「前頭側頭型認知症」の版間の差分

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== 定義・概念・分類 ==
== 定義・概念・分類 ==


[[image:前頭側頭型認知症1.jpg|thumb|350px|'''図1.前頭側頭葉変性症(FTLD)/前頭側頭型認知症(FTD)の分類'''<br>(Snowdonらによる(1996)[1])]]
[[image:前頭側頭型認知症1.jpg|thumb|350px|'''図1.前頭側頭葉変性症(FTLD)/前頭側頭型認知症(FTD)の分類'''<br>(Snowdonらによる(1996)<ref name=ref1>'''Snowden JS, Neary D, Mann DM.''',BR>Fronto-temporal Lobar Degeneration: Fronto-temporal Dementia, Progressive Aphasia, Semantic Dementia.<br>New York, ''Churchill Livingstone'', 1996.</ref>)]]


 前頭側頭型認知症(frontotemporal dementia: FTD)は人格変化や行動異常に特徴づけられる症候群(syndrome)であり、大脳の前方部(前頭側頭葉)に限局性変性を示す疾患群に認められる。症候および病理学的違いから、大脳の後方部の障害がめだつAlzheimer病(Alzheimer’s disease: AD)と対比される。
 前頭側頭型認知症(frontotemporal dementia: FTD)は人格変化や行動異常に特徴づけられる症候群(syndrome)であり、大脳の前方部(前頭側頭葉)に限局性変性を示す疾患群に認められる。症候および病理学的違いから、大脳の後方部の障害がめだつAlzheimer病(Alzheimer’s disease: AD)と対比される。


 前頭側頭葉の変性という観点からは、FTDは前頭側頭葉変性症(frontotemporal lobar degeneration: FTLD)に含まれる。FTLDの臨床病型は脳病変部位の機能局在に対応して、FTD、進行非流暢性失語(progressive non-fluent aphasia: PA)、意味性認知症(semantic dementia: SD)の3型を主要な臨床病型として含む(図1)[1,2,3]。FTDはさらに臨床症状から脱抑制型(disinhibited type)、無欲型(apathetic type)、常同型(stereotypic type)の3亜型に分類される(図1)。
 前頭側頭葉の変性という観点からは、FTDは前頭側頭葉変性症(frontotemporal lobar degeneration: FTLD)に含まれる。FTLDの臨床病型は脳病変部位の機能局在に対応して、FTD、進行非流暢性失語(progressive non-fluent aphasia: PA)、意味性認知症(semantic dementia: SD)の3型を主要な臨床病型として含む(図1)<ref name=ref1 /> <ref name=ref2><pubmed>9855500</pubmed></ref> <ref name=ref3><pubmed>16239184</pubmed></ref> 。FTDはさらに臨床症状から脱抑制型(disinhibited type)、無欲型(apathetic type)、常同型(stereotypic type)の3亜型に分類される(図1)。


 一方、最近では、FTDはFTLDの同義語として使用されることがしばしばある。その場合、“FTD(広義)”は、上記のFTD、PA、SDを含む複数の症候群の集合体(syndromes)を意味し、上記のFTLDの一臨床亜型としてのFTDは、behavioral variant FTD (bvFTD)と呼ばれる。
 一方、最近では、FTDはFTLDの同義語として使用されることがしばしばある。その場合、“FTD(広義)”は、上記のFTD、PA、SDを含む複数の症候群の集合体(syndromes)を意味し、上記のFTLDの一臨床亜型としてのFTDは、behavioral variant FTD (bvFTD)と呼ばれる。
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 FTLD-Tauには、孤発性のPick病や、遺伝性でタウ遺伝子変異に伴う第17番染色体に連鎖するFTDとパーキンソニズム(frontotemporal dementia and parkinsonism linked to chromosome 17: FTDP-17)などがある(図1)。Pick病は1892年Arnold Pickにより前頭側頭葉に限局性の高度の萎縮を呈する疾患として報告され、神経細胞内に嗜銀性の封入体(Pick球あるいはPick小体)がみられ、封入体には3リピートタウとよばれるタウアイソフォームが凝集している。大脳皮質基底核変性症(corticobasal degeneration: CBD)や進行性核上性麻痺(progressive supranuclear palsy: PSP)などもFTDL-Tauに含まれる。
 FTLD-Tauには、孤発性のPick病や、遺伝性でタウ遺伝子変異に伴う第17番染色体に連鎖するFTDとパーキンソニズム(frontotemporal dementia and parkinsonism linked to chromosome 17: FTDP-17)などがある(図1)。Pick病は1892年Arnold Pickにより前頭側頭葉に限局性の高度の萎縮を呈する疾患として報告され、神経細胞内に嗜銀性の封入体(Pick球あるいはPick小体)がみられ、封入体には3リピートタウとよばれるタウアイソフォームが凝集している。大脳皮質基底核変性症(corticobasal degeneration: CBD)や進行性核上性麻痺(progressive supranuclear palsy: PSP)などもFTDL-Tauに含まれる。


 FTLD-TDPはFTLDの約半数を占めると考えられており、孤発性のものが多く、その中には運動ニューロン疾患(motor neuron disease: MND)を伴うFTD(FTD-MND)が含まれる(図1)。FTD-MNDは認知症を伴う筋萎縮性側索硬化症(amyotrophic lateral sclerosis with dementia: ALS-D)ともよばれる。FTLD-TDP/ALSに関連する遺伝子変異として、TDP-43、progranulin、valocin含有タンパク質(VCP)、C9orf72遺伝子の変異が家族例、時に孤発例で報告されている[4]。また、FTLD-TDPはTDP-43病理の違いにより4型(A~D)に分類され、それらは臨床型や遺伝子変異や生化学的特徴と関連している[5]
 FTLD-TDPはFTLDの約半数を占めると考えられており、孤発性のものが多く、その中には運動ニューロン疾患(motor neuron disease: MND)を伴うFTD(FTD-MND)が含まれる(図1)。FTD-MNDは認知症を伴う筋萎縮性側索硬化症(amyotrophic lateral sclerosis with dementia: ALS-D)ともよばれる。FTLD-TDP/ALSに関連する遺伝子変異として、TDP-43、progranulin、valocin含有タンパク質(VCP)、C9orf72遺伝子の変異が家族例、時に孤発例で報告されている<ref name=ref4><pubmed>22732773</pubmed></ref>。また、FTLD-TDPはTDP-43病理の違いにより4型(A~D)に分類され、それらは臨床型や遺伝子変異や生化学的特徴と関連している<ref name=ref5><pubmed>21644037</pubmed></ref>


 FTLD-FUSには神経細胞中間径フィラメント封入体病、好塩基性封入体病、FUS遺伝子変異例などが含まれる(図1)。
 FTLD-FUSには神経細胞中間径フィラメント封入体病、好塩基性封入体病、FUS遺伝子変異例などが含まれる(図1)。
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== 疫学 ==
== 疫学 ==
   
   
 50〜60歳台を中心に発症し、男女差はなく、孤発性、遺伝性の両者の場合がある。有病率では45-64歳の人口10万対15他の報告がある[3]
 50〜60歳台を中心に発症し、男女差はなく、孤発性、遺伝性の両者の場合がある。有病率では45-64歳の人口10万対15他の報告がある<ref name=ref3 />


== 臨床症候、検査、診断 ==
== 臨床症候、検査、診断 ==
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検査:頭部CT、MRIで特徴的な前頭側頭葉の限局性萎縮がみられる。局所脳血流および糖代謝の低下がSPECTやPETで鋭敏に検出される。家族例、時に孤発例でタウタンパク質他の遺伝子(図1)に変異を認める場合がある。
検査:頭部CT、MRIで特徴的な前頭側頭葉の限局性萎縮がみられる。局所脳血流および糖代謝の低下がSPECTやPETで鋭敏に検出される。家族例、時に孤発例でタウタンパク質他の遺伝子(図1)に変異を認める場合がある。


診断: FTDの診断は人格変化、行動異常、限局性前頭・側頭葉萎縮を特徴とする臨床、画像所見による。病初期からの記憶障害を主徴とするADを鑑別除外する。NearyらによるFTDの臨床診断基準を表1に示す[2]。FTDの原因疾患の診断については、MNDの随伴やCBDといった特徴的臨床所見を認める例や特定の遺伝子変異を有する例以外では、診断マーカーが未確立であり、病理学的検索が必要である。
診断: FTDの診断は人格変化、行動異常、限局性前頭・側頭葉萎縮を特徴とする臨床、画像所見による。病初期からの記憶障害を主徴とするADを鑑別除外する。NearyらによるFTDの臨床診断基準を表1に示す<ref name=ref2 />。FTDの原因疾患の診断については、MNDの随伴やCBDといった特徴的臨床所見を認める例や特定の遺伝子変異を有する例以外では、診断マーカーが未確立であり、病理学的検索が必要である。


== 治療、経過・予後 ==
== 治療、経過・予後 ==


 脳病変を修飾する根本的な治療法はなく、対症的治療およびケアが中心となる。FTDの認知障害を改善する薬剤はない。FTDの行動障害を改善する目的で選択的セロトニン再取り込み阻害薬(selective serotonin reuptake inhibitor: SSRI)が使用されている[6]。経過は緩徐進行性で、平均約8年で寝たきり状態になり死亡する。MNDを有する場合は平均約4年で死亡する。
 脳病変を修飾する根本的な治療法はなく、対症的治療およびケアが中心となる。FTDの認知障害を改善する薬剤はない。FTDの行動障害を改善する目的で選択的セロトニン再取り込み阻害薬(selective serotonin reuptake inhibitor: SSRI)が使用されている<ref name=ref6>日本神経学会(監修)<br>認知症疾患治療ガイドライン2010(コンパクト版2012)<br>''医学書院''、東京、2012.</ref>。経過は緩徐進行性で、平均約8年で寝たきり状態になり死亡する。MNDを有する場合は平均約4年で死亡する。


== 参考文献 ==
== 参考文献 ==
<references />
<references />
1.Snowden JS, Neary D, Mann DMA. Fronto-temporal Lobar Degeneration: Fronto-temporal Dementia, Progressive Aphasia, Semantic Dementia. New York, Churchill Livingstone,1996.
2. Neary D, Snowden JS, Gustafson L, Passant U, Stuss D, Black S, Freedman M, Kertesz A, Robert PH, Albert M, Boone K, Miller BL, Cummings J, Benson DF. Frontotemporal lobar degeneration. A consensus on clinical diagnostic criteria. Neurology 1998;51:1546-1554.
3. Nearly D, Snowden J, Mann D. Frontotemporal dementia. Lancet Neurol 2005;4:771-780.
4. Rademakers R, Neumann M, Mackenzie IR. Advances in understanding the molecular basis of frontotemporal dementia. Nat Rev Neurol 2012;8:423-434.
5. Mackenzie IR, Neumann M, Baborie A, Sampathu DM, Du Plessis D, Jaros E, Perry RH, Trojanowski JQ, Mann DM, Lee VM. A harmonized classification system for FTLD-TDP pathology. Acta Neuropathol 2011;122:111-113.
6. 日本神経学会(監修):認知症疾患治療ガイドライン2010(コンパクト版2012)。医学書院、東京、2012.
 




(執筆者:山田正仁 担当編集委員:高橋良輔)
(執筆者:山田正仁 担当編集委員:高橋良輔)
図の説明
図1. 前頭側頭葉変性症(FTLD)/前頭側頭型認知症(FTD)の分類(Snowdonらによる(1996)[1])

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