「グリア細胞」の版間の差分

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===神経因性疼痛におけるミクログリア===
===神経因性疼痛におけるミクログリア===
 ミクログリアが悪玉ではないことは十分に理解できたが、最後に、ミクログリアの関与するやっかいな疾患について述べなければならない。「神経因性疼痛」(neuropathic pain allodynia)である。帯状疱疹の後遺症や手術や怪我の後遺症として、損傷部周辺の触覚が激しい疼痛として感じられる疾患である。その成立メカニズムについては長い間、謎となっていた。しかし、この疼痛のメカニズムにミクログリアが関与していることが明らかになったのだ。
 ミクログリアが悪玉ではないことは十分に理解できたが、最後に、ミクログリアの関与するやっかいな疾患について述べなければならない。「神経因性疼痛」(neuropathic pain allodynia)である。帯状疱疹の後遺症や手術や怪我の後遺症として、損傷部周辺の触覚が激しい疼痛として感じられる疾患である。その成立メカニズムについては長い間、謎となっていた。しかし、この疼痛のメカニズムにミクログリアが関与していることが明らかになったのだ。
 図に示すように、痛覚や触覚に関わる知覚神経信号は脊髄後根から脊髄後角に入力し、そこで、二次知覚ニューロンに乗り換える。このシナプス部位には知覚神経からの側抑制(lateral inhibition)回路が組み込まれており、過剰な入力を和らげている。皮膚に障害が受けた時に痛みは比較的短い時間で和らぐのはこの仕組みによる。この回路にはGABAを伝達物質とする抑制性介在ニューロンが関与している。
 図15aに示すように、痛覚や触覚に関わる知覚神経信号は脊髄後根から脊髄後角に入力し、そこで、二次知覚ニューロンに乗り換える。このシナプス部位には知覚神経からの側抑制(lateral inhibition)回路が組み込まれており、過剰な入力を和らげている。皮膚に障害が受けた時に痛みは比較的短い時間で和らぐのはこの仕組みによる。この回路にはGABAを伝達物質とする抑制性介在ニューロンが関与している。
 この部位で生ずる神経因性疼痛の発症メカニズムは次のような仕組みによることが明らかにされている。知覚神経の末梢部に激しい損傷があると、知覚ニューロンの入力部位である脊髄後角周辺に多数のミクログリアが集まる。このミクログリアは上述のようにBDNF(brain derived neurotrophic factor)を遊離する。おそらく、損傷を受けた知覚回路の修復のためと考えられる。しかし、このBDNFが二次知覚神経細胞において細胞内のClイオンとKイオンの量をコントロールするためのClイオン/Kイオン交換ポンプを止めてしまうのだ。結果として、二次知覚ニューロン内のClイオン量が異常に増え、Kイオンが減少した状態が作られる。この状態では痛覚や触覚などの入力を側抑制するために遊離されたGABAによって、Clイオンチャンネルが開口すると、細胞外へのClイオンの流出、すなわち脱分極を生じさせることになる。痛みや高まった触感覚を和らげる仕組みが逆に促進してしまうことになるのだ<ref><pubmed>12917686</pubmed></ref>。。この状態はミクログリアの活動が続く間は回復することはない。従って、ちょっとした痛みや触覚が異常に強く入力されてしまうのである。触覚も過剰になると痛みと感ずるというやっかいな疾患である。原因が解明されたことによって神経因性疼痛の有効な治療法も開発されてきている。
 この部位で生ずる神経因性疼痛の発症メカニズムは次のような仕組みによることが明らかにされている(図15b)。知覚神経の末梢部に激しい損傷があると、知覚ニューロンの入力部位である脊髄後角周辺に多数のミクログリアが集まる。このミクログリアは上述のようにBDNF(brain derived neurotrophic factor)を遊離する。おそらく、損傷を受けた知覚回路の修復のためと考えられる。しかし、このBDNFが二次知覚神経細胞において細胞内のClイオンとKイオンの量をコントロールするためのClイオン/Kイオン交換ポンプを止めてしまうのだ。結果として、二次知覚ニューロン内のClイオン量が異常に増え、Kイオンが減少した状態が作られる。この状態では痛覚や触覚などの入力を側抑制するために遊離されたGABAによって、Clイオンチャンネルが開口すると、細胞外へのClイオンの流出、すなわち脱分極を生じさせることになる。痛みや高まった触感覚を和らげる仕組みが逆に促進してしまうことになるのだ<ref><pubmed>12917686</pubmed></ref>。。この状態はミクログリアの活動が続く間は回復することはない。従って、ちょっとした痛みや触覚が異常に強く入力されてしまうのである。触覚も過剰になると痛みと感ずるというやっかいな疾患である。原因が解明されたことによって神経因性疼痛の有効な治療法も開発されてきている。


==関連項目==
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