「チロシンリン酸化」の版間の差分

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 構造的に、[[wikipedia:Transmembrane domain|膜貫通領域]]を持つ[[受容体]]型と膜貫通領域を持たない非受容体型とに大別される(表1)。ヒトには58種の[[受容体型チロシンキナーゼ]]と32種の[[非受容体型チロシンキナーゼ]]が存在する。受容体型は[[細胞膜]]上に、非受容体型は[[wikipedia:ja:細胞質|細胞質]]に存在する。  
 構造的に、[[wikipedia:Transmembrane domain|膜貫通領域]]を持つ[[受容体]]型と膜貫通領域を持たない非受容体型とに大別される(表1)。ヒトには58種の[[受容体型チロシンキナーゼ]]と32種の[[非受容体型チロシンキナーゼ]]が存在する。受容体型は[[細胞膜]]上に、非受容体型は[[wikipedia:ja:細胞質|細胞質]]に存在する。  


=== 受容体型チロシンキナーゼ ===
=== 受容体型チロシンキナーゼ ===


 受容体型チロシンキナーゼは、細胞外のリガンド結合ドメイン、細胞内のチロンシンキナーゼドメイン、そして両者をつなぐ膜貫通ドメインを持つ。神経系で重要な役割を果たすものとして、[[TrkA]]、[[TrkB]]、[[TrkC]]、[[FGF受容体]]、[[インスリン受容体]]、[[Eph受容体]]などがある。リガンド結合ドメインへのリガンド結合により、二量体化したチロシンキナーゼが活性化され、さらに下流の[[分裂促進因子活性化タンパク質キナーゼ#ERK|細胞外シグナル調節キナーゼ]] ([[分裂促進因子活性化タンパク質キナーゼ#ERK|extracellular signal-regulated kinase]] (ERK)/[[分裂促進因子活性化タンパク質キナーゼ|Mitogen-activated Protein Kinase]] (MAPK)系、[[ホスホイノシチド-3キナーゼ]] ([[PI3K]])/[[Akt]]系、[[ホスホリパーゼC]]γ ([[PLC]]γ)/[[カルシウム|Ca<sup>2+</sup>]]系等の[[シグナル伝達]]を制御している。キナーゼドメイン中には自己リン酸化部位およびATP結合部位を含み、自己リン酸化によりキナーゼ活性を調節している。  
 受容体型チロシンキナーゼは、細胞外のリガンド結合ドメイン、細胞内のチロンシンキナーゼドメイン、そして両者をつなぐ膜貫通ドメインを持つ。神経系で重要な役割を果たすものとして、[[TrkA]]、[[TrkB]]、[[TrkC]]、[[FGF受容体]]、[[インスリン受容体]]、[[Eph受容体]]などがある。リガンド結合ドメインへのリガンド結合により、二量体化したチロシンキナーゼが活性化され、さらに下流の[[分裂促進因子活性化タンパク質キナーゼ#ERK|細胞外シグナル調節キナーゼ]] ([[分裂促進因子活性化タンパク質キナーゼ#ERK|extracellular signal-regulated kinase]] (ERK)/[[分裂促進因子活性化タンパク質キナーゼ|Mitogen-activated Protein Kinase]] (MAPK)系、[[ホスホイノシチド-3キナーゼ]] ([[PI3K]])/[[Akt]]系、[[ホスホリパーゼC]]γ ([[PLC]]γ)/[[カルシウム|Ca<sup>2+</sup>]]系等の[[シグナル伝達]]を制御している。キナーゼドメイン中には自己リン酸化部位およびATP結合部位を含み、自己リン酸化によりキナーゼ活性を調節している。  
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 ''詳細は[[受容体型チロシンキナーゼ]]の項目参照。''  
 ''詳細は[[受容体型チロシンキナーゼ]]の項目参照。''  


=== 非受容体型チロシンキナーゼ ===
=== 非受容体型チロシンキナーゼ ===


 非受容体型チロシンキナーゼは、分子構造として細胞外領域をもたず、細胞内領域にチロシンキナーゼドメインをもつ。受容体型チロシンキナーゼと異なり、非受容体型チロシンキナーゼには、直接的に結合するリガンドはない。上位の制御因子は細胞膜上に存在する種々の受容体タンパク質であり、非受容体型チロシンキナーゼは、様々な膜受容体と会合して、膜受容体から細胞内への情報伝達を担う。受容体型チロシンキナーゼと同様に、非受容体型チロシンキナーゼもキナーゼドメイン中には自己リン酸化部位およびATP結合部位を含み、自己リン酸化によりキナーゼ活性を調節している。  
 非受容体型チロシンキナーゼは、分子構造として細胞外領域をもたず、細胞内領域にチロシンキナーゼドメインをもつ。受容体型チロシンキナーゼと異なり、非受容体型チロシンキナーゼには、直接的に結合するリガンドはない。上位の制御因子は細胞膜上に存在する種々の受容体タンパク質であり、非受容体型チロシンキナーゼは、様々な膜受容体と会合して、膜受容体から細胞内への情報伝達を担う。受容体型チロシンキナーゼと同様に、非受容体型チロシンキナーゼもキナーゼドメイン中には自己リン酸化部位およびATP結合部位を含み、自己リン酸化によりキナーゼ活性を調節している。  
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! rowspan="7" style="background-color:lightskyblue;" | [[成長因子受容体]]  
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| style="background-color:lightskyblue;" | [[上皮成長因子受容体]]ファミリー
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| [[EGFR]], [[HER2/neu|ERBB2]], [[ERBB3]], [[ERBB4]]
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| style="background-color:lightskyblue;" | [[インスリン受容体]]ファミリー
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| [[IGF1R]], [[INSR]], [[INSRR]]
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| style="background-color:lightskyblue;" | [[PDGF受容体]]ファミリー
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| [[CSF1R]], [[FLT3]], [[KIT]], [[PDGFR]] ([[PDGFRA]], [[PDGFRB]])
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== チロシンホスファターゼ ==
== チロシンホスファターゼ ==


 チロシンホスファターゼには、107種が存在する。チロシンキナーゼと同様に、チロシンホスファターゼは、膜貫通領域を持つ[[受容体型チロシンホスファターゼ]]および膜貫通領域を持たない[[非受容体型チロシンホスファターゼ]]に大別される<ref><pubmed>17057753</pubmed></ref>(表2)。チロシンキナーゼ同様に、チロシンホスファターゼも、受容体型は細胞膜上に、非受容体型は細胞質に存在する。チロシンホスファターゼはチロシンキナーゼと違いその基質特異性は低く、リン酸化チロシンを含む多くのタンパク質を認識してそれぞれ脱リン酸化する。神経発生の過程における[[細胞接着|神経接着]]や[[軸索]]の伸長と[[軸索ガイダンス|ガイダンス ]]、[[シナプス形成]]、[[シナプス可塑性]]の調節におけるチロシンホスファターゼの機能が明らかにされている。  
 チロシンホスファターゼには、107種が存在する。チロシンキナーゼと同様に、チロシンホスファターゼは、膜貫通領域を持つ[[受容体型チロシンホスファターゼ]]および膜貫通領域を持たない[[非受容体型チロシンホスファターゼ]]に大別される<ref><pubmed>17057753</pubmed></ref>(表2)。チロシンキナーゼ同様に、チロシンホスファターゼも、受容体型は細胞膜上に、非受容体型は細胞質に存在する。チロシンホスファターゼはチロシンキナーゼと違いその基質特異性は低く、リン酸化チロシンを含む多くのタンパク質を認識してそれぞれ脱リン酸化する。神経発生の過程における[[細胞接着|神経接着]]や[[軸索]]の伸長と[[軸索ガイダンス|ガイダンス ]]、[[シナプス形成]]、[[シナプス可塑性]]の調節におけるチロシンホスファターゼの機能が明らかにされている。  


=== 受容体型チロシンホスファターゼ ===
=== 受容体型チロシンホスファターゼ ===


 全ての受容体型チロシンホスファターゼは、細胞外ドメイン、膜貫通ドメイン、細胞内の2つのホスファターゼドメイン(D1およびD2)を持つ。細胞外には、[[免疫グロブリンスーパーファミリー|免疫グロブリンドメイン]]や[[フィブロネクチン]]Ⅲ型ドメインの繰り返し配列を持つ例が知られる。  
 全ての受容体型チロシンホスファターゼは、細胞外ドメイン、膜貫通ドメイン、細胞内の2つのホスファターゼドメイン(D1およびD2)を持つ。細胞外には、[[免疫グロブリンスーパーファミリー|免疫グロブリンドメイン]]や[[フィブロネクチン]]Ⅲ型ドメインの繰り返し配列を持つ例が知られる。  
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 細胞内D1およびD2はそれぞれ280個程のアミノ酸残基からなり、高度に保存されている。細胞膜に近い側のD1ドメインはホスファターゼ活性を担っている。活性中心配列は(I/V)HCXAGXXR(S/T)Gである(この配列はD2にもあるのでしょうか?)。一方、C末端側のD2ドメインは様々な結合タンパク質と会合する<ref><pubmed>17085782</pubmed></ref>。(ホスファターゼドメインなのに活性はないのでしょうか?)  
 細胞内D1およびD2はそれぞれ280個程のアミノ酸残基からなり、高度に保存されている。細胞膜に近い側のD1ドメインはホスファターゼ活性を担っている。活性中心配列は(I/V)HCXAGXXR(S/T)Gである(この配列はD2にもあるのでしょうか?)。一方、C末端側のD2ドメインは様々な結合タンパク質と会合する<ref><pubmed>17085782</pubmed></ref>。(ホスファターゼドメインなのに活性はないのでしょうか?)  


 神経系で重要な役割を果たすものとして、受容体型では[[wikipedia:PTPRF|LAR]]、[[wikipedia:PTPRS|PTP&amp;sigma;]]、[[wikipedia:PTPRD|PTP&amp;delta;]]、[[wikipedia:PTPRZ1|PTP&amp;zeta;]]等がある。受容体型チロシンホスファターゼのリガンド分子に付いては未だ不明な点が多いが、これまでに、  
 神経系で重要な役割を果たすものとして、受容体型では[[wikipedia:PTPRF|LAR]]、[[wikipedia:PTPRS|PTP&amp;amp;sigma;]]、[[wikipedia:PTPRD|PTP&amp;amp;delta;]]、[[wikipedia:PTPRZ1|PTP&amp;amp;zeta;]]等がある。受容体型チロシンホスファターゼのリガンド分子に付いては未だ不明な点が多いが、これまでに、  


#ヘパラン硫酸プロテオグリカンであるSyndecanがLARと結合してそのホスファターゼ活性を抑制し、軸索伸長を制御する(文献をお願いします)
#[[ヘパラン硫酸プロテオグリカン]]である[[シンデカン]]がLARと結合してそのホスファターゼ活性を抑制し、軸索伸長を制御する(文献をお願いします)
#PleiotrophinがリガンドとしてPTPζに結合し、その活性を低下させて基質であるβcateninのチロシンリン酸化を亢進し、神経細胞移動を制御する(文献をお願いします)
#[[プレイオトロフィン]]がリガンドとしてPTPζに結合し、その活性を低下させて基質である[[βカテニン]]のチロシンリン酸化を亢進し、[[神経細胞移動]]を制御する(文献をお願いします)
#シナプス前膜側のPTPδがシナプス後膜側の精神疾患原因遺伝子IL1RAPL1と''trans''-synapticに結合し、シナプス形成を促進する(文献をお願いします)
#[[シナプス前膜]]側のPTPδが[[シナプス後膜]]側の精神疾患原因遺伝子[[IL1RAPL1]]と''trans''-synapticに結合し、シナプス形成を促進する(文献をお願いします)


 等の研究報告が知られている。  
 等の研究報告が知られている。  


=== 非受容体型チロシンホスファターゼ ===
=== 非受容体型チロシンホスファターゼ ===


 非受容体型チロシンホスファターゼは受容体型チロシンホスファターゼと異なり、膜貫通ドメインを持たず、1つのホスファターゼドメインとそのN末かC末側に様々なドメインを有する。神経系で重要な役割を果たすものとして、[[PTP1B]]、[[PTEN]]、[[STEP]]、[[PTP-SL]]、[[SHP1]]、[[SHP-2]]、[[PTPMEG]]等などがある<ref><pubmed>14625689</pubmed></ref>。  
 非受容体型チロシンホスファターゼは受容体型チロシンホスファターゼと異なり、膜貫通ドメインを持たず、1つのホスファターゼドメインとそのN末かC末側に様々なドメインを有する。神経系で重要な役割を果たすものとして、[[PTP1B]]、[[PTEN]]、[[STEP]]、[[PTP-SL]]、[[SHP1]]、[[SHP-2]]、[[PTPMEG]]等などがある<ref><pubmed>14625689</pubmed></ref>。  


 小脳において、PTPMEGが[[グルタミン酸受容体]][[GluD2]]に結合し、[[AMPA型グルタミン酸受容体]][[GluA2]]サブユニットのチロシンリン酸化状態を制御して、シナプス上のAMPA型グルタミン酸受容体発現数を調節することにより、[[長期抑圧]]に関与する、等の研究報告が知られている<ref><pubmed>23431139</pubmed></ref>。  
 小脳において、PTPMEGが[[グルタミン酸受容体]][[GluD2]]に結合し、[[AMPA型グルタミン酸受容体]][[GluA2]]サブユニットのチロシンリン酸化状態を制御して、シナプス上のAMPA型グルタミン酸受容体発現数を調節することにより、[[長期抑圧]]に関与する、等の研究報告が知られている<ref><pubmed>23431139</pubmed></ref>。<br>  
 
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== 生理機能 ==
== 生理機能 ==


 チロシンリン酸化の神経機能における役割としては、[[シナプス前膜]]側からの[[神経伝達物質]]放出の調節、様々な[[電位依存性イオンチャネル]]および[[リガンド依存性イオンチャネル]]の[[コンダクタンス]]と[[開口確率]]の制御<ref><pubmed>11668044</pubmed></ref>、[[グルタミン酸受容体]]をはじめとした多くのタンパク質分子の[[シナプス]]での局在と輸送過程の制御が報告されている。更に、それらに伴い、神経可塑性と個体レベルの行動に変化がおこることが知られている。また、他の役割として、神経回路、[[神経筋接合部]]や[[ミエリン]]構造の形成、[[樹状突起]]の形態形成や[[軸索]]伸長等の過程において、チロシンリン酸化依存的な制御が挙げられる<ref><pubmed>21508038</pubmed></ref>。  
 チロシンリン酸化の神経機能における役割としては、[[シナプス前膜]]側からの[[神経伝達物質]]放出の調節、様々な[[電位依存性イオンチャネル]]および[[リガンド依存性イオンチャネル]]の[[コンダクタンス]]と[[開口確率]]の制御<ref><pubmed>11668044</pubmed></ref>、[[グルタミン酸受容体]]をはじめとした多くのタンパク質分子の[[シナプス]]での局在と輸送過程の制御が報告されている。更に、それらに伴い、神経可塑性と個体レベルの行動に変化がおこることが知られている。また、他の役割として、神経回路、[[神経筋接合部]]や[[ミエリン]]構造の形成、[[樹状突起]]の形態形成や[[軸索]]伸長等の過程において、チロシンリン酸化依存的な制御が挙げられる<ref><pubmed>21508038</pubmed></ref>。  

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