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英語名:vocal learning<br>
英語名:vocal learning<br>  


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 音声学習とは、動物が耳で聞いた音や音声を模倣しそれに類似した音声を生成することを言う。また、より広義に、動物が生成する音声を経験によって変化させることを指す場合もある。なお、動物自身の音声の変化は伴わずに他個体の音声を記憶するだけの学習(いわゆる聴覚学習)との混同を避けるため、音声学習を発声学習と呼ぶことも多い。より一般には、人間が知識や情報をオーディオ機器などを用いて音声で聞くことにより理解・記憶する学習も音声学習と呼ぶことがある(この場合、英語名はaudio learning)。<br>  
 音声学習とは、動物が耳で聞いた音や音声を模倣しそれに類似した音声を生成することを言う。また、より広義に、動物が生成する音声を経験によって変化させることを指す場合もある。なお、動物自身の音声の変化は伴わずに他個体の音声を記憶するだけの学習(いわゆる聴覚学習)との混同を避けるため、音声学習を発声学習と呼ぶことも多い。より一般には、人間が知識や情報をオーディオ機器などを用いて音声で聞くことにより理解・記憶する学習も音声学習と呼ぶことがある(この場合、英語名はaudio learning)。<br>  


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1. 音声学習する動物<br> 人間における言語発音や歌の習得は音声学習である。一方、人間以外で音声学習を行う動物は非常に少ない。哺乳類ではクジラ目(クジラおよびイルカ)とコウモリの一部、アフリカゾウ、鳥類では,オウム目(オウムおよびインコ)、アマツバメ目ハチドリ類、そしてスズメ目鳴禽類(カナリア、キンカチョウ、ジュウシマツなど)において音声学習が確認されている。人間以外の霊長類では音声学習は確認されていない。最近、マウスが行動条件に依存した様々な超音波音声を発することが示され、その発達が音声学習によるものである可能性が示唆されたが、少なくとも人間や鳥類のような模倣を伴う音声学習ではないことが確認された。また、サルの一種は文法構造を持った複雑な鳴き声を使ってコミュニケーションすることが報告されているが、その音声パターンの発達の過程に音声学習が含まれるかどうかは不明である。<br> これらの比較的限定された種類の動物グループのみが音声学習能力を持つ進化的理由は良くわかっていない。機能的には、鳥類を含む音声学習をする動物の多くが大脳皮質口腔顔面領域から延髄の呼吸・発声中枢への直接的投射を持つため、発声器官の緻密な随意制御が可能であることが示唆されている。また人間は他の霊長類とは異なる構造の声道を持つため複雑な音声の生成がしやすいことも指摘されている。
1. 音声学習する動物<br> 人間における言語発音や歌の習得は音声学習である。一方、人間以外で音声学習を行う動物は非常に少ない。哺乳類ではクジラ目(クジラおよびイルカ)とコウモリの一部、アフリカゾウ、鳥類では,オウム目(オウムおよびインコ)、アマツバメ目ハチドリ類、そしてスズメ目鳴禽類(カナリア、キンカチョウ、ジュウシマツなど)において音声学習が確認されている。人間以外の霊長類では音声学習は確認されていない。最近、マウスが行動条件に依存した様々な超音波音声を発することが示され、その発達が音声学習によるものである可能性が示唆されたが、少なくとも人間や鳥類のような模倣を伴う音声学習ではないことが確認された。また、サルの一種は文法構造を持った複雑な鳴き声を使ってコミュニケーションすることが報告されているが、その音声パターンの発達の過程に音声学習が含まれるかどうかは不明である。<br> これらの比較的限定された種類の動物グループのみが音声学習能力を持つ進化的理由は良くわかっていない。機能的には、鳥類を含む音声学習をする動物の多くが大脳皮質口腔顔面領域から延髄の呼吸・発声中枢への直接的投射を持つため、発声器官の緻密な随意制御が可能であることが示唆されている。また人間は他の霊長類とは異なる構造の声道を持つため複雑な音声の生成がしやすいことも指摘されている。  


2. メカニズム<br> 音声学習は、動物が手本となる音や音声を聞いてそれを記憶する知覚学習(感覚学習)の過程と、その手本の記憶をもとに類似した音声パターンを獲得する運動学習の過程に大別される。後者の運動学習の過程では通常、動物が聴覚フィードバックを用いて自己の音声パターンを発達させるため、感覚運動学習の過程とも呼ばれる。音声学習のメカニズムの研究は人間および鳥類(鳴禽)を用いて主に行われているが、両者ともにこれら2つの過程から成る音声学習を行う。
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2-1 人間の音声学習<br> 人間の音声学習は、音声言語獲得に不可欠な言語発音の習得に関して多くの非侵襲的研究がなされている。母語の音声を聞いて記憶する知覚学習の過程の初期段階として、母語の音素に特化した音声識別能力の発達が知られている。これは、生後間もない乳児はすでに世界の様々な言語で用いられる言語音を識別する能力を持っているが、周りの大人達が話す母語を繰り返し聞くことにより生後一年頃までに母語以外の言語音に対する識別能力を失い、母語に特化した識別能力のみが維持・発達するというものである。これに対応するように、母語の音声に特異的な活動が生後4ヶ月の乳児の言語野ですでに観察される。また乳幼児は母語の音声情報だけでなく、母語を話す人の口の動きも関連付けて記憶していることが示されている。一方、母語と同じ音声パターンを獲得する運動学習の過程は、生後約7-12ヶ月頃に見られる喃語と呼ばれる意味のない音声の生成から始まると考えられる。正常な喃語の発達には正常な聴覚能力が必要であることや、後期の喃語には母語の特徴が見られ始めることなどから、乳幼児は聴覚フィードバックを用いて母語の音声パターンの基礎を作り出していると考えられる。
2. メカニズム<br> 音声学習は、動物が手本となる音や音声を聞いてそれを記憶する知覚学習(感覚学習)の過程と、その手本の記憶をもとに類似した音声パターンを獲得する運動学習の過程に大別される。後者の運動学習の過程では通常、動物が聴覚フィードバックを用いて自己の音声パターンを発達させるため、感覚運動学習の過程とも呼ばれる。音声学習のメカニズムの研究は人間および鳥類(鳴禽)を用いて主に行われているが、両者ともにこれら2つの過程から成る音声学習を行う。


2-2 鳴禽の音声学習<br> キンカチョウなどの鳴禽は複雑で定型的な音声パターンを持つ「さえずり(歌)」を他個体からの音声学習によって発達させる。このさえずり学習も、人間の言語発音の習得と同様な二つの過程を持ち、それぞれ感覚学習期と感覚運動学習期と呼ばれる。後者の過程では、鳥は始め人間の喃語のようなはっきりとしない未発達な音声を発するが、多数の発声練習を通して次第に手本と同様な構造のさえずりを作り上げる。この際、鳥は感覚学習期で記憶した手本のさえずりの情報を鋳型のように用い、その記憶と自己のさえずりの聴覚フィードバックとの誤差を最小化させるようにさえずりの構造を変え、手本と同様な構造のさえずりを獲得すると広く考えられている(鋳型説)。<br> 鳴禽のさえずり学習は、侵襲的な実験が不可能な人間の音声学習メカニズムを研究する上での良いモデルシステムとされており、その神経基盤の研究が進んでいる。歌回路(song system)と呼ばれるさえずり学習に重要な神経回路は、主に、大脳皮質(外套)から延髄に投射する直接制御系(vocal motor pathway)と、同経路の2つの神経核HVCとRAを大脳基底核・視床を介して結ぶ迂回投射系(anterior forebrain pathway)から構成される。迂回投射系は、大脳皮質-大脳基底核ループ経路の一部であり、哺乳類と同様、中脳からのドーパミン入力を受けている。鳥はこの迂回投射系を用いた強化学習により直接制御系のさえずり運動神経回路を変化させ、さえずりを上達させると考えられている。また迂回投射系は、さえずり学習初期に見られる喃語様の音声の生成に関わり、さらにさえずり発達後も、直制御系で作られるさえずりの運動神経活動に微小な揺らぎを付加させることから、強化学習過程における探索行動(試行錯誤行動)を作り出す役割を持つことも示唆されている。<br> 一方、歌回路の上流には高次聴覚野に相当する領域があり、手本のさえずりの情報がコードされていると考えられている。また、歌回路内にも手本のさえずり音声に特異的に応答する細胞が多く見られ、手本のさえずりの記憶との関連が示唆されている。<br> キンカチョウではゲノムの解読が完了し、音声学習の分子レベルの解析も行われている。また、言語遺伝子と呼ばれるFoxP2や、言語獲得との関連が示唆されるミラーニューロンに似た細胞も見つかっている。
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同義語:発声学習
2-1 人間の音声学習<br> 人間の音声学習は、音声言語獲得に不可欠な言語発音の習得に関して多くの非侵襲的研究がなされている。母語の音声を聞いて記憶する知覚学習の過程の初期段階として、母語の音素に特化した音声識別能力の発達が知られている。これは、生後間もない乳児はすでに世界の様々な言語で用いられる言語音を識別する能力を持っているが、周りの大人達が話す母語を繰り返し聞くことにより生後一年頃までに母語以外の言語音に対する識別能力を失い、母語に特化した識別能力のみが維持・発達するというものである。これに対応するように、母語の音声に特異的な活動が生後4ヶ月の乳児の言語野ですでに観察される。また乳幼児は母語の音声情報だけでなく、母語を話す人の口の動きも関連付けて記憶していることが示されている。一方、母語と同じ音声パターンを獲得する運動学習の過程は、生後約7-12ヶ月頃に見られる喃語と呼ばれる意味のない音声の生成から始まると考えられる。正常な喃語の発達には正常な聴覚能力が必要であることや、後期の喃語には母語の特徴が見られ始めることなどから、乳幼児は聴覚フィードバックを用いて母語の音声パターンの基礎を作り出していると考えられる。


重要な関連語:言語学習、さえずり学習(歌学習)、感覚運動学習、大脳基底核、強化学習、FoxP2、ミラーニューロン、喃語
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2-2 鳴禽の音声学習<br> キンカチョウなどの鳴禽は複雑で定型的な音声パターンを持つ「さえずり(歌)」を他個体からの音声学習によって発達させる。このさえずり学習も、人間の言語発音の習得と同様な二つの過程を持ち、それぞれ感覚学習期と感覚運動学習期と呼ばれる。後者の過程では、鳥は始め人間の喃語のようなはっきりとしない未発達な音声を発するが、多数の発声練習を通して次第に手本と同様な構造のさえずりを作り上げる。この際、鳥は感覚学習期で記憶した手本のさえずりの情報を鋳型のように用い、その記憶と自己のさえずりの聴覚フィードバックとの誤差を最小化させるようにさえずりの構造を変え、手本と同様な構造のさえずりを獲得すると広く考えられている(鋳型説)。<br> 鳴禽のさえずり学習は、侵襲的な実験が不可能な人間の音声学習メカニズムを研究する上での良いモデルシステムとされており、その神経基盤の研究が進んでいる。歌回路(song system)と呼ばれるさえずり学習に重要な神経回路は、主に、大脳皮質(外套)から延髄に投射する直接制御系(vocal motor pathway)と、同経路の2つの神経核HVCとRAを大脳基底核・視床を介して結ぶ迂回投射系(anterior forebrain pathway)から構成される。迂回投射系は、大脳皮質-大脳基底核ループ経路の一部であり、哺乳類と同様、中脳からのドーパミン入力を受けている。鳥はこの迂回投射系を用いた強化学習により直接制御系のさえずり運動神経回路を変化させ、さえずりを上達させると考えられている。また迂回投射系は、さえずり学習初期に見られる喃語様の音声の生成に関わり、さらにさえずり発達後も、直制御系で作られるさえずりの運動神経活動に微小な揺らぎを付加させることから、強化学習過程における探索行動(試行錯誤行動)を作り出す役割を持つことも示唆されている。<br> 一方、歌回路の上流には高次聴覚野に相当する領域があり、手本のさえずりの情報がコードされていると考えられている。また、歌回路内にも手本のさえずり音声に特異的に応答する細胞が多く見られ、手本のさえずりの記憶との関連が示唆されている。<br> キンカチョウではゲノムの解読が完了し、音声学習の分子レベルの解析も行われている。また、言語遺伝子と呼ばれるFoxP2や、言語獲得との関連が示唆されるミラーニューロンに似た細胞も見つかっている。
 
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同義語:発声学習
 
重要な関連語:言語学習、さえずり学習(歌学習)、感覚運動学習、大脳基底核、強化学習、FoxP2、ミラーニューロン、喃語  
 
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(執筆者:小島哲、担当編集委員:入來篤史)<br>
(執筆者:小島哲、担当編集委員:入來篤史)<br>
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