「二分脊椎」の版間の差分

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== 定義 ==
== 定義 ==


 神経管(neural tube)の形成不全・脊索の異常等により生じる背側正中部における椎骨の異常、特に左右椎弓が分離した病態を指す(図1)。神経管閉鎖障害(neural tube defects ; NTDs)に伴い生じる事が多いため、一般的に脊髄の神経管閉鎖障害である脊髄髄膜瘤(myelomeningocele)あるいは脊髄裂(myeloschisis)を指して使用される場合がある。  
 [[神経管]](neural tube)の形成不全・脊索の異常等により生じる背側正中部における椎骨の異常、特に左右椎弓が分離した病態を指す(図1)。[[神経管]]閉鎖障害(neural tube defects ; NTDs)に伴い生じる事が多いため、一般的に脊髄の神経管閉鎖障害である脊髄髄膜瘤(myelomeningocele)あるいは脊髄裂(myeloschisis)を指して使用される場合がある。  


[[Image:Yoheibamba fig 1.jpg|thumb|300px|'''図1.三次元CT画像(背面)において椎弓の癒合不全を認める。''']]
[[Image:Yoheibamba fig 1.jpg|thumb|300px|'''図1.三次元CT画像(背面)において椎弓の癒合不全を認める。''']]
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=== 発生過程による分類 ===
=== 発生過程による分類 ===
<ref name=ref1>'''Barvovich Aj'''<br>Congenital anomalies of the spine, Pediatric Neuroimaging, 4th edition<br>''Lippincott Williams & Wilkins''</ref> <ref name=ref2>'''坂本博昭'''<br>二分脊椎, 横田晃 監修・山崎麻美・坂本博昭編<br>小児脳神経外科学, ''金芳堂'', 2009; 264-341 </ref>
<ref name=ref1>'''Barvovich Aj'''<br>Congenital anomalies of the spine, Pediatric Neuroimaging, 4th edition<br>''Lippincott Williams & Wilkins''</ref> <ref name=ref2>'''坂本博昭'''<br>二分脊椎, 横田晃 監修・山崎麻美・坂本博昭編<br>小児[[脳神経]]外科学, ''金芳堂'', 2009; 264-341 </ref>


#一次神経管の形成不全 脊髄髄膜瘤(myelomeningocele)・脊髄裂(myeloschisis) 先天性皮膚洞(congenital dermal sinus) 脊髄脂肪腫(spinal lipoma)  
#一次神経管の形成不全 脊髄髄膜瘤(myelomeningocele)・脊髄裂(myeloschisis) 先天性皮膚洞(congenital dermal sinus) 脊髄脂肪腫(spinal lipoma)  
#二次神経管(caudal cell mass)の形成不全 ①終糸病変: 終糸脂肪腫(filum lipoma)・脂肪終糸(fatty filum taminale):脂肪腫が脊髄終糸に限局しているもの 緊縛終糸(tight filum terminale):脊髄終糸が肥厚して係留脊髄をきたしたもの ②尾側脊髄退行症候群(caudal regression syndrome):caudal cell massから発生する二次神経管や総排泄管を含めた尾側中胚葉の発生異常によって生じる。仙骨形成不全、脊髄欠損、外性器形成不全、膀胱外反、腎臓形成不全、肺形成不全等を伴う。 ③脊髄嚢胞瘤(myelocyctocele):脊髄中心管が嚢胞状に拡大して髄膜に覆われた状態で脊椎管外に脱出したもの。 ④前仙骨部髄膜瘤(anterior sacral meningocele):仙骨もしくは尾骨の一部低形成による骨欠損部から腹側の骨盤腔内に脱出した髄膜瘤。  
#二次神経管(caudal cell mass)の形成不全 ①終糸病変: 終糸脂肪腫(filum lipoma)・脂肪終糸(fatty filum taminale):脂肪腫が脊髄終糸に限局しているもの 緊縛終糸(tight filum terminale):脊髄終糸が肥厚して係留脊髄をきたしたもの ②尾側脊髄退行症候群(caudal [[regression]] syndrome):caudal cell massから発生する二次神経管や総排泄管を含めた尾側中胚葉の発生異常によって生じる。仙骨形成不全、脊髄欠損、外性器形成不全、膀胱外反、腎臓形成不全、肺形成不全等を伴う。 ③脊髄嚢胞瘤(myelocyctocele):脊髄中心管が嚢胞状に拡大して髄膜に覆われた状態で脊椎管外に脱出したもの。 ④前仙骨部髄膜瘤(anterior sacral meningocele):仙骨もしくは尾骨の一部低形成による骨欠損部から腹側の骨盤腔内に脱出した髄膜瘤。  
#脊索(notochord)の異常 ①脊索分離奇形(split notochord syndrome) ②脊髄分離奇形(split cord syndrome)  
#脊索(notochord)の異常 ①脊索分離奇形(split notochord syndrome) ②脊髄分離奇形(split cord syndrome)  
#発生原因不明  
#発生原因不明  
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== 発生機序 ==
== 発生機序 ==
 脊椎骨椎弓が二分される原因はさまざまであるが、①神経管が閉鎖不全をきたし、表皮外胚葉から神経外胚葉の不分離により神経管が開放された結果、椎弓が二分される場合(脊髄髄膜瘤、脊髄裂など)、②神経管閉鎖時に表皮外胚葉が神経管に迷入した結果、表皮組織が皮膚から脊髄まで連続し、椎弓が二分される場合(先天性皮膚洞など)、③神経管閉鎖時に神経管周囲の中胚葉組織(または神経堤細胞)が迷入した結果、脊髄背側より皮下まで脂肪組織が連続して形成され椎弓が二分される場合(脊髄脂肪腫)に分類される<ref name=ref2 />。  
 脊椎骨椎弓が二分される原因はさまざまであるが、①神経管が閉鎖不全をきたし、表皮外胚葉から神経外胚葉の不分離により神経管が開放された結果、椎弓が二分される場合(脊髄髄膜瘤、脊髄裂など)、②神経管閉鎖時に表皮外胚葉が神経管に迷入した結果、表皮組織が皮膚から脊髄まで連続し、椎弓が二分される場合(先天性皮膚洞など)、③神経管閉鎖時に神経管周囲の中胚葉組織(または[[神経堤]]細胞)が迷入した結果、脊髄背側より皮下まで脂肪組織が連続して形成され椎弓が二分される場合(脊髄脂肪腫)に分類される<ref name=ref2 />。  


== 疫学 ==
== 疫学 ==
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== 原因 ==
== 原因 ==
 神経管閉鎖障害の原因は遺伝因子・後天性因子などの複数因子が関与すると推察される。脊髄髄膜瘤発生のリスク因子となるものとして、神経管閉鎖障害症の出生既往、神経管閉鎖障害症の配偶者・近親者、1型糖尿病、バルプロ酸、カルバマゼピン、妊娠時の肥満、ビタミンAなどがあげられている<ref name=ref4><pubmed>17572919</pubmed></ref>。  
 神経管閉鎖障害の原因は遺伝因子・後天性因子などの複数因子が関与すると推察される。脊髄髄膜瘤発生のリスク因子となるものとして、神経管閉鎖障害症の出生既往、神経管閉鎖障害症の配偶者・近親者、1型糖尿病、[[バルプロ酸]]、[[カルバマゼピン]]、妊娠時の肥満、ビタミンAなどがあげられている<ref name=ref4><[[PubMed|pubmed]]>17572919</pubmed></ref>。  


== 臨床症状 ==
== 臨床症状 ==
 代表的な二分脊椎症である脊髄髄膜瘤(脊髄裂)について述べる。 腰仙部に多く、出生時に腰仙部に開放した神経管(Neural placode)を認める(図2)。脊髄中心管は開放され、髄液の一部は第四脳室から脊髄中心管へ入り外表に流出する。出生時には15%程度が水頭症を合併するが、腰仙部の閉鎖手術後に髄液の体外への流出が無くなった結果、顕在化する事が多く、本疾患の90%に合併することになる。腰仙部以外の合併病変としては、キアリ奇形(小脳虫部や延髄が大孔から高度に下垂する奇形)を90%に合併し、これにより延髄の圧迫症状(呼吸障害・嚥下障害など)を10%が発症する。 脊髄神経の症状としては、発生高位に応じた症状が生じ、運動麻痺・知覚障害、排尿障害(神経因性膀胱・排便機能障害)などである。したがって、仙髄部に発生した例では、自立歩行が可能であることが多い。水頭症の治療が十分に行われていない場合、上肢の麻痺・解離性知覚障害・疼痛などを症状とする脊髄空洞症が生じる場合がある。
 代表的な二分脊椎症である脊髄髄膜瘤(脊髄裂)について述べる。 腰仙部に多く、出生時に腰仙部に開放した神経管(Neural placode)を認める(図2)。脊髄中心管は開放され、髄液の一部は[[第四脳室]]から脊髄中心管へ入り外表に流出する。出生時には15%程度が水頭症を合併するが、腰仙部の閉鎖手術後に髄液の体外への流出が無くなった結果、顕在化する事が多く、本疾患の90%に合併することになる。腰仙部以外の合併病変としては、キアリ奇形(小脳虫部や延髄が大孔から高度に下垂する奇形)を90%に合併し、これにより延髄の圧迫症状(呼吸障害・嚥下障害など)を10%が発症する。 [[脊髄神経]]の症状としては、発生高位に応じた症状が生じ、運動麻痺・知覚障害、排尿障害(神経因性膀胱・排便機能障害)などである。したがって、仙髄部に発生した例では、自立歩行が可能であることが多い。水頭症の治療が十分に行われていない場合、上肢の麻痺・解離性知覚障害・疼痛などを症状とする脊髄空洞症が生じる場合がある。


[[Image:Yoheibamba fig 2.jpg|thumb|300px|'''図2.脊髄髄膜瘤の外表所見''']]  
[[Image:Yoheibamba fig 2.jpg|thumb|300px|'''図2.脊髄髄膜瘤の外表所見''']]  

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