「小胞体ストレス」の版間の差分

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小胞体ストレスが関わる神経系疾患について下に示す。  
小胞体ストレスが関わる神経系疾患について下に示す。  


=== パーキンソン病 ===
===パーキンソン病 ===


[[Image:図2. パーキンソン病.jpg|thumb|right|300px|'''図2 パーキンソン病''']]  
[[Image:図2. パーキンソン病.jpg|thumb|right|300px|'''図2 パーキンソン病''']]  
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 [[パーキンソン病]]は[[黒質]][[ドーパミン]]神経が選択的に変性する神経変性疾患のひとつである。家族性パーキンソン病のひとつである常染色体劣性家族性パーキンソン病では[[Parkin]]遺伝子が欠損することによって神経細胞死が起こり疾患につながる<ref><pubmed> 10888878 </pubmed></ref><ref><pubmed> 10973942 </pubmed></ref>。Parkinは[[ユビキチンリガーゼ]]の一種で、これまでに10種類以上の基質タンパク質が報告されている。その中でもパーキンソン病の発症に関わる因子としてPeal受容体がある。[[Peal受容体]]は[[エンドセリン]]受容体Bと約50%の相同性をもつ[[Gタンパク質共役受容体]]であるが、その[[リガンド]]はまだ同定されていない。Peal受容体は複数回膜を貫通するタンパク質で小胞体内の折りたたみが難しいタンパク質のひとつであると考えられている。折りたたまれないでミスフォールドされたPeal受容体はParkinによって[[ユビキチン]]化され、ERADによって分解される。Parkinが欠損する患者ではミスフォールド化したPeal受容体がERADの系で分解されず、ミスフォールドのまま小胞体に蓄積し小胞体ストレスを引き起こすことが示唆されている<ref><pubmed> 11439185 </pubmed></ref>。Peal受容体は中枢神経系では[[オリゴデンドロサイト]]に広く分布しているが、神経細胞では黒質ドーパミンニューロンに発現している。パーキンソン病で障害を受けやすい黒質ドーパミンニューロンがPeal受容体を発現していることは、本疾患で小胞体ストレスが発症に密接に関わる重要な根拠になっている。 また、パーキンソン病患者の神経細胞内レビー小体の構成成分である[[α-シヌクレイン]](α-Syn)はリン酸化修飾を受けており、これによって小胞体―ゴルジ装置間輸送が抑制される<ref><pubmed> 16794039 </pubmed></ref><ref><pubmed> 18162536 </pubmed></ref>。その結果、小胞体内に未成熟なタンパク質が蓄積して小胞体ストレスを誘発する<ref><pubmed> 17986870 </pubmed></ref>。パーキンソン病は[[wikipedia:ja:ミトコンドリア|ミトコンドリア]]の機能障害も生じているが、α-Synによる一連の反応はミトコンドリアの機能障害の発生前に起こることが示唆されている<ref><pubmed> 18562315 </pubmed></ref>。
 [[パーキンソン病]]は[[黒質]][[ドーパミン]]神経が選択的に変性する神経変性疾患のひとつである。家族性パーキンソン病のひとつである常染色体劣性家族性パーキンソン病では[[Parkin]]遺伝子が欠損することによって神経細胞死が起こり疾患につながる<ref><pubmed> 10888878 </pubmed></ref><ref><pubmed> 10973942 </pubmed></ref>。Parkinは[[ユビキチンリガーゼ]]の一種で、これまでに10種類以上の基質タンパク質が報告されている。その中でもパーキンソン病の発症に関わる因子としてPeal受容体がある。[[Peal受容体]]は[[エンドセリン]]受容体Bと約50%の相同性をもつ[[Gタンパク質共役受容体]]であるが、その[[リガンド]]はまだ同定されていない。Peal受容体は複数回膜を貫通するタンパク質で小胞体内の折りたたみが難しいタンパク質のひとつであると考えられている。折りたたまれないでミスフォールドされたPeal受容体はParkinによって[[ユビキチン]]化され、ERADによって分解される。Parkinが欠損する患者ではミスフォールド化したPeal受容体がERADの系で分解されず、ミスフォールドのまま小胞体に蓄積し小胞体ストレスを引き起こすことが示唆されている<ref><pubmed> 11439185 </pubmed></ref>。Peal受容体は中枢神経系では[[オリゴデンドロサイト]]に広く分布しているが、神経細胞では黒質ドーパミンニューロンに発現している。パーキンソン病で障害を受けやすい黒質ドーパミンニューロンがPeal受容体を発現していることは、本疾患で小胞体ストレスが発症に密接に関わる重要な根拠になっている。 また、パーキンソン病患者の神経細胞内レビー小体の構成成分である[[α-シヌクレイン]](α-Syn)はリン酸化修飾を受けており、これによって小胞体―ゴルジ装置間輸送が抑制される<ref><pubmed> 16794039 </pubmed></ref><ref><pubmed> 18162536 </pubmed></ref>。その結果、小胞体内に未成熟なタンパク質が蓄積して小胞体ストレスを誘発する<ref><pubmed> 17986870 </pubmed></ref>。パーキンソン病は[[wikipedia:ja:ミトコンドリア|ミトコンドリア]]の機能障害も生じているが、α-Synによる一連の反応はミトコンドリアの機能障害の発生前に起こることが示唆されている<ref><pubmed> 18562315 </pubmed></ref>。


=== ポリグルタミン病 ===  
===ポリグルタミン病 ===  


[[Image:図3. ポリグルタミン病.jpg|thumb|right|300px|'''図3 ポリグルタミン病''']]  
[[Image:図3. ポリグルタミン病.jpg|thumb|right|300px|'''図3 ポリグルタミン病''']]  
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 [[ポリグルタミン病]]は、原因遺伝子の翻訳領域内にあるポリグルタミンをコードする[[CAGリピート]]が異常に伸張することによって発症する一群の優性遺伝神経変性疾患である。この中には[[ハンチントン舞踏病]]、[[球脊髄性筋萎縮症]]、[[Machado-Joseph病]]、[[脊髄小脳変性症]]などが含まれる。ポリグルタミンを培養細胞に強制発現させると、細胞質内に凝集し始める。過剰なポリグルタミンを分解するために[[プロテアソーム]]が活性化するが、大量のポリグルタミンの処理に伴ってプロテアソーム活性が減弱し、結果的に小胞体ストレス応答に必要なERADが障害され小胞体ストレスが惹起される<ref><pubmed> 12050113 </pubmed></ref>。ERADが障害されて細胞死に至る過程にはIRE1-[[wikipedia:TRAF2|TRAF2]]-[[wikipedia:Ask1|Ask1]]-[[wikipedia:JNK|JNK]]経路が関わり、Ask1をノックアウトした細胞ではポリグルタミンによる細胞死が抑制される。
 [[ポリグルタミン病]]は、原因遺伝子の翻訳領域内にあるポリグルタミンをコードする[[CAGリピート]]が異常に伸張することによって発症する一群の優性遺伝神経変性疾患である。この中には[[ハンチントン舞踏病]]、[[球脊髄性筋萎縮症]]、[[Machado-Joseph病]]、[[脊髄小脳変性症]]などが含まれる。ポリグルタミンを培養細胞に強制発現させると、細胞質内に凝集し始める。過剰なポリグルタミンを分解するために[[プロテアソーム]]が活性化するが、大量のポリグルタミンの処理に伴ってプロテアソーム活性が減弱し、結果的に小胞体ストレス応答に必要なERADが障害され小胞体ストレスが惹起される<ref><pubmed> 12050113 </pubmed></ref>。ERADが障害されて細胞死に至る過程にはIRE1-[[wikipedia:TRAF2|TRAF2]]-[[wikipedia:Ask1|Ask1]]-[[wikipedia:JNK|JNK]]経路が関わり、Ask1をノックアウトした細胞ではポリグルタミンによる細胞死が抑制される。


=== アルツハイマー病 ===
===アルツハイマー病 ===


[[Image:図4. アルツハイマー病.jpg|thumb|right|300px|'''図4 アルツハイマー病''']]  
[[Image:図4. アルツハイマー病.jpg|thumb|right|300px|'''図4 アルツハイマー病''']]  
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 [[アルツハイマー病]]患者の脳では、不溶化した[[アミロイドβ]](Aβ)が神経細胞の間隙に蓄積してできた[[老人班]]と、神経細胞内に細線維が束をなして凝集する[[神経原線維変化]][[リンクの名前]]が特徴的な病理変化として観察される。病変が見られる領域、特に[[大脳皮質]][[連合野]]および[[海馬]]・[[扁桃体]]などの[[辺縁系]]の神経細胞は死滅脱落し、さらに進行すると脳の萎縮につながる。家族性アルツハイマー病(FAD)の原因遺伝子として[[アミロイド前駆体タンパク質]](APP)、[[プレセニリン]]1(PS1)、プレセニリン2(PS2)が同定されている。このうちPS1変異で起こるケースが大半を占めている。変異PS1は小胞体ストレスセンサーの活性化を阻害することで小胞体ストレス感受性を亢進させて神経を細胞死に導く<ref><pubmed> 10587643 </pubmed></ref><ref><pubmed> 11331887 </pubmed></ref>。 一方、孤発性アルツハイマー病(SAD)はPERK-eIF2α経路<ref><pubmed> 16691116 </pubmed></ref><ref><pubmed> 19264902 </pubmed></ref>や[[ユビキチンリガーゼ]][[wikipedia:HRD1|HRD1]]などがその発症に関わることが示唆されている<ref><pubmed> 20237263 </pubmed></ref>。
 [[アルツハイマー病]]患者の脳では、不溶化した[[アミロイドβ]](Aβ)が神経細胞の間隙に蓄積してできた[[老人班]]と、神経細胞内に細線維が束をなして凝集する[[神経原線維変化]][[リンクの名前]]が特徴的な病理変化として観察される。病変が見られる領域、特に[[大脳皮質]][[連合野]]および[[海馬]]・[[扁桃体]]などの[[辺縁系]]の神経細胞は死滅脱落し、さらに進行すると脳の萎縮につながる。家族性アルツハイマー病(FAD)の原因遺伝子として[[アミロイド前駆体タンパク質]](APP)、[[プレセニリン]]1(PS1)、プレセニリン2(PS2)が同定されている。このうちPS1変異で起こるケースが大半を占めている。変異PS1は小胞体ストレスセンサーの活性化を阻害することで小胞体ストレス感受性を亢進させて神経を細胞死に導く<ref><pubmed> 10587643 </pubmed></ref><ref><pubmed> 11331887 </pubmed></ref>。 一方、孤発性アルツハイマー病(SAD)はPERK-eIF2α経路<ref><pubmed> 16691116 </pubmed></ref><ref><pubmed> 19264902 </pubmed></ref>や[[ユビキチンリガーゼ]][[wikipedia:HRD1|HRD1]]などがその発症に関わることが示唆されている<ref><pubmed> 20237263 </pubmed></ref>。


=== 筋萎縮性側索硬化症 ===
===筋萎縮性側索硬化症 ===


[[Image:図5. 筋萎縮性側索硬化症.jpg|thumb|right|300px|'''図5 筋萎縮性側索硬化症''']]  
[[Image:図5. 筋萎縮性側索硬化症.jpg|thumb|right|300px|'''図5 筋萎縮性側索硬化症''']]  
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 神経系疾患のみならず、[[wikipedia:JA:糖尿病|糖尿病]]、[[wikipedia:JA:肥満|肥満]]、[[wikipedia:JA:骨代謝疾患|骨代謝疾患]]、[[wikipedia:JA:癌|癌]]など様々な疾患と小胞体ストレスの関わりが報告されており、疾患を理解する上で小胞体ストレスとその応答系の全貌解明が望まれる。  
 神経系疾患のみならず、[[wikipedia:JA:糖尿病|糖尿病]]、[[wikipedia:JA:肥満|肥満]]、[[wikipedia:JA:骨代謝疾患|骨代謝疾患]]、[[wikipedia:JA:癌|癌]]など様々な疾患と小胞体ストレスの関わりが報告されており、疾患を理解する上で小胞体ストレスとその応答系の全貌解明が望まれる。
 


== 参考文献  ==
== 参考文献  ==

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