「パルミトイル化」の版間の差分

ナビゲーションに移動 検索に移動
7行目: 7行目:
 タンパク質の脂質修飾は、脂質付加による疎水性上昇効果から細胞質タンパク質の細胞膜への輸送、膜タンパク質の機能性膜ドメインへの側方輸送、タンパク質-脂質相互作用などにおいて重要な役割を果たす。脂質修飾は主に4つに分類され、1)脂肪酸[[wikipedia:ja:アシル化|アシル化]](fatty acylation)、2)[[wikipedia:ja:プレニル化|プレニル化]](prenylation)、3)[[wikipedia:ja: グリコシルホスファチジルイノシトール|グリコシルホスファチジルイノシトール]](GPI)化(glypiation)、および4) [[wikipedia:ja:コレステロール|コレステロール]]化(cholesteroylation)である。''S''-パルミトイル化は脂肪酸アシル化修飾の一つであり、''N''-[[ミリストイル化]](''N''-myristoylation)とともに最も主要な脂質修飾である<ref><pubmed>17892486</pubmed></ref>。''S''-パルミトイル化は可逆的な[[翻訳後修飾]]であるのに対し、''N''-ミリストイル化は不可逆的な共翻訳時修飾であり、両者は協調的に機能することが多い(詳しくはミリストイル化の項を参照されたい)。
 タンパク質の脂質修飾は、脂質付加による疎水性上昇効果から細胞質タンパク質の細胞膜への輸送、膜タンパク質の機能性膜ドメインへの側方輸送、タンパク質-脂質相互作用などにおいて重要な役割を果たす。脂質修飾は主に4つに分類され、1)脂肪酸[[wikipedia:ja:アシル化|アシル化]](fatty acylation)、2)[[wikipedia:ja:プレニル化|プレニル化]](prenylation)、3)[[wikipedia:ja: グリコシルホスファチジルイノシトール|グリコシルホスファチジルイノシトール]](GPI)化(glypiation)、および4) [[wikipedia:ja:コレステロール|コレステロール]]化(cholesteroylation)である。''S''-パルミトイル化は脂肪酸アシル化修飾の一つであり、''N''-[[ミリストイル化]](''N''-myristoylation)とともに最も主要な脂質修飾である<ref><pubmed>17892486</pubmed></ref>。''S''-パルミトイル化は可逆的な[[翻訳後修飾]]であるのに対し、''N''-ミリストイル化は不可逆的な共翻訳時修飾であり、両者は協調的に機能することが多い(詳しくはミリストイル化の項を参照されたい)。


 ''S''-パルミトイル化は16炭素鎖飽和脂肪酸のパルミチン酸(C16)がタンパク質のシステイン残基チオール(SH基)にチオエステル結合を介して付加する(図1)。パルミチン酸が一般的であるが、他にも[[wikipedia:ja:ミリスチン酸|ミリスチン酸]](C14)、[[wikipedia:ja:ステアリン酸|ステアリン酸]](C18)、その他[[長鎖脂肪酸]]が付加する場合もあり、総称して''S''-アシル化(''S''-acylation)と呼ぶこともある。また、パルミチン酸が末端[[wikipedia:ja:アミノ基|アミノ基]]や[[wikipedia:ja:水酸基|水酸基]]を介してそれぞれ[[wikipedia:ja:アミド結合|アミド結合]](''N''-パルミトイル化)、[[wikipedia:ja:エステル結合|エステル結合]](''O''-パルミトイル化)で付加するタンパク質も存在するが、''S''-パルミトイル化とは責任酵素が異なる。本稿では、以後主に''S''-パルミトイル化について概説する。
 ''S''-パルミトイル化は16炭素鎖飽和脂肪酸のパルミチン酸(C16)がタンパク質のシステイン残基チオール(SH基)にチオエステル結合を介して付加する(図1)。パルミチン酸が一般的であるが、他にも[[wikipedia:ja:ミリスチン酸|ミリスチン酸]](C14)、[[wikipedia:ja:ステアリン酸|ステアリン酸]](C18)、その他[[wikipedia:ja:長鎖脂肪酸|長鎖脂肪酸]]が付加する場合もあり、総称して''S''-アシル化(''S''-acylation)と呼ぶこともある。また、パルミチン酸が末端[[wikipedia:ja:アミノ基|アミノ基]]や[[wikipedia:ja:水酸基|水酸基]]を介してそれぞれ[[wikipedia:ja:アミド結合|アミド結合]](''N''-パルミトイル化)、[[wikipedia:ja:エステル結合|エステル結合]](''O''-パルミトイル化)で付加するタンパク質も存在するが、''S''-パルミトイル化とは責任酵素が異なる。本稿では、以後主に''S''-パルミトイル化について概説する。


 ''S''-パルミトイル化脂質修飾は1970年代に[[wikipedia:ja:シンドビスウイルス|シンドビスウイルス]]の[[wikipedia:ja:糖タンパク質|糖タンパク質]]と脂質の相互作用解析を目指した研究からその存在が明らかになった。[<sup>3</sup>H]-パルミチン酸で処理したシンドビスウイルスタンパク質は加熱変性処理を行っても両者の解離が見られず、パルミチン酸の[[wikipedia:ja:共有結合|共有結合]]性修飾が示唆された。パルミチン酸付加物はチオエステル切断試薬である[[wikipedia:ja:ヒドロキシルアミン|ヒドロキシルアミン]](NH<sub>2</sub>OH)で解離することが分かり、システインのチオールを介したチオエステル結合であることが明らかになった<ref><pubmed>287008</pubmed></ref>。その後、ウイルスタンパク質に限らず[[Ras]]や[[三量体GTP結合タンパク質]]αサブユニット(Gα)、種々の膜タンパク質が''S''-パルミトイル化されることが報告された。パルミトイル化反応は可逆的であり、パルミトイル化と脱パルミトイル化のバランスにより、基質タンパク質のパルミトイル化レベルが規定される。このパルミトイルサイクルは、細胞においてはリン酸化などと同様に、外界刺激に反応して、動的に制御されることが知られている。たとえば、Gα<sub>s</sub>のパルミトイル化レベルは、共役する受容体の活性化により大きく変動する<ref><pubmed>7912657</pubmed></ref>。パルミトイルサイクルは外界刺激依存的にタンパク質の局在や機能を動的に制御する重要な修飾であることが予想される。  
 ''S''-パルミトイル化脂質修飾は1970年代に[[wikipedia:ja:シンドビスウイルス|シンドビスウイルス]]の[[wikipedia:ja:糖タンパク質|糖タンパク質]]と脂質の相互作用解析を目指した研究からその存在が明らかになった。[<sup>3</sup>H]-パルミチン酸で処理したシンドビスウイルスタンパク質は加熱変性処理を行っても両者の解離が見られず、パルミチン酸の[[wikipedia:ja:共有結合|共有結合]]性修飾が示唆された。パルミチン酸付加物はチオエステル切断試薬である[[wikipedia:ja:ヒドロキシルアミン|ヒドロキシルアミン]](NH<sub>2</sub>OH)で解離することが分かり、システインのチオールを介したチオエステル結合であることが明らかになった<ref><pubmed>287008</pubmed></ref>。その後、ウイルスタンパク質に限らず[[Ras]]や[[三量体GTP結合タンパク質]]αサブユニット(Gα)、種々の膜タンパク質が''S''-パルミトイル化されることが報告された。パルミトイル化反応は可逆的であり、パルミトイル化と脱パルミトイル化のバランスにより、基質タンパク質のパルミトイル化レベルが規定される。このパルミトイルサイクルは、細胞においてはリン酸化などと同様に、外界刺激に反応して、動的に制御されることが知られている。たとえば、Gα<sub>s</sub>のパルミトイル化レベルは、共役する受容体の活性化により大きく変動する<ref><pubmed>7912657</pubmed></ref>。パルミトイルサイクルは外界刺激依存的にタンパク質の局在や機能を動的に制御する重要な修飾であることが予想される。  

案内メニュー