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==診断・分類の妥当性・信頼性== | == 診断・分類の妥当性・信頼性 == | ||
従来、精神疾患は外因性、心因性、内因性に分類されることが多かった。[[外因性精神疾患]]とは、脳への直接的・生理的影響から発症する場合、[[心因性精神疾患]]とは、性格や環境からの[[ストレス]]など心理的影響から発症する場合、[[内因性精神疾患]]とは、外因性でも内因性でもない、今のところ原因不明であるが、おそらく遺伝的素因を背景として発症する場合をさした。簡素で分かりやすい分類法であるが、外因・心因・内因といった分け方の妥当性に、疑問を投げかける研究成果が蓄積していった。 | 従来、精神疾患は外因性、心因性、内因性に分類されることが多かった。[[外因性精神疾患]]とは、脳への直接的・生理的影響から発症する場合、[[心因性精神疾患]]とは、性格や環境からの[[ストレス]]など心理的影響から発症する場合、[[内因性精神疾患]]とは、外因性でも内因性でもない、今のところ原因不明であるが、おそらく遺伝的素因を背景として発症する場合をさした。簡素で分かりやすい分類法であるが、外因・心因・内因といった分け方の妥当性に、疑問を投げかける研究成果が蓄積していった。 | ||
たとえば、[[神経症]]として心因性とされた[[パニック障害]]や[[強迫性障害]]は、遺伝性や脳の機能や構造の偏移が明らかにされると、もっぱら心因性とは言い難く、内因性との区別もあいまいである。 | たとえば、[[神経症]]として心因性とされた[[パニック障害]]や[[強迫性障害]]は、遺伝性や脳の機能や構造の偏移が明らかにされると、もっぱら心因性とは言い難く、内因性との区別もあいまいである。 | ||
[[操作的診断基準|操作的診断]]という新しい診断法が普及したのは、従来の診断法には信頼性について問題があったからである<ref><b>Carol S North, Sean H Yutzy</b><br>Goodwin and Guze's Psychiatric Diagnosis<br><i>Oxford University Press (New York)</i>:2010</ref>。1970年前後に行われたアメリカ—イギリス診断研究の結果が契機となり、精神疾患の診断・分類法を見直す機運が高まったと言われている。以前からアメリカとイギリスで入院患者統計に大きな差があり、アメリカでは[[精神分裂病]](現在の統合失調症に相当)が多く、イギリスでは[[躁うつ]]病(現在の[[双極性障害]]に相当)が多かった。2国間で真に有病率が異なるのか、医師の診断に偏りがあるのか調査したところ、結果は後者であった。 | [[操作的診断基準|操作的診断]]という新しい診断法が普及したのは、従来の診断法には信頼性について問題があったからである<ref><b>Carol S North, Sean H Yutzy</b><br>Goodwin and Guze's Psychiatric Diagnosis<br><i>Oxford University Press (New York)</i>:2010</ref>。1970年前後に行われたアメリカ—イギリス診断研究の結果が契機となり、精神疾患の診断・分類法を見直す機運が高まったと言われている。以前からアメリカとイギリスで入院患者統計に大きな差があり、アメリカでは[[精神分裂病]](現在の統合失調症に相当)が多く、イギリスでは[[躁うつ]]病(現在の[[双極性障害]]に相当)が多かった。2国間で真に有病率が異なるのか、医師の診断に偏りがあるのか調査したところ、結果は後者であった。 | ||
その後の国際的な多国間調査でも、この結果は支持され、1970年以降の精神科診断学にとって、診断の信頼性を向上させることは重要な課題であった。現在、[[ICD‐10]] [[精神および行動の障害―臨床記述と診断ガイドライン]]([[wikipedia:ja:世界保健機関|世界保健機関]])<ref><b>世界保健機関</b><br>ICD‐10 精神および行動の障害―臨床記述と診断ガイドライン<br><i>医学書院(東京)</i>:2005</ref>、あるいは[[DSM‐IV‐TR]] [[精神疾患の診断・統計マニュアル]]([[米国精神医学会]])<ref><b>米国精神医学会</b><br>DSM‐IV‐TR 精神疾患の診断・統計マニュアル<br><i>医学書院(東京)</i>:2003</ref>には、100を優に越える診断カテゴリーが用意されている。後者において、精神疾患は16のカテゴリー、すなわち「通常、幼児期、小児期、または青年期に初めて診断される障害」、「[[せん妄]]、[[認知症]]、[[健忘障害]]、および他の[[認知障害]]」、「一般身体疾患による精神疾患」、「[[物質関連障害]]」、「統合失調症および他の精神病性障害」、「[[気分障害]]」、「[[不安障害]]」、「[[身体表現性障害]]」、「[[虚偽性障害]]」、「解離性障害」、「性障害および性同一性障害」、「[[摂食障害]]」、「[[睡眠障害]]」、「[[他のどこにも分類されない衝動制御の障害]]」、「[[適応障害]]」、「[[パーソナリティ障害]]」に大別されている。 | その後の国際的な多国間調査でも、この結果は支持され、1970年以降の精神科診断学にとって、診断の信頼性を向上させることは重要な課題であった。現在、[[ICD‐10]] [[精神および行動の障害―臨床記述と診断ガイドライン]]([[wikipedia:ja:世界保健機関|世界保健機関]])<ref><b>世界保健機関</b><br>ICD‐10 精神および行動の障害―臨床記述と診断ガイドライン<br><i>医学書院(東京)</i>:2005</ref>、あるいは[[DSM‐IV‐TR]] [[精神疾患の診断・統計マニュアル]]([[米国精神医学会]])<ref><b>米国精神医学会</b><br>DSM‐IV‐TR 精神疾患の診断・統計マニュアル<br><i>医学書院(東京)</i>:2003</ref>には、100を優に越える診断カテゴリーが用意されている。後者において、精神疾患は16のカテゴリー、すなわち「通常、幼児期、小児期、または青年期に初めて診断される障害」、「[[せん妄]]、[[認知症]]、[[健忘障害]]、および他の[[認知障害]]」、「一般身体疾患による精神疾患」、「[[物質関連障害]]」、「統合失調症および他の精神病性障害」、「[[気分障害]]」、「[[不安障害]]」、「[[身体表現性障害]]」、「[[虚偽性障害]]」、「解離性障害」、「性障害および性同一性障害」、「[[摂食障害]]」、「[[睡眠障害]]」、「[[他のどこにも分類されない衝動制御の障害]]」、「[[適応障害]]」、「[[パーソナリティ障害]]」に大別されている。 | ||
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|+ 表1. ICD-10による精神疾患の分類 | |||
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| F0 症状性を含む器質性精神障害 | |||
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| F1 精神作用物質使用による精神及び行動の障害 | |||
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| F2 統合失調症、統合失調型障害及び妄想性障害 | |||
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| F20 統合失調症 | |||
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| F21 分裂病型障害 | |||
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| F22 持続性妄想性障害 | |||
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| F23 急性一過性精神病性障害 | |||
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| F24 感応性妄想性障害 | |||
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| F25 分裂感情障害 | |||
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| F28 他の非器質性精神病性障害 | |||
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| F29 特定不能の非器質性精神病 | |||
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| F3 気分(感情)障害 | |||
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| F30 躁病エピソード | |||
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| F31 双極性感情障害(躁うつ病) | |||
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| F32 うつ病エピソード | |||
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| F33 反復性うつ病性障害 | |||
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| F34 持続性気分(感情)障害 | |||
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| F38 他の気分(感情)障害 | |||
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| F39 詳細不明の気分[感情]障害 | |||
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| F4 神経症性障害、ストレス関連障害及び身体表現性障害 | |||
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| F40 恐怖姓不安障害 | |||
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| F41 他の不安障害 | |||
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| F42 強迫性障害(強迫神経症) | |||
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| F43 重度ストレスへの反応及び適用障害 | |||
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| F44 解離性(転換性)障害 | |||
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| F45 身体表現性障害 | |||
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| F48 他の神経症性障害 | |||
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| F5 生理的障害及び身体的要因に関連した行動症候群 | |||
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| F6 成人の人格及び行動の障害 | |||
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| F7 知的障害(精神遅滞) | |||
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| F8 心理的発達の障害 | |||
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| F9 小児期及び青年期に通常発症する行動及び情緒の障害 | |||
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== 診断カテゴリーと疾患単位 == | == 診断カテゴリーと疾患単位 == |