「空間的注意」の版間の差分

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 注意をある位置に向けると、その位置における[[知覚]]が向上する。例えば、注意による空間解像度の上昇<ref><pubmed> 9817201</pubmed></ref>が知られている。Carrascoらが行なった実験では、図2のような視覚刺激がごく短時間(40ミリ秒)示され、被験者は、他の線分と異なる傾きを持った線分(ターゲット)の有無を答えなければならない。このとき、ターゲットが固視点から3度ほど離れたときに最も検出率が良く、それより近くても遠くても検出率は低下する。空間解像度は、[[網膜中心窩]]でもっとも高く、そこから離れるにつれて低下するため、ターゲットを検出するには、適度な空間解像度が必要であることが示唆される。そこで、視覚刺激呈示の直前に、ターゲットの現れる位置に手がかり刺激を呈示すると、ターゲットが固視点から近い場合(視角にして1度以下)には検出率が低下し、遠い場合(5度以上)では検出率が向上した。このことは、注意を向けることで、その位置の空間解像度が上昇したため、もともと空間解像度が高すぎるために検出率が低かった場所ではさらに検出率が低下し、もともと空間解像度が低すぎるために検出率が低かった場所では検出率が向上したことを示している。  
 注意をある位置に向けると、その位置における[[知覚]]が向上する。例えば、注意による空間解像度の上昇<ref><pubmed> 9817201</pubmed></ref>が知られている。Carrascoらが行なった実験では、図2のような視覚刺激がごく短時間(40ミリ秒)示され、被験者は、他の線分と異なる傾きを持った線分(ターゲット)の有無を答えなければならない。このとき、ターゲットが固視点から3度ほど離れたときに最も検出率が良く、それより近くても遠くても検出率は低下する。空間解像度は、[[網膜中心窩]]でもっとも高く、そこから離れるにつれて低下するため、ターゲットを検出するには、適度な空間解像度が必要であることが示唆される。そこで、視覚刺激呈示の直前に、ターゲットの現れる位置に手がかり刺激を呈示すると、ターゲットが固視点から近い場合(視角にして1度以下)には検出率が低下し、遠い場合(5度以上)では検出率が向上した。このことは、注意を向けることで、その位置の空間解像度が上昇したため、もともと空間解像度が高すぎるために検出率が低かった場所ではさらに検出率が低下し、もともと空間解像度が低すぎるために検出率が低かった場所では検出率が向上したことを示している。  


 しかし、空間的注意は常に知覚を向上させるわけではない。例えば、前述の復帰抑制は、注意を向けたことによってその位置における検出力が一定時間後に低下した例である。他にも、重ねて提示した[[Wkipedia:ja:ガボールフィルター|ガボール]]パッチの運動方向弁別力が時間周波数選択的に低下することが報告されているし<ref><pubmed> 15793010</pubmed></ref>、複数の視覚刺激を高速逐次呈示(rapid serial visual presentation, RSVP)したときに、その中に含まれる2つのターゲットの出現間隔が500ミリ秒より短いと2つめが見落とされやすいといった、[[注意の瞬き]](attentional blink)とよばれる現象が知られている<ref><pubmed> 21223931</pubmed></ref>。これらの結果から、注意を向けて一つ一つの情報をより深く解析するために、連続的に変化する外界の情報は、一定のサンプリング周波数以上の時間解像度で処理することができない仕組みがあることを示唆している。興味深いことに、Oliversらは、音楽を聴くなどの別の課題同時に課すことで被験者の注意を視覚刺激からそらせると、注意の瞬きが無くなることを報告している<ref><pubmed> 15828972</pubmed></ref>。  
 しかし、空間的注意は常に知覚を向上させるわけではない。例えば、前述の復帰抑制は、注意を向けたことによってその位置における検出力が一定時間後に低下した例である。他にも、重ねて提示した[[Wkipedia:ja:ガボールフィルター|ガボール]]パッチの運動方向弁別力が時間周波数選択的に低下することが報告されているし<ref><pubmed> 15793010</pubmed></ref>、複数の視覚刺激を高速逐次呈示(rapid serial visual presentation, RSVP)したときに、その中に含まれる2つのターゲットの出現間隔が500ミリ秒より短いと2つめが見落とされやすいといった、[[注意の瞬き]](attentional blink)とよばれる現象が知られている<ref><pubmed> 21223931</pubmed></ref>。これらの結果は、注意を向けて一つ一つの情報をより深く解析するために、連続的に変化する外界の情報を、一定のサンプリング周波数以上の時間解像度で処理することができない仕組みがあることを示唆している。興味深いことに、Oliversらは、音楽を聴くなどの別の課題同時に課すことで被験者の注意を視覚刺激からそらせると、注意の瞬きが無くなることを報告している<ref><pubmed> 15828972</pubmed></ref>。  


== 空間的注意の神経機構  ==
== 空間的注意の神経機構  ==
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