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Yamatokikkawa (トーク | 投稿記録) 細編集の要約なし |
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英:basement membrane, basal lamina | 英:basement membrane, basal lamina | ||
電子顕微鏡の発達は、組織の細胞以外の空間である[[細胞外マトリックス]]に、基底膜、[[wikipedia:ja:膠原線維|膠原線維]]、[[wikipedia:ja:弾性線維|弾性線維]] | 電子顕微鏡の発達は、組織の細胞以外の空間である[[細胞外マトリックス]]に、基底膜、[[wikipedia:ja:膠原線維|膠原線維]]、[[wikipedia:ja:弾性線維|弾性線維]]といった構造の存在を明らかにしてきた。そのなかで基底膜は[[wikipedia:ja:上皮組織|上皮組織]](内皮や中皮を含む)と[[wikipedia:ja: 結合組織|結合組織]]の境界、[[wikipedia:ja:筋細胞|筋細胞]]・[[wikipedia:ja:脂肪細胞|脂肪細胞]]および神経組織の周囲に見られるシート状の構造である。近年の研究により、基底膜は特異的な細胞外マトリックス分子によって形成されていることが明らかになっている。基底膜は、組織構造維持のための機械的な足場、物質の選択的透過性を司る障壁として働くのに加え、細胞の[[wikipedia:ja:極性形成|極性形成]]・[[wikipedia:ja:代謝|代謝]]・生存・[[細胞増殖|増殖]]・[[wikipedia:ja:分化|分化]]・[[wikipedia:ja:移動|移動]]などとも深く関わる機能的な構造である。[[中枢神経]]では、[[血液-脳関門]] (BBB: blood-brain-barrier)および[[血液-脳脊髄液関門]](BCSFB: blood-CSF barrier)の形成とその機能にも関与している。また、[[脳室]]の近傍では[[フラクトン]](fractone)と呼ばれる基底膜様構造があり、これが成体脳の[[神経幹細胞]]にニッチを提供していると考えられている。 | ||
== 中枢神経系における基底膜の構造 == | == 中枢神経系における基底膜の構造 == | ||
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IV型コラーゲン(Type IV collagen)は非線維性であり、基底膜の骨格をなす網目状構造の形成に関与している。他のコラーゲンと同様に、α鎖と呼ばれるポリペプチド鎖が3本集まり、3重らせん構造を形成している。IV型コラーゲンには6種類のα鎖が存在し、各アイソフォームはその組み合わせに応じて[α1(IV)]<sub>2</sub>α2(IV)のように表記される。脳実質基底膜 (parenchymal basement membrane)には、[α1(IV)]<sub>2</sub>α2(IV)と[α5(IV)]<sub>2</sub>α6(IV) の2種類が共発現しているが、血管内皮基底膜 (endothelial basement membrane)では[α1(IV)]<sub>2</sub>α2(IV)のみが発現する<ref name="ref8"><pubmed> 12164337 </pubmed></ref>。脈絡叢の基底膜では、毛細血管基底膜には[α1(IV)]<sub>2</sub>α2(IV)が、脈絡叢上皮基底膜にはα3(IV)α4(IV)α5(IV)で構成されたIV型コラーゲンが存在している<ref name="ref8" />。フラクトンにはIV型コラーゲンが含まれているが、各α鎖の分布などは明らかになっていない<ref name="ref9"><pubmed> 17569787 </pubmed></ref>。 | IV型コラーゲン(Type IV collagen)は非線維性であり、基底膜の骨格をなす網目状構造の形成に関与している。他のコラーゲンと同様に、α鎖と呼ばれるポリペプチド鎖が3本集まり、3重らせん構造を形成している。IV型コラーゲンには6種類のα鎖が存在し、各アイソフォームはその組み合わせに応じて[α1(IV)]<sub>2</sub>α2(IV)のように表記される。脳実質基底膜 (parenchymal basement membrane)には、[α1(IV)]<sub>2</sub>α2(IV)と[α5(IV)]<sub>2</sub>α6(IV) の2種類が共発現しているが、血管内皮基底膜 (endothelial basement membrane)では[α1(IV)]<sub>2</sub>α2(IV)のみが発現する<ref name="ref8"><pubmed> 12164337 </pubmed></ref>。脈絡叢の基底膜では、毛細血管基底膜には[α1(IV)]<sub>2</sub>α2(IV)が、脈絡叢上皮基底膜にはα3(IV)α4(IV)α5(IV)で構成されたIV型コラーゲンが存在している<ref name="ref8" />。フラクトンにはIV型コラーゲンが含まれているが、各α鎖の分布などは明らかになっていない<ref name="ref9"><pubmed> 17569787 </pubmed></ref>。 | ||
=== ラミニン === | === ラミニン === | ||
ラミニン(laminin)は、α、β、γの3つの鎖からなる十字架構造をした[[wikipedia:ja:糖タンパク質|糖タンパク質]]である<ref><pubmed> 19693542 </pubmed></ref>。α鎖が5種類、β鎖が3種類、γ鎖が3種類存在し、それらの組み合わせによって、例えばα1、β1、γ1ならばラミニン-111、α5、β2、γ1ならばラミニン-521のように命名されている。現在までに19種類の組み合わせが報告されている。α、β、γの鎖のなかで、α鎖が細胞の接着に関わる主要な鎖としてラミニンの機能に大きく関わっている。血管内皮基底膜には、ラミニン-411と-511が存在している。また、脳実質基底膜 (parenchymal basement membrane)には、ラミニン-111とラミニン-211が共発現する。血管が脳実質内に侵入し、2つの基底膜が融合した部分では、ラミニン-211、-411、-511が共発現する<ref name="ref5" />。脈絡叢上皮基底膜にはラミニン-511が存在している。一方、脈絡叢の毛細血管基底膜はラミニン-411である<ref name="ref7" />。血管内皮基底膜を除く各基底膜では、同時にβ2およびγ3鎖の発現も見られることから、ラミニン-421/-423/-521/-523が同時に含まれることが予想される<ref name="ref7" /> 。フラクトンには、β1とγ1鎖が存在しているが、これらと会合するα鎖は明らかになっていない<ref name="ref9" />。 | ラミニン(laminin)は、α、β、γの3つの鎖からなる十字架構造をした[[wikipedia:ja:糖タンパク質|糖タンパク質]]である<ref><pubmed> 19693542 </pubmed></ref>。α鎖が5種類、β鎖が3種類、γ鎖が3種類存在し、それらの組み合わせによって、例えばα1、β1、γ1ならばラミニン-111、α5、β2、γ1ならばラミニン-521のように命名されている。現在までに19種類の組み合わせが報告されている。α、β、γの鎖のなかで、α鎖が細胞の接着に関わる主要な鎖としてラミニンの機能に大きく関わっている。血管内皮基底膜には、ラミニン-411と-511が存在している。また、脳実質基底膜 (parenchymal basement membrane)には、ラミニン-111とラミニン-211が共発現する。血管が脳実質内に侵入し、2つの基底膜が融合した部分では、ラミニン-211、-411、-511が共発現する<ref name="ref5" />。脈絡叢上皮基底膜にはラミニン-511が存在している。一方、脈絡叢の毛細血管基底膜はラミニン-411である<ref name="ref7" />。血管内皮基底膜を除く各基底膜では、同時にβ2およびγ3鎖の発現も見られることから、ラミニン-421/-423/-521/-523が同時に含まれることが予想される<ref name="ref7" /> 。フラクトンには、β1とγ1鎖が存在しているが、これらと会合するα鎖は明らかになっていない<ref name="ref9" />。 | ||
=== ニドゲン === | === ニドゲン === | ||
ニドゲン(nidogen)はエンタクチン(entactin)とも呼ばれ、2種類のアイソフォーム(nidogen-1 and -2)が知られている。どちらもラミニンγ1鎖に結合し、ラミニンをIV型コラーゲンに結びつけることで基底膜の形成と維持に関与している<ref name="ref11"><pubmed> 18219668 </pubmed></ref>。どちらも中枢神経組織内におけるほとんどの基底膜に共発現している<ref name="ref7" /> <ref name="ref11" /> <ref name="ref12"><pubmed> 12122064 </pubmed></ref>。フラクトンには、ニドゲン-1は存在しているが、ニドゲン-2については明らかになっていない<ref name="ref9" />。 | ニドゲン(nidogen)はエンタクチン(entactin)とも呼ばれ、2種類のアイソフォーム(nidogen-1 and -2)が知られている。どちらもラミニンγ1鎖に結合し、ラミニンをIV型コラーゲンに結びつけることで基底膜の形成と維持に関与している<ref name="ref11"><pubmed> 18219668 </pubmed></ref>。どちらも中枢神経組織内におけるほとんどの基底膜に共発現している<ref name="ref7" /> <ref name="ref11" /> <ref name="ref12"><pubmed> 12122064 </pubmed></ref>。フラクトンには、ニドゲン-1は存在しているが、ニドゲン-2については明らかになっていない<ref name="ref9" />。 | ||
=== ヘパラン硫酸プロテオグリカン === | === ヘパラン硫酸プロテオグリカン === | ||
基底膜に含まれるヘパラン硫酸プロテオグリカン(heparan sulfate proteoglycan)として[[パールカン]](perlecan)と[[アグリン]](agrin)がある。血管内皮基底膜では、パールカンが、軟膜基底膜および脳実質基底膜では、アグリンがそれぞれ主要なヘパラン硫酸プロテオグリカンとして存在する。脳実質内に侵入した血管基底膜のうち、脳実質基底膜と融合した部分では、パールカンとアグリンの両方が存在している<ref name="ref5" />。脈絡叢では、ともに脈絡叢上皮と毛細血管の基底膜で発現している<ref name="ref7" /> <ref><pubmed> 9337134 </pubmed></ref>。フラクトンには、パールカンは存在しているが、アグリンについては明らかになっていない<ref name="ref9" />。 | 基底膜に含まれるヘパラン硫酸プロテオグリカン(heparan sulfate proteoglycan)として[[パールカン]](perlecan)と[[アグリン]](agrin)がある。血管内皮基底膜では、パールカンが、軟膜基底膜および脳実質基底膜では、アグリンがそれぞれ主要なヘパラン硫酸プロテオグリカンとして存在する。脳実質内に侵入した血管基底膜のうち、脳実質基底膜と融合した部分では、パールカンとアグリンの両方が存在している<ref name="ref5" />。脈絡叢では、ともに脈絡叢上皮と毛細血管の基底膜で発現している<ref name="ref7" /> <ref><pubmed> 9337134 </pubmed></ref>。フラクトンには、パールカンは存在しているが、アグリンについては明らかになっていない<ref name="ref9" />。 | ||
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中枢神経実質には、血液中からの[[wikipedia:ja:免疫細胞|免疫細胞]]の侵入が制限されている。しかし、[[脳脊髄炎]]ではこれらの機能が破綻し、[[wikipedia:ja:リンパ球|リンパ球]]の侵入が見られるようになる。血管内皮基底膜にはラミニンα4鎖とα5鎖が含まれ、リンパ球の侵入はラミニンα5鎖を欠く領域で起こることが報告されている<ref name="ref1" />。これを裏付けるように、ラミニンα4鎖欠失マウスでは、ラミニンα5鎖が補償的に発現上昇するため、炎症に際してのリンパ球の侵入が見られなくなる<ref name="ref1" />。 | 中枢神経実質には、血液中からの[[wikipedia:ja:免疫細胞|免疫細胞]]の侵入が制限されている。しかし、[[脳脊髄炎]]ではこれらの機能が破綻し、[[wikipedia:ja:リンパ球|リンパ球]]の侵入が見られるようになる。血管内皮基底膜にはラミニンα4鎖とα5鎖が含まれ、リンパ球の侵入はラミニンα5鎖を欠く領域で起こることが報告されている<ref name="ref1" />。これを裏付けるように、ラミニンα4鎖欠失マウスでは、ラミニンα5鎖が補償的に発現上昇するため、炎症に際してのリンパ球の侵入が見られなくなる<ref name="ref1" />。 | ||
== 中枢神経の再生研究と基底膜 == | == 中枢神経の再生研究と基底膜 == | ||
基底膜は組織に高度に組み込まれた構造であるため生化学的な調製が難しく、その研究はなかなか進展しなかった。70年代後半になり、マウス[[wikipedia:ja:肉腫|肉腫]] (Engelbreth-Holm-Swarm sarcoma) が種々の基底膜成分を含むゲル(マトリゲルmatrigel) を産生することがわかり、これによって個々の分子について研究が進展した<ref><pubmed> 15975825 </pubmed></ref>。また、マトリゲルやそれから精製されたラミニン111をもちいることにより[[初代培養]]を含む様々の神経系細胞のin vitro研究が格段に進んだ。近年、ヒト [[ES 細胞]]をマトリゲル上で培養し、[[ROCK]] 阻害剤 [[Y-27632]] で処理することにより、中枢神経系細胞である[[ドーパミン]]作動性ニューロンへ高い効率で誘導することが可能であることが示されている<ref><pubmed> 17529971 </pubmed></ref>。 | 基底膜は組織に高度に組み込まれた構造であるため生化学的な調製が難しく、その研究はなかなか進展しなかった。70年代後半になり、マウス[[wikipedia:ja:肉腫|肉腫]] (Engelbreth-Holm-Swarm sarcoma) が種々の基底膜成分を含むゲル(マトリゲルmatrigel) を産生することがわかり、これによって個々の分子について研究が進展した<ref><pubmed> 15975825 </pubmed></ref>。また、マトリゲルやそれから精製されたラミニン111をもちいることにより[[初代培養]]を含む様々の神経系細胞のin vitro研究が格段に進んだ。近年、ヒト [[ES 細胞]]をマトリゲル上で培養し、[[ROCK]] 阻害剤 [[Y-27632]] で処理することにより、中枢神経系細胞である[[ドーパミン]]作動性ニューロンへ高い効率で誘導することが可能であることが示されている<ref><pubmed> 17529971 </pubmed></ref>。 | ||
== 関連項目 == | |||
[[足場蛋白質]] | |||
[[インテグリン]] | |||
[[コンドロイチン硫酸プロテオグリカン]] | |||
[[細胞外プロテアーゼ]] | |||
[[細胞外マトリックス]] | |||
== 参考文献 == | == 参考文献 == |
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