <pre>====抗うつ薬====</pre> | ||
PTSDに対する薬物療法として、sertraline、paroxetine、fluoxetineといった[[選択的セロトニン再取り込阻害薬]](selective serotonine reuptake inhibitor:SSRI) | PTSDに対する薬物療法として、sertraline、paroxetine、fluoxetineといった[[選択的セロトニン再取り込阻害薬]](selective serotonine reuptake inhibitor:SSRI)が海外の複数のランダム化比較試験でPTSDの3つの中核症状(DSM-Ⅳ-TRの基準B,C,D)全てと抑うつなどの合併する精神症状に有効性が証明され、第一選択として推奨されている。また、[[選択的セロトニン・ノルアドレナリン再取り込阻害薬|セロトニン・ノルアドレナリン再取り込阻害薬]](serotonine norepinephrine reuptake inhibitor:SNRI)であるvenlafaxineもSSRIと共に第一選択として推奨されている。三環系抗うつ薬であるimpramine、amitriptylineも効果が認められているが、SSRI、SNRIと比較して一般的に副作用の出現や忍容性が懸念される薬剤である。その他、mirtazapine、bupropion、nefadozodone、torazodoneに関しての研究報告がある。 | ||
米国ではparoxetineとsertralineがPTSD治療の薬剤として認可されているが、現在、日本でPTSD治療への適応を認可された薬剤はない。<br> | |||
==== モノアミン酸化酵素阻害薬<br> ==== | |||
<pre>====MAOI(モノアミン酸化酵素阻害薬)==== | |||
</pre> | |||
モノアミン酸化酵素阻害薬は食事制限を順守する必要がある薬剤で、phenelzineのBとD症状への効果が示されている。日本で認可されているMAOIはselegilineのみである。<br> | |||
==== 抗アドレナリン作動薬 ==== | ==== 抗アドレナリン作動薬 ==== | ||
<pre>====抗アドレナリン作動薬====</pre> | <pre>====抗アドレナリン作動薬====</pre> | ||
抗アドレナリン作動薬であるprazosin、propranolol、clonidine、guanfacineは一般的に安全性の高い薬剤であるが血圧の低下の可能性を留意する必要がある。過覚醒、再体験への有効性が報告されている。 | |||
==== 非定型抗精神病薬 ==== | ==== 非定型抗精神病薬 ==== | ||
<pre>====非定型抗精神病薬====</pre> | <pre>====非定型抗精神病薬====</pre> | ||
非定型抗精神病薬であるrisperidone、olanzapine、quetiapineはSSRIで症状が残存した時、治療抵抗性のPTSD患者への増強療法として複数の小規模なランダム化比較試験で有効性が報告されている。過覚醒、攻撃行動、妄想や精神病性の症状を呈するPTSD患者への効果も期待されている。 | |||
==== Benzodiazepine系薬 ==== | ==== Benzodiazepine系薬 ==== | ||
116行目: | 123行目: | ||
PTSDの中核症状への効果はないとされ、単独での治療は推奨されていない。 | PTSDの中核症状への効果はないとされ、単独での治療は推奨されていない。 | ||
==== 抗けいれん薬 | ==== 抗けいれん薬(気分安定薬) ==== | ||
<pre> | <pre>====抗けいれん薬(気分安定薬)====</pre> | ||
有効性に関して一致した結論には至らず、現時点では治療薬としては推奨されていない。 | |||
== 疫学 == | == 疫学 == | ||
124行目: | 131行目: | ||
1995年にKesslerらが行った全米疫学調査<ref><pubmed>7492257</ref>ではPTSDの生涯有病率は男性5.0%、女性10.4%、現在有病率は男性1.5%、女性3.0%だった。また、性暴力などの犯罪被害者のPTSD発症率が自然災害被災者よりも高いことが示された(図1)。 [[Image:Tsutsui file 2.jpg|center|392x284px|原因による有病率の違い]] 日本国内のデータも川上が9つの市町村の住民を対象に調査を行い、12か月有病率0.70%、生涯有病率1.27%と報告している<ref>'''川上憲人'''<br>トラウマティックイベントと心的外傷後ストレス障害のリスク:閾値下PTSDの頻度とイベントとの関連.大規模災害や犯罪被害等による精神科疾患の実態把握と介入方法の開発に関する研究<br>''平成21年度厚生労働科学研究費補助金(こころの健康科学研究事業)分担研究報告書'':17-25,2010</ref>。 | 1995年にKesslerらが行った全米疫学調査<ref><pubmed>7492257</ref>ではPTSDの生涯有病率は男性5.0%、女性10.4%、現在有病率は男性1.5%、女性3.0%だった。また、性暴力などの犯罪被害者のPTSD発症率が自然災害被災者よりも高いことが示された(図1)。 [[Image:Tsutsui file 2.jpg|center|392x284px|原因による有病率の違い]] 日本国内のデータも川上が9つの市町村の住民を対象に調査を行い、12か月有病率0.70%、生涯有病率1.27%と報告している<ref>'''川上憲人'''<br>トラウマティックイベントと心的外傷後ストレス障害のリスク:閾値下PTSDの頻度とイベントとの関連.大規模災害や犯罪被害等による精神科疾患の実態把握と介入方法の開発に関する研究<br>''平成21年度厚生労働科学研究費補助金(こころの健康科学研究事業)分担研究報告書'':17-25,2010</ref>。 | ||
発症の危険因子については、生命的危険の認知、社会的サポートの認知、トラウマ体験時の感情反応(恐怖、孤立無援感、戦慄、自責、羞恥など)、トラウマ体験時の解離反応、トラウマ体験後の生活ストレス、過去の精神的問題、過去のトラウマ体験、家族の精神的問題、女性、若年者、低学歴、IQ、人種がある→参考文献差し替え<ref><pubmed>19169189</ref>。 | |||
=== 併存障害 === | === 併存障害 === | ||
<pre>===併存障害===</pre> | <pre>===併存障害===</pre> | ||
PTSDには[[抑うつ]]、[[不安障害]]、[[物質関連障害]]など精神疾患の合併が多いことが知られている。kesslerの調査<ref><pubmed>7492257</ref>では男性の88%、女性の79%に精神障害が合併していた。男性ではアルコール関連疾患52%、[[うつ病]]48%、[[行為障害]]43%、[[薬物依存]]35%、[[恐怖症]]31%であり、女性では[[うつ病]]49%、アルコール関連疾患30%、[[薬物依存]]27%、[[恐怖症]]29%、[[行為障害]]15% | PTSDには[[抑うつ]]、[[不安障害]]、[[物質関連障害]]など精神疾患の合併が多いことが知られている。kesslerの調査<ref><pubmed>7492257</ref>では男性の88%、女性の79%に精神障害が合併していた。男性ではアルコール関連疾患52%、[[うつ病]]48%、[[行為障害]]43%、[[薬物依存]]35%、[[恐怖症]]31%であり、女性では[[うつ病]]49%、アルコール関連疾患30%、[[薬物依存]]27%、[[恐怖症]]29%、[[行為障害]]15%だったとしている。 | ||
== 病態メカニズム == | == 病態メカニズム == |
回編集