「足場タンパク質」の版間の差分

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{{box|text= [[足場タンパク質]]とは、タンパク質複合体形成の足場となるタンパク質のことである。多くの場合、[[PDZドメイン]]や[[SH3ドメイン]]などタンパク質同士の結合に関わる複数のドメインで構成される。[[シグナル伝達]]に関わる分子を結びつける機能があり、シグナル伝達経路の混線を防ぐとともに、構成するタンパク質の活性を触媒するなど[[細胞内シグナル]]の調節に重要な役割を果たす。また、タンパク質を適切に配置する足場として働く場合もある。特に[[シナプス]]には[[受容体]]、[[接着分子]]、[[シグナル分子]]など多様なタンパク質が存在するが、足場タンパク質が多様なタンパク質で構成される複合体を形成することで、シナプス構造や適切なシグナル伝達に重要な役割を果たしている。}}
{{box|text= [[足場タンパク質]]とは、タンパク質複合体形成の足場となるタンパク質のことである。多くの場合、[[PDZドメイン]]や[[SH3ドメイン]]などタンパク質同士の結合に関わる複数のドメインで構成される。[[シグナル伝達]]に関わる分子を結びつける機能があり、シグナル伝達経路の混線を防ぐとともに、構成するタンパク質の活性を触媒するなど[[細胞内シグナル]]の調節に重要な役割を果たす。また、タンパク質を適切に配置する足場として働く場合もある。特に[[シナプス]]には[[受容体]]、[[接着分子]]、[[シグナル分子]]など多様なタンパク質が存在するが、足場タンパク質が多様なタンパク質で構成される複合体を形成することで、シナプス構造や適切なシグナル伝達に重要な役割を果たしている。}}


[[ファイル:PSD proteins.jpg|thumb|300px|right|'''図1. 興奮性シナプスの足場タンパク質'''<ref name=sheng_ann_rev_biochem><pubmed> 17243894 </pubmed></ref><br>Reprinted, with permission, from the Annual Review of Biochemistry, Volume 76 © 2007 by Annual Reviews www.annualreviews.org]]
==足場タンパク質とは==


[[ファイル:Scaffolding proteins 1.jpg|thumb|300px|right|'''図2. 興奮性シナプスの足場タンパク質のドメイン構造'''<br>GK: グアニル酸キナーゼ相同性ドメイン、ANK: アンキリンリピートドメイン、SAM: Sterile alpha motifドメイン、CC: コイルドコイルドメイン]]
[[ファイル:Scaffolding proteins2.jpg|thumb|right|300px|<b>図3. ゲフィリンのドメイン構造</b>]]
[[ファイル:図4足場タンパク質.png|thumb|right|300px|<b>図4. 抑制性シナプスにおけるゲフィリン</b><br><ref><pubmed>12671642</pubmed></ref>より許可を得て転載。]]
==足場タンパク質とは==
 足場タンパク質とは、タンパク質複合体形成の足場となるタンパク質のことである。多くの場合、PDZドメインやSH3ドメインなどタンパク質同士の結合に関わる複数のドメインで構成される。
 足場タンパク質とは、タンパク質複合体形成の足場となるタンパク質のことである。多くの場合、PDZドメインやSH3ドメインなどタンパク質同士の結合に関わる複数のドメインで構成される。


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 近年、[[光褪色後蛍光回復法]](fluorescence recovery after photobleaching; FRAP)や[[単一粒子追跡法]](single particle tracking; SPT)などの手法を用いたイメージング実験により、受容体タンパク質はシナプス外の膜上では早く拡散するが、シナプスでは固定されやすいことが示されている。この際、足場タンパク質が受容体の拡散速度を緩めて位置を定める事で受容体の安定性が保たれると考えられている<ref name=ref2><pubmed>18832033</pubmed></ref>。
 近年、[[光褪色後蛍光回復法]](fluorescence recovery after photobleaching; FRAP)や[[単一粒子追跡法]](single particle tracking; SPT)などの手法を用いたイメージング実験により、受容体タンパク質はシナプス外の膜上では早く拡散するが、シナプスでは固定されやすいことが示されている。この際、足場タンパク質が受容体の拡散速度を緩めて位置を定める事で受容体の安定性が保たれると考えられている<ref name=ref2><pubmed>18832033</pubmed></ref>。
[[ファイル:PSD proteins.jpg|thumb|300px|right|'''図1. 興奮性シナプスの足場タンパク質'''<ref name=sheng_ann_rev_biochem><pubmed> 17243894 </pubmed></ref><br>Reprinted, with permission, from the Annual Review of Biochemistry, Volume 76 © 2007 by Annual Reviews www.annualreviews.org]]
[[ファイル:Scaffolding proteins 1.jpg|thumb|300px|right|'''図2. 興奮性シナプスの足場タンパク質のドメイン構造'''<br>GK: グアニル酸キナーゼ相同性ドメイン、ANK: アンキリンリピートドメイン、SAM: Sterile alpha motifドメイン、CC: コイルドコイルドメイン]]


==興奮性シナプス後部==
==興奮性シナプス後部==
 [[興奮性シナプス]]の[[シナプス後部]]には[[抑制性シナプス]]の後部と比べて厚く複雑なPSDがあり、様々な足場タンパク質を含む。[[興奮性]]ポストシナプスに含まれる主な足場タンパク質には[[PSD-95]]、[[PSD-93]]、[[SAP97]]、[[SAP102]]、[[Shank|SHANK]]、[[CASK]]、[[GKAP]]、[[Homer]]、 [[GRIP1]]、[[densin-180]]などがある<ref name=ref3><pubmed>12324263</pubmed></ref> <ref name=ref4><pubmed>17596209</pubmed></ref>。
 [[興奮性シナプス]]の[[シナプス後部]]には[[抑制性シナプス]]の後部と比べて厚く複雑なPSDがあり、様々な足場タンパク質を含む(図1, 2)。[[興奮性]]ポストシナプスに含まれる主な足場タンパク質には[[PSD-95]]、[[PSD-93]]、[[SAP97]]、[[SAP102]]、[[Shank|SHANK]]、[[CASK]]、[[GKAP]]、[[Homer]]、 [[GRIP1]]、[[densin-180]]などがある<ref name=ref3><pubmed>12324263</pubmed></ref> <ref name=ref4><pubmed>17596209</pubmed></ref>。


===PSD-95 ===
===PSD-95 ===
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===Homer===
===Homer===
 HomerはPDZドメインを持たない足場タンパク質である。[[EVH1ドメイン]]([[WHドメイン]])と[[ロイシンジッパー]]の[[コルドコイルドメイン]]から成るlong Homerとコルドコイルドメインを持たないshort Homerがあり、long HomerはCCドメインにより四量体を形成する<ref name=ref6><pubmed>16914674</pubmed></ref>。HomerはEVH1ドメインを介してShankと結合しPSDの網目構造を複雑化してスパインの形態を維持する働きがある<ref name=ref7><pubmed>19345194</pubmed></ref>。
 HomerはPDZドメインを持たない足場タンパク質である。[[EVH1ドメイン]]([[WHドメイン]])と[[ロイシンジッパー]]の[[コルドコイルドメイン]]から成るlong Homerとコルドコイルドメインを持たないshort Homerがあり、long HomerはCCドメインにより四量体を形成する<ref name=ref6><pubmed>16914674</pubmed></ref>。HomerはEVH1ドメインを介してShankと結合しPSDの網目構造を複雑化してスパインの形態を維持する働きがある<ref name=ref7><pubmed>19345194</pubmed></ref>。
[[ファイル:図4足場タンパク質.png|thumb|right|300px|<b>図3. 抑制性シナプスにおけるゲフィリン</b><br><ref><pubmed>12671642</pubmed></ref>より許可を得て転載。]]
[[ファイル:Scaffolding proteins2.jpg|thumb|right|300px|<b>図4. ゲフィリンのドメイン構造</b>]]
==抑制性シナプス後部==
 [[抑制性シナプス]]後部の主要な足場タンパク質として[[ゲフィリン]]が知られている(図3, 4)。ゲフィリンはEドメイン、Cドメイン、Gドメインの3つのドメインから成り、抑制性シナプスの後膜で[[グリシン受容体]]や[[GABA受容体]]のクラスターを形成している<ref name=ref8><pubmed>18403029</pubmed></ref>。
==シナプス前部==


==抑制性シナプス後部==
[[ファイル:図5足場タンパク質.png|thumb|right|300px|<b>図5.シナプス前部の足場タンパク質</b>]]
[[ファイル:図5足場タンパク質.png|thumb|right|300px|<b>図5.シナプス前部の足場タンパク質</b>]]


[[ファイル:Scaffolding proteins3.jpg|thumb|right|300px|<b>図6.シナプス前部における足場タンパク質</b><br>MHD: MUNC13相同性ドメイン、CaM: カルモジュリン結合領域、RabBD: Rab結合ドメイン、Zn: Znフィンガードメイン]]
[[ファイル:Scaffolding proteins3.jpg|thumb|right|300px|<b>図6.シナプス前部における足場タンパク質</b><br>MHD: MUNC13相同性ドメイン、CaM: カルモジュリン結合領域、RabBD: Rab結合ドメイン、Zn: Znフィンガードメイン]]
 
 [[シナプス前部]]に存在する[[アクティブゾーン]]も多くの足場タンパク質が含まれる<ref name=ref9><pubmed>16865347</pubmed></ref> <ref name=ref10><pubmed>11229820</pubmed></ref> <ref name=ref11><pubmed>10851173</pubmed></ref>(図5,  6)。これまでに解析されてきた主な足場タンパク質には[[Munc13]]、[[RIM]]、[[Bassoon]]、[[Piccolo]]、[[ELKS]]/[[CAST]]/[[ERC]]、[[リプリンα]]がある。[[シナプス前膜]]では[[シナプス小胞]]の放出と使用済みの小胞の回収が行われているが、足場タンパク質は小胞の[[エキソサイトーシス]]と[[エンドサイトーシス]]の制御に重要な役割を果たす。
 [[抑制性シナプス]]後部の主要な足場タンパク質として[[ゲフィリン]]が知られている。ゲフィリンはEドメイン、Cドメイン、Gドメインの3つのドメインから成り、抑制性シナプスの後膜で[[グリシン受容体]]や[[GABA受容体]]のクラスターを形成している<ref name=ref8><pubmed>18403029</pubmed></ref>。
 
==シナプス前部==
 
 [[シナプス前部]]に存在する[[アクティブゾーン]]も多くの足場タンパク質が含まれる<ref name=ref9><pubmed>16865347</pubmed></ref> <ref name=ref10><pubmed>11229820</pubmed></ref> <ref name=ref11><pubmed>10851173</pubmed></ref>。これまでに解析されてきた主な足場タンパク質には[[Munc13]]、[[RIM]]、[[Bassoon]]、[[Piccolo]]、[[ELKS]]/[[CAST]]/[[ERC]]、[[リプリンα]]がある。[[シナプス前膜]]では[[シナプス小胞]]の放出と使用済みの小胞の回収が行われているが、足場タンパク質は小胞の[[エキソサイトーシス]]と[[エンドサイトーシス]]の制御に重要な役割を果たす。


===Munc13===
===Munc13===

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