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== 後天的に獲得された情動系神経回路 ==
== 後天的に獲得された情動系神経回路 ==
[[Image:情動系神経回路2.png|thumb|300px|'''図2. 音刺激をCSとした恐怖の古典的条件づけに介在する神経経路'''(<ref name=ref3><pubmed>22036561</pubmed></ref>を改変)<br>Abbreviations: LAd, the dorsal subnucleus in the lateral nucleus of the amygdala; LAvl, the ventrolateral subnucleus in the lateral nucleus of the amygdala; LAm, the medial subnucleus in the lateral nucleus of the amygdala; ICM, intercalated cell masses.]]
[[Image:情動系神経回路3.png|thumb|300px|'''図3. 恐怖の古典的条件づけに介在する連合学習・記憶を担うシナプスの可塑性の分子メカニズムに関する仮説'''(<ref name=ref3 />を改変)<br>Abbreviations: AC, adenyl cyclase; AKAP, A-kinase anchoring protein; Arc, activity-regulated cytoskeletal-associated protein;β-AR, β-adrenergic receptor; BDNF, brain-derived neurotrophic factor; Ca2+, calcium; CaMKⅡ, Ca2+/calmodulin (Cam)-dependent protein kinase II; CREB, cAMP response element (CRE) binding protein; EGR-1, early growth response gene 1; GluA1, glutamate AMPA receptor subunit 1; GluA2/3, glutamate AMPA receptor subunit 2 and 3 heteromer; IP3, inositol 1,4,5-triphosphate; MAPK, mitogen-activated protein kinase; mGluR, metabotropic glutamate receptor; mTOR, mammalian target of rapamycin; NF-kB, nuclear factor κ light-chain enhancer of activated B cells; NMDAR, N-methyl-d-aspartate glutamate receptor; NO, nitric oxide; NOS, nitric oxide synthase; NSF, N-ethylmaleimide- sensitive factor; Pl3-K, phosphatidylinositol-3 kinase; PKA, protein kinase A; PKC, protein kinase C; PKG, cGMP-dependent protein kinase; PKMζ, protein kinase Mζ; RNA, ribonucleic acid; TrkB, tyrosine kinase B; VGCC, voltage-gated calcium channel.]]


 情動は生存に適応的な機能を有していると考えられている。たとえば、危険な状況に遭遇した時に、恐怖が喚起されることによって逃走や闘争のための身体反応の準備が整い、適応的にその状況に対処することができる。しかしながら、たいていの人々が恐くもなんともない事物に対して恐怖を示したり、状況に即さない過剰な情動の喚起は身体的な消耗を引き起こし、適切な社会生活を行うことに支障を来たすことになる。このような情動異常に介在する神経回路を明らかにするために、もともと恐怖反応を示さなかった刺激に対して後天的に恐怖反応を引き起こす恐怖の古典的条件づけという手続きを実験動物に行い、後天的に獲得された恐怖に介在する神経回路の研究が進められている。このような研究は心的外傷後ストレス障害(post-traumatic stress disorder; PTSD)などの後天的な感情異常発症の脳内メカニズムの解明に有効な手段の1つと考えられている。
 情動は生存に適応的な機能を有していると考えられている。たとえば、危険な状況に遭遇した時に、恐怖が喚起されることによって逃走や闘争のための身体反応の準備が整い、適応的にその状況に対処することができる。しかしながら、たいていの人々が恐くもなんともない事物に対して恐怖を示したり、状況に即さない過剰な情動の喚起は身体的な消耗を引き起こし、適切な社会生活を行うことに支障を来たすことになる。このような情動異常に介在する神経回路を明らかにするために、もともと恐怖反応を示さなかった刺激に対して後天的に恐怖反応を引き起こす恐怖の古典的条件づけという手続きを実験動物に行い、後天的に獲得された恐怖に介在する神経回路の研究が進められている。このような研究は心的外傷後ストレス障害(post-traumatic stress disorder; PTSD)などの後天的な感情異常発症の脳内メカニズムの解明に有効な手段の1つと考えられている。


=== 恐怖の古典的条件づけ ===
=== 恐怖の古典的条件づけ ===
[[Image:情動系神経回路2.png|thumb|300px|'''図2. 音刺激をCSとした恐怖の古典的条件づけに介在する神経経路<br>(Johansen et al.,2011を改変)'''<br>Abbreviations: LAd, the dorsal subnucleus in the lateral nucleus of the amygdala; LAvl, the ventrolateral subnucleus in the lateral nucleus of the amygdala; LAm, the medial subnucleus in the lateral nucleus of the amygdala; ICM, intercalated cell masses.]]
[[Image:情動系神経回路3.png|thumb|300px|'''図3. 恐怖の古典的条件づけに介在する連合学習・記憶を担うシナプスの可塑性の分子メカニズムに関する仮説<br>(Johansen et al.,2011を改変)'''<br>Abbreviations: AC, adenyl cyclase; AKAP, A-kinase anchoring protein; Arc, activity-regulated cytoskeletal-associated protein;β-AR, β-adrenergic receptor; BDNF, brain-derived neurotrophic factor; Ca2+, calcium; CaMKⅡ, Ca2+/calmodulin (Cam)-dependent protein kinase II; CREB, cAMP response element (CRE) binding protein; EGR-1, early growth response gene 1; GluA1, glutamate AMPA receptor subunit 1; GluA2/3, glutamate AMPA receptor subunit 2 and 3 heteromer; IP3, inositol 1,4,5-triphosphate; MAPK, mitogen-activated protein kinase; mGluR, metabotropic glutamate receptor; mTOR, mammalian target of rapamycin; NF-kB, nuclear factor κ light-chain enhancer of activated B cells; NMDAR, N-methyl-d-aspartate glutamate receptor; NO, nitric oxide; NOS, nitric oxide synthase; NSF, N-ethylmaleimide- sensitive factor; Pl3-K, phosphatidylinositol-3 kinase; PKA, protein kinase A; PKC, protein kinase C; PKG, cGMP-dependent protein kinase; PKMζ, protein kinase Mζ; RNA, ribonucleic acid; TrkB, tyrosine kinase B; VGCC, voltage-gated calcium channel.]]
 
 
 この手続きでは、音や光などそれ自体では恐怖反応を引き起こさない中性的な刺激(条件刺激conditioned stimulus)と電気ショックなどの恐怖刺激(無条件刺激unconditioned stimulus)を時間的に関連づけて呈示する(対呈示)。CSに対して実験動物が恐怖を獲得したかどうかは、CSの呈示に対して恐怖反応を示すかどうかを行動指標を用いて確かめる。このことから、恐怖の古典的条件づけの獲得には恐怖反応の表出とCS-USの連合学習・記憶という2つの側面が内在している。神経細胞レベルでは、CS-USの連合学習・記憶には脳内で新たなシナプス神経経路の形成・維持を担う学習・記憶機構が関与し、恐怖反応の表出には生得的に備わっている脳内のハードウエア(神経経路)が関与していると考えられている。すなわち、恐怖の古典的条件づけに基づく学習・記憶機能により、CSに関する情報処理経路と恐怖反応の表出に関与する神経経路が繋がり、その結果、CSを呈示しただけで恐怖反応が起こるようになると考えられる。
 この手続きでは、音や光などそれ自体では恐怖反応を引き起こさない中性的な刺激(条件刺激conditioned stimulus)と電気ショックなどの恐怖刺激(無条件刺激unconditioned stimulus)を時間的に関連づけて呈示する(対呈示)。CSに対して実験動物が恐怖を獲得したかどうかは、CSの呈示に対して恐怖反応を示すかどうかを行動指標を用いて確かめる。このことから、恐怖の古典的条件づけの獲得には恐怖反応の表出とCS-USの連合学習・記憶という2つの側面が内在している。神経細胞レベルでは、CS-USの連合学習・記憶には脳内で新たなシナプス神経経路の形成・維持を担う学習・記憶機構が関与し、恐怖反応の表出には生得的に備わっている脳内のハードウエア(神経経路)が関与していると考えられている。すなわち、恐怖の古典的条件づけに基づく学習・記憶機能により、CSに関する情報処理経路と恐怖反応の表出に関与する神経経路が繋がり、その結果、CSを呈示しただけで恐怖反応が起こるようになると考えられる。
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===認知的情報処理経路モデル===
===認知的情報処理経路モデル===


[[Image:情動系神経回路4.png|thumb|300px|'''図4.恐怖の古典的条件づけにおける認知的情報処理経路のモデル'''<br>(McNally, Johansen, & Blair, 2011に基づいて作成) ]]
[[Image:情動系神経回路4.png|thumb|300px|'''図4.恐怖の古典的条件づけにおける認知的情報処理経路のモデル'''(<ref name=ref5><pubmed>21549434</pubmed></ref>に基づいて作成) ]]


 近年、これまで学習心理学の分野において構築されてきた古典的条件づけの学習理論に対応する神経基盤をも含めた後天的情動系神経経路が詳細に描かれつつあり、ヒトの後天的な感情異常の治療に対して認知的にアプローチできる可能性が示されている。情動の神経科学者が学習理論に注目している点は、実際に呈示されたUS強度と、被験体が予期しているUS強度である。たとえば、レスコーラ-ワグナーモデル(Rescorla-Wagner model)では、あるCSとUSの対呈示試行における条件づけ強度の変化は、実際のUSの強度とCSに対して条件づけられた総強度(予期的US強度)の差(error signal)に、CSの明瞭度などの定数をかけた値として定義される。error signalがプラスの時には興奮性の条件づけ強度の変化が生じ、マイナスのときには制止性の変化が生じる。神経生理学的には、error signalがプラスの時には神経細胞は発火頻度を増加し、マイナスの時にはその頻度は減少すると考えられている。CSとUSの連合学習・記憶は扁桃体外側核ニューロンにおいて生じるシナプスの可塑性が担っていることは前述した。このことから、扁桃体外側核はerror signalの情報を受け取り、それらの情報によってシナプスの可塑性が調節されると考えられる。これまでの研究により、error signalの情報はフリージングなどの表出に関係している中脳中心灰白質から生じていると考えられている。たとえば、音CSとショックUSの対呈示が進むにつれて、外側核と中脳中心灰白質のUSに対する応答強度は減少したが、条件性恐怖反応の表出は増加したという結果が報告されている。また、十分にCSとUSの対呈示訓練を受けたラットにおいて、外側核と中脳中心灰白質のUSに対する応答強度は、CSによってシグナルされたときよりもシグナルされなかったときの方が強かった。これらの結果は、外側核と中脳中心灰白質のUSに対する応答の減少が、USの予期の形成とerror signalの減少によって生じたことを示唆する。中脳中心灰白質は扁桃体外側核に直接の神経投射をしていないため、神経解剖学的知見に基づいて、中脳中心灰白質からいくつかの脳部位を経由して扁桃体外側核にerror signalの情報が伝達される仮説が提唱されている。図4は予期的US強度やerror signalなどの情報の処理回路として提唱されているモデルである。今後、この認知的情報処理経路モデルの実証的研究が進むと思われるが、実証された知見は、感情異常の治療に対する認知行動療法のエビデンスとして活用が期待される。
 近年、これまで学習心理学の分野において構築されてきた古典的条件づけの学習理論に対応する神経基盤をも含めた後天的情動系神経経路が詳細に描かれつつあり、ヒトの後天的な感情異常の治療に対して認知的にアプローチできる可能性が示されている。情動の神経科学者が学習理論に注目している点は、実際に呈示されたUS強度と、被験体が予期しているUS強度である。たとえば、レスコーラ-ワグナーモデル(Rescorla-Wagner model)では、あるCSとUSの対呈示試行における条件づけ強度の変化は、実際のUSの強度とCSに対して条件づけられた総強度(予期的US強度)の差(error signal)に、CSの明瞭度などの定数をかけた値として定義される。error signalがプラスの時には興奮性の条件づけ強度の変化が生じ、マイナスのときには制止性の変化が生じる。神経生理学的には、error signalがプラスの時には神経細胞は発火頻度を増加し、マイナスの時にはその頻度は減少すると考えられている。CSとUSの連合学習・記憶は扁桃体外側核ニューロンにおいて生じるシナプスの可塑性が担っていることは前述した。このことから、扁桃体外側核はerror signalの情報を受け取り、それらの情報によってシナプスの可塑性が調節されると考えられる。これまでの研究により、error signalの情報はフリージングなどの表出に関係している中脳中心灰白質から生じていると考えられている。たとえば、音CSとショックUSの対呈示が進むにつれて、外側核と中脳中心灰白質のUSに対する応答強度は減少したが、条件性恐怖反応の表出は増加したという結果が報告されている。また、十分にCSとUSの対呈示訓練を受けたラットにおいて、外側核と中脳中心灰白質のUSに対する応答強度は、CSによってシグナルされたときよりもシグナルされなかったときの方が強かった。これらの結果は、外側核と中脳中心灰白質のUSに対する応答の減少が、USの予期の形成とerror signalの減少によって生じたことを示唆する。中脳中心灰白質は扁桃体外側核に直接の神経投射をしていないため、神経解剖学的知見に基づいて、中脳中心灰白質からいくつかの脳部位を経由して扁桃体外側核にerror signalの情報が伝達される仮説が提唱されている。図4は予期的US強度やerror signalなどの情報の処理回路として提唱されているモデルである。今後、この認知的情報処理経路モデルの実証的研究が進むと思われるが、実証された知見は、感情異常の治療に対する認知行動療法のエビデンスとして活用が期待される。


===扁桃体中心核もCSとUSの連合学習・記憶に関与===  
=== 扁桃体中心核もCSとUSの連合学習・記憶に関与 ===


 最近、扁桃体中心核がCSとUSの連合にも関与する可能性を示唆する研究が報告されている。
 最近、扁桃体中心核がCSとUSの連合にも関与する可能性を示唆する研究が報告されている。


 Wilensky, Schafe, Kristensen, and LeDoux(2006)は、中心核にGABAAのアゴニストであるムシモルを投与し、恐怖の古典的条件づけの獲得と表出における効果を検討した。この研究の重要なポイントはムシモルが中心核に限局していたことをどのように確認するかである。彼らはまず初めに、内側膝状体の内側部が外側核へ投射するという知見に基づいて、内側膝状体の内側部を電気刺激し、外側核で生じる誘発電位を記録することで、記録電極を確実に外側核に挿入した。そして、行動学的な効果の検討に用いる投与量と同じ投与量のムシモルを中心核に投与しても、内側膝状体の内側部の電気刺激による外側核からの誘発電位が減弱せず、ムシモル投与が中心核に限局していることを確かめている。
 Wilensky, Schafe, Kristensen, and LeDouxは、中心核にGABAAのアゴニストであるムシモルを投与し、恐怖の古典的条件づけの獲得と表出における効果を検討した<ref name=ref9><pubmed>17135400</pubmed></ref>。この研究の重要なポイントはムシモルが中心核に限局していたことをどのように確認するかである。彼らはまず初めに、内側膝状体の内側部が外側核へ投射するという知見に基づいて、内側膝状体の内側部を電気刺激し、外側核で生じる誘発電位を記録することで、記録電極を確実に外側核に挿入した。そして、行動学的な効果の検討に用いる投与量と同じ投与量のムシモルを中心核に投与しても、内側膝状体の内側部の電気刺激による外側核からの誘発電位が減弱せず、ムシモル投与が中心核に限局していることを確かめている。
ムシモルを中心核に投与し、投与後5~10分後にCSとUSを対呈示し、24時間後にCSに対するフリージングを測定した結果、中心核投与ラットは外側核投与ラットと同様にフリージングを示さず、恐怖の古典的条件づけの獲得障害を示した。中心核の求心路にある脳部位(たとえば、外側核)がCSとUSの連合に関与しており、中心核はその部位からの学習性の情報の中継し、情動表出に関与しているだけであれば、CSとUSの対呈示中に中心核を不活性化しても、その後のテストにおいてフリージングを示すと予測される。したがって、これらの結果は中心核がCSとUSの連合に関係することを示唆する。一方、表出におけるムシモル投与の効果の手続きは、CSとUSの対呈示の24時間後にムシモルを中心核に投与し、投与の5~10分後にCSに対するフリージングを測定するというものであった。その結果、中心核投与ラットはフリージングを示さなかった。テストの24時間後に何も投与せず再度テストを行ったところ、中心核投与ラットはコントロールラットと同様にフリージングを示した。これらの結果は中心核が恐怖の古典的条件づけにおいて学習性の情報を中継し、情動表出に関係することを示唆する。
ムシモルを中心核に投与し、投与後5~10分後にCSとUSを対呈示し、24時間後にCSに対するフリージングを測定した結果、中心核投与ラットは外側核投与ラットと同様にフリージングを示さず、恐怖の古典的条件づけの獲得障害を示した。中心核の求心路にある脳部位(たとえば、外側核)がCSとUSの連合に関与しており、中心核はその部位からの学習性の情報の中継し、情動表出に関与しているだけであれば、CSとUSの対呈示中に中心核を不活性化しても、その後のテストにおいてフリージングを示すと予測される。したがって、これらの結果は中心核がCSとUSの連合に関係することを示唆する。一方、表出におけるムシモル投与の効果の手続きは、CSとUSの対呈示の24時間後にムシモルを中心核に投与し、投与の5~10分後にCSに対するフリージングを測定するというものであった。その結果、中心核投与ラットはフリージングを示さなかった。テストの24時間後に何も投与せず再度テストを行ったところ、中心核投与ラットはコントロールラットと同様にフリージングを示した。これらの結果は中心核が恐怖の古典的条件づけにおいて学習性の情報を中継し、情動表出に関係することを示唆する。


 Wilensky et al.(2006)では、CSとUSの対呈示の直後にタンパク質の合成を抑制するanisomycinを中心核に投与し、短期記憶と長期記憶のテストを行うために、投与の4時間後と24時間後にCSに対するフリージングを測定した。その結果、中心核投与ラットは4時間後の短期記憶のテストではコントロールラットと同様にフリージングを示したが、24時間後のテストではフリージングを示さなかった。これらの結果は、中心核が恐怖の古典的条件づけ後の調節的な役割ではなく、恐怖の古典的条件づけの長期記憶に至る記憶固定にも関与することを示唆する。
 Wilenskyらは、CSとUSの対呈示の直後にタンパク質の合成を抑制するanisomycinを中心核に投与し、短期記憶と長期記憶のテストを行うために、投与の4時間後と24時間後にCSに対するフリージングを測定した<ref name=ref9 />。その結果、中心核投与ラットは4時間後の短期記憶のテストではコントロールラットと同様にフリージングを示したが、24時間後のテストではフリージングを示さなかった。これらの結果は、中心核が恐怖の古典的条件づけ後の調節的な役割ではなく、恐怖の古典的条件づけの長期記憶に至る記憶固定にも関与することを示唆する。


 扁桃体外側核は恐怖の古典的条件づけにおけるCSとUSの連合学習・記憶に重要な役割を果たしているけれども、Wilensky et al.(2006)の結果は、恐怖の古典的条件づけの獲得に関係する脳内神経経路において、その経路を構成する脳部位が担う心理学的機能や情報処理様式は1対1関係の単純なものではなく、分散的に複数の脳部位で処理されていることを示唆する。
 扁桃体外側核は恐怖の古典的条件づけにおけるCSとUSの連合学習・記憶に重要な役割を果たしているけれども、Wilenskyらの結果は、恐怖の古典的条件づけの獲得に関係する脳内神経経路において、その経路を構成する脳部位が担う心理学的機能や情報処理様式は1対1関係の単純なものではなく、分散的に複数の脳部位で処理されていることを示唆する<ref name=ref9 />。


== 参考文献 ==
== 参考文献 ==
<references />
<references />


Cannon, W. B. (1927). The James-Lange theory of emotion: a critical examination and an alternative theory. American Journal of Psychology, 39, 10-124.  
Cannon, W. B. (1927). The James-Lange theory of emotion: a critical examination and an alternative theory. American Journal of Psychology, 39, 10-124.  


Damasio, A.R., Tranel, D. & Damasio, H. (1991). Somatic markers and the guidance of behaviour: theory and preliminary testing. In H.S. Levin, H.M. Eisenberg & A.L. Benton (Eds.). Frontal lobe function and dysfunction. New York: Oxford University Press. pp. 217–229.
Damasio, A.R., Tranel, D. & Damasio, H. (1991). Somatic markers and the guidance of behaviour: theory and preliminary testing. In H.S. Levin, H.M. Eisenberg & A.L. Benton (Eds.). Frontal lobe function and dysfunction. New York: Oxford University Press. pp. 217–229.
Johansen, J.P., Cain, C.K., Ostroff, L.E., & Ledoux, J.E. (2011). Molecular mechanisms of fear learning and memory. Cell, 147, 509-524.


MacLean, P. (1970). The limbic brain in relation to the pshychoses. In P. Black (Ed.), Physiological correlates of emotion. New York, London: Academic Press. pp.129-146.
MacLean, P. (1970). The limbic brain in relation to the pshychoses. In P. Black (Ed.), Physiological correlates of emotion. New York, London: Academic Press. pp.129-146.
McNally, G.P., Johansen, J., & Blair, H.T. (2011). Placing prediction into the fear circuit. Trends in Neurosciences, 34, 283-292.


西条寿夫 (1997). 大脳辺縁系と情動のメカニズム. 神経研究の進歩, 41, 511-531.
西条寿夫 (1997). 大脳辺縁系と情動のメカニズム. 神経研究の進歩, 41, 511-531.
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Papez, J.W. (1937). A proposed mechanism of emotion. Arch Neurol Psychiatry, 38, 725-743.
Papez, J.W. (1937). A proposed mechanism of emotion. Arch Neurol Psychiatry, 38, 725-743.
Wilensky, A.E., Schafe, G.E., Kristensen, M.P., & LeDoux, J.E. (2006). Rethinking the fear circuit: the central nucleus of the amygdala is required for the acquisition, consolidation, and expression of Pavlovian fear conditioning. J. Neurosci. 26, 12387-12396.




(執筆者:田積徹、西条寿夫 担当編集委員:藤田一郎)
(執筆者:田積徹、西条寿夫 担当編集委員:藤田一郎)

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