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<font size="+1">坪山 幸太郎、[http://researchmap.jp/tanakasj 田中 慎二]、[http://researchmap.jp/shigeookabe 岡部 繁男]</font><br>
<font size="+1">坪山 幸太郎、[http://researchmap.jp/tanakasj 田中 慎二]、[http://researchmap.jp/shigeookabe 岡部 繁男]</font><br>
''東京大学大学院医学系研究科''<br>
''東京大学大学院医学系研究科''<br>
DOI [[XXXX]]/XXXX 原稿受付日:2013年10月31日 原稿完成日:2013年月日<br>
DOI:<selfdoi /> 原稿受付日:2013年10月31日 原稿完成日:2015年12月30日<br>
担当編集委員:[http://researchmap.jp/michisukeyuzaki 柚崎 通介](慶應義塾大学 医学部生理学)<br>
担当編集委員:[http://researchmap.jp/michisukeyuzaki 柚崎 通介](慶應義塾大学 医学部生理学)<br>
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同義語:synapse-associated protein 90(SAP-90)、disks large homolog 4(DLG4)


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 PSD-95(postsynaptic density protein 95)は、シナプス後部の主要な足場タンパク質であり、シナプス後肥厚部(postsynaptic density; PSD)において最も豊富に存在しているタンパク質の一つである。SAP-90 (synapse-associated protein 90)、DLG4 (disks large homolog 4)としても知られている。PSD-95は、足場タンパクとしてNR2A-D、GluR6、neuroligin、nNOSなど様々な分子と相互作用し、シナプス機能の維持や可塑性などに寄与すると考えられている。
 PSD-95(postsynaptic density protein 95)は、シナプス後部の主要な[[足場タンパク質]]であり、[[シナプス後肥厚部]]([[postsynaptic density]]; [[PSD]])において最も豊富に存在しているタンパク質の一つである。[[NR2A]]-[[NR2D|D]]、[[GluR6]]、[[ニューロリギン]]、[[nNOS]]など様々な分子と相互作用し、シナプス機能の維持や可塑性などに寄与すると考えられている。[[プロテオミクス]]解析や[[全反射顕微鏡]]を用いたシナプス分子の数の定量結果から、PSD family分子はシナプス後部に300個ほど存在するとされている<ref name=ref3><pubmed>16061821</pubmed></ref> <ref name=ref4><pubmed>16118638</pubmed></ref>。}}
 
{{PBB|geneid=1742}}
 PSDには同様の構造を持ったタンパク質としてPSD-93、SAP97、SAP102が存在し、これらを含めてPSD-95 familyと呼ぶ。これら分子の発達に伴う発現パターンは異なっており、げっ歯類の海馬においては、PSD-95およびPSD-93は生後10日目あたりから発現量が増えるのに対し、SAP102は生後1週齢で既に発現量が高い1。SAP-97については生後2週齢頃から遺伝子発現が増加することが報告されている2。
プロテオミクス解析や全反射顕微鏡を用いたシナプス分子の数の定量結果から、PSD family分子はシナプス後部に300個ほど存在するとされている3,4。
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== 構造 ==
== 構造 ==
[[image:PSD-95 fig1.jpg|thumb|350px|'''図1.PSD-95の構造''']]
[[image:PSD-95 fig1.jpg|thumb|350px|'''図1.PSD-95の構造''']]
[[image:PSD-95 fig2.jpg|thumb|350px|'''図2.シナプス後部構造におけるPSD-95''']]
[[image:PSD-95 fig2.jpg|thumb|350px|'''図2.シナプス後部構造におけるPSD-95''']]


 [[PSD]]-95はMAGUK(membrane-associated guanylate kinase)familyに属しており、N末端側から、3つのPDZドメイン、1つのSH3([[Src]] homology 3)ドメイン、1つのGK(Guanylate kinase-like)ドメインを持つ。PSD-95のαアイソフォームは、N末端に[[パルミトイル化]]反応を受けうる2つのシステインを含み、βアイソフォームはL27ドメインを持つ。N末端のパルミトイル化はPSD-95のシナプス後膜への局在に重要である 5。
 N末端側から、3つの[[PDZドメイン]]、1つの[[Src homology 3ドメイン|Src homology 3(SH3)ドメイン]]、1つの[[Guanylate kinase-likeドメイン|Guanylate kinase-like(GK)ドメイン]]を持つ。PSD-95のαアイソフォームは、N末端に[[パルミトイル化]]反応を受けうる2つの[[wikipedia:ja:システイン|システイン]]を含み、βアイソフォームは[[L27ドメイン]]を持つ。L27ドメインはSAP97にも存在し、他のL27ドメインを有するタンパク質や自分自身と会合し[[シナプス]]後膜への局在とクラスター化に重要である<ref name=ref101><pubmed>15504326</pubmed></ref>。パルミトイル化はPSD-95の[[シナプス後膜]]への局在に重要である<ref name=ref5><pubmed>11955437</pubmed></ref>。


===PDZ ドメイン===
===PDZ ドメイン===
 PDZドメインは、リガンドタンパク質のC末端に結合する90程度のアミノ酸残基を含む構造である(詳細はPDZドメインタンパク質の項を参照)。PSD-95に含まれる、3つのPDZドメインはすべて、リガンドタンパク質のC末端から3番目の位置がセリンまたはスレオニンであるクラスIに分類される。PSD-95のPDZドメインと結合する蛋[[白質]]としてNR2A-D、GluR6、nAChRc、ErbB4、Kir2-5、Neuroligin、nNosなどがあげられ、これらのC末端がいずれかのPDZドメインに結合する6。また、AMPARは補助サブユニットであるTARP(transmembrane AMPAR regulatory proteins)がPDZドメインと結合することによって間接的にPSD-95と結合することが示されている7。
 [[PDZ]]ドメインは、リガンドタンパク質のC末端に結合する90程度のアミノ酸残基を含む構造である。PSD-95に含まれる、リガンドタンパク質のC末端から3番目の位置が[[wikipedia:ja:セリン|セリン]]または[[wikipedia:ja:スレオニン|スレオニン]]であるPDZドメインをクラスIとよぶ。PSD-95の3つのPDZドメインはすべて、クラスIである。PSD-95のPDZドメインと結合するタンパク質としてNR2A-D、GluR6、[[nAChRc]]、[[ErbB4]]、[[Kir2-5]]、[[ニューロリギン]]、nNosなどがあげられ、これらのC末端がいずれかのPDZドメインに結合する<ref name=ref6><pubmed>15378037</pubmed></ref>。また、[[AMPA型グルタミン酸受容体]]は補助サブユニットである[[transmembrane AMPAR regulatory proteins]]([[TARP]])がPDZドメインと結合することによって間接的にPSD-95と結合することが示されている<ref name=ref7><pubmed>11140673</pubmed></ref>。


===SH3ドメイン、GKドメイン===
===SH3ドメイン、GKドメイン===
 SH3ドメインとGKドメインはPSD-95のC末端側に位置する。これらのドメインは分子内で相互作用しており、PSD-95の分子的な安定性の向上に役だっていると考えられている。また、この相互作用は分子間でも見られ、複数のPSD-95間における会合にも資している。SH3ドメインやGKドメインには同種の分子だけでなく[[GKAP]]、SPAR、AKAP79/150、Pyk2など様々な分子と相互作用する7,8。
 SH3ドメインとGKドメインはPSD-95のC末端側に位置する。GKドメインは酵素活性をもたず、SH3ドメインと分子内で相互作用しており、PSD-95の分子的な安定性の向上に役だっていると考えられている。また、この相互作用は分子間でも見られ、複数のPSD-95間における会合にも資している。SH3ドメインやGKドメインには同種の分子だけでなく[[GKAP]]、[[SPAR]]、[[AKAP79/150]]、[[Pyk2]]など様々な分子と相互作用する<ref name=ref7 /> <ref name=ref8><pubmed>18206289</pubmed></ref>。
 
==ファミリー==
 PSDには同様の構造を持ったタンパク質として[[PSD-93]]、[[SAP97]]、[[SAP102]]が存在し、これらを含めてPSD-95 familyあるいは[[membrane-associated guanylate kinase]] ([[MAGUK]])と呼ぶ。
 
==発現パターン==
===組織発現パターン===
 これら分子の発達に伴う発現パターンは異なっており、[[げっ歯類]]の海馬においては、PSD-95およびPSD-93は生後10日目あたりから発現量が増えるのに対し、SAP102は生後1週齢で既に発現量が高い<ref name=ref1><pubmed>10648730</pubmed></ref>。SAP-97については生後2週齢頃から遺伝子発現が増加することが報告されている<ref name=ref2><pubmed>7891172</pubmed></ref>。
 
===細胞内分布===
 シナプス後部に存在するPSDに強く集積する。生化学、イメージングによる解析からPSDに存在するPSD-95は300個ほどであると見積もられている<ref name=ref3 /><ref name=ref4 />。
 
==機能==
 PSD-95はシナプスを構成する幅広い分子の足場となることで、シナプス機能や[[シナプス可塑性]]に重要な役割を果たす。PSD-95の発現を変化させた様々な実験から、PSD-95が[[シナプス伝達]]、特に[[AMPA型グルタミン酸受容体]]を介したシナプス伝達機能に重要であるという知見が報告されている。
 
 [[海馬]][[スライス培養]]系において[[shRNA]]によりPSD-95を[[ノックダウン]]した[[錐体細胞]]では、AMPA型[[グルタミン酸受容体]]依存性のevoked EPSC振幅およびmEPSC頻度 の低下が見られる<ref name=ref9><pubmed>17046693</pubmed></ref>。一方、PSD-95ノックアウトマウスの[[急性スライス]]を用いた研究では、AMPA型グルタミン酸受容体を介したEPSCに変化が見られないと報告されたが<ref name=ref10><pubmed>9853749</pubmed></ref>、PSD-93とのダブルノックアウト[[マウス]]ではEPSCが大きく低下することが分かり、PSD-95単独のノックアウトマウスではその機能がPSD-93によって補償されている可能性が示唆されている<ref name=ref9 />。
 
 さらに、別系統のノックアウトマウスでは、幼若期(生後14-24日)において、AMPA型[[グルタミン酸]]受容体依存性のevoked EPSC振幅およびmEPSC頻度の低下が見られている<ref name=ref11><pubmed>7891172</pubmed></ref>。また、PSD-95を過剰発現させた場合には、evoked EPSC振幅やmEPSC振幅が増加することが報告されている<ref name=ref12><pubmed>11082065</pubmed></ref> <ref name=ref13><pubmed>12359873</pubmed></ref>。
 
 NMDA型グルタミン酸受容体を介したシナプス伝達についても同様の実験が行われているが、PSD-95の発現操作によりNMDA型受容体を介したEPSCは変化しない<ref name=ref9 /><ref name=ref10 />。一方、PSD-95の発現低下やPSD-95とNMDA型受容体の結合を阻害する事で、NMDA依存的な[[細胞死]]や細胞形態の変化が軽減されることが報告されており、NMDA型受容体依存的な[[興奮毒性]]の誘発にPSD-95が関与する可能性が指摘されている<ref><pubmed>17855605</pubmed></ref><ref><pubmed>22031893</pubmed></ref><ref><pubmed>21102461</pubmed></ref>。
 
 PSD-95はシナプス伝達の長期可塑性にも関与する。PSD-95ノックアウトマウスの海馬スライスでは、高頻度刺激で生じる[[シナプス長期増強]](long-term potentiation; LTP)が促進される一方で、低頻度刺激で生じる[[シナプス長期抑制]](long-term depression; [[LTD]])は抑制される<ref name=ref10 />。逆に、PSD-95を過剰発現させた細胞では、LTPが抑制され、LTDが亢進する<ref name=ref14><pubmed>12843250</pubmed></ref>。
 
 [[ノックアウトマウス]]においても[[空間学習]]能力の異常が認められており、脳機能の可塑的な変化が個体レベルでも阻害されることが分かっている<ref name=ref10 />。


==シナプス伝達機能への関与==
 シナプス長期可塑性を調節する分子機構として、LTDに関しては、PSD-95がLTD発現に必要なシグナルタンパク質である[[AKAP79/150]][[PP2B]]の足場となり、NMDA型グルタミン酸受容体から流入する[[カルシウム]]シグナルとこれらシグナルタンパク質を結び付けているとするモデルが提唱されている<ref name=ref15><pubmed>18215622</pubmed></ref>。
 PSD-95はシナプスを構成する幅広い分子の足場となることで、シナプス機能やシナプス可塑性に重要な役割を果たす。PSD-95の発現を変化させた様々な実験から、PSD-95がシナプス伝達、特にAMPA型[[グルタミン酸]]受容体を介したシナプス伝達機能に重要であるという知見が報告されている。[[海馬]][[スライス培養]]系においてsh-RNAによりPSD-95を[[ノックダウン]]した[[錐体細胞]]では、AMPA受容体依存性のevoked EPSC振幅およびmEPSC頻度 の低下が見られる9。一方、PSD-95ノックアウトマウスの急性スライスを用いた研究では、AMPA受容体を介したEPSCに変化が見られないと報告されたが10、PSD-93とのダブルノックアウトマウスではEPSCが大きく低下することが分かり、PSD-95単独のノックアウトマウスではその機能がPSD-93によって補償されている可能性が示唆されている 9。さらに、別系統のノックアウトマウスでは、幼若期(生後14-24日)において、AMPAR依存性のevoked EPSC振幅およびmEPSC頻度の低下が見られている11。また、PSD-95を過剰発現させた場合には、evoked EPSC振幅やmEPSC振幅が増加することが報告されている12,13。


 NMDA受容体についても同様の実験が行われている。しかし、PSD-95はNMDA受容体に直接結合するにも関わらず、PSD-95の発現を操作しても、NMDA受容体依存性のEPSCに変化がないことが報告されており9,10、詳細な役割は不明である。
 また、シナプスへの局在に重要な295番目の[[セリン]]残基がシナプス長期可塑性の発現に重要であることが報告されている<ref name=ref16><pubmed>17988632</pubmed></ref>。


 PSD-95はシナプス伝達の長期可塑性にも関与する。PSD-95ノックアウトマウスの海馬スライスでは、高頻度刺激で生じるシナプス長期増強(long-term potentiation; LTP)が促進される一方で、低頻度刺激で生じるシナプス長期抑制(long-term depression; LTD)は抑制される10。逆に、PSD-95を過剰発現させた細胞では、LTPが抑制され、LTDが亢進する14。ノックアウトマウスにおいても空間学習能力の異常が認められており、脳機能の可塑的な変化が個体レベルでも阻害されることが分かっている10。シナプス長期可塑性を調節する分子機構として、LTDに関しては、PSD-95がLTD発現に必要なシグナルタンパク質であるAKAP79/150と[[PP2B]]の足場となり、NMDA受容体から流入する[[カルシウム]]シグナルとこれらシグナルタンパク質を結び付けているとするモデルが提唱されている15。また、シナプスへの局在に重要な295番目のセリン残基がシナプス長期可塑性の発現に重要であることが報告されている16。
==関連項目==
*[[PDZドメインタンパク質]]
*[[足場タンパク質]]
*[[シナプス後肥厚]]


== 参考文献 ==
== 参考文献 ==
<references />
<references />

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