「性同一性障害」の版間の差分

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英語名:gender identity disorder
英語名:gender identity disorder 独:Geschlechtsidentitätsstörung 仏:troubles de l'identité sexuelle


同義語:gender dysphoria
同義語:gender dysphoria


{{box|text= 性同一性障害とは、ジェンダー・アイデンティティと身体的性別と一致しないために苦痛や障害を引き起こしている疾患である。男性性同一性障害者には2つの亜型が知られ、第一の亜型は一次性と呼ばれるもので、小児期または青年期前期に発症し、青年期後期または成人期に受診する。第二の亜型は二次性と呼ばれるもので、発症が比較的遅く、[[異性装症]]に引き続くことが多いといわれる。女性から男性の性別変更を望む患者は比較的均一であり、小児期または青年期前期に発症し、青年期後期または成人期に受診する。これまでのところ、2万人程度のものが、性同一性障害を主訴に、医療機関を受診したと思われる。何らかの生物学的異常が基盤にあるのではないかと推測され、最近、男性性同一性障害者では、分界条床核の体積が、男性より優位に小さく、女性とほぼ等しいものであった。また、男性性同一性障害者では対照群の男性と比較して、[[アンドロゲン受容体]]遺伝子における一塩基多型が長いことが示され、アンドロゲンへの感受性が低い可能性が示唆された。}}
(編集部にて作成。ご確認ください)
==性同一性障害とは==
 性同一性障害とは、ジェンダー・アイデンティティと身体的性別と一致しないために苦痛や障害を引き起こしている疾患である。2013年に米国精神医学会によって作成された[[DSM-5]]ではgender identity disorderに代わりgender dysphoria([[性別違和]])が病名として用いられ、その基本概念も「経験した/表現した性別と、指定された性別との著明な不一致」と変更がみられる。
 性同一性障害とは、ジェンダー・アイデンティティと身体的性別と一致しないために苦痛や障害を引き起こしている疾患である。2013年に米国精神医学会によって作成された[[DSM-5]]ではgender identity disorderに代わりgender dysphoria([[性別違和]])が病名として用いられ、その基本概念も「経験した/表現した性別と、指定された性別との著明な不一致」と変更がみられる。
== 基本用語 ==


 性同一性障害に関する用語は、医療従事者だけでなく当事者の間でも広く用いられている。
 性同一性障害に関する用語は、医療従事者だけでなく当事者の間でも広く用いられている。
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*FTM(エフティーエム):female to male、女性から男性へ性別変更する/したい/したもの。
*FTM(エフティーエム):female to male、女性から男性へ性別変更する/したい/したもの。
*SRS(エスアールエス):sex reassignment surgery、性別適合手術。いわゆる性転換手術。
*SRS(エスアールエス):sex reassignment surgery、性別適合手術。いわゆる性転換手術。
*特例法:性同一性障害者の性別の取扱いの特例に関する法律。


特例法:性同一性障害者の性別の取扱いの特例に関する法律。
== 臨床的特徴および現状 ==
 
=== 診断基準 ===
== 診断基準 ==


 本稿では、性同一性障害ではなく、DSM-5におけるgender dysphoriaの診断基準を記す。
 本稿では、性同一性障害ではなく、DSM-5におけるgender dysphoriaの診断基準を記す。
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 なお、正式な日本語訳は、未発表のため、筆者による試訳である。
 なお、正式な日本語訳は、未発表のため、筆者による試訳である。


302.85
302.85 成人あるいは青年の性別違和
 
成人あるいは青年の性別違和
A. 少なくとも6ヶ月続く、経験した/表現した性別と、指定された性別との著明な不一致。以下の2つ以上によって表れる。
 
A.少なくとも6ヶ月続く、経験した/表現した性別と、指定された性別との著明な不一致。以下の2つ以上によって表れる。


#経験した/表現した性別と、第一次および/または第二次性徴(または、早期青年では予想される第二次性徴)との著明な不一致。  
#経験した/表現した性別と、第一次および/または第二次性徴(または、早期青年では予想される第二次性徴)との著明な不一致。  
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該当すれば特定せよ:<br>
該当すれば特定せよ:<br>
性別移行後:その人は望みの性別でのフルタイムでの生活に移行し(法的な性別変更をする場合としない場合がある)、少なくともひとつは反対の性別への医学的治療、すなわち、反対の性別への定期的なホルモン治療ないし、望みの性別へと適合する手術(例えば出生時男性における[[wikipedia:ja:陰茎|陰茎]]切除、[[wikipedia:ja:造腟|造腟]]、出生時女性における[[wikipedia:ja:乳房|乳房]]切除術や陰茎形成術など)を受けている。
性別移行後:その人は望みの性別でのフルタイムでの生活に移行し(法的な性別変更をする場合としない場合がある)、少なくともひとつは反対の性別への医学的治療、すなわち、反対の性別への定期的なホルモン治療ないし、望みの性別へと適合する手術(例えば出生時男性における[[wikipedia:ja:陰茎|陰茎]]切除、[[wikipedia:ja:造腟|造腟]]、出生時女性における[[wikipedia:ja:乳房|乳房]]切除術や陰茎形成術など)を受けている。
== 臨床的特徴および現状 ==
===患者数===
 有病率の資料になりうる疫学的研究は乏しいが、患者数を推定する上で、参考となりうる信頼できるデータとしては、[[wikipedia:ja:最高裁判所|最高裁判所]]の発表する性別の[[wikipedia:ja:戸籍|戸籍]]変更をした者の数値がある。2004年に施行された性同一性障害者の性別の取扱いの特例に関する法律(以下、特例法と記す)によって、2012年年末までに3584名が変更している。筆者の臨床経験などから、およそ、受診者の15~20%のものが、性別適合手術を行い、戸籍変更をすると推測される。そこから逆算すると、これまでのところ、2万人程度のものが、性同一性障害を主訴に、医療機関を受診したと思われる。この数は今後も増加していくものと思われる。


===経過===
===経過===
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 FTMでは女性に魅力を感じるものが大多数である。筆者のクリニック受診者の統計では、男性に魅力を感じるものが1.7%、女性に魅力を感じるものが90.8%、両性に魅力を感じるものが4.4%、どちらにも魅力を感じないものが2.4%、不明なものが0.7%であった。
 FTMでは女性に魅力を感じるものが大多数である。筆者のクリニック受診者の統計では、男性に魅力を感じるものが1.7%、女性に魅力を感じるものが90.8%、両性に魅力を感じるものが4.4%、どちらにも魅力を感じないものが2.4%、不明なものが0.7%であった。


===自殺関連事象===
 性同一性障害者においては、典型的な性役割とは異なる行動をとることや同性への性指向を持つことによるいじめ、社会や家族からの孤立感、思春期に日々変化していく身体への違和、失恋により性同一性障害であるという現実をつきつけられること、世間の抱く性同一性障害者に対する偏見や誤ったイメージを自らも持つ「内在化したトランスフォビア」、「死ねば、来世では望みの性別に生まれ変われるのでは」という願望、生きている実感の欠落・無価値感、身体治療への障害、将来への絶望感など、を要因として[[自殺念慮]]を抱いたり、自殺未遂を行うことがある。
 筆者のクリニック受診者の統計<ref name=ref3>'''針間克己、石丸径一郎'''<br>性同一性障害と自殺<br>''精神科治療学''25(2),247~251,2010</ref>では自殺念慮は62.0%、自殺企図は10.8%、[[自傷行為]]は16.1%、過量服薬は7.9%にその経験があった。
==治療==
(編集コメント:治療について御言及いただければと思います)
===実生活経験===
===実生活経験===
 [[実生活経験]](real life experience、RLE)とは、望みの性別で職業生活や学校生活などの社会生活を送ることをいう。RLEを行い、社会生活で適応することは、[[ホルモン療法]]や[[手術療法]]といった治療を行う前に欠かせないことである。
 [[実生活経験]](real life experience、RLE)とは、望みの性別で職業生活や学校生活などの社会生活を送ることをいう。RLEを行い、社会生活で適応することは、[[ホルモン療法]]や[[手術療法]]といった治療を行う前に欠かせないことである。
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 筆者のクリニック受診者の初診時の統計<ref name=ref2>'''針間克己'''<br>精神科外来受診者における性同一性障害者のRLEと臨床的特徴.GID(性同一性障害)<br>学会雑誌2(1),42~43,2009</ref>ではMTFでは41.0%がRLEあり、すなわち女性として職業生活や学校生活を送っており、FTMでは50.9% がRLEあり、すなわち男性として職業生活や学校生活を送っていた。
 筆者のクリニック受診者の初診時の統計<ref name=ref2>'''針間克己'''<br>精神科外来受診者における性同一性障害者のRLEと臨床的特徴.GID(性同一性障害)<br>学会雑誌2(1),42~43,2009</ref>ではMTFでは41.0%がRLEあり、すなわち女性として職業生活や学校生活を送っており、FTMでは50.9% がRLEあり、すなわち男性として職業生活や学校生活を送っていた。


===自殺関連事象===
==疫学==
 性同一性障害者においては、典型的な性役割とは異なる行動をとることや同性への性指向を持つことによるいじめ、社会や家族からの孤立感、思春期に日々変化していく身体への違和、失恋により性同一性障害であるという現実をつきつけられること、世間の抱く性同一性障害者に対する偏見や誤ったイメージを自らも持つ「内在化したトランスフォビア」、「死ねば、来世では望みの性別に生まれ変われるのでは」という願望、生きている実感の欠落・無価値感、身体治療への障害、将来への絶望感など、を要因として[[自殺念慮]]を抱いたり、自殺未遂を行うことがある。
 有病率の資料になりうる疫学的研究は乏しいが、患者数を推定する上で、参考となりうる信頼できるデータとしては、[[wikipedia:ja:最高裁判所|最高裁判所]]の発表する性別の[[wikipedia:ja:戸籍|戸籍]]変更をした者の数値がある。2004年に施行された性同一性障害者の性別の取扱いの特例に関する法律(以下、特例法と記す)によって、2012年年末までに3584名が変更している。筆者の臨床経験などから、およそ、受診者の15~20%のものが、性別適合手術を行い、戸籍変更をすると推測される。そこから逆算すると、これまでのところ、2万人程度のものが、性同一性障害を主訴に、医療機関を受診したと思われる。この数は今後も増加していくものと思われる。
 
 筆者のクリニック受診者の統計<ref name=ref3>'''針間克己、石丸径一郎'''<br>性同一性障害と自殺<br>''精神科治療学''25(2),247~251,2010</ref>では自殺念慮は62.0%、自殺企図は10.8%、[[自傷行為]]は16.1%、過量服薬は7.9%にその経験があった。


== 生物学的原因 ==
== 生物学的原因 ==

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