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=== Epac  ===
=== Epac  ===


 Epac(exchange protein directly activated by cAMP)<ref><pubmed> 2825350 </pubmed></ref>は、細胞接着や細胞極性、分泌など様々な細胞機能に関与する単量体Gタンパク質の一種であるRapのグアニンヌクレオチド交換因子(guanine nucleotide exchange factor; GEF)として発見された。Epac1とEpac2の2種類のアイソフォームが存在し、さらにEpac2にはEpac2AとEpac2Bの2種のスプライスバリアントが存在する。Epac1とEpac2Bには一箇所、Epac2Aには二箇所のサイクリックAMP結合ドメインが存在し、サイクリックAMP結合によりGEF活性が上昇する。Epac1は心臓と腎臓に発現が多いが、脳を含む他の多くの組織にも偏在している。一方Epac2は脳と副腎に顕著な発現が見られる。Rap以外のEpac効果器として、R-Ras、ホスホリパーゼC、MAPキナーゼ、Akt、PI3キナーゼ等が同定されている。  
 Epac(exchange protein directly activated by cAMP)<ref><pubmed> 19912228 </pubmed></ref>は、細胞接着や細胞極性、分泌など様々な細胞機能に関与する単量体Gタンパク質の一種であるRapのグアニンヌクレオチド交換因子(guanine nucleotide exchange factor; GEF)として発見された。Epac1とEpac2の2種類のアイソフォームが存在し、さらにEpac2にはEpac2AとEpac2Bの2種のスプライスバリアントが存在する。Epac1とEpac2Bには一箇所、Epac2Aには二箇所のサイクリックAMP結合ドメインが存在し、サイクリックAMP結合によりGEF活性が上昇する。Epac1は心臓と腎臓に発現が多いが、脳を含む他の多くの組織にも偏在している。一方Epac2は脳と副腎に顕著な発現が見られる。Rap以外のEpac効果器として、R-Ras、ホスホリパーゼC、MAPキナーゼ、Akt、PI3キナーゼ等が同定されている。  


=== CNGチャネル  ===
=== CNGチャネル  ===


 CNGチャネル(cyclic nucleotide gated channel; CNG channel)[6]は、網膜光受容器と嗅覚神経細胞において発見された非選択性のカチオンチャネルで、サイクリックAMPまたはサイクリックGMPが直接結合することで開口する。嗅覚神経細胞においては、匂い分子が匂い分子受容体(Gタンパク質共役型受容体)に結合すると、Gタンパク質を介して膜貫通型アデニル酸シクラーゼが活性化され、これにより産生されたサイクリックAMPがCNGチャネルを開口させることで細胞外からNa<sup>+</sup>やCa<sup>2+</sup>が流入し、受容器電位が発生する。光・匂い受容器以外にもCNGチャネルは多くの神経細胞やグリア細胞にも発現が見られる。  
 CNGチャネル(cyclic nucleotide gated channel; CNG channel)<ref><pubmed> 12087135 </pubmed></ref>は、網膜光受容器と嗅覚神経細胞において発見された非選択性のカチオンチャネルで、サイクリックAMPまたはサイクリックGMPが直接結合することで開口する。嗅覚神経細胞においては、匂い分子が匂い分子受容体(Gタンパク質共役型受容体)に結合すると、Gタンパク質を介して膜貫通型アデニル酸シクラーゼが活性化され、これにより産生されたサイクリックAMPがCNGチャネルを開口させることで細胞外からNa<sup>+</sup>やCa<sup>2+</sup>が流入し、受容器電位が発生する。光・匂い受容器以外にもCNGチャネルは多くの神経細胞やグリア細胞にも発現が見られる。  


== サイクリックAMPシグナルの局在化機構  ==
== サイクリックAMPシグナルの局在化機構  ==


 プロテインキナーゼAの触媒サブユニットは、AKAP(A kinase anchoring protein)と総称されるタンパク質に結合することで特定の細胞内コンパートメントに局在化される[7]。AKAPはプロテインキナーゼA以外にも多くの機能タンパク質と結合することでシグナル分子複合体形成のプラットホームとなる。環状ヌクレオチドホスホジエステラーゼの多くもAKAPと結合する。これにより、サイクリックAMPシグナルの局在化が可能になると考えられている。例えば、AKAP79/150はプロテインキナーゼAをシナプス後肥厚に局在させ、シナプス後膜上のNMDA型グルタミン酸受容体、AMPA型グルタミン酸受容体、L型電位依存性Ca2+チャネル等の活性を制御することでシナプス伝達を調節する。また、AKAPの一種であるWAVE1(Wiskott-Aldrich verprolin-homology protein 1)は、神経成長円錐のアクチン骨格にプロテインキナーゼA、Rac、Arp2/3複合体などを局在化させることで細胞運動に関与する。  
 プロテインキナーゼAの触媒サブユニットは、AKAP(A kinase anchoring protein)と総称されるタンパク質に結合することで特定の細胞内コンパートメントに局在化される<ref><pubmed> 15573134 </pubmed></ref>。AKAPはプロテインキナーゼA以外にも多くの機能タンパク質と結合することでシグナル分子複合体形成のプラットホームとなる。環状ヌクレオチドホスホジエステラーゼの多くもAKAPと結合する。これにより、サイクリックAMPシグナルの局在化が可能になると考えられている。例えば、AKAP79/150はプロテインキナーゼAをシナプス後肥厚に局在させ、シナプス後膜上のNMDA型グルタミン酸受容体、AMPA型グルタミン酸受容体、L型電位依存性Ca2+チャネル等の活性を制御することでシナプス伝達を調節する。また、AKAPの一種であるWAVE1(Wiskott-Aldrich verprolin-homology protein 1)は、神経成長円錐のアクチン骨格にプロテインキナーゼA、Rac、Arp2/3複合体などを局在化させることで細胞運動に関与する。  


== 神経系におけるサイクリックAMPの作用  ==
== 神経系におけるサイクリックAMPの作用  ==


 サイクリックAMPは、発生期から成熟期に至るまでの神経細胞の多種多彩な機能の調節に関与する。以下に一部の代表例を列挙する。発生期において神経細胞の分化、生存、突起伸長を促進する神経栄養因子は、サイクリックAMP濃度上昇を促す[8]。神経極性形成過程において、サイクリックAMPが上昇した一本の神経突起は軸索に分化し、それ以外の神経突起は樹状突起に分化する[9]。ネトリン1や神経成長因子等の誘引性軸索ガイダンス因子は、成長円錐内のサイクリックAMP濃度を上昇させる[10]。成長円錐内のサイクリックAMP濃度は軸索ガイダンス因子に対する成長円錐の応答性決定に重要で、高サイクリックAMP濃度状態では成長円錐は誘引され、低サイクリックAMP濃度状態では同じガイダンス因子に対して反発を呈する。損傷を受けた成体中枢神経軸索の再生は困難であるが、サイクリックAMP濃度を薬剤により高めることで軸索再生促進および運動機能回復が見られる[11]。シナプス前終末におけるサイクリックAMP濃度上昇は神経伝達物質の放出を促進する[12]。シナプス後部において、シナプス伝達効率の長期増強に関わるAMPA型グルタミン酸受容体のシナプス後膜への挿入は、プロテインキナーゼA依存的リン酸化によって誘発される[13]。シナプス伝達効率の後期長期増強は遺伝子の転写とタンパク質合成に依存する過程であるが、この転写はプロテインキナーゼA依存的な転写因子CREBのリン酸化によって誘発される[4,14]。  
 サイクリックAMPは、発生期から成熟期に至るまでの神経細胞の多種多彩な機能の調節に関与する。以下に一部の代表例を列挙する。発生期において神経細胞の分化、生存、突起伸長を促進する神経栄養因子は、サイクリックAMP濃度上昇を促す<ref><pubmed> 10027292 </pubmed></ref>。神経極性形成過程において、サイクリックAMPが上昇した一本の神経突起は軸索に分化し、それ以外の神経突起は樹状突起に分化する<ref><pubmed> 21416623 </pubmed></ref>。ネトリン1や神経成長因子等の誘引性軸索ガイダンス因子は、成長円錐内のサイクリックAMP濃度を上昇させる<ref><pubmed> 21386859 </pubmed></ref>。成長円錐内のサイクリックAMP濃度は軸索ガイダンス因子に対する成長円錐の応答性決定に重要で、高サイクリックAMP濃度状態では成長円錐は誘引され、低サイクリックAMP濃度状態では同じガイダンス因子に対して反発を呈する。損傷を受けた成体中枢神経軸索の再生は困難であるが、サイクリックAMP濃度を薬剤により高めることで軸索再生促進および運動機能回復が見られる<ref><pubmed> 17720160 </pubmed></ref>。シナプス前終末におけるサイクリックAMP濃度上昇は神経伝達物質の放出を促進する<ref><pubmed> 16183914 </pubmed></ref>。シナプス後部において、シナプス伝達効率の長期増強に関わるAMPA型グルタミン酸受容体のシナプス後膜への挿入は、プロテインキナーゼA依存的リン酸化によって誘発される<ref><pubmed> 15013227 </pubmed></ref>。シナプス伝達効率の後期長期増強は遺伝子の転写とタンパク質合成に依存する過程であるが、この転写はプロテインキナーゼA依存的な転写因子CREBのリン酸化によって誘発される<ref><pubmed> 20223527 </pubmed></ref><ref><pubmed> 15803158 </pubmed></ref>。  


== 関連項目  ==
== 関連項目  ==
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