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==診断・鑑別診断== | ==診断・鑑別診断== | ||
不注意および/または多動性―衝動性が持続的に認められて、機能または発達の妨げとなっている場合、ADHDと診断される。DSM- | 不注意および/または多動性―衝動性が持続的に認められて、機能または発達の妨げとなっている場合、ADHDと診断される。DSM-5の診断基準は、以下のとおりである<ref name=ref1>American Psychiatric Association, 2013. <br>Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders, 5th ed. <br>''American Psychiatric Association'', Arlington, VA.</ref>。 | ||
*不注意の症状としては、注意を持続することが困難である、すぐ気が散ってしまうなどの9つがあげられており、そのうち6つ以上が6ヶ月以上持続すると基準を満たす。多動性―衝動性としては、席を離れる、じっとしていない、順番を待つことが困難であるなどの9つがあげられており、そのうち6つ以上が6ヶ月以上持続すると基準に満たす。但し、17歳以上であれば、それぞれ6つ以上ではなくて5つ以上でよい。 | *不注意の症状としては、注意を持続することが困難である、すぐ気が散ってしまうなどの9つがあげられており、そのうち6つ以上が6ヶ月以上持続すると基準を満たす。多動性―衝動性としては、席を離れる、じっとしていない、順番を待つことが困難であるなどの9つがあげられており、そのうち6つ以上が6ヶ月以上持続すると基準に満たす。但し、17歳以上であれば、それぞれ6つ以上ではなくて5つ以上でよい。 | ||
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==併発症== | ==併発症== | ||
ADHDには様々な精神疾患が併発することがよく知られている。併発症を、行動障害群、情緒的障害群、神経性習癖群、発達障害群と4群に分けることが、日本の診断・治療ガイドラインで提案されている<ref name=ref8>'''齊藤万比古、渡部京太(編集)'''<br>第3版 注意欠如・多動性障害―ADHD―の診断・治療ガイドライン<br>''じほう'' 2008.</ref>。 | |||
*行動障害群とは、攻撃行動で代表されるように、行動として外側から見える問題を示すものである。[[反抗挑戦症]]や[[素行症]]などが該当する。 | *行動障害群とは、攻撃行動で代表されるように、行動として外側から見える問題を示すものである。[[反抗挑戦症]]や[[素行症]]などが該当する。 | ||
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==経過・予後== | ==経過・予後== | ||
以前は、ADHDは成長に伴って改善することが多いと考えられていた。しかし、成人までに、ADHD症状の数が基準以下となる者が約60%であるのに対して、機能障害がなくなる者は約10% | 以前は、ADHDは成長に伴って改善することが多いと考えられていた。しかし、成人までに、ADHD症状の数が基準以下となる者が約60%であるのに対して、機能障害がなくなる者は約10%と低率であることが明らかになった<ref name=ref2><pubmed>10784477</pubmed></ref>。ADHD症状の中でも不注意は成長に伴って改善する割合が低かった。学童期には不注意と多動性―衝動性の両方ともが目立つ場合が主であるが、成人期には不注意が目立つ場合が主であるという報告もある<ref name=ref11><pubmed>19252145</pubmed></ref>。 | ||
また、同じ症状であっても年齢によって表れ方が異なる。例えば、不注意は、子どもでは気が散りやすく一つの行動が長続きしないということで表れる一方、成人では約束を忘れるとか見通しが立てられず時間管理が苦手であるというかたちをとるかもしれない。なお、DSM-5では[[DSM-IV]]-TRと比べて成人での症状を詳しく記述して診断しやすくしている。 | また、同じ症状であっても年齢によって表れ方が異なる。例えば、不注意は、子どもでは気が散りやすく一つの行動が長続きしないということで表れる一方、成人では約束を忘れるとか見通しが立てられず時間管理が苦手であるというかたちをとるかもしれない。なお、DSM-5では[[DSM-IV]]-TRと比べて成人での症状を詳しく記述して診断しやすくしている。 | ||
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==病因・病態== | ==病因・病態== | ||
ADHDの病態モデルとして、[[実行機能]]及び[[報酬系]]の障害という2つの経路からなるdual pathway | ADHDの病態モデルとして、[[実行機能]]及び[[報酬系]]の障害という2つの経路からなるdual pathway modelが有力視されてきた<ref name=ref12><pubmed>14624804</pubmed></ref>。 | ||
実行機能は高次のトップダウンの認知処理過程であり、障害されると[[抑制欠如]]が生じる。脳基盤としては、背外側[[前頭皮質]]から背側[[線条体]]、[[尾状核]]に投射され、[[淡蒼球]]、[[黒質]]、[[視床下核]]から[[視床]]を経て前頭皮質に至る回路が想定されている。報酬系の障害によっては遅延報酬の嫌悪が生じる。すなわち、将来の大きな報酬よりも目前の小さな報酬に飛びつきやすくなり、報酬遅延に際してじっと待てなくなる。脳基盤としては、[[前頭眼窩皮質]]、[[前帯状回]]から腹側線条体、[[側坐核]]に投射され、腹側淡蒼球、視床を経て前頭皮質に至る回路が想定されている。 | 実行機能は高次のトップダウンの認知処理過程であり、障害されると[[抑制欠如]]が生じる。脳基盤としては、背外側[[前頭皮質]]から背側[[線条体]]、[[尾状核]]に投射され、[[淡蒼球]]、[[黒質]]、[[視床下核]]から[[視床]]を経て前頭皮質に至る回路が想定されている。報酬系の障害によっては遅延報酬の嫌悪が生じる。すなわち、将来の大きな報酬よりも目前の小さな報酬に飛びつきやすくなり、報酬遅延に際してじっと待てなくなる。脳基盤としては、[[前頭眼窩皮質]]、[[前帯状回]]から腹側線条体、[[側坐核]]に投射され、腹側淡蒼球、視床を経て前頭皮質に至る回路が想定されている。 | ||
しかし、dual pathway modelを提唱してきた研究者自身が、最近3つ目の経路として時間的処理の障害を提案している | |||
<ref name=ref13><pubmed>20410727</pubmed></ref>。脳基盤としては、実行機能及び報酬系の障害の経路と重なる部分があるものの、[[小脳]]が重要な要素である。また、左下前頭皮質、[[島]]、左下[[頭頂葉]]の関与も示唆されている<ref name=ref4><pubmed>22922163</pubmed></ref>。 | |||
さらに、近年、ADHDにおける[[情動]]の制御異常についても関心が高まっている。そのメカニズムとして、顕著な情動刺激への志向性及び小さくても即時の報酬の優先というボトムアップの過程が想定されると同時に、情動刺激への反応のトップダウンの制御に困難があると考えられている<ref name=ref10><pubmed>24480998</pubmed></ref>。脳基盤としては、ボトムアップについては[[扁桃体]]、腹側線条体、前頭眼窩皮質が、トップダウンについては[[前頭前皮質]]腹外側部、前頭前皮質内側部、前部帯状回が重要とされる。 | |||
いずれにしても、ADHDの病態を前頭―線条体回路だけでは説明できないと言えよう<ref name=ref15><pubmed>21541845</pubmed></ref>。 | |||
上記のような脳内のネットワークにおいてドーパミン及び[[ノルアドレナリン]]が中心的な役割を果たしていると考えられている。[[シナプス]]におけるドーパミン及びノル[[アドレナリン]]が平生は少量であるので、一時的にかえって通常よりも大量の放出が起こることが、ADHDの基盤にあるとされる<ref name=ref9><pubmed>24259638</pubmed></ref>。 | |||
ADHDに家族集積性があることから、遺伝要因の関与が注目され、ドーパミン及びノルアドレナリンに関連する遺伝子を含めて検討されてきた<ref name=ref3><pubmed>22825876</pubmed></ref>。稀な[[コピー数多型]]や候補[[遺伝子多型]]に加えて、発達早期の逆境体験、周生期の[[wikipedia:ja:鉛|鉛]]への曝露、低出生体重などが関連する可能性が示唆されているが、いずれについても決定的とは言い難い<ref name=ref14><pubmed>22963644</pubmed></ref>。また、遺伝的要因については、ASDなど他の神経発達症との重複が指摘されてもいる。 | |||
なお、ADHDが均質の疾患とは言い難いため、ADHDの病因・病態の検討がいっそう困難になっている面がある<ref name=ref7><pubmed>24214656</pubmed></ref>。 | |||
==治療== | ==治療== | ||
===治療の構成=== | ===治療の構成=== | ||
日本の診断・治療ガイドラインでは、ADHD治療の基本キットとして、親ガイダンス、学校との連携、子どもとの面接、薬物療法の4つをあげている<ref name=ref8 />。 | |||
親をはじめとして関わりのある人々が、発達的な観点に立ってADHDの特性を理解して適切に対応できるようにすることが必須である。このような基盤を持つ包括的な治療の中で薬物療法がより効果を発揮する。 | 親をはじめとして関わりのある人々が、発達的な観点に立ってADHDの特性を理解して適切に対応できるようにすることが必須である。このような基盤を持つ包括的な治療の中で薬物療法がより効果を発揮する。 | ||
アメリカのMultimodal Treatment Study of Children with ADHD(MTA研究)では、治療の柱として[[行動療法]] | アメリカのMultimodal Treatment Study of Children with ADHD(MTA研究)では、治療の柱として[[行動療法]]と薬物療法を設定して、大規模なランダム化比較試験による効果検証が行われた<ref name=ref6><pubmed>25558298</pubmed></ref>。14ヶ月間の治療後では行動療法と薬物療法の併用で効果が有意に高かった。但し、長期的に自然経過を追うと、薬物療法の優越性は減少した。この結果は治療の構成を考える上で参考になる。 | ||
青年・成人でも、行動療法を中心とする心理社会的治療と薬物療法からなる包括的な治療が基本と考える<ref name=ref5>'''樋口輝彦、齊藤万比古(監修)'''<br>成人期ADHD診療ガイドブック<br>''じほう'' 2013.</ref>。 | |||
いずれにしても、治療は、ADHDを持つ本人が自己評価を低下させずに生活していけるようにすることを目指す。 | いずれにしても、治療は、ADHDを持つ本人が自己評価を低下させずに生活していけるようにすることを目指す。 | ||
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==参考文献== | ==参考文献== | ||
<references /> | <references /> |