「ラメリポディア」の版間の差分

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<div align="right"> 
<font size="+1">秋山 博紀、[http://researchmap.jp/read0080380 上口 裕之]</font><br>
''独立行政法人理化学研究所 脳科学総合研究センター''<br>
DOI XXXX/XXXX 原稿受付日:2012年5月9日 原稿完成日:2012年5月23日<br>
担当編集委員:[http://researchmap.jp/fujiomurakami 村上 富士夫](大阪大学 大学院生命機能研究科)<br>
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英:lamellipodium(単); lemellipodia(複)
英:lamellipodium(単); lemellipodia(複)


同義語:葉状仮足
同義語:葉状仮足


{{box|text=
 ラメリポディアは、主に移動運動中の細胞周辺縁にみられる、薄い膜状の構造である。網目構造をとった[[アクチン]]フィラメントを含んでおり、このアクチンフィラメントの動態に依存して、伸長・退縮を繰り返す非常に動的な構造である。神経細胞では、移動細胞の先導突起先端部や、[[神経突起]]突出時の[[細胞体]]周辺、および[[成長円錐]]などにみられる。この他、移動中の[[グリア細胞]]や[[wikipedia:JA:白血球|白血球]]、[[wikipedia:JA:線維芽細胞|線維芽細胞]]の先導端にもみることができる。<br>  
 ラメリポディアは、主に移動運動中の細胞周辺縁にみられる、薄い膜状の構造である。網目構造をとった[[アクチン]]フィラメントを含んでおり、このアクチンフィラメントの動態に依存して、伸長・退縮を繰り返す非常に動的な構造である。神経細胞では、移動細胞の先導突起先端部や、[[神経突起]]突出時の[[細胞体]]周辺、および[[成長円錐]]などにみられる。この他、移動中の[[グリア細胞]]や[[wikipedia:JA:白血球|白血球]]、[[wikipedia:JA:線維芽細胞|線維芽細胞]]の先導端にもみることができる。<br>  
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== 構造と動態  ==
== 構造と動態  ==
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=== 重合と分枝形成  ===
=== 重合と分枝形成  ===


 [[Image:Actin branching.png|thumb|right|300px|'''図1 分枝形成の模式図'''<br>Arp2/3複合体と、単量体アクチンを結合した[[WASP]]/[[WAVE]]が、既存フィラメントの側面(あるいはプラス端)に結合することで重合核が形成され、新規フィラメントの重合が開始する(図下側)。新規フィラメントは、[[コータクチン]]の結合によって安定化する(図上側)。]]アクチンの重合は、単量体アクチンの濃度が高くなるほど促進され、また、プラス端に[[キャッピングタンパク質]]が結合することによってフィラメントの伸長が抑制されることが、in vitroの実験から明らかになっている<ref name="ref1" />。(詳細は[[アクチン]]および[[マイクロフィラメント]]の項参照)細胞においても、ラメリポディアの伸長が単量体アクチンの濃度が高い場合に促進されることが報告されている<ref name="ref6"><pubmed> 21502360 </pubmed></ref>。おもしろいことに、キャッピングタンパク質のノックダウンは、ラメリポディアの形成を阻害する<ref><pubmed> 15294161 </pubmed></ref>。キャッピングタンパク質の機能として、1)アクチンフィラメントの伸長促進(キャッピングタンパク質が結合しないフィラメントに対して、単量体アクチンの量が相対的に増すことにより、重合が促進される)、2)新規フィラメントの形成促進、のふたつのモデルが提唱されている<ref><pubmed> 9217250 </pubmed></ref><ref><pubmed> 18510928 </pubmed></ref>。  
 [[Image:Actin branching.png|thumb|right|300px|'''図1.分枝形成の模式図'''<br>Arp2/3複合体と、単量体アクチンを結合した[[WASP]]/[[WAVE]]が、既存フィラメントの側面(あるいはプラス端)に結合することで重合核が形成され、新規フィラメントの重合が開始する(図下側)。新規フィラメントは、[[コータクチン]]の結合によって安定化する(図上側)。]]
 
 アクチンの重合は、単量体アクチンの濃度が高くなるほど促進され、また、プラス端に[[キャッピングタンパク質]]が結合することによってフィラメントの伸長が抑制されることが、in vitroの実験から明らかになっている<ref name="ref1" />。(詳細は[[アクチン]]および[[マイクロフィラメント]]の項参照)細胞においても、ラメリポディアの伸長が単量体アクチンの濃度が高い場合に促進されることが報告されている<ref name="ref6"><pubmed> 21502360 </pubmed></ref>。おもしろいことに、キャッピングタンパク質のノックダウンは、ラメリポディアの形成を阻害する<ref><pubmed> 15294161 </pubmed></ref>。キャッピングタンパク質の機能として、1)アクチンフィラメントの伸長促進(キャッピングタンパク質が結合しないフィラメントに対して、単量体アクチンの量が相対的に増すことにより、重合が促進される)、2)新規フィラメントの形成促進、のふたつのモデルが提唱されている<ref><pubmed> 9217250 </pubmed></ref><ref><pubmed> 18510928 </pubmed></ref>。  


 アクチンフィラメントの枝分かれの起始部には、新規フィラメントを伸長させるための重合核となる、[[Arp2/3|Arp (actin-related protein) 2/3]]複合体が存在している。7つのサブユニットから構成されるArp2/3複合体の、[[Arp2]]および[[Arp3]]サブユニットは 単量体アクチンと非常によく似た構造をしており、これに単量体アクチンひとつを結合させた三量体が重合のための核となる。この三量体形成に重要な役割を果たすのが、WASP(Wiskott-Aldrich syndrome protein)、[[N-WASP]](neuronal-WASP)、WAVE(WASP family verprolin-homologous protein)などのWASP/WAVEファミリータンパク質である。V(verprolin-homologyあるいはWASP-homology-2)ドメインが単量体アクチンと結合し、C(コフィリン-homologyあるいはcentral)およびA(acidic)ドメインがArp2/3複合体に結合することで、重合核が形成される<ref name="ref1" />。
 アクチンフィラメントの枝分かれの起始部には、新規フィラメントを伸長させるための重合核となる、[[Arp2/3|Arp (actin-related protein) 2/3]]複合体が存在している。7つのサブユニットから構成されるArp2/3複合体の、[[Arp2]]および[[Arp3]]サブユニットは 単量体アクチンと非常によく似た構造をしており、これに単量体アクチンひとつを結合させた三量体が重合のための核となる。この三量体形成に重要な役割を果たすのが、WASP(Wiskott-Aldrich syndrome protein)、[[N-WASP]](neuronal-WASP)、WAVE(WASP family verprolin-homologous protein)などのWASP/WAVEファミリータンパク質である。V(verprolin-homologyあるいはWASP-homology-2)ドメインが単量体アクチンと結合し、C(コフィリン-homologyあるいはcentral)およびA(acidic)ドメインがArp2/3複合体に結合することで、重合核が形成される<ref name="ref1" />。


 Arp2/3複合体は既存フィラメントの側面、あるいはプラス端に結合し、既存フィラメントに対しておよそ70度の角度で新規フィラメントを伸長させる<ref name="ref1" /><ref name="ref10"><pubmed> 18775315 </pubmed></ref>。Arp2/3複合体をノックダウンすると、線維芽細胞でラメリポディアの形成が阻害される<ref name="ref11"><pubmed> 22492726 </pubmed></ref>。しかし、神経細胞成長円錐では、CAドメイン過剰発現によるArp2/3複合体の機能阻害は、ラメリポディア形成に影響を与えないという報告もある<ref><pubmed> 15233919 </pubmed></ref>。コータクチンは、アクチンフィラメントとArp2サブユニットに結合し、分枝構造を安定化させることでラメリポディアの維持に寄与する<ref><pubmed> 12176354 </pubmed></ref><ref><pubmed> 16051170 </pubmed></ref>。また、Arp2との結合がVCAドメインと競合するため、コータクチンはWASP/WAVEのリサイクリングを促進すると考えられる<ref><pubmed> 12732638 </pubmed></ref>。(図1)
 Arp2/3複合体は既存フィラメントの側面、あるいはプラス端に結合し、既存フィラメントに対しておよそ70度の角度で新規フィラメントを伸長させる<ref name="ref1" /><ref name="ref10"><pubmed> 18775315 </pubmed></ref>。Arp2/3複合体をノックダウンすると、線維芽細胞でラメリポディアの形成が阻害される<ref name="ref11"><pubmed> 22492726 </pubmed></ref>。しかし、神経細胞成長円錐では、CAドメイン過剰発現によるArp2/3複合体の機能阻害は、ラメリポディア形成に影響を与えないという報告もある<ref><pubmed> 15233919 </pubmed></ref>。コータクチンは、アクチンフィラメントとArp2サブユニットに結合し、分枝構造を安定化させることでラメリポディアの維持に寄与する<ref><pubmed> 12176354 </pubmed></ref><ref><pubmed> 16051170 </pubmed></ref>。また、Arp2との結合がVCAドメインと競合するため、コータクチンはWASP/WAVEのリサイクリングを促進すると考えられる<ref><pubmed> 12732638 </pubmed></ref>。(図1)


=== 脱重合と脱分枝&nbsp;  ===
=== 脱重合と脱分枝&nbsp;  ===


 [[Image:Actin debranching.png|thumb|right|300px|'''図2 脱分枝の模式図'''<br>[[コロニン]]の分枝起始部への結合により、コロニンおよびArp2/3複合体がフィラメントから解離する。さらに、コロニンとの結合を介して[[スリングショット]]が分枝起始部に局在する(図上側)。スリングショット によって活性化された[[ADF]]/[[コフィリン]]によってアクチンフィラメントが切断され、脱分枝が起こる(図下側)。]]アクチンフィラメントは、[[ADF]]/[[コフィリン]]や[[ゲルゾリン]]などによって切断され、マイナス端(脱重合端、矢じり端、pointed-end)から脱重合が起こる。フィラメントに組み込まれたアクチンは、ATP型からADP型となることが知られているが、これらのフィラメント切断分子はADP型アクチンとの親和性が高いため、プラス端から離れた部位で切断が起こりやすいと考えられる<ref><pubmed> 12663865 </pubmed></ref>。また、コフィリンがアクチンフィラメントに結合することによって、そのフィラメントに結合していたArp2/3複合体が解離し、脱分枝が起こるという報告もある<ref><pubmed> 19362000 </pubmed></ref>。コロニンはコータクチンとArp2サブユニットとの結合を競合的に阻害し、Arp2/3複合体のアクチンフィラメントからの解離を促す。Arp2/3複合体解離後、コロニンが代わって分枝起始部に存在し、分枝構造が不安定化する。さらに、コロニンは、ADF/コフィリンを脱リン酸化し活性化するスリングショットとの結合ドメインを有しているため、コロニン結合部位でフィラメントが切断され、結果として脱分枝が起こる<ref name="ref10" /><ref name="ref18"><pubmed> 17350576 </pubmed></ref>。また、アクチン同様、Arp2サブユニットも重合開始に伴ってATP型からADP型に変換される<ref name="ref19"><pubmed> 15094799 </pubmed></ref>。ATP加水分解活性を失うと、分枝形成の効率は変わらないものの、分枝構造の安定化がみられることから、ADP型のArp2を認識する何らかの分子、あるいはリン酸基を失うことによる構造変化によって、脱分枝が促進されると考えられる<ref><pubmed> 16862144 </pubmed></ref>。(図2)
 [[Image:Actin debranching.png|thumb|right|300px|'''図2.脱分枝の模式図'''<br>[[コロニン]]の分枝起始部への結合により、コロニンおよびArp2/3複合体がフィラメントから解離する。さらに、コロニンとの結合を介して[[スリングショット]]が分枝起始部に局在する(図上側)。スリングショット によって活性化された[[ADF]]/[[コフィリン]]によってアクチンフィラメントが切断され、脱分枝が起こる(図下側)。]]アクチンフィラメントは、[[ADF]]/[[コフィリン]]や[[ゲルゾリン]]などによって切断され、マイナス端(脱重合端、矢じり端、pointed-end)から脱重合が起こる。フィラメントに組み込まれたアクチンは、ATP型からADP型となることが知られているが、これらのフィラメント切断分子はADP型アクチンとの親和性が高いため、プラス端から離れた部位で切断が起こりやすいと考えられる<ref><pubmed> 12663865 </pubmed></ref>。また、コフィリンがアクチンフィラメントに結合することによって、そのフィラメントに結合していたArp2/3複合体が解離し、脱分枝が起こるという報告もある<ref><pubmed> 19362000 </pubmed></ref>。コロニンはコータクチンとArp2サブユニットとの結合を競合的に阻害し、Arp2/3複合体のアクチンフィラメントからの解離を促す。Arp2/3複合体解離後、コロニンが代わって分枝起始部に存在し、分枝構造が不安定化する。さらに、コロニンは、ADF/コフィリンを脱リン酸化し活性化するスリングショットとの結合ドメインを有しているため、コロニン結合部位でフィラメントが切断され、結果として脱分枝が起こる<ref name="ref10" /><ref name="ref18"><pubmed> 17350576 </pubmed></ref>。また、アクチン同様、Arp2サブユニットも重合開始に伴ってATP型からADP型に変換される<ref name="ref19"><pubmed> 15094799 </pubmed></ref>。ATP加水分解活性を失うと、分枝形成の効率は変わらないものの、分枝構造の安定化がみられることから、ADP型のArp2を認識する何らかの分子、あるいはリン酸基を失うことによる構造変化によって、脱分枝が促進されると考えられる<ref><pubmed> 16862144 </pubmed></ref>。(図2)


=== アクチン後方移動  ===
=== アクチン後方移動  ===
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== 引用文献  ==
== 引用文献  ==


<references />  
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(執筆者:秋山博紀、上口裕之 担当編集委員:村上富士夫)

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