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<font size="+1">江藤 圭、[http://researchmap.jp/read0192091 石橋 仁]、鍋倉 淳一</font><br> | <font size="+1">江藤 圭、[http://researchmap.jp/read0192091 石橋 仁]、鍋倉 淳一</font><br> | ||
''自然科学研究機構生理学研究所''<br> | ''自然科学研究機構生理学研究所''<br> | ||
DOI XXXX/ | DOI XXXX/XXXX 原稿受付日:2012年12月25日 原稿完成日:2014年3月13日<br> | ||
担当編集委員:[http://researchmap.jp/michisukeyuzaki 柚崎 通介](慶應義塾大学 医学部生理学)<br> | 担当編集委員:[http://researchmap.jp/michisukeyuzaki 柚崎 通介](慶應義塾大学 医学部生理学)<br> | ||
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===生合成=== | ===生合成=== | ||
GABAの生合成に関しては、脳内では主に、[[グルタミン酸デカルボキシラーゼ]](glutamic acid decarboxylase; GAD)による脱炭酸によって、[[グルタミン酸]] | GABAの生合成に関しては、脳内では主に、[[グルタミン酸デカルボキシラーゼ]](glutamic acid decarboxylase; GAD)による脱炭酸によって、[[グルタミン酸]]から産生される<ref name=ref7><pubmed></pubmed></ref>。このGADには、 分子量が 65300と66600の2つのアイソフォーム([[GAD65]]と[[GAD67]])が知られており、どちらも同一の抑制性神経細胞に存在するが、GAD67が[[細胞質]]全体に存在するのに対してGAD65は[[神経終末]]部に豊富に存在することから<ref name=ref8><pubmed></pubmed></ref>、GAD65が抑制性シナプス伝達を担うGABA合成に関与すると考えられている<ref name=ref9><pubmed></pubmed></ref>。 | ||
GABAの合成に関しては、[[wikipedia:ja:TCAサイクル|TCAサイクル]]の[[wikipedia:ja:α-ケトグルタル酸|α-ケトグルタル酸]] | GABAの合成に関しては、[[wikipedia:ja:TCAサイクル|TCAサイクル]]の[[wikipedia:ja:α-ケトグルタル酸|α-ケトグルタル酸]]からグルタミン酸を経由してGABAが合成される経路がある<ref name=ref10><pubmed></pubmed></ref>。また、神経終末部では、細胞外から[[グルタミン酸輸送体]]により、グルタミン酸が取り込まれてGAD65によりGABAが合成される。GABAの分解過程では、GABAは[[GABA transaminase]]により[[コハク酸セミアルデヒド]]となり、その後酸化されて[[コハク酸]]となりTCAサイクルに入る。 | ||
<gallery widths=200px heights=200px> | <gallery widths=200px heights=200px> | ||
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===機能=== | ===機能=== | ||
神経終末部でGAD65により新たに作られたGABAは、小胞型抑制性アミノ酸運搬体(VIAAT、VGATとも呼ばれる)によりシナプス小胞内へ充填され、神経終末部から放出される<ref name=ref11><pubmed></pubmed></ref> <ref name=ref12><pubmed></pubmed></ref>。 | |||
GABAは、[[GABAA受容体|GABA<sub>A</sub>受容体]]、[[GABAB受容体|GABA<sub>B</sub>受容体]]、[[GABAC受容体|GABA<sub>C</sub>受容体]] | GABAは、[[GABAA受容体|GABA<sub>A</sub>受容体]]、[[GABAB受容体|GABA<sub>B</sub>受容体]]、[[GABAC受容体|GABA<sub>C</sub>受容体]]の3種の受容体に作用することによってその生理機能を発揮する<ref name=ref13><pubmed></pubmed></ref>。GABA<sub>A</sub>とGABA<sub>B</sub>受容体は中枢神経系に広く分布し、GABA<sub>C</sub>受容体は成熟[[wikipedia:ja:脊椎動物|脊椎動物]]ではほぼ[[網膜]]のみに限局して分布する。GABA<sub>A</sub>とGABA<sub>C</sub>受容体は[[イオンチャネル型受容体]]で、Clイオンを主に透過させる。GABA<sub>A</sub>受容体はαサブユニット、βサブユニット、γサブユニット、δサブユニット、εサブユニットなどによって構成される五量体であるが、脳部位によってサブユニットの発現が異なっている。また、構成サブユニットの違いにより薬物に対する感受性も異なる。GABA<sub>C</sub>受容体は ρサブユニットで形成される五量体であり、GABA<sub>A</sub>受容体を抑制する[[ビククリン]]に感受性がないなど、GABA<sub>A</sub>受容体とは薬物感受性がかなり異なっている<ref name=ref13 />。GABA<sub>A</sub>受容体はゲフェリンという足場タンパク質によりシナプス部位に維持される<ref name=ref14><pubmed></pubmed></ref>。 | ||
GABA<sub>A</sub>およびGABA<sub>C</sub>受容体を介した抑制効果は、神経細胞内のCl濃度により変化する。通常、成熟期の神経細胞内Cl濃度は低く保たれており、Clの[[平衡電位]]は[[静止電位]]よりも[[過分極]]側にあるため、GABA<sub>A</sub>受容体およびGABA<sub>C</sub>受容体の応答は過分極性である。しかし、発達期においてGABAは[[脱分極]]作用(興奮性作用) | GABA<sub>A</sub>およびGABA<sub>C</sub>受容体を介した抑制効果は、神経細胞内のCl濃度により変化する。通常、成熟期の神経細胞内Cl濃度は低く保たれており、Clの[[平衡電位]]は[[静止電位]]よりも[[過分極]]側にあるため、GABA<sub>A</sub>受容体およびGABA<sub>C</sub>受容体の応答は過分極性である。しかし、発達期においてGABAは[[脱分極]]作用(興奮性作用)を示すことがある。これは、細胞内からClを排出する役割を担うトランスポーターの機能や発現が、成熟期の神経細胞と異なるためである<ref name=ref15><pubmed></pubmed></ref> <ref name=ref16><pubmed></pubmed></ref>。 | ||
GABA<sub>B</sub>受容体は、GABA<sub>B1</sub>およびGABA<sub>B2</sub>サブユニットからなる[[代謝型受容体]]で、GABAはGABA<sub>B1</sub>受容体に結合し、GABA<sub>B2</sub>受容体は[[Gi/oタンパク質]]を活性化する。GABA<sub>B</sub>受容体の生理機能としては、[[K+チャネル|K<sup>+</sup>チャネル]]の活性化、[[Ca2+チャネル|Ca<sup>2+</sup>チャネル]]の抑制、[[アデニル酸シクラーゼ]] | GABA<sub>B</sub>受容体は、GABA<sub>B1</sub>およびGABA<sub>B2</sub>サブユニットからなる[[代謝型受容体]]で、GABAはGABA<sub>B1</sub>受容体に結合し、GABA<sub>B2</sub>受容体は[[Gi/oタンパク質]]を活性化する。GABA<sub>B</sub>受容体の生理機能としては、[[K+チャネル|K<sup>+</sup>チャネル]]の活性化、[[Ca2+チャネル|Ca<sup>2+</sup>チャネル]]の抑制、[[アデニル酸シクラーゼ]]の抑制などの作用がある<ref name=ref17><pubmed></pubmed></ref>。 | ||
== グリシン == | == グリシン == | ||
グリシンはタンパク質を構成するアミノ酸の中でも最も単純な構造を持っており、不斉炭素を持たないため、D体や L 体といった[[wikipedia:ja:立体異性体|立体異性体]]が存在しない。中枢神経系においては、GABAとともに抑制性シナプス伝達を担う。グリシンは、シナプス外に存在する[[NMDA型グルタミン酸受容体]] | グリシンはタンパク質を構成するアミノ酸の中でも最も単純な構造を持っており、不斉炭素を持たないため、D体や L 体といった[[wikipedia:ja:立体異性体|立体異性体]]が存在しない。中枢神経系においては、GABAとともに抑制性シナプス伝達を担う。グリシンは、シナプス外に存在する[[NMDA型グルタミン酸受容体]]に結合してその機能を調節し<ref name=ref18><pubmed></pubmed></ref>、NMDA型グルタミン酸受容体を介した神経細胞死にも関与する<ref name=ref19><pubmed></pubmed></ref>。また、グリシンは髄鞘に存在するGluN1とGluN3から成るNMDA受容体にも結合する<ref name=ref20><pubmed></pubmed></ref>。グリシンは、主に脊髄や脳幹においてGABAとともに抑制性神経伝達物質として働くが、[[大脳皮質]]などの上位中枢では抑制性シナプス伝達はGABAが担っている。 | ||
===生合成=== | ===生合成=== | ||
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===機能=== | ===機能=== | ||
抑制性伝達物質としてグリシンが機能するためには、シナプス前神経終末部の[[シナプス小胞]]にグリシンが取り込まれて、神経終末部から放出される必要がある。グリシンを放出する抑制性シナプス前神経終末部には、[[グリシントランスポーター2型]]([[GlyT2]] | 抑制性伝達物質としてグリシンが機能するためには、シナプス前神経終末部の[[シナプス小胞]]にグリシンが取り込まれて、神経終末部から放出される必要がある。グリシンを放出する抑制性シナプス前神経終末部には、[[グリシントランスポーター2型]]([[GlyT2]])が発現しており、これによってグリシンが神経終末部内へ取り込まれることにより、グリシン濃度が高まる<ref name=ref21><pubmed></pubmed></ref>。神経終末部に取り込まれたグリシンは、[[小胞型抑制性アミノ酸運搬体]]によりシナプス小胞内へ充填され、神経終末部から放出される。小胞型抑制性アミノ酸運搬体はグリシンだけでなくGABAも輸送するので、単一神経終末部から GABAとグリシンが共放出(co-release)されることがある<ref name=ref22><pubmed></pubmed></ref>。 | ||
グリシンは[[グリシン受容体]]に作用することで抑制性作用を示す。この作用は[[ストリキニーネ]]で拮抗される。NMDA型グルタミン酸受容体のグリシン結合部位はストリキニーネ感受性がない。グリシン受容体はGABA<sub>A</sub>受容体と同様Clイオンを通すイオンチャネル型受容体で、αサブユニットとβサブユニットから成る五量体である。グリシン受容体はGABA<sub>A</sub>受容体と同様に[[ゲフェリン]] | グリシンは[[グリシン受容体]]に作用することで抑制性作用を示す。この作用は[[ストリキニーネ]]で拮抗される。NMDA型グルタミン酸受容体のグリシン結合部位はストリキニーネ感受性がない。グリシン受容体はGABA<sub>A</sub>受容体と同様Clイオンを通すイオンチャネル型受容体で、αサブユニットとβサブユニットから成る五量体である。グリシン受容体はGABA<sub>A</sub>受容体と同様に[[ゲフェリン]]によりシナプス部位に維持される<ref name=ref14 />。 | ||
==関連項目== | ==関連項目== |