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<font size="+1">[http://www.ncnp.go.jp/ibic/staff/member_02.html 守口 善也]</font><br> | <font size="+1">[http://www.ncnp.go.jp/ibic/staff/member_02.html 守口 善也]</font><br> | ||
''独立行政法人国立精神・神経医療研究センター 脳病態統合イメージングセンター''<br> | ''独立行政法人国立精神・神経医療研究センター 脳病態統合イメージングセンター''<br> | ||
DOI [[XXXX]]/XXXX 原稿受付日:2013年6月4日 原稿完成日:2013年6月xx日<br> | |||
担当編集委員:[http://researchmap.jp/tadafumikato 加藤 忠史](独立行政法人理化学研究所) | 担当編集委員:[http://researchmap.jp/tadafumikato 加藤 忠史](独立行政法人理化学研究所) | ||
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==心身症とは== | ==心身症とは== | ||
心身症(psychosomatic disorder)とは、「身体症状・身体疾患において、その発症や経過に心理社会的因子が密接に関与し、器質的・機能的障害が認められる病態」である<ref>'''日本心身医学会教育研修委員会編'''<br>心身医学の新しい診療指針<br>''心身医学, 1991. 31: p. 537-576'':1991</ref>。心身症は独立した疾患単位ではなく、病態名であり、特定の疾患、特定の診療科にしばられるものではない。この心身症の枠組みに入る疾患としては、表1<ref>'''日本線維筋痛症学会「線維筋痛症診療ガイドライン」作成委員会'''<br>線維筋痛症診療ガイドライン2013<br>''日本医事新報社'':2013</ref>にあげられるようなものがあり、病名を記載するに当たっては、例えば高血圧(心身症),十二指腸潰瘍(心身症),気管支喘息(心身症)と記載される。多軸評定を用いていた[[DSM-IV-TR]]においては、心身症は第1軸にpsychological factors affecting medical condition (身体疾患に影響を与えている心理的要因) | |||
心身症(psychosomatic disorder)とは、「身体症状・身体疾患において、その発症や経過に心理社会的因子が密接に関与し、器質的・機能的障害が認められる病態」である<ref>'''日本心身医学会教育研修委員会編'''<br>心身医学の新しい診療指針<br>''心身医学, 1991. 31: p. 537-576'':1991</ref>。心身症は独立した疾患単位ではなく、病態名であり、特定の疾患、特定の診療科にしばられるものではない。この心身症の枠組みに入る疾患としては、表1[[Image:Yoshiyamoriguchi_fig_1.png|thumb|300px|'''表1.心身症の病態を考えることのできる疾患'''<br>]]<ref>'''日本線維筋痛症学会「線維筋痛症診療ガイドライン」作成委員会'''<br>線維筋痛症診療ガイドライン2013<br>''日本医事新報社'':2013</ref>にあげられるようなものがあり、病名を記載するに当たっては、例えば高血圧(心身症),十二指腸潰瘍(心身症),気管支喘息(心身症)と記載される。多軸評定を用いていた[[DSM-IV-TR]]においては、心身症は第1軸にpsychological factors affecting medical condition (身体疾患に影響を与えている心理的要因)を、第3軸には身体疾患や身体症状を記載することになっており、身体疾患に影響を与える心理的要因について詳細に述べられていた(表2)[[Image:Yoshiyamoriguchi_fig_2.png|thumb|300px|'''表2.心身症に相当する DSM-IV-TR の記載'''<br>]]。2013年に発表されたDSM-5では、多軸診断は廃止されたが、引き続き心身症はpsychological factors affecting other medical conditionsと位置づけられている。[[ICD-10]]では、F5 (”behavioural syndromes associated with physiological disturbances and physical factors 生理的障害および身体的要因に関連した行動症候群)”の中に、[[摂食障害]](F50)、[[wj:性機能不全|性機能不全]](F52)、他に分類される障害あるいは疾患に関連した心理的および行動的要因(F54)などであり、F54の例として、[[wj:喘息|喘息]]、[[wj:皮膚炎|皮膚炎]]と[[wj:湿疹|湿疹]]、[[wj:胃潰瘍|胃潰瘍]]、[[wj:粘液性大腸炎|粘液性大腸炎]]、[[wj:潰瘍性大腸炎|潰瘍性大腸炎]]、[[wj:じんましん|じんましん]]などがあげられているが、もちろんこの操作的定義にしばられるものではない。 | |||
心身症について、日本心身医学会による定義(1991年)では、冒頭の定義に加え、「[[神経症]]や[[うつ病]]など他の[[精神障害]]にともなう身体症状は除外する。」という文章があるが、実際の臨床では[[神経症]]・[[うつ]]・[[不安障害]]・[[人格障害]]などの精神障害が、身体症状の背景にある例は極めて多く、これを除くのは一般臨床では非現実的で、批判も多い。この「他の精神障害に伴う身体症状を除外」したものは極めて狭義の心身症であり、現実的な心身症は、冒頭の定義にあるように、心理社会的な問題を背景にして出現する身体症状として広くとらえられている。特定のカテゴリ化した診断名をそこに当てはめるのは誤りである。 | 心身症について、日本心身医学会による定義(1991年)では、冒頭の定義に加え、「[[神経症]]や[[うつ病]]など他の[[精神障害]]にともなう身体症状は除外する。」という文章があるが、実際の臨床では[[神経症]]・[[うつ]]・[[不安障害]]・[[人格障害]]などの精神障害が、身体症状の背景にある例は極めて多く、これを除くのは一般臨床では非現実的で、批判も多い。この「他の精神障害に伴う身体症状を除外」したものは極めて狭義の心身症であり、現実的な心身症は、冒頭の定義にあるように、心理社会的な問題を背景にして出現する身体症状として広くとらえられている。特定のカテゴリ化した診断名をそこに当てはめるのは誤りである。 | ||
心身症の病態は多様で、例えば心理社会的ストレスは、身体症状を引き起こし増悪させる一因となる一方で、身体症状そのものも社会的不適合などの心理社会的ストレスを引き起こし、心理社会的ストレスと身体症状は相互に影響し合って、悪循環を形成することが多い。治療コンプライアンスにおける問題も、心身症の枠組みでとらえられる。例えば、治療に対する失望やあきらめ、医療に対する不信、知識の不足、性格傾向などから、適切な服薬や治療を拒むことによって身体症状を悪化させているのもその一例である。[[精神腫瘍学]](psycho-onchology)という領域も存在し、[[wj:悪性腫瘍|がん]]が精神・心理的影響を与えることはもちろん、心の問題ががんの発症や罹患後に与える影響も研究されている。 | 心身症の病態は多様で、例えば心理社会的ストレスは、身体症状を引き起こし増悪させる一因となる一方で、身体症状そのものも社会的不適合などの心理社会的ストレスを引き起こし、心理社会的ストレスと身体症状は相互に影響し合って、悪循環を形成することが多い。治療コンプライアンスにおける問題も、心身症の枠組みでとらえられる。例えば、治療に対する失望やあきらめ、医療に対する不信、知識の不足、性格傾向などから、適切な服薬や治療を拒むことによって身体症状を悪化させているのもその一例である。[[精神腫瘍学]](psycho-onchology)という領域も存在し、[[wj:悪性腫瘍|がん]]が精神・心理的影響を与えることはもちろん、心の問題ががんの発症や罹患後に与える影響も研究されている。 | ||
==心身医学について== | ==心身医学について== | ||
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心身症に関連した概念として、[[心身医学]](psychosomatic medicine)がある。心身医学は、身体症状・疾患などの身体面だけではなく、その背景にある心理社会的な側面や、脳(こころ)と身体の相互作用(心身相関)をベースにして、心-身を統合的に考察する全人的医学で、[[wj:デカルト|デカルト]]流の精神・身体を明確に区別した二元論的アプローチとは相反するものである。医療としての実践においては、本邦では心療内科、精神科、一般内科をはじめとする幅広い診療科において[[取り入れ]]られている。世界的にはドイツで誕生し、その後アメリカでは精神科を中心に発展した。 | 心身症に関連した概念として、[[心身医学]](psychosomatic medicine)がある。心身医学は、身体症状・疾患などの身体面だけではなく、その背景にある心理社会的な側面や、脳(こころ)と身体の相互作用(心身相関)をベースにして、心-身を統合的に考察する全人的医学で、[[wj:デカルト|デカルト]]流の精神・身体を明確に区別した二元論的アプローチとは相反するものである。医療としての実践においては、本邦では心療内科、精神科、一般内科をはじめとする幅広い診療科において[[取り入れ]]られている。世界的にはドイツで誕生し、その後アメリカでは精神科を中心に発展した。 | ||
この心身医学の背景には、[[wj:Freud|Freud]]による精神分析理論・力動的精神医学などの、複雑で微妙な人間の心理・行動をひもとく学問、[[wj:ウォルター・B・キャノン|Cannon]]の[[緊急反応]]や[[ホメオスターシス]]の概念、[[wj:ハンス・セリエ|Selye]]のストレス学説、[[wj:イワン・パブロフ|Pavlov]]の条件反射学、[[wj:バラス・スキナー|Skinner]]の[[ | この心身医学の背景には、[[wj:Freud|Freud]]による精神分析理論・力動的精神医学などの、複雑で微妙な人間の心理・行動をひもとく学問、[[wj:ウォルター・B・キャノン|Cannon]]の[[緊急反応]]や[[ホメオスターシス]]の概念、[[wj:ハンス・セリエ|Selye]]のストレス学説、[[wj:イワン・パブロフ|Pavlov]]の条件反射学、[[wj:バラス・スキナー|Skinner]]の[[オペラント条件付け]]といった、脳・精神生理学、学習理論、精神神経内分泌、精神神経免疫などの、こころと身体に関する幅広い学問の統合がある。その上で、この心身医学の勃興の最終的な動機となったのは、現代の医学の専門化・細分化である。専門的に細分化された身体医学は、今日の医学の発展と患者への恩恵をもたらした反面で、身体偏重・臓器中心などの考え方に偏り、「病気をみて人を診ない」という医学・医療のありかたへの反省をもたらした。そのことから、心身両面からの全人的・統合的医療の必要性が唱えられるようになった。さらに、現代のストレス社会において、人々が受ける心理社会的ストレスは日々増大しており、それに伴ったストレス関連疾患や心身症が国民的な問題になってきた、という背景もある。 | ||
==機序== | ==機序== | ||
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===ストレス=== | ===ストレス=== | ||
ストレス研究の歴史で最も大きな意味を持つのは、Selyeのストレス学説<ref>''' Selye, H '''<br> A syndrome produced by diverse nocuous agents.<br>'' Nature, 1936. 138: p. 32'':1936</ref> <ref><pubmed> 9722327 </pubmed></ref>である。Selyeは、ストレスによって起こる生体の非特異的な生体防御反応としての「[[一般適応症候群]]」を提唱し、ストレス後のステージとして、段階的に警告反応期(ショック相、反ショック相)、抵抗期、症憊期と進行し、[[wj:副腎皮質|副腎皮質]]の肥大、[[wj:胸腺|胸腺]]萎縮、[[wj:胃・十二指腸潰瘍|胃・十二指腸潰瘍]]の3つの症状が起こるとした。ここで重要なのは、物理的・科学的・生物学的ストレッサーと同様に、心理的ストレッサーも同じような反応が起きるということを提唱したことである。 | |||
心理社会的ストレスの研究として有名なものとして、Holmes and Raheによるライフイベントによるストレスモデルがある。彼らはストレスを「日常生活上の様々な変化(ライフイベント)に再適応するために必要な努力」と定義して、その努力によってエネルギーが費やされ蓄積し、個人の対応能力を超えた際に疾患が生じると考え、表のような尺度を作成した(表3)<ref><pubmed> 6059863 </pubmed></ref><ref><pubmed> 6059865 </pubmed></ref>。対してLazarus <ref>''' Lazarus, R. S. '''<br> Psychological stress and the coping process.<br>'' McGraw-Hill, New York'':1966</ref>は、「日常生活の些事により、常に長期間繰り返され、かつ意識されないうちに経験されるストレス」の重要性を強調した(表4) | 心理社会的ストレスの研究として有名なものとして、Holmes and Raheによるライフイベントによるストレスモデルがある。彼らはストレスを「日常生活上の様々な変化(ライフイベント)に再適応するために必要な努力」と定義して、その努力によってエネルギーが費やされ蓄積し、個人の対応能力を超えた際に疾患が生じると考え、表のような尺度を作成した(表3)[[Image:Yoshiyamoriguchi_fig_3.png|thumb|300px|'''表3.社会的再適応評価尺度'''<br>]] <ref><pubmed> 6059863 </pubmed></ref><ref><pubmed> 6059865 </pubmed></ref>。対してLazarus <ref>''' Lazarus, R. S. '''<br> Psychological stress and the coping process.<br>'' McGraw-Hill, New York'':1966</ref>は、「日常生活の些事により、常に長期間繰り返され、かつ意識されないうちに経験されるストレス」の重要性を強調した(表4)。[[Image:Yoshiyamoriguchi_fig_4.png|thumb|300px|'''表4.Daily Hassles (日常いらだちごと)'''<br>]]重大なライフイベントであれ日常のいらだちの蓄積であれ、彼らが提言したことは、人間であれば誰もが遭遇する可能性のある出来事が、[[ストレス反応]]を引き起こし、心身症につながる可能性があるということである。また、突発的な急性のストレス反応でも、それが繰り返され蓄積し慢性化することにより、その身体症状が遷延化することにつながる。もちろん、大きなストレス反応であれば、一回の急性のストレス反応が重大な心身の問題を引き起こすことになる。 | ||
また、外からみると同じにみえるストレスでも、個人によってストレスとして感じやすい傾向は違う。この個体差を説明するために、疾病発症のモデルとして語られるものとして、ストレス脆弱性モデルがある(図1) | また、外からみると同じにみえるストレスでも、個人によってストレスとして感じやすい傾向は違う。この個体差を説明するために、疾病発症のモデルとして語られるものとして、ストレス脆弱性モデルがある(図1)[[Image:Yoshiyamoriguchi_fig_5.png|thumb|300px|'''図1.ストレス脆弱性モデル '''<br>]]。これは、何らかの脳機能不全として語られる内因に、ストレス(外因)が加わり、疾病を発症するとするものである。この文脈で語られる脆弱性(内因)としては、遺伝的素因を含むが、後天的に獲得されたものも個体の脆弱性となり得る。 | ||
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===情動=== | ===情動=== | ||
心理社会的ストレスの中で、最も重要であると考えられるのが情動ストレスである。ヒトのみでなく[[wj:ネズミ|ネズミ]]の実験でも、この心理・情動ストレスを用いることができ、例えば[[ | 心理社会的ストレスの中で、最も重要であると考えられるのが情動ストレスである。ヒトのみでなく[[wj:ネズミ|ネズミ]]の実験でも、この心理・情動ストレスを用いることができ、例えば[[恐怖条件付け]]や[[コミュニケーションボックス]](隣の[[マウス]]が電撃ストレスを受けているのを観察する)などの手法は心理的なストレスの代表的なものである。こうした実験的な心理・情動ストレスでは、[[扁桃体]]や[[視床下部]]などを中心とした情動ネットワークが関わっている。 | ||
===心身症の背景となる心理・性格的要因=== | ===心身症の背景となる心理・性格的要因=== | ||
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====視床下部-下垂体-副腎系(HPA axis)==== | ====視床下部-下垂体-副腎系(HPA axis)==== | ||
ストレスは、[[視床下部]]、[[下垂体]]、副腎皮質を介して、[[コルチゾール]]上昇をもたらすが、これによりインスリン抵抗性が高まり糖尿病の発症に寄与する。さらに、脂質代謝にも関わっており、[[wj:肥満|肥満]]、[[wj:内臓脂肪|内臓脂肪]]蓄積・高血圧もこれに関連している。免疫系にも影響を与え、例えば[[wj:NK細胞|NK細胞]]には[[コルチゾール受容体]]があり、受容すると[[細胞死]]に至るため、細胞性免疫の低下につながる。さらに、[[wj:血小板|血小板]] | ストレスは、[[視床下部]]、[[下垂体]]、副腎皮質を介して、[[コルチゾール]]上昇をもたらすが、これによりインスリン抵抗性が高まり糖尿病の発症に寄与する。さらに、脂質代謝にも関わっており、[[wj:肥満|肥満]]、[[wj:内臓脂肪|内臓脂肪]]蓄積・高血圧もこれに関連している。免疫系にも影響を与え、例えば[[wj:NK細胞|NK細胞]]には[[コルチゾール受容体]]があり、受容すると[[細胞死]]に至るため、細胞性免疫の低下につながる。さらに、[[wj:血小板|血小板]]凝集能]]を亢進させ、[[wj:血栓|血栓]]を形成させ易くする恐れがある(図3)。 [[Image:Yoshiyamoriguchi_fig_7.png|thumb|300px|'''図3.脳・自律神経・HPA axisと身体疾病 '''<br>]] | ||
====免疫系==== | ====免疫系==== | ||
胸腺・[[wj:骨髄|骨髄]]・[[wj:脾臓|脾臓]]・[[wj:リンパ節|リンパ節]]などの免疫系組織は、自律神経系の支配を受けている。また、リンパ球などの[[wj:免疫担当細胞|免疫担当細胞]]の膜表面には様々なホルモンや[[神経伝達物質]]に対する[[レセプター]]が発現しており、ストレス負荷時にはこれらのレセプターや[[伝達物質]]を介して免疫系も影響される(図3参照)。急性ストレス時にはNK活性の亢進、リンパ球[[wj:CD4|CD4]]/[[wj:CD8|CD8]]比の低下、[[wj:唾液|唾液]]中[[wj:IgA|IgA]]の上昇などが認められ、慢性ストレスではNK活性低下・細胞数減少、[[wj:ConA/PHAリンパ球幼若化試験|ConA/PHAリンパ球幼若化試験]]によって測られる[[wj: | 胸腺・[[wj:骨髄|骨髄]]・[[wj:脾臓|脾臓]]・[[wj:リンパ節|リンパ節]]などの免疫系組織は、自律神経系の支配を受けている。また、リンパ球などの[[wj:免疫担当細胞|免疫担当細胞]]の膜表面には様々なホルモンや[[神経伝達物質]]に対する[[レセプター]]が発現しており、ストレス負荷時にはこれらのレセプターや[[伝達物質]]を介して免疫系も影響される(図3参照)。急性ストレス時にはNK活性の亢進、リンパ球[[wj:CD4|CD4]]/[[wj:CD8|CD8]]比の低下、[[wj:唾液|唾液]]中[[wj:IgA|IgA]]の上昇などが認められ、慢性ストレスではNK活性低下・細胞数減少、[[wj:ConA/PHAリンパ球幼若化試験|ConA/PHAリンパ球幼若化試験]]によって測られる[[wj:T細胞]]増殖能低下、唾液中IgA低下などが認められる。 | ||
===身体から脳へ=== | ===身体から脳へ=== | ||
こころと体がつながっているというのは、現在のニューロサイエンスの中では大きな注目を集めている。特に、上記に述べてきたように、従来、こころ(脳)が身体をコントロールしている部分が大きいことは広く認知されていたわけだが、逆に身体状態もまたこころを形作るということが、最近の[[脳機能イメージング]]などを主体としたニューロサイエンスなどでトピックスになっているからである。 | こころと体がつながっているというのは、現在のニューロサイエンスの中では大きな注目を集めている。特に、上記に述べてきたように、従来、こころ(脳)が身体をコントロールしている部分が大きいことは広く認知されていたわけだが、逆に身体状態もまたこころを形作るということが、最近の[[脳機能イメージング]]などを主体としたニューロサイエンスなどでトピックスになっているからである。 | ||
Damasioらは、特にWilliams Jamesらの考え方をベースにして、意思決定や意識、主観的な感情体験などは、身体の状態を基礎として形成される、という一連の考えを提唱している<ref>''' Damasio, A.R.. '''<br> Descartes' Error: Emotion, Reason, and the Human Brain <br>'' New York Putnam..'': 1994</ref>。特に「[[ソマティック・マーカー仮説]] | Damasioらは、特にWilliams Jamesらの考え方をベースにして、意思決定や意識、主観的な感情体験などは、身体の状態を基礎として形成される、という一連の考えを提唱している<ref>''' Damasio, A.R.. '''<br> Descartes' Error: Emotion, Reason, and the Human Brain <br>'' New York Putnam..'': 1994</ref>。特に「[[ソマティック・マーカー仮説]]」と呼ばれる考え方: 意志決定は「合理的、理性的」になされると考えられがちであるが、実際は、無意識のうちに起こる身体的な反応がそのオプションを絞り込み、合理的思考が働くのはそのあとである、という考えは多くの支持を呼んだ。また、DamasioやCraigは、[[島]]皮質が、身体表象から主観的な感情体験を生み出すもとであると考えている。Craigは、「内受容感覚」への気づき(Interoceptive awareness)が情動・意識を生み出すもとであり、それには[[前島皮質]]が関与しているというエビデンスを詳細にレビューし、従来不明な部分が多かった島皮質の機能を明るみにしたものとして注目されている<ref name=ref16 /> <ref name=ref17 />。 | ||
100年以上前から続く、James-Lange、 Schachter-Singerなどの情動理論からは、やはり心身が不可分で密接につながっているという認識から、情動や意識の問題を扱っていたのだが、現在になってその考えが見直されてきている。今後は、身体→脳、脳→身体という双方向のダイナミズムが脳科学の研究の対象になっていき、心身症の病態解明にすすむことが予想される。 | 100年以上前から続く、James-Lange、 Schachter-Singerなどの情動理論からは、やはり心身が不可分で密接につながっているという認識から、情動や意識の問題を扱っていたのだが、現在になってその考えが見直されてきている。今後は、身体→脳、脳→身体という双方向のダイナミズムが脳科学の研究の対象になっていき、心身症の病態解明にすすむことが予想される。 | ||
==診断== | ==診断== | ||
身体症状・身体疾病に対しては、まず各診療科・専門科別の機能的・器質的変化の評価がある。さらに、精神科的な心の問題・さらに広い心理社会的問題などの評価があり、全体として心身症としての治療の対象になるのかどうかが決められる。多くの身体疾患は、隠れた心理社会的背景が多かれ少なかれ存在する。そうするとすべての身体疾患は心身症ということになるが、現実的には心理社会的な側面も含んだ統合的なアプローチが臨床の中で効果的だと判断して、初めて「心身症」と診断することが多い。 | |||
評価の際に最も重要なのが「心身相関」の把握である。この把握にマジックはなく、問題となっている身体症状がどのような心理社会的背景を持っているのかを、病歴・現象、検査所見と、生活史・行動観察、周囲からの情報の収集などを、時間をかけて、徹底した傾聴を基本として問診・診察を行う必要がある。 | 評価の際に最も重要なのが「心身相関」の把握である。この把握にマジックはなく、問題となっている身体症状がどのような心理社会的背景を持っているのかを、病歴・現象、検査所見と、生活史・行動観察、周囲からの情報の収集などを、時間をかけて、徹底した傾聴を基本として問診・診察を行う必要がある。 | ||