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=== ニューロン分化制御 === | === ニューロン分化制御 === | ||
骨格筋、心筋、骨、血液、皮膚など種々の組織における細胞系譜の制御に関与する塩基性ヘリックス−ループ−ヘリックス(basic helix-loop-helix : bHLH)型転写因子は、神経系においてはプロニューラル遺伝子としてニューロン分化に関与する。神経系に発現しニューロン分化を促進するbHLH型転写因子として[[Mammalian achaete-scute homolog 1]](Mash1)、[[Neurogenin 1]](Neurog1)、[[Neurog2]]、[[Mammalian atonal homolog 1]](Math1)、[[Neurogenic differentiation]](NeuroD)などが同定されている。Mash1はショウジョウバエで同定されたプロニューラル遺伝子群[[Achaete-scute complex]](AS-C) の哺乳類ホモログで、胎生期に一部の[[ニューロン前駆体]]において一過性な発現が観られ、中枢神経系では腹側のニューロン分化に、末梢神経系では交感神経や嗅神経の分化に深く関与する<ref name="ref1"><pubmed>8221886</pubmed></ref>。Neurog1、Neurog2は中枢神経系でMash1と相補的な部位に発現し、主に背側のニューロン分化に寄与する<ref name="ref2"><pubmed>10640277</pubmed></ref>。Math1は[[小脳外顆粒層]]の分化に<ref name="ref3"><pubmed>9367153</pubmed></ref>、NeuroDはニューロンの成熟において重要な働きを示すことが知られている<ref name="ref2"><pubmed>10640277</pubmed></ref>。 <br> ニューロン分化を抑制するHLH型因子としては、ショウジョウバエで同定された[[hairy and enhancer of split]]の哺乳類ホモログ[[Hes]]、[[extramacrochaetae]]の哺乳類ホモログ[[inhibitor of differentiation]](Id)が同定されている<ref name="ref4"><pubmed>9388783</pubmed></ref>。Hes因子群は、ニューロンへの分化を促進するプロニューラル遺伝子プロモーター上に結合して発現を抑制したり、Mash1などのプロニューラル因子と直接結合しその機能を阻害することによってニューロンへの分化を抑制する<ref name="ref5"><pubmed>1340473</pubmed></ref>。IdはbHLH型転写因子に加え、Eタンパク質群等とヘテロ2量体を形成し、様々な細胞分化を抑制する<ref name="ref6"><pubmed>9695810</pubmed></ref>。また[[骨形成因子]](bone morphogenetic protein; BMP)や[[Notch]]シグナルはこれらの因子の発現を誘導することでニューロン分化を抑制し、神経幹細胞の分化状態をコントロールしている<ref name="ref7"><pubmed>11331769</pubmed></ref><ref name="ref8"><pubmed>10205173</pubmed></ref>。<br> ところで、DNAとともに[[クロマチン]]を構成する[[ヒストン]]の修飾が遺伝子発現に大きな影響を与えるため、細胞分化においても重要な働きを示すものと考えられる。これに関連して神経幹細胞では、ヒストン[[アセチル化|脱アセチル化酵素]] | 骨格筋、心筋、骨、血液、皮膚など種々の組織における細胞系譜の制御に関与する塩基性ヘリックス−ループ−ヘリックス(basic helix-loop-helix : bHLH)型転写因子は、神経系においてはプロニューラル遺伝子としてニューロン分化に関与する。神経系に発現しニューロン分化を促進するbHLH型転写因子として[[Mammalian achaete-scute homolog 1]](Mash1)、[[Neurogenin 1]](Neurog1)、[[Neurog2]]、[[Mammalian atonal homolog 1]](Math1)、[[Neurogenic differentiation]](NeuroD)などが同定されている。Mash1はショウジョウバエで同定されたプロニューラル遺伝子群[[Achaete-scute complex]](AS-C) の哺乳類ホモログで、胎生期に一部の[[ニューロン前駆体]]において一過性な発現が観られ、中枢神経系では腹側のニューロン分化に、末梢神経系では交感神経や嗅神経の分化に深く関与する<ref name="ref1"><pubmed>8221886</pubmed></ref>。Neurog1、Neurog2は中枢神経系でMash1と相補的な部位に発現し、主に背側のニューロン分化に寄与する<ref name="ref2"><pubmed>10640277</pubmed></ref>。Math1は[[小脳外顆粒層]]の分化に<ref name="ref3"><pubmed>9367153</pubmed></ref>、NeuroDはニューロンの成熟において重要な働きを示すことが知られている<ref name="ref2"><pubmed>10640277</pubmed></ref>。 <br> ニューロン分化を抑制するHLH型因子としては、ショウジョウバエで同定された[[hairy and enhancer of split]]の哺乳類ホモログ[[Hes]]、[[extramacrochaetae]]の哺乳類ホモログ[[inhibitor of differentiation]](Id)が同定されている<ref name="ref4"><pubmed>9388783</pubmed></ref>。Hes因子群は、ニューロンへの分化を促進するプロニューラル遺伝子プロモーター上に結合して発現を抑制したり、Mash1などのプロニューラル因子と直接結合しその機能を阻害することによってニューロンへの分化を抑制する<ref name="ref5"><pubmed>1340473</pubmed></ref>。IdはbHLH型転写因子に加え、Eタンパク質群等とヘテロ2量体を形成し、様々な細胞分化を抑制する<ref name="ref6"><pubmed>9695810</pubmed></ref>。また[[骨形成因子]](bone morphogenetic protein; BMP)や[[Notch]]シグナルはこれらの因子の発現を誘導することでニューロン分化を抑制し、神経幹細胞の分化状態をコントロールしている<ref name="ref7"><pubmed>11331769</pubmed></ref><ref name="ref8"><pubmed>10205173</pubmed></ref>。<br> ところで、DNAとともに[[クロマチン]]を構成する[[ヒストン]]の修飾が遺伝子発現に大きな影響を与えるため、細胞分化においても重要な働きを示すものと考えられる。これに関連して神経幹細胞では、ヒストン[[アセチル化|脱アセチル化酵素]]([[histone deacetylase]]; HDAC)阻害剤でありかつ長らく[[てんかん|抗てんかん薬]]として利用されてきたバルプロ酸(VPA)の処理により、神経幹細胞内のヒストンアセチル化が亢進し、ニューロン分化が促進されることが報告された<ref name="ref9"><pubmed>15537713</pubmed></ref>。この際、前述のNeuroDの発現亢進が見られ、これによりVPAはニューロン分化を促進できるのではないかと推察されている。 | ||
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=== アストロサイト分化制御 === | === アストロサイト分化制御 === | ||
[[Image:H-nakashima-fig-2.jpg|thumb|400px|<b>図2:DNA脱メチル化による神経幹細胞のアストロサイト分可能獲得機構</b><br />胎生中期の神経幹細胞は、アストロサイト特異的遺伝子のプロモーター領域はメチル化を受けており遺伝子の発現が抑制されているが、胎生後期以降になるとそのプロモーター領域の脱メチル化が生じ、アストロサイトへの分化能を獲得する。]] | [[Image:H-nakashima-fig-2.jpg|thumb|400px|<b>図2:DNA脱メチル化による神経幹細胞のアストロサイト分可能獲得機構</b><br />胎生中期の神経幹細胞は、アストロサイト特異的遺伝子のプロモーター領域はメチル化を受けており遺伝子の発現が抑制されているが、胎生後期以降になるとそのプロモーター領域の脱メチル化が生じ、アストロサイトへの分化能を獲得する。]] 神経幹細胞からのアストロサイトへの分化誘導には[[白血病阻害因子]](leukemia inhibitory factor ; LIF)や[[毛様体神経栄養因子]](ciliary neurotrophic factor; CNTF)などの[[IL-6]]ファミリーとBMP2等のBMPファミリーに属するサイトカインが重要な役割を担っている<ref name="ref10"><pubmed>8893018</pubmed></ref><ref name="ref11"><pubmed>9334309</pubmed></ref>。IL-6ファミリーサイトカインは共通の受容体コンポーネント[[gp130]]のホモ2量体形成あるいはgp130とLIF受容体のヘテロ2量対形成を誘導する。この2量体形成により相互に隣接した[[Janusキナーゼ]](JAK)が自己リン酸化することで活性化され、活性化されたJAKは受容体細胞内領域のチロシン残基をリン酸化する。リン酸化されたチロシン残基には[[STAT3|signal transducer and activator of transcription 3]](STAT3)が自身の[[Src homology 2]](SH2)ドメインを介して結合し、近接したJAKによりチロシンリン酸化を受け活性化される。活性化されたSTAT3はホモダイマーを形成後、核へ移行し標的遺伝子の発現を誘導する。BMPは[[transforming growth factorβ]](TGFβ)スーパーファミリーに属するサイトカインで、Ⅰ型およびⅡ型BMP受容体が2分子ずつ会合したヘテロ4量体を介して細胞内にシグナルを伝達する。BMP-2等のリガンドの結合によって活性化された受容体は転写因子[[Smad1]]、[[Smad5]]あるいは[[Smad8]]のセリン残基をリン酸化することによってそれらを活性化する。活性化されたSmad1/5/8はSmad4とヘテロオリゴマーを形成した後に核へ移行し、標的遺伝子の転写を誘導する。これら2つのサイトカインファミリーによるシグナル伝達経路の下流で活性化されるSTAT3とSmad1は転写共役因子[[p300]]を介して複合体を形成することでアストロサイト特異的遺伝子の相乗的な転写活性化を誘導する<ref name="ref12"><pubmed>10205054</pubmed></ref>。近年、[[レチノイン酸]](RA)がアストロサイト分化誘導因子であるLIFと相乗的に働くことで、神経幹細胞のアストロサイト分化を促進することが見出された<ref name="ref13"><pubmed>19609931</pubmed></ref>。RAはヒストンアセチル化の亢進によるクロマチン構造の脱凝縮を誘導し、LIFによって活性化されたSTAT3のアストロサイト特異的遺伝子[[Glial fibrillary acidic protein]](GFAP)[[プロモーター]]への結合を増強させることにより、神経幹細胞のアストロサイト分化を促進する。<br> 神経幹細胞は胎生初期には自己複製のみを繰り返すが、胎生中期になるとニューロンへの分化能を獲得し、胎生後期以降はアストロサイトやオリゴデンドロサイトへの分化能を獲得することで多分化能をもった神経幹細胞として成熟する。このような発生段階依存的な神経幹細胞の分化制御はDNAの[[メチル化]]が重要な役割を果たしている。胎生期神経幹細胞は発生段階に応じてアストロサイト特異的遺伝子プロモーターが脱メチル化を受けることによりアストロサイト分化誘導性サイトカインに対する応答性を獲得し、胎生後期以降の神経幹細胞ではアストロサイトへの分化が可能となる(図2)<ref name="ref14"><pubmed>11740937</pubmed></ref>。また、プロニューラル遺伝子群の一つであるNuerogはニューロン分化がさかんな胎生中期に高発現しニューロン分化を促進する一方、アストロサイト分化を抑制することが報告されている<ref name="ref15"><pubmed>11239394</pubmed></ref>。NeurogはBMP刺激で活性化され形成されたSmad/p300複合体と会合して、LIFとBMP刺激によるSmad/p300/STAT3複合体形成を阻害することでアストロサイトへの分化を抑制する。 | ||
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