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<font size="+1">[http://researchmap.jp/read0080380 上口裕之]</font><br> | |||
''独立行政法人理化学研究所 脳科学総合研究センター''<br> | |||
DOI XXXX/XXXX 原稿受付日:2012年月日 原稿完成日:2012年月日<br> | |||
担当編集委員:[http://researchmap.jp/noriko1128 大隅 典子](東北大学 大学院医学系研究科 附属創生応用医学研究センター 脳神経科学コアセンター 発生発達神経科学分野)<br> | |||
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英語名:microfilament 独:Mikrofilamente 仏:microfilament | 英語名:microfilament 独:Mikrofilamente 仏:microfilament | ||
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マイクロフィラメント(別名:アクチンフィラメント)は、アクチンタンパク質が重合した細胞骨格であり、細胞の形態制御と運動および膜分子の局在制御などの多彩な生理機能を担う。アクチンフィラメントのATP加水分解活性および各種アクチン結合タンパク質と細胞内シグナル伝達分子の働きにより、アクチンフィラメントの重合と脱重合が部位特異的に制御されている。特に、ミオシンモーターとの相互作用により発生する牽引力は、細胞移動や細胞内小胞輸送を駆動する。 | |||
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==マイクロフィラメンとは== | ==マイクロフィラメンとは== | ||
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== 構造 == | == 構造 == | ||
アクチンタンパク質には少なくとも3種類のアイソフォームが存在し、α-アクチンは筋収縮を担い、β-アクチンとγ-アクチンは細胞骨格としてのアクチンフィラメントを構成する。 | |||
分子量約42kDaの球状のアクチンタンパク質(球状アクチン、G-アクチン)が直鎖状に重合してプロトフィラメントとなり、2本のプロトフィラメントが右巻きの[[wikipedia:JA:らせん|らせん]]状により合わさってアクチンフィラメント(線維状アクチン、F-アクチン)を構成する。アクチンフィラメントの直径は5-9nmであり、らせん構造の半周期は約37nmで、この半周期の両プロトフィラメント上に約13.5個の球状アクチンが存在する。 | |||
アクチンフィラメントには[[wikipedia:JA:極性|極性]]がある。[[wikipedia:JA:電子顕微鏡|電子顕微鏡]]観察によりアクチンフィラメントに結合したミオシンがやじり様に見えるため、フィラメントの一端をbarbed end、他端をpointed endと呼ぶ。生理的な環境では、アクチンの[[wikipedia:JA:重合|重合]]はbarbed endで起こり脱重合はpointed endで起こるため、前者をプラス端、後者をマイナス端と呼ぶ。 | アクチンフィラメントには[[wikipedia:JA:極性|極性]]がある。[[wikipedia:JA:電子顕微鏡|電子顕微鏡]]観察によりアクチンフィラメントに結合したミオシンがやじり様に見えるため、フィラメントの一端をbarbed end、他端をpointed endと呼ぶ。生理的な環境では、アクチンの[[wikipedia:JA:重合|重合]]はbarbed endで起こり脱重合はpointed endで起こるため、前者をプラス端、後者をマイナス端と呼ぶ。 | ||
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== トレッドミリング == | == トレッドミリング == | ||
細胞内に存在する多種多彩なアクチン結合タンパク質がアクチンフィラメントの動態を制御しているが、アクチンフィラメントに固有の特徴としてトレッドミリングが挙げられる<ref><pubmed> 18391171 </pubmed></ref>。個々のアクチンタンパク質は[[wikipedia:JA:アデノシン三リン酸|アデノシン三リン酸]](ATP)または[[wikipedia:JA:アデノシン二リン酸|アデノシン二リン酸]](ADP)と結合している。アクチンフィラメントはATP[[wikipedia:JA:加水分解|加水分解]]活性を有するため、フィラメントを構成するアクチンタンパク質は時間とともにADP結合型となっていく。 | |||
アクチンの重合反応と脱重合反応の速度はフリーの球状アクチンの濃度に依存し、両反応速度が等しくなる時の球状アクチン濃度を臨界濃度と呼ぶ。球状アクチン濃度が臨界濃度よりも高い場合には重合が優位となり、臨界濃度よりも低い場合には脱重合が優位となる。ATP型アクチンの臨界濃度はADP型アクチンの臨界濃度よりも低く、ATP型アクチンは重合しやすくADP型アクチンは脱重合しやすい。 | アクチンの重合反応と脱重合反応の速度はフリーの球状アクチンの濃度に依存し、両反応速度が等しくなる時の球状アクチン濃度を臨界濃度と呼ぶ。球状アクチン濃度が臨界濃度よりも高い場合には重合が優位となり、臨界濃度よりも低い場合には脱重合が優位となる。ATP型アクチンの臨界濃度はADP型アクチンの臨界濃度よりも低く、ATP型アクチンは重合しやすくADP型アクチンは脱重合しやすい。 | ||
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== 重合制御 == | == 重合制御 == | ||
球状アクチンに結合するタンパク質[[プロフィリン]]は、ADPをATPへ交換してATP型アクチンの生成を触媒し、アクチンフィラメントのプラス端での重合反応を促進する。一方、アクチン重合反応は[[キャッピングタンパク質]]により負に制御されている。キャッピングタンパク質がフィラメントのプラス端を覆うと、新たな球状アクチンがプラス端に結合できず重合が阻害される。 | |||
アクチンフィラメントの重合制御、すなわち重合可能なプラス端の形成には主として以下の3つのメカニズムが関与すると考えられている<ref><pubmed> 12600310 </pubmed></ref> | アクチンフィラメントの重合制御、すなわち重合可能なプラス端の形成には主として以下の3つのメカニズムが関与すると考えられている<ref><pubmed> 12600310 </pubmed></ref> | ||
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#アクチン重合核形成。既存のフィラメントの側面に[[actin-related protein 2/3]] (Arp2/3)複合体が結合し、そこを新たな重合核として分岐したフィラメントが伸長する。 | #アクチン重合核形成。既存のフィラメントの側面に[[actin-related protein 2/3]] (Arp2/3)複合体が結合し、そこを新たな重合核として分岐したフィラメントが伸長する。 | ||
#フィラメント切断。[[actin depolymerizing factor]] (ADF)/[[コフィリン]]がADP型フィラメントを切断し、重合可能なプラス端を露出する。 | #フィラメント切断。[[actin depolymerizing factor]] (ADF)/[[コフィリン]]がADP型フィラメントを切断し、重合可能なプラス端を露出する。 | ||
# | #アンキャッピング。プラス端を覆うキャッピングタンパク質をはずして重合を可能にする。 | ||
このようなアクチンフィラメントの動態は、主として[[Rho]]ファミリー[[ | このようなアクチンフィラメントの動態は、主として[[Rho]]ファミリー[[GTP結合タンパク質]]の下流シグナルにより制御されている<ref><pubmed> 18719708 </pubmed></ref>。 | ||
== 線維束とネットワーク == | == 線維束とネットワーク == | ||
[[フィロポディア]]の主要細胞骨格であるアクチン線維束は、[[ファシン]] | [[フィロポディア]]の主要細胞骨格であるアクチン線維束は、[[ファシン]]などのタンパク質が多数のアクチンフィラメントを束ねたものである。また[[ラメリポディア]]には、Arp2/3複合体による分岐構造を豊富に含むアクチンネットワークが存在する<ref><pubmed> 18209731 </pubmed></ref>。 | ||
Enabled/vasodilator-stimulated phosphoprotein ([[Ena/VASP]])は、プラス端キャッピングを抑制してアクチン重合速度を亢進することにより、非分岐の長いフィラメントを形成する<ref><pubmed> 18508258 </pubmed></ref>。これらフィラメントがファシンなどにより束化されて、アクチン線維束が構築される。 | Enabled/vasodilator-stimulated phosphoprotein ([[Ena/VASP]])は、プラス端キャッピングを抑制してアクチン重合速度を亢進することにより、非分岐の長いフィラメントを形成する<ref><pubmed> 18508258 </pubmed></ref>。これらフィラメントがファシンなどにより束化されて、アクチン線維束が構築される。 | ||
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== ミオシンとの相互作用 == | == ミオシンとの相互作用 == | ||
ミオシンは、アクチンフィラメントを動かすモータータンパク質である。ミオシンIIはアクチンフィラメントの収縮と後方移動を駆動する。また、アクチンフィラメント上を移動して小胞輸送を担うミオシンも同定されている<ref><pubmed> 22146746 </pubmed></ref>。例えば、ミオシンVはプラス端方向への輸送を、ミオシンVIはマイナス端方向への輸送を駆動する。 | |||
== 参考文献 == | == 参考文献 == | ||
<references /> | <references /> | ||