56
回編集
Norikotakahashi (トーク | 投稿記録) 細編集の要約なし |
Norikotakahashi (トーク | 投稿記録) 細編集の要約なし |
||
58行目: | 58行目: | ||
[[Image:Takahashinoriko fig 3.jpg|thumb|250px|'''図3. 開口放出に伴う FM 蛍光の変化'''<br>膜融合時、細胞外色素の有無により蛍光変化の様式が異なる。]] | [[Image:Takahashinoriko fig 3.jpg|thumb|250px|'''図3. 開口放出に伴う FM 蛍光の変化'''<br>膜融合時、細胞外色素の有無により蛍光変化の様式が異なる。]] | ||
シナプスを刺激した時にミリ秒で起きる伝達物質放出は、[[活性帯]] ([[active zone]])にドックした小胞が開口放出すると仮想されている。この仮想的な小胞群を[[即時放出可能プール]] ([[readily releasable pool]], [[RRP]])という。[[シナプス小胞]]は開口放出後 30-60秒で細胞内部に[[エンドサイトーシス]]で取り込まれる(図 3左)。更に、シナプス終末内でシナプス小胞に再生されて[[即時放出可能プール]]に再び至る。この課程を[[リサイクリング]]と呼び、その小胞の集合体が[[再循環プール]]([[Recycling pool]])である。即時放出可能プールと再循環プールを総合して、[[全放出可能プールあるいは全リサイクリングプール]] ([[total recycling pool]], [[TRP]]) | シナプスを刺激した時にミリ秒で起きる伝達物質放出は、[[活性帯]] ([[active zone]])にドックした小胞が開口放出すると仮想されている。この仮想的な小胞群を[[即時放出可能プール]] ([[readily releasable pool]], [[RRP]])という。[[シナプス小胞]]は開口放出後 30-60秒で細胞内部に[[エンドサイトーシス]]で取り込まれる(図 3左)。更に、シナプス終末内でシナプス小胞に再生されて[[即時放出可能プール]]に再び至る。この課程を[[リサイクリング]]と呼び、その小胞の集合体が[[再循環プール]]([[Recycling pool]])である。即時放出可能プールと再循環プールを総合して、[[全放出可能プールあるいは全リサイクリングプール]] ([[total recycling pool]], [[TRP]])という呼称が使われる(図 4)。 | ||
細胞外を FM1-43 で還流中に、長い放出刺激(例 20 Hz、900 発)を与え、[[開口放出]]([[エクソサイトーシス]])した小胞の膜を染め出し、その後色素を含まない溶液で細胞外を還流し、外膜に結合した色素を wash out すると、TRPの全体が染まる。一方、ちょうど RRPにある小胞を枯渇させる程度の短い放出刺激(例 20 Hz、30 発)を与えて wash outをすると RRPが選択的に染まる。この様な解析から、RRPは TRPの 10-30%程度と推定されており<ref><pubmed> 15044806 </pubmed></ref>、TRPが40個程度の小さなシナプスでは RRPの小胞数は 4-12個となる。 | 細胞外を FM1-43 で還流中に、長い放出刺激(例 20 Hz、900 発)を与え、[[開口放出]]([[エクソサイトーシス]])した小胞の膜を染め出し、その後色素を含まない溶液で細胞外を還流し、外膜に結合した色素を wash out すると、TRPの全体が染まる。一方、ちょうど RRPにある小胞を枯渇させる程度の短い放出刺激(例 20 Hz、30 発)を与えて wash outをすると RRPが選択的に染まる。この様な解析から、RRPは TRPの 10-30%程度と推定されており<ref><pubmed> 15044806 </pubmed></ref>、TRPが40個程度の小さなシナプスでは RRPの小胞数は 4-12個となる。 | ||
64行目: | 64行目: | ||
次に、TRPを染めた小胞に刺激を与えると、シナプス小胞は細胞膜と融合し、FM1-43が細胞外液へ拡散することにより神経終末の蛍光は減弱する(脱染色、destaining 図3右)。この脱染色の時間経過は、小胞の開口放出確率が大きい程速い。定量的には、RRPにある小胞の数を [RRP]、その放出確率を Pvとすると、一回の刺激で放出される小胞の数は平均で Pv [RRP]となる。一方、TRPにある小胞の数を[TRP]、一回の刺激による TRPの蛍光の減弱率をkとすると、一回の刺激で放出される小胞の数は k [TRP]となる。よって、Pv [RRP] = k [TRP] となり、これからPv = k [RRP]/[TRP] という関係式が得られ、終末ごとにRRPにある小胞の放出確率を求めることができる <ref><pubmed>23049481 </pubmed></ref>。この Pvと、一回の刺激によりある終末から開口放出が起きる確率 Pr との間には、RRP内の小胞の放出確率が等しければ<math>Pr=1-(1-Pv)^{[RRP]}</math>という関係がある。Prも FM1-43を用いて直接求めた例がある<ref><pubmed> 9136769 </pubmed></ref> 。 | 次に、TRPを染めた小胞に刺激を与えると、シナプス小胞は細胞膜と融合し、FM1-43が細胞外液へ拡散することにより神経終末の蛍光は減弱する(脱染色、destaining 図3右)。この脱染色の時間経過は、小胞の開口放出確率が大きい程速い。定量的には、RRPにある小胞の数を [RRP]、その放出確率を Pvとすると、一回の刺激で放出される小胞の数は平均で Pv [RRP]となる。一方、TRPにある小胞の数を[TRP]、一回の刺激による TRPの蛍光の減弱率をkとすると、一回の刺激で放出される小胞の数は k [TRP]となる。よって、Pv [RRP] = k [TRP] となり、これからPv = k [RRP]/[TRP] という関係式が得られ、終末ごとにRRPにある小胞の放出確率を求めることができる <ref><pubmed>23049481 </pubmed></ref>。この Pvと、一回の刺激によりある終末から開口放出が起きる確率 Pr との間には、RRP内の小胞の放出確率が等しければ<math>Pr=1-(1-Pv)^{[RRP]}</math>という関係がある。Prも FM1-43を用いて直接求めた例がある<ref><pubmed> 9136769 </pubmed></ref> 。 | ||
FM1-43によって染めることができる TRPの小胞は、電子顕微鏡的に終末に存在する小胞の15-20%にすぎない。<ref><pubmed> 15044806 </pubmed></ref>。 電子顕微鏡的には同定されるがリサイクリングされ難いシナプス小胞の群を[[静止プール]][[ resting pool]]あるいは [[reserve pool]] | FM1-43によって染めることができる TRPの小胞は、電子顕微鏡的に終末に存在する小胞の15-20%にすぎない。<ref><pubmed> 15044806 </pubmed></ref>。 電子顕微鏡的には同定されるがリサイクリングされ難いシナプス小胞の群を[[静止プール]][[ resting pool]]あるいは [[reserve pool]]と呼ぶ(図 4)。このプールの小胞もゆっくりとしたリサイクリングに関係していることが他の方法によって明らかとなっている<ref><pubmed>21835344 </pubmed></ref>。 | ||
=== シナプス小胞の動態の解析 === | === シナプス小胞の動態の解析 === |
回編集