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Takumitsutsui (トーク | 投稿記録) 細編集の要約なし |
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==== その他 ==== | ==== その他 ==== | ||
ベンゾジアゼピン系薬は、PTSDの中核症状への効果はないとされ、単独での治療は推奨されていない<ref name="ref1" />。抗けいれん薬(気分安定薬) は、カルバマゼピン、バルプロ酸、トピラメートのオープンラベル試験で有望な結果報告がある。しかし、ティアガビンのRCTで否定的な結果だったこととラモトリギンの小規模なRCTで効果が判定できなかったことから有効性に関して一致した結論には至らず、現時点では治療薬としては推奨されていない<ref name="ref1" />。 | ベンゾジアゼピン系薬は、PTSDの中核症状への効果はないとされ、単独での治療は推奨されていない<ref name="ref1" />。抗けいれん薬(気分安定薬) は、カルバマゼピン、バルプロ酸、トピラメートのオープンラベル試験で有望な結果報告がある。しかし、ティアガビンのRCTで否定的な結果だったこととラモトリギンの小規模なRCTで効果が判定できなかったことから有効性に関して一致した結論には至らず、現時点では治療薬としては推奨されていない<ref name="ref1" />。 NMDA受容体アゴニストであるd-サイクロセリンが動物実験の結果から消去のエンハンサーであることが明らかにされており、人でも恐怖症の曝露療法の効果を増強するという報告がある。PTSDにおいてもPE療法(心理療法の項目を参照)とd-サイクロセリンの併用療法の有用性を示唆する報告がある。 | ||
=== 心理療法 === | === 心理療法 === | ||
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トラウマ焦点化認知行動療法にはPE療法(長時間曝露療法ないし持続エクスポージャー療法と訳されている:prolonged exposure therapy)、認知処理療法(cognitive processing therapy:CPT)、認知療法(cognitive therapy:CT)、子どもへのトラウマフォーカスト認知行動療法(TF-CBTと呼称している)などが含まれている。これら代表的なトラウマ焦点化認知行動療法について以下に解説する。 | トラウマ焦点化認知行動療法にはPE療法(長時間曝露療法ないし持続エクスポージャー療法と訳されている:prolonged exposure therapy)、認知処理療法(cognitive processing therapy:CPT)、認知療法(cognitive therapy:CT)、子どもへのトラウマフォーカスト認知行動療法(TF-CBTと呼称している)などが含まれている。これら代表的なトラウマ焦点化認知行動療法について以下に解説する。 | ||
===== | ===== PE療法 ===== | ||
Prolonged exposure therapy | Prolonged exposure therapy | ||
:Foaが開発したPE療法は感情処理理論に基づいたPTSDの治療法である。週1回90-120分のセッションを10-15週で、 心理教育、不安に対するための呼吸法、実生活内曝露(回避的状況に徐々に接近し馴化を図る)、イメージ曝露(トラウマ体験記憶の想起陳述)、プロセッシング(非機能的認知の修正)を行う。多数のランダム化比較試験で有効性が証明されており、飛鳥井らが行った日本国内のランダム化比較試験においても有効性が証明されている<ref><pubmed>21171135</pubmed></ref>。 | :Foaが開発したPE療法は感情処理理論に基づいたPTSDの治療法である。週1回90-120分のセッションを10-15週で、 心理教育、不安に対するための呼吸法、実生活内曝露(回避的状況に徐々に接近し馴化を図る)、イメージ曝露(トラウマ体験記憶の想起陳述)、プロセッシング(非機能的認知の修正)を行う。多数のランダム化比較試験で有効性が証明されており、飛鳥井らが行った日本国内のランダム化比較試験においても有効性が証明されている<ref><pubmed>21171135</pubmed></ref>。 | ||
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===== 認知処理療法 ===== | ===== 認知処理療法 ===== | ||
Cognitive processing therapy | Cognitive processing therapy | ||
:Resikらによって考案されたPTSDに特化した治療で、認知療法の技法に加えて、トラウマ体験内容の筆記と朗読による曝露が特徴とされる。レイプ被害者のPTSDを中心にエビデンスが蓄積され、現在はアメリカの退役軍人局でPE療法と共に推奨される治療法となっている。ランダム化比較試験でPE療法と比較して同等の治療効果が確認されている<ref><pubmed>12182270</pubmed></ref>。 | :Resikらによって考案されたPTSDに特化した治療で、認知療法の技法に加えて、トラウマ体験内容の筆記と朗読による曝露が特徴とされる。レイプ被害者のPTSDを中心にエビデンスが蓄積され、現在はアメリカの退役軍人局でPE療法と共に推奨される治療法となっている。ランダム化比較試験でPE療法と比較して同等の治療効果が確認されている<ref><pubmed>12182270</pubmed></ref>。 | ||
===== 認知療法 ===== | ===== 認知療法 ===== | ||
cognitive therapy | |||
:Ehlersらが考案した治療法である。週1回90分のセッションを12回実施する方法が標準とされるが、1週間連日集中的に行う方法もある。トラウマ体験の物語作りと想像での再体験を通じて、体験に対して現在では脅威にならない意味づけを与えるなど認知の再構成を重視した治療法である。 | :Ehlersらが考案した治療法である。週1回90分のセッションを12回実施する方法が標準とされるが、1週間連日集中的に行う方法もある。トラウマ体験の物語作りと想像での再体験を通じて、体験に対して現在では脅威にならない意味づけを与えるなど認知の再構成を重視した治療法である。 | ||
===== | ===== TF-CBT ===== | ||
:子どものPTSDに対してエビデンスが最も蓄積されているのがトラウマフォーカスト認知行動療法(TF-CBT)である。その構成要素はPRACTICEの頭文字で表されており、順に<u>P</u>sychoeducation and parenting skill(心理教育と親の役割の理解)、<u>R</u>elaxation(リラクゼーション)、<u>A</u>ffective expression and regulation(感情の表出と調整)、<u>C</u>ognitive coping(認知的な対処法)、<u>T</u>rauma narrative development and processing(トラウマナラティブと非機能的認知の修正)、<u>I</u>n vivo gradual exposure(トラウマ記憶への漸進的曝露)、<u>C</u>onjoint parent child sessions(親子合同セッション)、<u>E</u>nhancing safety and future development(安心と発達の強化)である。PE療法と比べてトラウマ記憶への曝露はゆるやかに行うことが特徴とされる。 | :子どものPTSDに対してエビデンスが最も蓄積されているのがトラウマフォーカスト認知行動療法(TF-CBT)である。その構成要素はPRACTICEの頭文字で表されており、順に<u>P</u>sychoeducation and parenting skill(心理教育と親の役割の理解)、<u>R</u>elaxation(リラクゼーション)、<u>A</u>ffective expression and regulation(感情の表出と調整)、<u>C</u>ognitive coping(認知的な対処法)、<u>T</u>rauma narrative development and processing(トラウマナラティブと非機能的認知の修正)、<u>I</u>n vivo gradual exposure(トラウマ記憶への漸進的曝露)、<u>C</u>onjoint parent child sessions(親子合同セッション)、<u>E</u>nhancing safety and future development(安心と発達の強化)である。PE療法と比べてトラウマ記憶への曝露はゆるやかに行うことが特徴とされる。 | ||
==== | ==== EMDR ==== | ||
Eye Movement Desensitization and Reprocessing (眼球運動による脱感作と再処理法) | Eye Movement Desensitization and Reprocessing (眼球運動による脱感作と再処理法) | ||
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== 疫学 == | == 疫学 == | ||
[[Image:PTSD Kessler USA.jpg|thumb|350px|'''図1.原因による有病率の違い'''<br>Kesslerらによる全米疫学調査:1995より]] 1995年にKesslerらが行った全米疫学調査<ref><pubmed>7492257</pubmed></ref>ではPTSDの生涯有病率は男性5.0%、女性10.4%、現在有病率は男性1.5%、女性3.0% | [[Image:PTSD Kessler USA.jpg|thumb|350px|'''図1.原因による有病率の違い'''<br>Kesslerらによる全米疫学調査:1995より]] 1995年にKesslerらが行った全米疫学調査<ref><pubmed>7492257</pubmed></ref>ではPTSDの生涯有病率は男性5.0%、女性10.4%、現在有病率は男性1.5%、女性3.0%だった。また、レイプなどの犯罪被害者のPTSD発症率が自然災害被災者よりも高いことが示された(右図)。 | ||
日本国内のデータでは、川上が9つの市町村の住民を対象に調査を行い、12か月有病率0.70%、生涯有病率1.27%と報告している<ref>'''川上憲人'''<br>トラウマティックイベントと心的外傷後ストレス障害のリスク:閾値下PTSDの頻度とイベントとの関連.大規模災害や犯罪被害等による精神科疾患の実態把握と介入方法の開発に関する研究<br>''平成21年度厚生労働科学研究費補助金(こころの健康科学研究事業)分担研究報告書'':17-25,2010</ref>。 | 日本国内のデータでは、川上が9つの市町村の住民を対象に調査を行い、12か月有病率0.70%、生涯有病率1.27%と報告している<ref>'''川上憲人'''<br>トラウマティックイベントと心的外傷後ストレス障害のリスク:閾値下PTSDの頻度とイベントとの関連.大規模災害や犯罪被害等による精神科疾患の実態把握と介入方法の開発に関する研究<br>''平成21年度厚生労働科学研究費補助金(こころの健康科学研究事業)分担研究報告書'':17-25,2010</ref>。 | ||
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=== 神経生理学的知見 === | === 神経生理学的知見 === | ||
PTSDの再体験、過覚醒症状は トラウマ体験に対する[[恐怖条件づけ|恐怖条件付け]]とみなすと理解しやすく、曝露療法が有効であることも恐怖条件付けの[[消去]]現象と考えると理解しやすい。恐怖条件付けを司る[[扁桃体]]と[[内側前頭前野]]との連絡についての解剖学的知見や内側前頭前野の破壊が恐怖の消去を阻害することを示した動物実験からの知見などが集積され、現在は扁桃体、内側前頭前野、[[海馬]]などを含んだ神経回路(fear-circuit)モデルが想定されている( | PTSDの再体験、過覚醒症状は トラウマ体験に対する[[恐怖条件づけ|恐怖条件付け]]とみなすと理解しやすく、曝露療法が有効であることも恐怖条件付けの[[消去]]現象と考えると理解しやすい。恐怖条件付けを司る[[扁桃体]]と[[内側前頭前野]]との連絡についての解剖学的知見や内側前頭前野の破壊が恐怖の消去を阻害することを示した動物実験からの知見などが集積され、現在は扁桃体、内側前頭前野、[[海馬]]などを含んだ神経回路(fear-circuit)モデルが想定されている(右図)。神経回路モデルに関して形態学的な研究も行われている。PTSDと診断された者の海馬体積が小さいという報告と差を認めないとする報告がある。CAPS>65の重症PTSD患者とその一卵性双生児(トラウマ体験に曝露されていない)における海馬が共に小さいことが示され、海馬体積はPTSDの病態に影響を与えている[[脆弱因子]]である可能性も示唆されている<ref><pubmed>12379862</pubmed></ref>。また、同様の一卵性双生児の研究で、PTSDの影響によるpregenual anterior cingulate cortexの体積減少の可能性も示唆されている<ref><pubmed>17825801</pubmed></ref>。 | ||
その他、PTSDがストレス反応であるとの観点からストレスホルモンについての研究がなされている。24時間血漿[[コルチゾール]]値で夜間と早朝のベースラインレベルがうつ病患者や健常対照群と比較して有意に低く、[[視床下部-下垂体-副腎皮質系]](hypothalamic-pituitary-adrenal:HPA系)機能の調節異常が示唆されている。また、デキサメタゾン抑制試験によるコルチゾール分泌の過剰抑制、リンパ球[[グルココルチコイド]][[受容体]]の数の増加と感受性亢進、および[[視床下部]]における[[コルチコトロピン放出因子]]の分泌亢進が示唆されている。 | その他、PTSDがストレス反応であるとの観点からストレスホルモンについての研究がなされている。24時間血漿[[コルチゾール]]値で夜間と早朝のベースラインレベルがうつ病患者や健常対照群と比較して有意に低く、[[視床下部-下垂体-副腎皮質系]](hypothalamic-pituitary-adrenal:HPA系)機能の調節異常が示唆されている。また、デキサメタゾン抑制試験によるコルチゾール分泌の過剰抑制、リンパ球[[グルココルチコイド]][[受容体]]の数の増加と感受性亢進、および[[視床下部]]における[[コルチコトロピン放出因子]]の分泌亢進が示唆されている。 |
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