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Kinichinakashima (トーク | 投稿記録) 細編集の要約なし |
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英語名:Histone 独:Histon 仏:Histone | 英語名:Histone 独:Histon 仏:Histone | ||
[[真核生物]]の[[クロマチン]](染色質)の基本単位である[[ヌクレオソーム]](nucleosome)を構成する塩基性タンパク質。[[DNA]] を核内に収納する役割を担う。通常の細胞を構成しているタンパク質中でヒストンは最も多量に存在しているタンパク質であり、ヌクレオソームはほぼ等量のDNA(200bp(130kDa))とヒストンタンパク質(132kDa)により構成されている。ヒストンとDNAの相互作用は遺伝子発現の最初の段階である[[転写]]に大きな影響を及ぼす<ref>'''八杉龍一、小関治男、古谷雅樹、日高敏隆'''<br>岩波生物学辞典 第4版<br>''岩波書店'':1996</ref>。 | |||
== 分類 == | == 分類 == | ||
ヒストンはH1、H2A、H2B、H3、H4の5種類に分類される。このうちH2A、H2B、H3、H4の4種は、コアヒストンと呼ばれ、それぞれ二分子ずつが集合し、ヒストン八量体を形成する。一つのヒストン八量体には、146 bp の DNA が左巻きに約1.65回巻き付いている<ref name="ref2"><pubmed>9305837</pubmed></ref>。この構造がクロマチン構造の最小単位であるヌクレオソームである。H1 はリンカーヒストンと呼ばれ、ヌクレオソーム間の DNA に結合する。コアヒストンは比較的小さく11~15kDa、H1ヒストンはやや大きく約21kDaであり、ヌクレオソーム内ではそれぞれのコアヒストンが二分子ずつ存在するのに対して、H1ヒストンは一分子含まれる <ref>'''大場義樹'''<br>クロマチン<br>''東京大学出版会'':1986</ref>。ヒストンは正の電荷をもつ[[アミノ酸]]の含有量が高く、各ヒストンのアミノ酸残基の少なくとも20%がリジンまたはアルギニンであるため、負の電荷をもったDNA分子に強く結合する。ヒストンの塩基性アミノ酸含量またはリジン/アルギニン比に従い、H1は高リジン型ヒストン、H2A、H2Bはリジン型ヒストン、H3、H4はアルギニン型ヒストンと呼ばれている<ref>'''James D. Watson, T. A. Baker, S. P. Bell、中村桂子 監訳'''<br>ワトソン 遺伝子の分子生物学【第5版】<br>''東京電機大学出版局'':2006</ref>。 | |||
== 構造== | == 構造== | ||
[[Image:Kinichinakashima fig 1.png|thumb| | [[Image:Kinichinakashima fig 1.png|thumb|350px|'''図1.コアヒストンとヌクレオソームの分子構成'''<br>ヌクレオソームはヒストン八量体に146 bp の DNA が左巻きに約1.65回巻き付いた構造である。ヒストン八量体はコアヒストンであるH2A、H2B、H3、H4から形成され、H3-H4四量体がDNAに結合し、そこに2個のH2A・H2Bが結合することによってヌクレオソームが完成する。]] | ||
ヌクレオソームを構成するヒストンにはどのコアヒストンにも保存されている領域が存在し、ヒストン型折りたたみドメイン(histone-fold domain)と呼ばれる。この領域はヒストンの中間体の集合に関与し、間に短いループを2つ(L1、L2)もつ3つの[[αヘリックス]](α1、α2、α3)で構成されている。この領域を介して特定の組み合わせのヒストンが結合する。H3とH4はまずヘテロ二量体を形成し、この二量体同士が結合し、H3、H4各2分子からなる四量体(H3・H4)を形成する。H2A、H2Bは溶液中でヘテロ二量体は形成するが、四量体は形成しない。その後、H3-H4四量体がDNAに結合し、そこに2個のH2A・H2Bが結合することによってヌクレオソームが完成する(図1)。ヌクレオソームヒストンの構造は球形のカルボキシル末端部分と、直鎖状のアミノ末端部分(ヒストンテール)からなる<ref name="ref2" /><ref><pubmed>7479959</pubmed></ref><ref><pubmed>19217387</pubmed></ref>。 ヒストンテールのセリン、リジン、アルギニン残基などは[[リン酸化]]、[[アセチル化]]、[[メチル化]]、[[ユビキチン化]]といった化学修飾を受けることが知られている。これらの化学修飾は、遺伝子発現等、数々のクロマチン機能の制御に関わっている(機能の項参照)。ヒストンは多くの翻訳後修飾可能な残基を持っており、複数の修飾の組み合わせがそれぞれ特異的な機能を引き出すという仮説は、ヒストンコード仮説と呼ばれている<ref><pubmed>10638745</pubmed></ref><ref><pubmed> 11498575</pubmed></ref>。 | |||
== 機能 == | == 機能 == | ||
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=== DNA鎖の核内への収納 === | === DNA鎖の核内への収納 === | ||
真核生物のクロマチンの基本単位であるヌクレオソームを構成するヒストンは円柱形で、146bpのDNAがその表面に1.65回巻き付けられている<ref name="ref2" />。ヒストンは真核生物の大きなゲノムを細胞核にはめ込むのに必要な圧縮を可能にし、DNA鎖の核内への収納に関与している。最終的に約2mのDNAは10μm程度の核内に収納される。 | |||
=== クロマチンの制御 === | === クロマチンの制御 === | ||
ヒストンのアミノ末端部分は、さまざまな修飾を受けることによりクロマチンの機能を制御している。遺伝子の発現もそのうちのひとつで、このようにゲノムの塩基配列の変化を起こさずに遺伝子の機能を調節する仕組みを[[エピジェネティクス]]という。ヒストン修飾は遺伝子発現制御にとどまらずDNA修復や染色体凝縮([[有糸分裂]])、精子形成([[減数分裂]])などの多様な生物学的プロセスに関与していることが知られている<ref><pubmed>21927517</pubmed></ref>が、ここでは転写を調節するヒストン修飾の例を以下に示す。 | |||
== ヒストンの修飾(表1、表2、図2) == | == ヒストンの修飾(表1、表2、図2) == | ||
[[Image:Kinichinakashima fig 2.png|thumb| | [[Image:Kinichinakashima fig 2.png|thumb|350px|'''図2.代表的なヒストンテール上アミノ酸の修飾'''<br>それぞれのヒストンコアタンパク質におけるヒストンテールの修飾のうち代表的なものを示した。左端がN末端を示す。ヒストンテールは多様な修飾を受け、その影響は修飾の種類や部位によって決まる(表1)。ヒストン修飾は遺伝子の発現制御などに重要な役割を果たしている。]] | ||
=== ヒストンのアセチル化 === | === ヒストンのアセチル化 === | ||
ヒストンのアセチル化は細胞内の[[ヒストンアセチル基転移酵素]](Histone Acetyl Transferase:HAT)により行われる。HATはヒストン中の特定のリジン残基のアミノ基(-NH2(-NH3+))をアミド(-NHCOCH3)に変換することにより電荷を中和し、ヒストン-DNA間の結合を部分的に弱める。これにより、ヌクレオソーム同士をつないでいるDNA鎖(リンカーDNA)に対して[[転写因子]]や[[RNAポリメラーゼ]]がより結合しやすい状態になり、結果として転写が活性化される。ヒストンの脱アセチル化では、このアセチル基が[[加水分解]]により除去され、元のアミノ基に戻ることによりヒストンへのDNAの巻きつきが強められ転写が抑制される。ヒストンの脱アセチル化は[[ヒストン脱アセチル化酵素]](Histone Deacetylase:HDAC)によって行われる。 | |||
=== ヒストンのメチル化 === | === ヒストンのメチル化 === | ||
ヒストンのメチル化は主にリジン残基に見られ、ヒストンH3ではK4、K9、K27、K36、K79が、ヒストンH4ではK20がメチル化されることが知られている。これらのメチル化の数は1~3つ(mono~tri)存在し、またそれぞれリン酸化される残基の位置によって転写の活性化に関与するものと抑制に関与するものが存在する。一般的にH3K4、K36、K79は転写活性化に関与し、H3K9、K27、H4K20は転写抑制に関与している。またリジン残基だけでなくアルギニン残基もメチル化され、転写制御に関わることが報告されている<ref><pubmed>12101096</pubmed></ref><ref><pubmed>11751582</pubmed></ref>。 | |||
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== 神経系細胞分化におけるヒストンの修飾の役割 == | == 神経系細胞分化におけるヒストンの修飾の役割 == | ||
哺乳類の中枢神経系は、発生段階において共通の[[神経幹細胞]]から[[分化]]・産生される[[ニューロン]]、[[アストロサイト]]、[[オリゴデンドロサイト]]によって構成され、互いに精妙に相互作用することで高度な神経活動が維持されている<ref><pubmed>10688783</pubmed></ref>。 | |||
=== アセチル化 === | === アセチル化 === | ||
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ここに示した例以外にも多くのヒストンメチル化状態やメチル化酵素、脱メチル化酵素が脳機能や精神疾患に関わることが報告されている<ref name=ref27 /><ref name=ref28 />。 | ここに示した例以外にも多くのヒストンメチル化状態やメチル化酵素、脱メチル化酵素が脳機能や精神疾患に関わることが報告されている<ref name=ref27 /><ref name=ref28 />。 | ||
これらから、メチル化やアセチル化などのヒストン修飾は脳の発達や機能にさまざまな役割を果たしており、脳において重要な機構であるといえる。 | |||
== 関連項目 == | == 関連項目 == | ||
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<references /> | <references /> | ||
(執筆者:村尾直哉、中島欽一 担当編集委員:村上富士夫) | (執筆者:村尾直哉、中島欽一 担当編集委員:村上富士夫) |