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==== 海馬長期増強と記憶学習の異常 ==== | ==== 海馬長期増強と記憶学習の異常 ==== | ||
JP-DKOマウスは、Y迷路テスト、受動回避テストにおいて記憶学習の低下が見られる。これらに対応して、海馬CA3-CA1シナプスにおける長期増強(LTP)に顕著な異常が見られた。またシナプス電位応答において興奮性シナプス後電位に続いて現れる後過分極 (afterhyperpolarization; AHP)が、JP-DKO海馬CA1錐体細胞では欠落している。このAHPは小コンダクタンスカルシウム依存性カリウムチャネル(small-conductance Ca2+-dependent K+ channel; SK チャネル)を介するが、薬理学的な解析により、海馬CA1錐体細胞ではSKチャネルの活性化にはNMDA型グルタミン酸受容体とRyRの活性化が必要であることが示された。したがって、JP- | JP-DKOマウスは、Y迷路テスト、受動回避テストにおいて記憶学習の低下が見られる。これらに対応して、海馬CA3-CA1シナプスにおける長期増強(LTP)に顕著な異常が見られた。またシナプス電位応答において興奮性シナプス後電位に続いて現れる後過分極 (afterhyperpolarization; AHP)が、JP-DKO海馬CA1錐体細胞では欠落している。このAHPは小コンダクタンスカルシウム依存性カリウムチャネル(small-conductance Ca2+-dependent K+ channel; SK チャネル)を介するが、薬理学的な解析により、海馬CA1錐体細胞ではSKチャネルの活性化にはNMDA型グルタミン酸受容体とRyRの活性化が必要であることが示された。したがって、JP-DKO海馬CA1錐体細胞では、NMDA型グルタミン酸受容体-RyR-SKチャネル間の機能的共役が阻害されていることが推測される(図2)。さらに、JP-DKO海馬では、海馬LTPへの関与が示されているカルシウム-カルモジュリン依存性キナーゼII (CaMKII)のリン酸化に亢進が見られるが、並行して、CaMKIIの基質であるGluR1のリン酸化レベルの亢進も見られることから、JP-DKOマウス海馬におけるCaMKIIの活性化異常が示唆される<ref><pubmed>16809425</pubmed></ref>。 | ||
==== 小脳機能の異常 ==== | ==== 小脳機能の異常 ==== | ||
JP-DKOでは、回転棒テストおよび小脳依存性の瞬膜反射条件付け学習において、明確な阻害が見られる。また、小脳運動学習の基盤とされる平行線維-プルキンエ細胞シナプスにおける長期抑圧(long-term depression; 小脳LTD)において、野生型において小脳LTDを誘導する刺激(登上線維刺激とプルキンエ細胞の脱分極との組み合わせ刺激)により、JP-DKO小脳スライスではLTPが誘導される(小脳LTDのLTP化)。登上線維刺激によりプルキンエ細胞ではcomplex spikeと言う脱分極性の電位応答が見られるが、この電位応答の脱分極相の後に続く遅い過分極応答(slow afterhyperpolarization; sAHP)が、JP-DKOプルキンエ細胞では欠損している。引き続き薬理学的な解析により、sAHPはSKチャネルを介し、プルキンエ細胞で優先的に発現するRyR1の活性化に依存することが示されたが、JP-DKOプルキンエ細胞では、SKチャネル阻害薬であるapamin、およびRyR1を阻害するリアノジンもしくはdantroleneに感受性のあるsAHPが欠損している。さらに、登上線維刺激ではNMDA型グルタミン酸受容体が活性化されないため、RyR1を活性化するカルシウム流入はP/Q型カルシウムチャネルを介すると考えられることから、JP-DKOプルキンエ細胞では、P/ | JP-DKOでは、回転棒テストおよび小脳依存性の瞬膜反射条件付け学習において、明確な阻害が見られる。また、小脳運動学習の基盤とされる平行線維-プルキンエ細胞シナプスにおける長期抑圧(long-term depression; 小脳LTD)において、野生型において小脳LTDを誘導する刺激(登上線維刺激とプルキンエ細胞の脱分極との組み合わせ刺激)により、JP-DKO小脳スライスではLTPが誘導される(小脳LTDのLTP化)。登上線維刺激によりプルキンエ細胞ではcomplex spikeと言う脱分極性の電位応答が見られるが、この電位応答の脱分極相の後に続く遅い過分極応答(slow afterhyperpolarization; sAHP)が、JP-DKOプルキンエ細胞では欠損している。引き続き薬理学的な解析により、sAHPはSKチャネルを介し、プルキンエ細胞で優先的に発現するRyR1の活性化に依存することが示されたが、JP-DKOプルキンエ細胞では、SKチャネル阻害薬であるapamin、およびRyR1を阻害するリアノジンもしくはdantroleneに感受性のあるsAHPが欠損している。さらに、登上線維刺激ではNMDA型グルタミン酸受容体が活性化されないため、RyR1を活性化するカルシウム流入はP/Q型カルシウムチャネルを介すると考えられることから、JP-DKOプルキンエ細胞では、P/Q型カルシウムチャネル-RyR1-SHチャネルの機能的共役が阻害されていることが示唆された(図2)。さらに野生型マウスの小脳スライス標本においても、apamin投与により小脳LTDのLTP化が見られることから、JP-DKO小脳におけるLTDのLTP化の少なくとも一つの原因として、P/Q型カルシウムチャネル-RyR1-SHチャネル間の機能的共役の阻害によるsAHPの欠損が示唆された<ref><pubmed>17347645</pubmed></ref><ref><pubmed>17904530</pubmed></ref>。 | ||
<gallery widths=350px heights=200px> | <gallery widths=350px heights=200px> | ||
ファイル:JP34シグナル.jpg|''' | ファイル:JP34シグナル.jpg|'''図2.中枢神経細胞における細胞表層膜/小胞体膜イオンチャネル間の共役とジャンクトフィリン'''<br>海馬CA1錐体細胞では細胞表層膜(PM)上のNMDA型グルタミン酸受容体(NMDAR)、小脳プルキンエ細胞ではP/Q型電位依存性カルシウムチャネル(P/Q Ch)を介して細胞外から流入したカルシウム(Ca<sup>2+</sup>)は、小胞体膜(ER)上に存在するリアノジン受容体(RyRs)を活性化する(①)。さらに小胞体から放出されたCa<sup>2+</sup>は、細胞表層膜に存在する小コンダクタンスCa<sup>2+</sup>依存性カリウムチャネル(SK Ch)を活性化し(②)、正電荷を持つカリウムイオン(K<sup>+</sup>)が細胞外に流出することで、膜電位変化における後過分極が生じる。脳型ジャンクトフィリン(JP3/4)二重欠損マウスでは、この様な細胞表層膜/小胞体膜のイオンチャネル間の機能的共役が阻害されるために後過分極が阻害されると推測される。 | ||
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