「Signal Transducers and Activator of Transcription 3」の版間の差分

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== STAT3の構造と活性化のメカニズム ==
== STAT3の構造と活性化のメカニズム ==


 まず、図1にSTAT3の構造を示す。STAT3は770アミノ酸残基から構成され、DNA結合ドメイン、SH2(src homology 2)ドメイン、リン酸化を受ける705番チロシンと727番セリンを有する。免疫系に作用するサイトカインとして同定されたIL-6ファミリーサイトカイン(interleukin-6(IL-6)、interleukin-11(IL-11)、oncostatin M、白血球遊走阻止因子Leukemia Inhibitory Factor(LIF)、毛様体神経栄養因子Ciliary Neurotrophic Factor(CNTF)などが含まれる<ref name="ref4"><pubmed> 11820727 </pubmed></ref>)は細胞膜上のサイトカイン受容体複合体中のサイトカイン特異的結合鎖と結合することで、膜たんぱく質glyco protein(gp130)を含む信号伝達鎖の二量体化がおこる(図2)。gp130はIL-6ファミリーサイトカイン共通かつ必須の信号伝達因子である。その後、信号伝達鎖の細胞内領域に会合するJAKが活性化され、信号伝達鎖の細胞内領域中のチロシン残基をリン酸化する。リン酸化されたチロシン残基に、転写因子STAT3が自身のSH2ドメインを介して会合、近接したJAKによりチロシンリン酸化(チロシン705)を受けることで活性化する<ref><pubmed> 9685167 </pubmed></ref>。チロシンリン酸化されたSTAT3分子はホモ二量体あるいは異なるSTATファミリー分子間でヘテロ二量体を形成し核へ移行した後、目的遺伝子の転写を制御する。JAK/STAT3経路はIL-6ファミリーやinsulin-like growth factor-1 (IGF-1) など複数のサイトカインや増殖因子の刺激により活性化することが知られている<ref name="ref1"><pubmed> 10486560 </pubmed></ref><ref name="ref2"><pubmed> 22772901 </pubmed></ref><ref name="ref3"><pubmed> 15998644 </pubmed></ref>
 免疫系に作用するサイトカインとして同定されたinterleukin-6(IL-6)は、信号伝達に必須な受容体コンポーネントとして膜タンパク質glyco protein(gp130)を共通に利用するIL-6ファミリーサイトカインの一つである。IL-6ファミリーサイトカインは他にも、interleukin-11(IL-11)、oncostatin M、Leukemia Inhibitory Factor(LIF)、Ciliary Neurotrophic Factor(CNTF)などが含まれる<ref name="ref4"><pubmed> 11820727 </pubmed></ref>)。IL-6ファミリーサイトカインは細胞膜上のサイトカイン受容体複合体中のサイトカイン特異的結合鎖と結合することで、gp130を含む信号伝達鎖の二量体化がおこる(図2)。gp130はIL-6ファミリーサイトカイン共通かつ必須の信号伝達因子である。その後、信号伝達鎖の細胞内領域に会合するJAKが活性化され、信号伝達鎖の細胞内領域中のチロシン残基をリン酸化する。リン酸化されたチロシン残基に、転写因子STAT3が自身のSH2ドメインを介して会合、近接したJAKによりチロシンリン酸化(チロシン705)を受けることで活性化する<ref><pubmed> 9685167 </pubmed></ref>。チロシンリン酸化されたSTAT3分子はホモ二量体あるいは異なるSTATファミリー分子間でヘテロ二量体を形成し核へ移行した後、目的遺伝子の転写を制御する。JAK/STAT3経路はIL-6ファミリーやinsulin-like growth factor-1 (IGF-1) など複数のサイトカインや増殖因子の刺激により活性化することが知られている<ref name="ref1"><pubmed> 10486560 </pubmed></ref><ref name="ref2"><pubmed> 22772901 </pubmed></ref><ref name="ref3"><pubmed> 15998644 </pubmed></ref>。図1にSTAT3の構造を示す。マウスSTAT3は770アミノ酸残基から構成され、DNA結合ドメインやリン酸化チロシン残基に結合するSH2(src homology 2)ドメインを持つ。またリン酸化を受けることでSTAT3の活性に関わる705番目のチロシンと727番目のセリンを有する。


== 神経系での働き①:脳内におけるアストロサイト分化誘導  ==
== 神経系での働き①:脳内におけるアストロサイト分化誘導  ==


 IL-6ファミリーサイトカイン刺激によりSTAT3ホモ二量体は転写活性化因子としてグリア線維性酸性タンパク質glial fibrillary acidic protein (GFAP)のプロモーターに結合し、転写を促進する。GFAPはアストロサイトで特異的に発現するタンパク質であり、これまで神経幹細胞Neural stem cell (NSC) の培養系にIL-6ファミリーサイトカインを添加すると、JAK/STAT3経路を活性化することでアストロサイトへの分化が促進されることが明らかとなっている(図3)<ref name="ref4" /><ref name="ref1" />。また、STAT3をシグナル経路下流の転写因子とするIL-6ファミリーサイトカインとSmadをシグナル経路下流の転写因子とするbone morphogenetic protein 2 (BMP2)などのサイトカイン群(TGF-βスーパーファミリー)の両者は別々の受容体システムを介し、互いに協調的にクロストークして相乗的アストロサイト分化誘導<ref><pubmed> 10205054 </pubmed></ref>することが明らかにされている。転写活性化の補助的役割を果たす核内転写共役因子p300がサイトカイン刺激に応答して、自身のN末端側を二量体化したSTAT3と、自身のC末端側をヘテロオリゴマー化したsmad1と、それぞれ同時に結合しSTAT3/p300/smad1複合体が形成される。これにより二種類サイトカインシグナルが核内で統合され、目的遺伝子GFAPの相乗的発現が起こる。
 IL-6ファミリーサイトカインの刺激により活性化したSTAT3は転写活性化因子としてグリア線維性酸性タンパク質glial fibrillary acidic protein (GFAP)のプロモーターに結合し、転写を促進する。GFAPはアストロサイトで特異的に発現するタンパク質であり、これまで神経幹細胞Neural stem cell (NSC) の培養系にIL-6ファミリーサイトカインを添加すると、JAK/STAT3経路を活性化することでアストロサイトへの分化が促進されることが明らかとなっている(図3)<ref name="ref4" /><ref name="ref1" />。また、STAT3をシグナル経路下流の転写因子とするIL-6ファミリーサイトカインとSmadをシグナル経路下流の転写因子とする骨形成因子bone morphogenetic protein (BMP)群(TGF-βスーパーファミリー)の両者は別々の受容体システムを介し、相乗的にアストロサイトの分化を誘導<ref><pubmed> 10205054 </pubmed></ref>することが明らかにされている。そのメカニズムとして転写活性化の補助的役割を果たす核内転写共役因子p300がサイトカイン刺激に応答して、二量体化したSTAT3のN末端と、ヘテロオリゴマー化したsmad1のC末端と、それぞれ同時に結合しSTAT3/p300/smad1複合体が形成される。これにより二種類サイトカインシグナルが核内で統合され、目的遺伝子GFAPの相乗的発現が起こる。


== 神経系での働き②:神経幹細胞増殖制御 ==
== 神経系での働き②:神経幹細胞増殖制御 ==


 通常のSTAT3遺伝子欠損(ノックアウト, KO)マウスは発生の比較的初期に死に至るので、マウス脳内におけるSTAT3 KOの影響の解析は難しい<ref><pubmed> 9108058 </pubmed></ref>。そこで、神経系細胞特異的にSTAT3遺伝子を欠損(コンディショナルノックアウト, cKO)するトランスジェニックマウスを用いて解析した結果、STAT3 cKOマウスの海馬歯状回において、NSCの数が、野生型マウスに比べ減少していることが明らかになった。またニューロンに対する栄養因子活性を有するCNTFはIL-6ファミリーサイトカインの一因であり、gp130を介したシグナル伝達によりNSCの自己増殖を制御するという報告がなされている<ref><pubmed> 17311007 </pubmed></ref><ref><pubmed> 1542794 </pubmed></ref><ref><pubmed> 8390097 </pubmed></ref>。また、CNTF KOマウスの歯状回で、NSCの数が野生型マウスと比較して減少しているというSTAT3 cKOマウスと類似の結果が得られたことから、CNTFはサイトカイン受容体と結合し、下流のJAK/STAT3経路を活性化することで、NSCの自己増殖を制御することが示唆された><ref><pubmed> 19023034 </pubmed></ref>。
 通常のSTAT3遺伝子欠損(ノックアウト, KO)マウスは発生の比較的初期に死に至るので、マウス脳内におけるSTAT3 KOの影響の解析は難しい<ref><pubmed> 9108058 </pubmed></ref>。そこで、神経系細胞特異的にSTAT3遺伝子を欠損(コンディショナルノックアウト, cKO)するトランスジェニックマウスを用いて解析した結果、STAT3 cKOマウスの海馬歯状回において、NSCの数が、野生型マウスに比べ減少していることが明らかになった<ref name="ref5"><pubmed> 19023034 </pubmed></ref>。またニューロンに対して栄養因子として作用するCNTFは、gp130を介したシグナル伝達によりNSCの自己増殖を制御するという報告がなされている<ref><pubmed> 17311007 </pubmed></ref><ref><pubmed> 1542794 </pubmed></ref><ref><pubmed> 8390097 </pubmed></ref>。さらに、CNTF KOマウスの歯状回で、NSCの数が野生型マウスと比較して減少しているというSTAT3 cKOマウスと類似の結果が得られたことから、CNTFは受容体と結合し、下流のJAK/STAT3経路を活性化することで、NSCの自己増殖を制御すると考えられている<ref name="ref5" />。


== 神経系での働き③:てんかん発作誘導性神経細胞死における神経保護作用 ==
== 神経系での働き③:てんかん発作誘導性神経細胞死における神経保護作用 ==
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