50
回編集
Yusukemoriguchi (トーク | 投稿記録) 細 (ra) |
Yusukemoriguchi (トーク | 投稿記録) 細編集の要約なし |
||
1行目: | 1行目: | ||
森口佑介(上越教育大学)・板倉昭二(京都大学) | |||
鏡像認知 (mirror self-recognition) | |||
鏡像認知とは、個体が鏡に映った像を自己のものだと認識することである。20世紀前半からエピソード的な記述はあったが、20世紀後半にヒトの乳幼児やチンパンジーを対象にした実験的な研究かが始まり、現在ではその方法が定着している。様々な種を対象にした研究がなされており、鏡像認知のテストであるマークテストやルージュテストは、自己認識のリトマス紙的な指標として用いられている。 | |||
5行目: | 9行目: | ||
== チンパンジーを対象にした鏡像認知 == | == チンパンジーを対象にした鏡像認知 == | ||
Gallupは,チンパンジーの自己認識を調べるため、鏡を見たことのないチンパンジーに鏡を見せて,その様子を観察した<ref><pubmed> 4982211 </pubmed></ref> | Gallupは,チンパンジーの自己認識を調べるため、鏡を見たことのないチンパンジーに鏡を見せて,その様子を観察した<ref><pubmed> 4982211 </pubmed></ref>。鏡を見せた当初は,鏡に映った像に対して威嚇するような行動をとるなど,その像が自分であるとは認識している様子はなく,むしろ他者がいるかのように振る舞っていた。ところが,数日もたつとこのような行動はなくなり,むしろ,鏡を使って歯の隙間に挟まった食べ物をとるなど,自分の体を整えるような行動が見られるようになった。Gallupは、より実験的に自己認識を調べるため、マークテストを実施した。この実験では、チンパンジーが麻酔をされている間に,眉や耳のあたりに赤い染料をつけられた。そして,麻酔から醒めた後に,チンパンジーがどのような行動をとるかが検討された。その結果,鏡を見せる前には,チンパンジーは赤い染料部分がつけられた部分をほとんど触れないのに対して,鏡を見せた後にはその部分を頻繁に触れることが観察された。鏡を使って自分自身に対して行動が向けられたことから,チンパンジーは鏡に映った像を自分であると理解できると結論づけられた。 | ||
このマークテストは,自己認識の発達のリトマス紙的存在として様々な種の動物に用いられており,霊長類以外ではイルカやアジアゾウなどは自己像について感受性があるという結果が示されている<ref><pubmed>11331768</pubmed></ref><ref><pubmed>17075063</pubmed></ref>。サルについては,訓練をすることによって同様の結果が見られることも示されている<ref>'''Shoji Itakura'''<br>Use of a mirror to direct their responses in Japanese monkeys (Macaca fuscata fuscata)<br>''Primates'':1987, 28, 3, 343-352</ref>。 | このマークテストは,自己認識の発達のリトマス紙的存在として様々な種の動物に用いられており,霊長類以外ではイルカやアジアゾウなどは自己像について感受性があるという結果が示されている<ref><pubmed>11331768</pubmed></ref><ref><pubmed>17075063</pubmed></ref>。サルについては,訓練をすることによって同様の結果が見られることも示されている<ref>'''Shoji Itakura'''<br>Use of a mirror to direct their responses in Japanese monkeys (Macaca fuscata fuscata)<br>''Primates'':1987, 28, 3, 343-352</ref>。 | ||
22行目: | 26行目: | ||
最近は、自己に関する神経科学的研究も盛んで、自己意識、自己顔、自己評価などに関する脳内基盤が検討されている。鏡像認識に関連する自己顔の研究では、成人の参加者が自己顔を観察すると、自己以外の見慣れた顔を観察した時と比べて、右側の運動前野や下前頭回などの前頭領域<ref><pubmed>15019708</pubmed></ref>や、右の下頭頂葉<ref><pubmed>15588605</pubmed></ref><ref><pubmed>15808992</pubmed></ref>などの自己に関する情報を処理する領域を賦活させることが示されている。 | 最近は、自己に関する神経科学的研究も盛んで、自己意識、自己顔、自己評価などに関する脳内基盤が検討されている。鏡像認識に関連する自己顔の研究では、成人の参加者が自己顔を観察すると、自己以外の見慣れた顔を観察した時と比べて、右側の運動前野や下前頭回などの前頭領域<ref><pubmed>15019708</pubmed></ref>や、右の下頭頂葉<ref><pubmed>15588605</pubmed></ref><ref><pubmed>15808992</pubmed></ref>などの自己に関する情報を処理する領域を賦活させることが示されている。 | ||
ヒト乳幼児を対象にした研究は少ないが、近年構造MRIを用いた見当もなされている。Lewis らは、1-2歳児を対象に、自己認識の発達と、脳内の変化の関連を調べた<ref><pubmed> 18793066</pubmed></ref> | ヒト乳幼児を対象にした研究は少ないが、近年構造MRIを用いた見当もなされている。Lewis らは、1-2歳児を対象に、自己認識の発達と、脳内の変化の関連を調べた<ref><pubmed> 18793066</pubmed></ref>。行動実験として、鏡像認知と、ふり遊びなどの2つの尺度が用いられた。これらをまとめて、自己発達の行動指標として、どの脳領域と関連があるかが調べられた。その結果、左の側頭・頭頂接合部と行動指標の間にのみ有意な相関がみられた。この結果は成人の脳機能イメージング研究と必ずしも一致しないが、乳幼児を対象にした知見が少ないことから、今後も知見を蓄積していくことで、鏡像認識の発達とその脳内機構の関連は評価されるべきである。 | ||
<references/> | <references/> |
回編集