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Osamusakura (トーク | 投稿記録) 細編集の要約なし |
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==背景と概要== | ==背景と概要== | ||
脳神経倫理学とは、脳神経科学研究の発展に伴う倫理的・社会的問題を扱う学際的で実践的な学問領域である(Fukushi, T. et al. 2007, Gazzaniga 2005, 美馬 2010, 福士・佐倉 2007)。生命倫理や医療倫理と密接な関係がある応用倫理学の一分野であるが、脳神経科学がもたらす新たな倫理的・社会的課題について対応するという理由から、生命倫理学などとは異なる新たな学問分野として位置づけられることが通常である。現在の脳神経倫理学は、ヒトを対象とした脳活動の画像解析技術が格段に進歩したことを受けて、2000年頃からその重要性が指摘され始めた領域を指す。原語は「Neuroethics」であり、日本語においては「神経倫理学」、「脳倫理」などと称されることもあるが、脳と神経の両方を対象とすることを強調するため、本項目では「脳神経倫理学」とする。 | |||
==具体的な問題事例== | ==具体的な問題事例== | ||
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====マインドリーディング==== | ====マインドリーディング==== | ||
外部から当人が考えていることなどを読み取ることを意味する。特に、当人の望まない状況下での心や思考の読み取りが問題となる。心や思考の読み取りに関しては、現行では、嘘発見器などの心理学的手法のものが主流であるが、最近では[[ブレイン・マシン・インターフェース(BMI)]] | 外部から当人が考えていることなどを読み取ることを意味する。特に、当人の望まない状況下での心や思考の読み取りが問題となる。心や思考の読み取りに関しては、現行では、嘘発見器などの心理学的手法のものが主流であるが、最近では[[ブレイン・マシン・インターフェース(BMI)]]などの技術を用いて脳の状態から心や思考の読み解きが行われる状況が想定される。(神谷 2008, ) | ||
====マインドコントロール==== | ====マインドコントロール==== | ||
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====安全性==== | ====安全性==== | ||
研究や治療で使用する器具などの技術的な安全性の問題。例えば、その原因は治療を施した後での経年変化や経年劣化などに起因することが多いが、長期使用においては脳の可塑性への影響も懸念されるため、一概に技術的な進展によってのみでは解決できる問題ではない。(長谷川 2008) | |||
====患者選定==== | ====患者選定==== | ||
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===その他の問題=== | ===その他の問題=== | ||
====軍事利用(デュアルユース)==== | ====軍事利用(デュアルユース)==== | ||
軍事目的において脳神経科学研究を発展させる、あるいは実用することに関する問題。例えば、ブレイン・マシン・インターフェース(BMI)などの技術を、兵士の戦闘力を上げるために使用することに関する問題。また、デュアルユースとは、民間で研究開発されたものが軍事利用されるような二重の方法で使用されることを指す。(川人2010, 川人・佐倉 2010) | |||
====脳バンク==== | ====脳バンク==== | ||
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==脳神経科学と社会== | ==脳神経科学と社会== | ||
脳神経科学と社会の関係がいかにあるべきかということを検討し、その方策を提示することを意味する。近年では、サイエンスコミュニケーションやアウトリーチの文脈において活発的に必要性が指摘されるようになった。 | 脳神経科学と社会の関係がいかにあるべきかということを検討し、その方策を提示することを意味する。近年では、サイエンスコミュニケーションやアウトリーチの文脈において活発的に必要性が指摘されるようになった。(礒部 2013) | ||
====エンターテインメントにおける問題==== | ====エンターテインメントにおける問題==== | ||
98行目: | 98行目: | ||
====脳神経法学および裁判における脳神経科学==== | ====脳神経法学および裁判における脳神経科学==== | ||
精神鑑定やDNA判定が裁判での有力な証拠となるように、被疑者や証人の脳状態もまた裁判の証拠として採用される可能性がある。例えば、脳神経科学研究における脳画像診断によって、被疑者の責任の有無に影響を与えることが想定される。一方で、証人や被疑者の脳状態を法廷での判断材料とすることには、信頼性などの面で時期尚早であるという批判も強い。またこの問題は自由意志と責任帰属の問題とも密接に関連し、当人自体と当人の脳状態によってどこまで責任が当人自体に帰属されるのかということに関わる事項である。 | 精神鑑定やDNA判定が裁判での有力な証拠となるように、被疑者や証人の脳状態もまた裁判の証拠として採用される可能性がある。例えば、脳神経科学研究における脳画像診断によって、被疑者の責任の有無に影響を与えることが想定される。一方で、証人や被疑者の脳状態を法廷での判断材料とすることには、信頼性などの面で時期尚早であるという批判も強い。またこの問題は自由意志と責任帰属の問題とも密接に関連し、当人自体と当人の脳状態によってどこまで責任が当人自体に帰属されるのかということに関わる事項である。(Garland 2004, 樋口 2012) | ||
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大学などでの専門家養成教育プログラムとしては、北アメリカでは、ペンシルベニア大学(Center for Neuroscience and Society)、ブリティッシュコロンビア大学(National Core for Neuroethics)などで、博士課程を含めた大学院教育課程が設置され、専門家の養成が行なわれている。国内では、東京大学大学院情報学環や東京大学大学院総合文化研究科などで関連する教育がおこなわれている。 | 大学などでの専門家養成教育プログラムとしては、北アメリカでは、ペンシルベニア大学(Center for Neuroscience and Society)、ブリティッシュコロンビア大学(National Core for Neuroethics)などで、博士課程を含めた大学院教育課程が設置され、専門家の養成が行なわれている。国内では、東京大学大学院情報学環や東京大学大学院総合文化研究科などで関連する教育がおこなわれている。 | ||
また、教科書としては、『The Oxford Handbook of Neuroethics』、『Neuroethics: Defining the Issues in Theory, Practice And | また、教科書としては、『The Oxford Handbook of Neuroethics』、『Neuroethics: Defining the Issues in Theory, Practice And Policy』、『脳神経倫理学の展望』などが近年相次いで出版されている状況である(詳細については参考文献参照)。(Racine 2010, ) | ||
以上を総覧すると、学術分野としての脳神経倫理学は、2000年頃からのスタートという短い歴史にもかかわらず、とくに北アメリカを中心に急速に学会、教科書、教育などの制度化が進んでいると言える。また、日本国内においても、北アメリカの潮流からそれほど遅れることなく、学問的な制度化が進んでいる状況にあるといえる。 | 以上を総覧すると、学術分野としての脳神経倫理学は、2000年頃からのスタートという短い歴史にもかかわらず、とくに北アメリカを中心に急速に学会、教科書、教育などの制度化が進んでいると言える。また、日本国内においても、北アメリカの潮流からそれほど遅れることなく、学問的な制度化が進んでいる状況にあるといえる。 |
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