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<font size="+1">石井 宏史、[http://researchmap.jp/ToshihideYamashita 山下 俊英]</font><br> | |||
''大阪大学 大学院医学系研究科分子神経科学 分子神経科学''<br> | |||
DOI XXXX/XXXX 原稿受付日:2012年1月25日 原稿完成日:2012年2月2日<br> | |||
担当編集委員:[http://researchmap.jp/michisukeyuzaki 柚崎 通介](慶應義塾大学 医学部生理学)<br> | |||
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英語名:Heat shock protein | 英語名:Heat shock protein | ||
[[Image:PDB 3hsc EBI.jpg|thumb|right|500px|Hsp70の分子構造と基質結合<ref name="Turturici"><pubmed> 21403864 </pubmed></ref>]] | [[Image:PDB 3hsc EBI.jpg|thumb|right|500px|Hsp70の分子構造と基質結合<ref name="Turturici"><pubmed> 21403864 </pubmed></ref>]] | ||
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熱ショックタンパク質(Heat Shock Protein; HSP)とは[[wikipedia:ja:細胞|細胞]]が[[wikipedia:ja:ヒート|熱]]、[[wikipedia:ja:化学物質|化学物質]]、虚血などの[[wikipedia:ja:ストレス|ストレス]]にさらされた際に発現が上昇して細胞を保護する[[wikipedia:ja:タンパク質|タンパク質]]の一群である。分子[[wikipedia:ja:シャペロン|シャペロン]]として機能し、ストレスタンパク質(Stress Protein)とも呼ばれる<ref><pubmed> 4219221 </pubmed></ref>。HSPはその分子量により[[wikipedia:HSP60|Hsp60]]、[[wikipedia:Hsp70|Hsp70]]、[[wikipedia:Hsp90|Hsp90]]などに分類されている。HSPは[[wikipedia:ja:真性細菌|細菌]]から[[wikipedia:ja:ヒト|ヒト]]まで広く似た機能を持つことが知られており、その[[wikipedia:ja:一次構造|アミノ酸配列]]は生物の進化の過程においてよく保存されている。 | 熱ショックタンパク質(Heat Shock Protein; HSP)とは[[wikipedia:ja:細胞|細胞]]が[[wikipedia:ja:ヒート|熱]]、[[wikipedia:ja:化学物質|化学物質]]、虚血などの[[wikipedia:ja:ストレス|ストレス]]にさらされた際に発現が上昇して細胞を保護する[[wikipedia:ja:タンパク質|タンパク質]]の一群である。分子[[wikipedia:ja:シャペロン|シャペロン]]として機能し、ストレスタンパク質(Stress Protein)とも呼ばれる<ref><pubmed> 4219221 </pubmed></ref>。HSPはその分子量により[[wikipedia:HSP60|Hsp60]]、[[wikipedia:Hsp70|Hsp70]]、[[wikipedia:Hsp90|Hsp90]]などに分類されている。HSPは[[wikipedia:ja:真性細菌|細菌]]から[[wikipedia:ja:ヒト|ヒト]]まで広く似た機能を持つことが知られており、その[[wikipedia:ja:一次構造|アミノ酸配列]]は生物の進化の過程においてよく保存されている。 | ||
HSPは合成されたタンパク質に結合することによりタンパク質の[[wikipedia:ja:フォールディング|フォールディング]](折り畳み)を制御する分子シャペロンとしての機能を持ち、また分子シャペロンの多くはHSPである。高温条件化において変性したタンパク質や、あるいはフォールディングの段階に問題があり機能できない新生タンパク質にはHSPが結合することが知られている。HSPはこのような高次構造が破壊されたタンパク質修復機能やタンパク質[[wikipedia:ja:変性|変性]]抑制機能を有する。修復が不可能なタンパク質は[[ユビキチン]]化を受け、[[wikipedia:ja:プロテアソーム|プロテアソーム]]と呼ばれる[[wikipedia:ja:酵素|酵素]]複合体へ運搬されて分解される。フォールディング過程の異常のために不良品タンパク質が細胞内に蓄積するとフォールディング病と呼ばれる一連の疾患を引き起こす。神経変性疾患である[[筋萎縮性側索硬化症]](Amyotrophic lateral sclerosis; ALS)、[[アルツハイマー病]](Altzheimer’s disease; AD)や[[パーキンソン病]](Parkinson’s disease; PD)はフォールディング病と考えられている<ref><pubmed> 15516999 </pubmed></ref>。 | HSPは合成されたタンパク質に結合することによりタンパク質の[[wikipedia:ja:フォールディング|フォールディング]](折り畳み)を制御する分子シャペロンとしての機能を持ち、また分子シャペロンの多くはHSPである。高温条件化において変性したタンパク質や、あるいはフォールディングの段階に問題があり機能できない新生タンパク質にはHSPが結合することが知られている。HSPはこのような高次構造が破壊されたタンパク質修復機能やタンパク質[[wikipedia:ja:変性|変性]]抑制機能を有する。修復が不可能なタンパク質は[[ユビキチン]]化を受け、[[wikipedia:ja:プロテアソーム|プロテアソーム]]と呼ばれる[[wikipedia:ja:酵素|酵素]]複合体へ運搬されて分解される。フォールディング過程の異常のために不良品タンパク質が細胞内に蓄積するとフォールディング病と呼ばれる一連の疾患を引き起こす。神経変性疾患である[[筋萎縮性側索硬化症]](Amyotrophic lateral sclerosis; ALS)、[[アルツハイマー病]](Altzheimer’s disease; AD)や[[パーキンソン病]](Parkinson’s disease; PD)はフォールディング病と考えられている<ref><pubmed> 15516999 </pubmed></ref>。 | ||
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== Hsp70による脳虚血保護作用 == | == Hsp70による脳虚血保護作用 == | ||
動物や培養組織を用いた脳虚血モデルにおいて、神経と[[グリア細胞]]にHsp70を過剰発現させると虚血による損傷が軽減される。このような脳虚血保護作用はHsp70の[[wikipedia:ja:C末端|カルボキシ末端]]を介すると考えられている<ref><pubmed> 16292251 </pubmed></ref>。 | 動物や培養組織を用いた脳虚血モデルにおいて、神経と[[グリア細胞]]にHsp70を過剰発現させると虚血による損傷が軽減される。このような脳虚血保護作用はHsp70の[[wikipedia:ja:C末端|カルボキシ末端]]を介すると考えられている<ref><pubmed> 16292251 </pubmed></ref>。 | ||
== 神経変性疾患モデルとHsp70 == | == 神経変性疾患モデルとHsp70 == | ||
神経細胞に[[Βアミロイド|βアミロイド]]を過剰発現するとADと同様に神経細胞死が引き起こされる。Hsp70を神経細胞に強制発現させるとこのようなβアミロイドによる[[神経毒性]]を軽減することができる<ref><pubmed> 14973234 </pubmed></ref>。またβアミロイドを過剰発現させて作成したマウスADモデルにおいてもHsp70を神経細胞に過剰発現させると、[[Aβ]]の発現やAβの組織沈着、さらに神経細胞変性と[[シナプス]]減少を軽減し、行動実験における[[認知]]機能の低下が抑制されると報告されている<ref><pubmed> 21471357 </pubmed></ref>。またα[[シヌクレイン]]をDrosophila(ショウジョウバエ)に過剰発現させて作成したハエパーキンソン病モデルにおいて、ヒトHsp70を過剰発現させると、 αシヌクレインによる細胞死を防ぐことができると報告されている<ref><pubmed> 11823645 </pubmed></ref>。 | 神経細胞に[[Βアミロイド|βアミロイド]]を過剰発現するとADと同様に神経細胞死が引き起こされる。Hsp70を神経細胞に強制発現させるとこのようなβアミロイドによる[[神経毒性]]を軽減することができる<ref><pubmed> 14973234 </pubmed></ref>。またβアミロイドを過剰発現させて作成したマウスADモデルにおいてもHsp70を神経細胞に過剰発現させると、[[Aβ]]の発現やAβの組織沈着、さらに神経細胞変性と[[シナプス]]減少を軽減し、行動実験における[[認知]]機能の低下が抑制されると報告されている<ref><pubmed> 21471357 </pubmed></ref>。またα[[シヌクレイン]]をDrosophila(ショウジョウバエ)に過剰発現させて作成したハエパーキンソン病モデルにおいて、ヒトHsp70を過剰発現させると、 αシヌクレインによる細胞死を防ぐことができると報告されている<ref><pubmed> 11823645 </pubmed></ref>。 | ||
== Hsp90βと神経筋接合部 == | == Hsp90βと神経筋接合部 == | ||
[[アセチルコリン]]受容体は筋細胞内で[[Rapsyn]]というタンパク質を介してHsp90βと会合し、 [[神経筋接合部]]の発達と維持に関わっている<ref><pubmed> 18940591 </pubmed></ref>。 | [[アセチルコリン]]受容体は筋細胞内で[[Rapsyn]]というタンパク質を介してHsp90βと会合し、 [[神経筋接合部]]の発達と維持に関わっている<ref><pubmed> 18940591 </pubmed></ref>。 | ||
== 熱ショックタンパク質作動薬 == | == 熱ショックタンパク質作動薬 == | ||
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あらかじめ熱ショックを組織に加えることにより、Hsp70、[[wikipedia:en:HSPA8|Hsc70]]、Hsp32や[[wikipedia:en:Hsp27|Hsp27]]が亢進し、神経保護作用を示すことが分かっている<ref><pubmed> 10341239 </pubmed></ref>。熱ストレスによりHsc70が[[大脳皮質]][[神経細胞]]のシナプスに局在し、[[wikipedia:en:Chaperone DnaJ|Hsp40]]と会合し、変性タンパク質をリフォールディングする。また熱ストレスによりグリア細胞においてHsp70が産生され、細胞間を移動し、隣り合う神経細胞の突起に輸送される<ref><pubmed> 3947949 </pubmed></ref>。この反応を応用し、[[坐骨神経]]細胞の切断端にHsp70/Hsc70を細胞外から添加すると、神経細胞死が抑制される<ref><pubmed> 9222601 </pubmed></ref>。 | あらかじめ熱ショックを組織に加えることにより、Hsp70、[[wikipedia:en:HSPA8|Hsc70]]、Hsp32や[[wikipedia:en:Hsp27|Hsp27]]が亢進し、神経保護作用を示すことが分かっている<ref><pubmed> 10341239 </pubmed></ref>。熱ストレスによりHsc70が[[大脳皮質]][[神経細胞]]のシナプスに局在し、[[wikipedia:en:Chaperone DnaJ|Hsp40]]と会合し、変性タンパク質をリフォールディングする。また熱ストレスによりグリア細胞においてHsp70が産生され、細胞間を移動し、隣り合う神経細胞の突起に輸送される<ref><pubmed> 3947949 </pubmed></ref>。この反応を応用し、[[坐骨神経]]細胞の切断端にHsp70/Hsc70を細胞外から添加すると、神経細胞死が抑制される<ref><pubmed> 9222601 </pubmed></ref>。 | ||
== シャペロン介在オートファジーによるハンチントン病の治療 == | == シャペロン介在オートファジーによるハンチントン病の治療 == | ||
マウスハンチントン病モデルでは、神経細胞に伸長[[ポリグルタミン]]鎖が蓄積する。Hsc70の伸長ポリグルタミン鎖への結合を促進すると、伸長ポリグルタミン鎖が[[wikipedia:ja:リソソーム|リソソーム]]に運ばれ、[[wikipedia:ja:オートファジー|オートファジー]]により分解される。これにより行動異常が改善され、寿命が延びる<ref><pubmed> 20190739 </pubmed></ref>。 | マウスハンチントン病モデルでは、神経細胞に伸長[[ポリグルタミン]]鎖が蓄積する。Hsc70の伸長ポリグルタミン鎖への結合を促進すると、伸長ポリグルタミン鎖が[[wikipedia:ja:リソソーム|リソソーム]]に運ばれ、[[wikipedia:ja:オートファジー|オートファジー]]により分解される。これにより行動異常が改善され、寿命が延びる<ref><pubmed> 20190739 </pubmed></ref>。 | ||
== 自己免疫疾患とHsp70 == | == 自己免疫疾患とHsp70 == | ||
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== 参考文献 == | == 参考文献 == | ||
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