「メタ認知」の版間の差分

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自己の認知活動(知覚、情動、記憶、思考など)を客観的に捉え評価した上で制御することである。「認知を認知する」("cognition about cognition")、あるいは「知っていることを知っている」("knowing about knowing")とも言われる。またそれを行う心理的な能力をメタ認知能力という。  
自己の認知活動(知覚、情動、記憶、思考など)を客観的に捉え評価した上で制御することである。「認知を認知する」("cognition about cognition")、あるいは「知っていることを知っている」("knowing about knowing")とも言われる。またそれを行う心理的な能力をメタ認知能力という。  


メタ認知は様々な形でみられ、学習や問題解決において、いつどのような方略を用いるかといった知識や判断も含まれる。現在では多くの教育現場で、メタ認知能力の育成は重要な課題となっている。またメタ記憶とは、自己の記憶や記憶過程に対する客観的な認知であり、メタ認知の重要な要素のひとつである。
メタ認知は様々な形でみられ、学習や問題解決場面でいつどのような方略を用いるかといった知識や判断も含まれる。現在では多くの教育現場でメタ認知能力の育成は重要な課題となっている。またメタ記憶とは自己の記憶や記憶過程に対する客観的な認知であり、メタ認知の重要な要素のひとつである。


文化研究においてメタ認知の事例が異文化間で共通してみられることは、メタ認知が人間社会における生活あるいは生存にとって普遍的に有用な能力であることを示唆している。こうしたメタ認知能力に関する最初の記述は、ギリシャの哲学者Aristotleの著作De AnimaとParva Naturaliaまで遡る。  
文化研究においてメタ認知の事例が異文化間で共通してみられることは、メタ認知が人間社会における生活あるいは生存にとって普遍的に有用な能力であることを示唆している。こうしたメタ認知能力に関する最初の記述は、ギリシャの哲学者Aristotleの著作De AnimaとParva Naturaliaまで遡る。  
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「メタ認知とは認知過程及びその関連事物(情報やデータなど)に関する自己認知をさす。例えば、私がAよりもBの方が学習が困難であると気づいたとしたり、あるいはCが事実であると認める前にそれについて再確認しようと思いついたとしたら、それはメタ認知を行っているということだ。」  
「メタ認知とは認知過程及びその関連事物(情報やデータなど)に関する自己認知をさす。例えば、私がAよりもBの方が学習が困難であると気づいたとしたり、あるいはCが事実であると認める前にそれについて再確認しようと思いついたとしたら、それはメタ認知を行っているということだ。」  


自己の認知活動のモニタリングはメタ認知の根幹を成す。それは基本的な感覚応答から、行動目標を達成する上で複雑に組み合わされる脳内処理過程(高次認知機能)にまで及ぶ。モニタリングされた情報を意識的または無意識的に吟味することで、様々な認知活動の制御が可能となる。例えば、自分の能力と作業の難易度を照合し今後の行動に関して適切な判断を下すこと、行動目標に対して適切な課題を設定すること、状況に応じて適切な方略または道具を選ぶこと、モニタリングそのものを効率的に行うことなどである。これらの適応的な認知活動は、複雑な問題の解決にあたり、いつどのような知識に基づき行動するべきかを把握し実行する能力に支えられている。<br>  
自己の認知活動のモニタリングはメタ認知の根幹を成す。それは基本的な感覚応答から、行動目標を達成する上で複雑に組み合わされる脳内処理過程(高次認知機能)にまで及ぶ。モニタリングされた情報を意識的または無意識的に吟味することで、様々な認知活動の制御が可能となる。例えば、自分の能力と作業の難易度を照合し今後の行動に関して適切な判断を下すこと、行動目標に対して適切な課題を設定すること、状況に応じて適切な方略または道具を選ぶこと、モニタリングそのものを効率的に行うことなどである。これらの適応的な認知活動は、複雑な問題の解決にあたり、いつどのような知識に基づき行動するべきかを把握し実行する能力によって支えられている。<br>  


=== '''分類'''  ===
=== '''分類'''  ===
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メタ認知は、学習場面において思考過程を制御している思考レベルに等しい。学習課題にアプローチする方法の計画や、モニタリングした認知活動に関する理解、課題遂行状況の評価などは、メタ認知的な特徴を持つスキルといえる。  
メタ認知は、学習場面において思考過程を制御している思考レベルに等しい。学習課題にアプローチする方法の計画や、モニタリングした認知活動に関する理解、課題遂行状況の評価などは、メタ認知的な特徴を持つスキルといえる。  


同様に、課題遂行に関する動機づけもメタ認知的スキルのひとつである。内的または外的な妨害刺激を知る能力や努力を継続する能力はメタ認知的な実行機能といえる。メタ認知は学習の成功を左右するため、教育の場では学生と教師の両者がメタ認知的スキルを身につけることが重要である。広範なメタ認知的スキルを発揮する学生は、試験ではより良い成績をあげ、仕事の効率も格段にあがる。そうした自律的な学習者は、適切な「道具」を用いて学習の方略とスキルを修正し、学習の効率を高めることができる。さらにメタ認知に優れれば、学習の障壁を事前に察知し対処したり、学習の方略とスキルを変更したりすることで目標を達成する。
同様に、課題遂行に関する動機づけもメタ認知的スキルのひとつである。内的または外的な妨害刺激を知る能力や努力を継続する能力はメタ認知的な実行機能といえる。メタ認知は学習の成功を左右するため、教育の場では学生と教師の両者がメタ認知的スキルを身につけることが重要である。広範なメタ認知的スキルを発揮することで、試験や仕事における成績や効率が格段にあがる。そうした自律的な学習者は、適切な「道具」を用いて学習の方略とスキルを修正し、学習の効率を高めることができる。さらにメタ認知に優れれば、学習の障壁を事前に察知し対処したり、学習の方略とスキルを変更したりすることで目標を達成することができる。


メタ認知者は、自己の長所や短所、取り組んでいる課題の特性、役に立つ(と思われる)「道具」またはスキルを把握することができる。「道具」のレパートリーが広範なほど成功しやすく、もしその「道具」が状況に依存しない一般的特性を備えるならば、様々な学習状況において通用する。  
メタ認知者は、自己の長所や短所、取り組んでいる課題の特性、役に立つ(と思われる)「道具」またはスキルを把握することができる。「道具」のレパートリーが広範なほど成功しやすく、もしその「道具」が状況に依存しない一般的特性を備えるならば、様々な学習状況において通用する。  


メタ認知の特徴のひとつは、実行管理と方略知識である。実行管理は、計画、モニタリング、評価、思考の修正を含む。方略知識は、「何か」(事実/宣言的知識)、「いつ」や「なぜ」(条件的/文脈的知識)、「どのように」(手続き的/方法論的知識)といったことを含む。両方とも自律的な思考と学習には必要となる。<br>  
メタ認知の特徴のひとつは、実行管理と方略知識である。実行管理は、計画、モニタリング、評価、思考の修正を含む。方略知識は、「何か」(事実/宣言的知識)、「いつ」や「なぜ」(条件的/文脈的知識)、「どのように」(手続き的/方法論的知識)といったことを含む。両方とも自律的な思考と学習には必須である。<br>  


= '''メタ認知の発達'''  =
= '''メタ認知の発達'''  =


メタ認知能力と言語能力との結びつきは強く、言語能力が未発達である新生児、乳児にはメタ認知能力は備わっていないと考えられてきた。メタ認知能力の発達は、行動主体としての自己に気付くことから始まり、5、6歳頃から周囲の状況と自己の能力を考慮して起こりうる事態を予測するなど、いくつかのメタ認知的機能について成人と同様の能力が有されていることがわかった。(Flavel, 1979; Lockl &amp; Schneider, 2006, 2007; Uehara, 2011)<br>  
メタ認知能力と言語能力との結びつきは強く、言語能力が未発達である新生児、乳児にはメタ認知能力は備わっていないと考えられてきた。メタ認知能力の発達は行動主体としての自己に気付くことから始まり、5、6歳頃から周囲の状況と自己の能力を考慮して起こりうる事態を予測するなど、いくつかのメタ認知的機能について成人と同様の能力が有されていることがわかった。(Flavel, 1979; Lockl &amp; Schneider, 2006, 2007; Uehara, 2011)<br>  


=== 他の動物におけるメタ認知能力  ===
=== 他の動物におけるメタ認知能力  ===


メタ認知はサピエンスに特有の能力で、それゆえサピエンスの定義のひとつであると考えられてきた。しかし近年、マカクザルや類人猿、イルカなどが、自己の記憶知識に対する「確信度」「確かさ」の認識を持ち合わせていること、また不確実要素についてモニタリングを行っていることを示す知見が得られている。一方、鳥類のメタ認知能力に関する研究は結論に至っていない。2007年の研究でラットのメタ認知能力が報告されているが、さらなる分析ではラットは単にオペラント条件付けの法則に従ったとも考えられる。(Itakura,2007; Fujita, 2009)<br>  
メタ認知はヒトに特有の能力で、それゆえヒトの定義のひとつであると考えられてきた。しかし近年、マカクザルや類人猿、イルカなどが、自己の記憶知識に対する「確信度」「確かさ」の認識を持ち合わせていること、また不確実要素についてモニタリングを行っていることを示す知見が得られている。一方、鳥類のメタ認知能力に関する研究は結論に至っていない。2007年の研究でラットのメタ認知能力が報告されているが、さらなる分析ではラットは単にオペラント条件付けの法則に従ったとも考えられる。(Itakura,2007; Fujita, 2009)<br>  


= '''神経基盤'''  =
= '''神経基盤'''  =


脳損傷患者の症例研究では、前頭前野(prefrontal cortex)がメタ記憶あるいはメタレベルの認知過程と深く関わっていることがわかってきている。
脳損傷患者の症例研究では、前頭前野(prefrontal cortex)がメタ記憶あるいはメタレベルの認知過程と深く関わっていることが示唆されている。


課題遂行時とそれに関する二次的(メタ認知的)行動時の、神経活動あるいは人間以外の動物では個々の細胞の電気的活動を独立に記録する手法も取り入れられている。しかし、それらの手法ではメタ認知的過程に関する神経表現と行動そのものに関する神経表現の切り分けが課題となっている。<br>  
課題遂行時とそれに関する二次的(メタ認知的)行動時の、神経活動あるいは人間以外の動物では個々の細胞の電気的活動を独立に記録する手法も取り入れられている。しかし、それらの手法ではメタ認知的過程に関する神経表現と行動そのものに関する神経表現の切り分けが課題となっている。<br>  


神経精神病の症例研究において、自身の病状のある面に関する洞察と他の面に関する洞察が全く結び付かないケースがある。また、統合失調症の患者では、健常者と異なり、自省時に前内側前頭前野(anterior medial prefrontal cortex)の活動がみられず、内側前頭前野とメタ認知の関連が指摘されている。  
神経精神病の症例研究において、自身の病状のある面に関する洞察と他の面に関する洞察が全く結び付かないケースがある。また統合失調症患者のfMRI研究では、健常者と異なり、自省時に前内側前頭前野(anterior medial prefrontal cortex)の活動がみられず、内側前頭前野とメタ認知の関連が指摘されている。  


= '''研究動向'''  =
= '''研究動向'''  =
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