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(以下の目次は見出しが有る場合、自動的に作成されます) | (以下の目次は見出しが有る場合、自動的に作成されます) | ||
= <br> | = <br>種類 = | ||
哺乳類の神経系にある塩素チャネルは機能的に以下の5つに大別される。 | 哺乳類の神経系にある塩素チャネルは機能的に以下の5つに大別される。 | ||
== | == 電位感受性塩素チャネル(voltage-sensitive chloride channels) == | ||
細胞膜の電位変化に伴い開口する塩素チャネルである。ClCチャネルが属する。ClC-1, -2, -Ka, Kbは形質膜に分布して実際に電位感受性塩素チャネルとして機能するが、細胞内小胞膜に存在するClC-3, -4, -5, -6, -7は、チャネルというよりは、むしろCl<sup>-</sup>/H<sup>+</sup>-交換輸送体として機能する。 | 細胞膜の電位変化に伴い開口する塩素チャネルである。ClCチャネルが属する。ClC-1, -2, -Ka, Kbは形質膜に分布して実際に電位感受性塩素チャネルとして機能するが、細胞内小胞膜に存在するClC-3, -4, -5, -6, -7は、チャネルというよりは、むしろCl<sup>-</sup>/H<sup>+</sup>-交換輸送体として機能する。 | ||
== | == カルシウム依存性塩素チャネル(calcium-activated chloride channels) == | ||
細胞内カルシウムイオン濃度の上昇によって活性化される塩素チャネルである。細胞内カルシウムイオン濃度の上昇や脱分極刺激によりチャネルの開口確率が亢進する。 代表的なカルシウム依存性塩素チャネルとしてCLCAチャネルが知られる。bestrophinファミリーやanoctamin/TMEM16ファミリーの一部、tweetyファミリーもカルシウム依存性塩素チャネルに属する。 | 細胞内カルシウムイオン濃度の上昇によって活性化される塩素チャネルである。細胞内カルシウムイオン濃度の上昇や脱分極刺激によりチャネルの開口確率が亢進する。 代表的なカルシウム依存性塩素チャネルとしてCLCAチャネルが知られる。bestrophinファミリーやanoctamin/TMEM16ファミリーの一部、tweetyファミリーもカルシウム依存性塩素チャネルに属する。 | ||
== | == CFTR(Cystic fibrosis transmembrane conductance regulator) == | ||
CFTRは構造上ABC(ATP-binding cassette)トランスポーター・スーパーファミリーに属するが、トランスポーターとしては機能せずcAMP依存性のCl<sup>-</sup>チャネルとして働く。 | CFTRは構造上ABC(ATP-binding cassette)トランスポーター・スーパーファミリーに属するが、トランスポーターとしては機能せずcAMP依存性のCl<sup>-</sup>チャネルとして働く。 | ||
== | == 容量感受性塩素チャネル (volume-sensitive chloride channels) == | ||
細胞容積の変化に伴い開口する塩素チャネルである。細胞容積調節の際、細胞膨張後の調節性容積減少(regulatory volume decrease)時に開口するチャネルであり、電気生理学的な特徴から容積感受性外向整流性(volume-sensitive outwardly rectifying, VSOR) 塩素チャネルと呼ばれるが、分子実体は明らかになっていない。ClCチャネルの一部が、このチャネルに属すると考えられてきたが、否定的な見解が多い。 | 細胞容積の変化に伴い開口する塩素チャネルである。細胞容積調節の際、細胞膨張後の調節性容積減少(regulatory volume decrease)時に開口するチャネルであり、電気生理学的な特徴から容積感受性外向整流性(volume-sensitive outwardly rectifying, VSOR) 塩素チャネルと呼ばれるが、分子実体は明らかになっていない。ClCチャネルの一部が、このチャネルに属すると考えられてきたが、否定的な見解が多い。 | ||
== | == リガンド作動性塩素チャネル == | ||
他項目(グリシン受容体、GABA受容体)を参照 | 他項目(グリシン受容体、GABA受容体)を参照 | ||
= <br> | = <br>構造 = | ||
== | == 電位依存性塩素チャネル(ClCチャネル) == | ||
ClCチャネルをコードする遺伝子は、Jentschらによりシビレエイ(学名 ''Torpedo marmorata'')の発電器官からクローニングされ、Clc-0と命名された(Jentsch et al, 1990, Nature<ref><pubmed>2174129</pubmed></ref>)。現在ほ乳類では9種類の遺伝子(ヒト:''CLCN1, CLCN2, CLCN3, CLCN4, CLCN5, CLCN6, CLCN7, CLCNKA, CLCNKB'')が同定されている。 X線結晶構造解析から同定された全てのClCチャネルの基本構造(右図)は共通し、18のセグメントで構成された複雑なトポロジーを持つ。ClCチャネルは、1つのポアをもつサブユニットタンパク質が2つ会合して二量体を形成するため、計2つのポアを有するDouble-barreledチャネルである。各ポアはイオン選択性やコンダクタンスなどの特性を保持しており、他方のポアの開閉状態に関わらず独立して開閉する。一方で2つのポアは同時にも機能しうる。真核生物のClCタンパク質のC末端には、タンパク質-タンパク質相互作用やチャネルの活性に重要な役割を持つ2つのcystathionine-&beta-synthase (CBS) ドメインが存在する。 | ClCチャネルをコードする遺伝子は、Jentschらによりシビレエイ(学名 ''Torpedo marmorata'')の発電器官からクローニングされ、Clc-0と命名された(Jentsch et al, 1990, Nature<ref><pubmed>2174129</pubmed></ref>)。現在ほ乳類では9種類の遺伝子(ヒト:''CLCN1, CLCN2, CLCN3, CLCN4, CLCN5, CLCN6, CLCN7, CLCNKA, CLCNKB'')が同定されている。 X線結晶構造解析から同定された全てのClCチャネルの基本構造(右図)は共通し、18のセグメントで構成された複雑なトポロジーを持つ。ClCチャネルは、1つのポアをもつサブユニットタンパク質が2つ会合して二量体を形成するため、計2つのポアを有するDouble-barreledチャネルである。各ポアはイオン選択性やコンダクタンスなどの特性を保持しており、他方のポアの開閉状態に関わらず独立して開閉する。一方で2つのポアは同時にも機能しうる。真核生物のClCタンパク質のC末端には、タンパク質-タンパク質相互作用やチャネルの活性に重要な役割を持つ2つのcystathionine-&beta-synthase (CBS) ドメインが存在する。 | ||
== | == カルシウム依存性塩素チャネル == | ||
=== CLCAチャネル === | === CLCAチャネル === | ||
57行目: | 57行目: | ||
ショウジョウバエ(Drosophila)の''flightless''遺伝子座に存在するTweety遺伝子のヒトホモログ遺伝子として同定されたtweetyファミリー(ヒト:''TTYH1, TTYH2, TTYH3'') もカルシウム依存的に塩化物イオンを透過させる性質を持つ。 | ショウジョウバエ(Drosophila)の''flightless''遺伝子座に存在するTweety遺伝子のヒトホモログ遺伝子として同定されたtweetyファミリー(ヒト:''TTYH1, TTYH2, TTYH3'') もカルシウム依存的に塩化物イオンを透過させる性質を持つ。 | ||
== | == CFTR == | ||
CFTRは12回膜貫通型糖タンパク質であり、6 個の疎水性膜貫通構造と 2 個の ATP 結合部(nucleotide-binding domain, NBD)および PKA によるリン酸化を受ける調節(R)ドメインの繰り返しモチーフから構成される。Rドメインがリン酸化を受けた状態でNBDの二量体化に伴ってチャネルゲートが開き、NBD二量体の解離によってチャネルゲートが閉じると考えられている。 | CFTRは12回膜貫通型糖タンパク質であり、6 個の疎水性膜貫通構造と 2 個の ATP 結合部(nucleotide-binding domain, NBD)および PKA によるリン酸化を受ける調節(R)ドメインの繰り返しモチーフから構成される。Rドメインがリン酸化を受けた状態でNBDの二量体化に伴ってチャネルゲートが開き、NBD二量体の解離によってチャネルゲートが閉じると考えられている。 | ||
= <br> | = <br>機能 = | ||
神経系において塩素チャネルは、細胞内外の塩化物イオンを電気化学的な勾配に沿って透過させることにより、細胞容積調節、静止膜電位の形成や安定化、細胞の興奮性を調節する。容積依存性塩素チャネルは、神経細胞やグリア細胞からATPやグルタミン酸、アスパラギン酸、タウリンなどの低分子物質を放出するメカニズムに関与する。塩素チャネルは、これらの調節を介して細胞周期・細胞移動・形態形成(突起伸展など)・細胞死の調節など多様な細胞機能に寄与する。 | 神経系において塩素チャネルは、細胞内外の塩化物イオンを電気化学的な勾配に沿って透過させることにより、細胞容積調節、静止膜電位の形成や安定化、細胞の興奮性を調節する。容積依存性塩素チャネルは、神経細胞やグリア細胞からATPやグルタミン酸、アスパラギン酸、タウリンなどの低分子物質を放出するメカニズムに関与する。塩素チャネルは、これらの調節を介して細胞周期・細胞移動・形態形成(突起伸展など)・細胞死の調節など多様な細胞機能に寄与する。 | ||
== | == 電位依存性塩素チャネル(ClCチャネル) == | ||
これまでに神経系で発現しチャネルとして機能することが報告されているClCチャネルの生理機能とその役割について紹介する。 | これまでに神経系で発現しチャネルとして機能することが報告されているClCチャネルの生理機能とその役割について紹介する。 | ||
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外向き整流性塩素チャネルであるClC-3は一般的にはCl<sup>-</sup>/H<sup>+</sup>-交換輸送体として機能して(小胞内にH<sup>+</sup>を蓄積して)、神経伝達物質の放出に関与することが知られる。細胞の種類によっては形質膜で塩素チャネルとして働き、神経細胞の活動を制御する可能性を示唆する報告もある(報告例:海馬神経細胞, Wang et al., 2006, Neuron)。 | 外向き整流性塩素チャネルであるClC-3は一般的にはCl<sup>-</sup>/H<sup>+</sup>-交換輸送体として機能して(小胞内にH<sup>+</sup>を蓄積して)、神経伝達物質の放出に関与することが知られる。細胞の種類によっては形質膜で塩素チャネルとして働き、神経細胞の活動を制御する可能性を示唆する報告もある(報告例:海馬神経細胞, Wang et al., 2006, Neuron)。 | ||
== | == カルシウム依存性塩素チャネル == | ||
嗅球の感覚神経の嗅毛ではカルシウム依存性塩素チャネルが、におい物質により惹起される脱分極性の電流の発生に関与することが知られる。このGタンパク質共役型受容体の刺激に伴って活性化される塩素チャネルとしてAno1とAno2が重要な役割を担う(Stephan et al, 2009, PNAS)。 近年小脳バーグマングリアからGABAを放出して小脳顆粒細胞のtonic GABA作用を生じさせる分子もbestrophinファミリーに属する塩素チャネルであることが報告された (Lee et al, 2010, Science<ref><pubmed>20929730</pubmed></ref>)。 | 嗅球の感覚神経の嗅毛ではカルシウム依存性塩素チャネルが、におい物質により惹起される脱分極性の電流の発生に関与することが知られる。このGタンパク質共役型受容体の刺激に伴って活性化される塩素チャネルとしてAno1とAno2が重要な役割を担う(Stephan et al, 2009, PNAS)。 近年小脳バーグマングリアからGABAを放出して小脳顆粒細胞のtonic GABA作用を生じさせる分子もbestrophinファミリーに属する塩素チャネルであることが報告された (Lee et al, 2010, Science<ref><pubmed>20929730</pubmed></ref>)。 | ||
== | == CFTR == | ||
脳の神経系においてCFTRの生理的な機能についてはよく分かっていない。 | 脳の神経系においてCFTRの生理的な機能についてはよく分かっていない。 | ||
== | == 容量感受性塩素チャネル == | ||
容積感受性外向整流性(VSOR) 塩素チャネルは、細胞膨張後の調節性容積減少(regulatory volume decrease)に関与する。この塩素チャネルは外向き整流性でI<sup>-</sup>の方がCl<sup>-</sup>より高いイオン透過選択性を示すが、この特性を持つ塩素チャネルの分子実体はまだ同定されていない。 | 容積感受性外向整流性(VSOR) 塩素チャネルは、細胞膨張後の調節性容積減少(regulatory volume decrease)に関与する。この塩素チャネルは外向き整流性でI<sup>-</sup>の方がCl<sup>-</sup>より高いイオン透過選択性を示すが、この特性を持つ塩素チャネルの分子実体はまだ同定されていない。 | ||
= | = 発現 = | ||
基本的に塩素チャネルは齧歯類の脳でユビキタスに発現する。ClC-2は大脳皮質、海馬、嗅球や小脳における大型ニューロンに強く発現する(Clayton et al, 1998)。ClC-3は海馬、小脳、嗅球に強く発現する(Kawasaki et al, 1994)。マウスClCaファミリーは嗅球に特徴的な強い発現がみられる(Piirsoo et al, 2009) 。 | 基本的に塩素チャネルは齧歯類の脳でユビキタスに発現する。ClC-2は大脳皮質、海馬、嗅球や小脳における大型ニューロンに強く発現する(Clayton et al, 1998)。ClC-3は海馬、小脳、嗅球に強く発現する(Kawasaki et al, 1994)。マウスClCaファミリーは嗅球に特徴的な強い発現がみられる(Piirsoo et al, 2009) 。 |
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