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メラトニンは[[生理活性アミン]]の誘導体である<ref> '''A. B. Lerner''' ''et al.'' (1959)<br>Structure of melatonin. ''<br>J. Am. Chem. Soc.'' 81, 6084</ref> 。[[wikipedia:ja:カエル|カエル]][[wikipedia:ja:皮膚|皮膚]]の[[wikipedia:ja:黒色素胞|黒色素胞]]を退色(白色化)させる物質として、[[wikipedia:ja:皮膚|ウシ]]の[[松果体]]から単離された<ref>'''A. B. Lerner''' ''et al.'' (1958)<br>Isolation of melatonin, the pineal gland factor that lightens melanocytes.<br>''J. Am. Chem. Soc.'' 80, 2587</ref>が、実は[[概日リズム]]や[[光周性]]に重要な機能をもつことが分かった。[[wikipedia:ja:脊椎動物|脊椎動物]]においては、主に松果体において合成・分泌されて血中[[wikipedia:ja:ホルモン|ホルモン]]として機能するほか、[[網膜]]の主に[[視細胞]]において合成されて網膜の生理機能を調節する局所(網膜内)ホルモンとして機能する事が知られている。多くの動物において、メラトニンの合成と分泌の量は夜間に高く昼間に低い日内リズムを示す。このリズムは一日の中で光条件を一定にしても持続する事から、個体内の計時機構である[[概日時計]]の制御下にある事が分かる。動物の行動パターンが昼行性であるか夜行性であるかにかかわらず夜間に分泌量が多い事から「夜のホルモン」とも呼ばれている。メラトニンのこのような分泌リズムは、活動量の高い時間帯に分泌量が高い[[コルチゾール]]の分泌リズムと対照的である。 | メラトニンは[[生理活性アミン]]の誘導体である<ref> '''A. B. Lerner''' ''et al.'' (1959)<br>Structure of melatonin. ''<br>J. Am. Chem. Soc.'' 81, 6084</ref> 。[[wikipedia:ja:カエル|カエル]][[wikipedia:ja:皮膚|皮膚]]の[[wikipedia:ja:黒色素胞|黒色素胞]]を退色(白色化)させる物質として、[[wikipedia:ja:皮膚|ウシ]]の[[松果体]]から単離された<ref>'''A. B. Lerner''' ''et al.'' (1958)<br>Isolation of melatonin, the pineal gland factor that lightens melanocytes.<br>''J. Am. Chem. Soc.'' 80, 2587</ref>が、実は[[概日リズム]]や[[光周性]]に重要な機能をもつことが分かった。[[wikipedia:ja:脊椎動物|脊椎動物]]においては、主に松果体において合成・分泌されて血中[[wikipedia:ja:ホルモン|ホルモン]]として機能するほか、[[網膜]]の主に[[視細胞]]において合成されて網膜の生理機能を調節する局所(網膜内)ホルモンとして機能する事が知られている。多くの動物において、メラトニンの合成と分泌の量は夜間に高く昼間に低い日内リズムを示す。このリズムは一日の中で光条件を一定にしても持続する事から、個体内の計時機構である[[概日時計]]の制御下にある事が分かる。動物の行動パターンが昼行性であるか夜行性であるかにかかわらず夜間に分泌量が多い事から「夜のホルモン」とも呼ばれている。メラトニンのこのような分泌リズムは、活動量の高い時間帯に分泌量が高い[[コルチゾール]]の分泌リズムと対照的である。 | ||
== | == 合成と分泌の制御 == | ||
[[Image:Yfukada fig 01.png|thumb|250px|'''図.メラトニンの生合成経路''']] メラトニンは[[wikipedia:ja:アミノ酸|アミノ酸]]の1つである[[wikipedia:ja:トリプトファン|トリプトファン]]から、4段階の酵素反応を経て生合成される(図)。生合成されたメラトニンは細胞内で貯蔵されず速やかに細胞外へと分泌されるため、合成量がそのまま分泌量と相関する。 生合成経路(図)のうち、[[wikipedia:ja:律速段階|律速段階]]は[[アリルアミン''N''-アセチル転移酵素]] ([[AA-NAT]])による[[セロトニン]]の[[アセチル化]]反応である。AA-NATは遺伝子発現の量的な制御と[[翻訳後修飾]]による質的な制御の両方により活性が調節され、メラトニンの合成量が一日の中で変動する。また、メラトニン合成は概日時計による制御の他に、光環境による制御も受ける。すなわち、メラトニン合成が活性化する夜間に光を照射すると、メラトニン合成が急速に抑制される。このような概日リズムや光による制御を生み出す仕組みは動物種により異なる。 | [[Image:Yfukada fig 01.png|thumb|250px|'''図.メラトニンの生合成経路''']] メラトニンは[[wikipedia:ja:アミノ酸|アミノ酸]]の1つである[[wikipedia:ja:トリプトファン|トリプトファン]]から、4段階の酵素反応を経て生合成される(図)。生合成されたメラトニンは細胞内で貯蔵されず速やかに細胞外へと分泌されるため、合成量がそのまま分泌量と相関する。 生合成経路(図)のうち、[[wikipedia:ja:律速段階|律速段階]]は[[アリルアミンN-アセチル転移酵素|アリルアミン''N''-アセチル転移酵素]] ([[AA-NAT]])による[[セロトニン]]の[[アセチル化]]反応である。AA-NATは遺伝子発現の量的な制御と[[翻訳後修飾]]による質的な制御の両方により活性が調節され、メラトニンの合成量が一日の中で変動する。また、メラトニン合成は概日時計による制御の他に、光環境による制御も受ける。すなわち、メラトニン合成が活性化する夜間に光を照射すると、メラトニン合成が急速に抑制される。このような概日リズムや光による制御を生み出す仕組みは動物種により異なる。 | ||
=== 転写制御 === | === 転写制御 === | ||
==== | ====松果体 ==== | ||
[[wikipedia:ja:哺乳類|哺乳類]]の松果体の場合、概日時計の中枢は[[視床下部]]の[[視交叉上核]]([[Suprachiasmatic nucleus]]、[[SCN]])に存在する。SCNは約1日周期の強力な振動体を持っており、松果体は複数の[[シナプス]]連絡を介してSCNからの時刻情報を受け取る。夜間におけるメラトニン合成の上昇は、松果体に入力する[[交感神経]]終末からの[[ノルアドレナリン]]の放出が引き金となり開始する。この終末から放出されたノルアドレナリンは、松果体に存在する[[βアドレナリン受容体]]を介して細胞内[[cAMP]]濃度を上昇させ、活性化した[[PKA]]が[[CREB]]をリン酸化する。リン酸化されて活性したCREBは''Aa-nat''遺伝子の[[プロモーター]]領域に存在する[[CRE]]に結合して、''Aa-nat''遺伝子の転写を活性する。この結果、松果体における''Aa-nat'' mRNA量が夜(暗期)の開始から2時間以内に100倍以上に増加し、AA-NATタンパク質の急激な増加を引き起こし、メラトニンの合成量が急上昇する<ref name="ho"><pubmed>19860854</pubmed></ref>。 | [[wikipedia:ja:哺乳類|哺乳類]]の松果体の場合、概日時計の中枢は[[視床下部]]の[[視交叉上核]]([[Suprachiasmatic nucleus]]、[[SCN]])に存在する。SCNは約1日周期の強力な振動体を持っており、松果体は複数の[[シナプス]]連絡を介してSCNからの時刻情報を受け取る。夜間におけるメラトニン合成の上昇は、松果体に入力する[[交感神経]]終末からの[[ノルアドレナリン]]の放出が引き金となり開始する。この終末から放出されたノルアドレナリンは、松果体に存在する[[βアドレナリン受容体]]を介して細胞内[[cAMP]]濃度を上昇させ、活性化した[[PKA]]が[[CREB]]をリン酸化する。リン酸化されて活性したCREBは''Aa-nat''遺伝子の[[プロモーター]]領域に存在する[[CRE]]に結合して、''Aa-nat''遺伝子の転写を活性する。この結果、松果体における''Aa-nat'' mRNA量が夜(暗期)の開始から2時間以内に100倍以上に増加し、AA-NATタンパク質の急激な増加を引き起こし、メラトニンの合成量が急上昇する<ref name="ho"><pubmed>19860854</pubmed></ref>。 | ||
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==== 網膜視細胞 ==== | ==== 網膜視細胞 ==== | ||
[[網膜]][[視細胞]]におけるメラトニン合成の場合、SCN由来の時刻情報は用いられず、視細胞内で自律的に振動する概日時計の支配下にある<ref name="iuvone"><pubmed>15845344</pubmed></ref>。''Aa-nat''遺伝子のプロモーター領域には[[E-box]]と呼ばれるシス配列が存在するが、このE-boxに時計遺伝子の産物である[[BMAL1]]/[[CLOCK]](もしくはBMAL1/[[NPAS2]])が約1日周期のリズムをもって結合する事により''Aa-nat''遺伝子のリズミックな発現が誘導される。前述のように''Aa-nat''遺伝子の上流にはCREが存在し、視細胞における''Aa-nat''の発現にもcAMP/PKA/CREBが寄与している。 | |||
=== 翻訳後修飾 === | === 翻訳後修飾 === | ||
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AA-NATは遺伝子発現のみならず、翻訳後にも制御を受けることが知られている<ref name="iuvone" />。 | AA-NATは遺伝子発現のみならず、翻訳後にも制御を受けることが知られている<ref name="iuvone" />。 | ||
松果体において夜間に活性化するPKAはAA-NATを[[リン酸化]]し、リン酸化されたAA-NATは | 松果体において夜間に活性化するPKAはAA-NATを[[リン酸化]]し、リン酸化されたAA-NATは[[14-3-3]]と結合する。遊離のAA-NAT は[[プロテアソーム]]により短時間で分解されるのに対し、14-3-3と結合したAA-NATはタンパク質分解を免れるため、タンパク質量が増加する。また、AA-NAT/14-3-3複合体は遊離のAA-NATに比べてアセチル化する酵素活性が高いことが生化学アッセイより示されている。このような翻訳後の制御は、夜間におけるメラトニン合成の活性化に寄与していると考えられている。また、夜間に光を照射するとメラトニン合成が急速に抑制されるが、これは松果体におけるAA-NAT量の急激な減少を伴っている([[wikipedia:ja:ラット|ラット]]の場合、半減期は約3.5分)。これは松果体におけるAA-NAT量の急激な低下を伴っており、遊離のAA-NATが速やかに分解される事がこの光応答に重要であると考えられている。 | ||
== 生理作用 == | == 生理作用 == |