16,040
回編集
細編集の要約なし |
細 (→合成と分泌) |
||
59行目: | 59行目: | ||
[[Image:Yfukada fig 01.png|thumb|250px|'''図.メラトニンの生合成経路''']]メラトニンは[[wikipedia:ja:アミノ酸]|アミノ酸]]の1つである[[wikipedia:ja:トリプトファン|トリプトファン]]から,4段階の酵素反応を経て生合成される(図)。生合成されたメラトニンは細胞内で貯蔵されず速やかに細胞外へと分泌されるため,合成量がそのまま分泌量と相関する。 | [[Image:Yfukada fig 01.png|thumb|250px|'''図.メラトニンの生合成経路''']]メラトニンは[[wikipedia:ja:アミノ酸]|アミノ酸]]の1つである[[wikipedia:ja:トリプトファン|トリプトファン]]から,4段階の酵素反応を経て生合成される(図)。生合成されたメラトニンは細胞内で貯蔵されず速やかに細胞外へと分泌されるため,合成量がそのまま分泌量と相関する。 | ||
メラトニンの生合成経路(図)のうち,[[wikipedia:ja:律速段階|律速段階]]は[[AA-NAT]]による[[セロトニン]]の[[アセチル化]]反応である。AA-NATは遺伝子発現の量的な制御と翻訳後修飾による質的な制御の両方により活性が調節され,メラトニンの合成量が一日の中で変動する。また,メラトニン合成は概日時計による制御の他に,光環境による制御も受ける。すなわち,メラトニン合成が活性化する夜間に光を照射すると,メラトニン合成が急速に抑制される。このような概日リズムや光による制御を生み出す仕組みは動物種により異なる。 | メラトニンの生合成経路(図)のうち,[[wikipedia:ja:律速段階|律速段階]]は[[AA-NAT]]による[[セロトニン]]の[[アセチル化]]反応である。AA-NATは遺伝子発現の量的な制御と翻訳後修飾による質的な制御の両方により活性が調節され,メラトニンの合成量が一日の中で変動する。また,メラトニン合成は概日時計による制御の他に,光環境による制御も受ける。すなわち,メラトニン合成が活性化する夜間に光を照射すると,メラトニン合成が急速に抑制される。このような概日リズムや光による制御を生み出す仕組みは動物種により異なる。 | ||
===転写制御 === | |||
====哺乳類松果体==== | |||
[[wikipedia:ja:哺乳類|哺乳類]]の松果体の場合,概日時計の中枢は[[視床下部]]の[[視交叉上核]]([[suprachiasmatic nucleus]],[[SCN]])に存在する。SCNは約1日周期の強力な振動体を持っており,松果体は複数のシナプス連絡を介してSCNからの時刻情報を受け取る。夜間におけるメラトニン合成の上昇は,松果体に入力する[[交感神経]]終末からの[[ノルアドレナリン]]の放出が引き金となり開始する。この終末から放出されたノルアドレナリンは,松果体に存在する[[βアドレナリン受容体]]を介して細胞内[[cAMP]]濃度を上昇させ,活性化した[[PKA]]が[[CREB]]をリン酸化する。リン酸化されて活性したCREBは''Aa-nat''遺伝子の[[プロモーター]]領域に存在する[[CRE]]に結合して,''Aa-nat''遺伝子の転写を活性する。この結果,松果体における''Aa-nat'' mRNA量が夜(暗期)の開始から2時間以内に100倍以上に増加し,AA-NATタンパク質の急激な増加を引き起こし,メラトニンの合成量が急上昇する<ref name=ho><pubmed>19860854</pubmed></ref>。 | [[wikipedia:ja:哺乳類|哺乳類]]の松果体の場合,概日時計の中枢は[[視床下部]]の[[視交叉上核]]([[suprachiasmatic nucleus]],[[SCN]])に存在する。SCNは約1日周期の強力な振動体を持っており,松果体は複数のシナプス連絡を介してSCNからの時刻情報を受け取る。夜間におけるメラトニン合成の上昇は,松果体に入力する[[交感神経]]終末からの[[ノルアドレナリン]]の放出が引き金となり開始する。この終末から放出されたノルアドレナリンは,松果体に存在する[[βアドレナリン受容体]]を介して細胞内[[cAMP]]濃度を上昇させ,活性化した[[PKA]]が[[CREB]]をリン酸化する。リン酸化されて活性したCREBは''Aa-nat''遺伝子の[[プロモーター]]領域に存在する[[CRE]]に結合して,''Aa-nat''遺伝子の転写を活性する。この結果,松果体における''Aa-nat'' mRNA量が夜(暗期)の開始から2時間以内に100倍以上に増加し,AA-NATタンパク質の急激な増加を引き起こし,メラトニンの合成量が急上昇する<ref name=ho><pubmed>19860854</pubmed></ref>。 | ||
====網膜視細胞==== | |||
一方,網膜視細胞におけるメラトニン合成の場合,SCN由来の時刻情報は用いられず,視細胞内で自律的に振動する概日時計の支配下にある<ref name=iuvone><pubmed>15845344</pubmed></ref>。''Aa-nat''遺伝子のプロモーター領域には[[E-box]]と呼ばれるシス配列が存在するが,このE-boxに時計遺伝子の産物である[[BMAL1]]/[[CLOCK]](もしくはBMAL1/[[NPAS2]])が約1日周期のリズムをもって結合する事により''Aa-nat''遺伝子のリズミックな発現が誘導される。前述のように''Aa-nat''遺伝子の上流にはCREが存在し,視細胞における''Aa-nat''の発現にもcAMP/PKA/CREBが寄与している。 | 一方,網膜視細胞におけるメラトニン合成の場合,SCN由来の時刻情報は用いられず,視細胞内で自律的に振動する概日時計の支配下にある<ref name=iuvone><pubmed>15845344</pubmed></ref>。''Aa-nat''遺伝子のプロモーター領域には[[E-box]]と呼ばれるシス配列が存在するが,このE-boxに時計遺伝子の産物である[[BMAL1]]/[[CLOCK]](もしくはBMAL1/[[NPAS2]])が約1日周期のリズムをもって結合する事により''Aa-nat''遺伝子のリズミックな発現が誘導される。前述のように''Aa-nat''遺伝子の上流にはCREが存在し,視細胞における''Aa-nat''の発現にもcAMP/PKA/CREBが寄与している。 | ||
AA-NATは遺伝子発現のみならず,翻訳後にも制御を受けることが知られている<ref name=iuvone />。松果体において夜間に活性化するPKAはAA-NATを[[リン酸化]]し,リン酸化されたAA-NATは足場タンパク質である[[14-3-3]]と結合する。遊離のAA-NAT は[[プロテアソーム]]により短時間で分解されるのに対し,14-3-3と結合したAA-NATはタンパク質分解を免れるため,タンパク質量が増加する。また,AA-NAT/14-3-3複合体は遊離のAA-NATに比べてアセチル化する酵素活性が高いことが生化学アッセイより示されている。このような翻訳後の制御は,夜間におけるメラトニン合成の活性化に寄与していると考えられている。また,夜間に光を照射するとメラトニン合成が急速に抑制されるが,これは松果体におけるAA-NAT量の急激な減少を伴っている([[wikipedia:ja:ラット|ラット]]の場合,半減期は約3.5分)。これは松果体におけるAA-NAT量の急激な低下を伴っており,遊離のAA-NATが速やかに分解される事がこの光応答に重要であると考えられている。 | AA-NATは遺伝子発現のみならず,翻訳後にも制御を受けることが知られている<ref name=iuvone />。松果体において夜間に活性化するPKAはAA-NATを[[リン酸化]]し,リン酸化されたAA-NATは足場タンパク質である[[14-3-3]]と結合する。遊離のAA-NAT は[[プロテアソーム]]により短時間で分解されるのに対し,14-3-3と結合したAA-NATはタンパク質分解を免れるため,タンパク質量が増加する。また,AA-NAT/14-3-3複合体は遊離のAA-NATに比べてアセチル化する酵素活性が高いことが生化学アッセイより示されている。このような翻訳後の制御は,夜間におけるメラトニン合成の活性化に寄与していると考えられている。また,夜間に光を照射するとメラトニン合成が急速に抑制されるが,これは松果体におけるAA-NAT量の急激な減少を伴っている([[wikipedia:ja:ラット|ラット]]の場合,半減期は約3.5分)。これは松果体におけるAA-NAT量の急激な低下を伴っており,遊離のAA-NATが速やかに分解される事がこの光応答に重要であると考えられている。 | ||
== 生理作用 == | == 生理作用 == |