「語用論」の版間の差分

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==主な対象:皮肉と比喩==
==主な対象:皮肉と比喩==


 皮肉表現や比喩表現といった非字義的な表現の解釈は、この[[ヒト]]に特有な語用論の能力が機能することによってはじめて可能となる。安立他<ref name=Adachi2006><pubmed>16715930</pubmed></ref>は、[[アスペルガー障害]]の特徴として、比喩文理解が良好であるにもかかわらず、皮肉文理解が[[注意欠陥・多動性障害]]や[[高機能自閉症]]と比較して特異的に低いことを報告している。一方、内山他(2012)<ref name=Uchiyama2012><pubmed>21333979</pubmed></ref>は、成人を対象とした[[fMRI]]実験にて、皮肉理解では[[扁桃体]]、比喩理解では[[尾状核]]が特別な役割を果たし、また両者に共通して内側[[前頭前野]]が関与することを報告している。
 皮肉表現や[[比喩]]表現といった非字義的な表現の解釈は、この[[ヒト]]に特有な語用論の能力が機能することによってはじめて可能となる。安立他<ref name=Adachi2006><pubmed>16715930</pubmed></ref>は、[[アスペルガー障害]]の特徴として、比喩文理解が良好であるにもかかわらず、皮肉文理解が[[注意欠陥・多動性障害]]や[[高機能自閉症]]と比較して特異的に低いことを報告している。一方、内山他(2012)<ref name=Uchiyama2012><pubmed>21333979</pubmed></ref>は、成人を対象とした[[fMRI]]実験にて、皮肉理解では[[扁桃体]]、比喩理解では[[尾状核]]が特別な役割を果たし、また両者に共通して内側[[前頭前野]]が関与することを報告している。


 皮肉(ironyまたはsarcasm)は、一見するとポジティブな発話内容と裏腹に、発話者のネガティブな態度や批判的な態度を聴者に伝えることを意図している。例えば、テニスの試合で惨敗したAさんが「もう少しで勝てたのに」と発話した際、それに対してBさんが「もう少しで勝てた」と復唱したならば、その復唱は皮肉であり、「実際にはその反対のことを伝えることをBさんは意図している」とAさんやそれを聞いた周りの人々は推測することができる。この場合には、明らかに事実(文脈情報)と異なる発話をしているということを手掛かりとしている。このような皮肉理解において、内側前頭前野と左[[下前頭回]]が重要な役割を果たすことが報告されている<ref name=Uchiyama2006><pubmed>17092490</pubmed></ref><ref name=Wang2006><pubmed>PMC3713234</pubmed></ref><ref name=Spotorno2012><pubmed>22766167 </pubmed></ref>。内側前頭前野は、[[メンタライジング]](mentalizing)、すなわち他者の意図を推測する際の重要な神経基盤と考えられているのに対して<ref name=Spotorno2012 />、左下前頭回は複数の[[言語]]情報や手掛かり情報の統合に貢献している可能性が示唆されている<ref name=Uchiyama2006 />。
 皮肉(ironyまたはsarcasm)は、一見するとポジティブな発話内容と裏腹に、発話者のネガティブな態度や批判的な態度を聴者に伝えることを意図している。例えば、テニスの試合で惨敗したAさんが「もう少しで勝てたのに」と発話した際、それに対してBさんが「もう少しで勝てた」と復唱したならば、その復唱は皮肉であり、「実際にはその反対のことを伝えることをBさんは意図している」とAさんやそれを聞いた周りの人々は推測することができる。この場合には、明らかに事実(文脈情報)と異なる発話をしているということを手掛かりとしている。このような皮肉理解において、内側前頭前野と左[[下前頭回]]が重要な役割を果たすことが報告されている<ref name=Uchiyama2006><pubmed>17092490</pubmed></ref><ref name=Wang2006><pubmed>PMC3713234</pubmed></ref><ref name=Spotorno2012><pubmed>22766167 </pubmed></ref>。内側前頭前野は、[[メンタライジング]](mentalizing)、すなわち他者の意図を推測する際の重要な神経基盤と考えられているのに対して<ref name=Spotorno2012 />、左下前頭回は複数の[[言語]]情報や手掛かり情報の統合に貢献している可能性が示唆されている<ref name=Uchiyama2006 />。

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